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弓の国vs利の国

弓の国の城に港町が襲撃されたという情報は入って来たのは、襲撃の数日後である。

グラスが送ってきた使者は夜遅くにタタールの居館にやって来た。港町の陥落を城下の者になるべく知られないようにするためである。

タタールはサンサルを自分の屋敷へ呼び、港町が陥落したこと、利の国にも魔法使いがいたこと、港町にいた者はマナンの管轄下の集落に逃げ込んだこと、ダライが死亡したためグラスが代わりを務めていること等の報告を共に聞いた。

全て聞き終わった後

「どうする?王様」

とサンサルはタタールに問いかけた。

「ダライとは割と仲が良かったが今回のことに私怨は持ち込まないよ。ただ、僕達の国は実際に弓馬で戦うというよりも、事前に恐怖を煽って戦っても勝てないと相手国に悟らせて降伏させるというやり方を得意としてきた。しかし、剣の国に領土の一部を取られたことによって常勝無敗のイメージが崩れつつある。利の国では金銭を稼ぐ方法が次々と編み出されているらしいけど、そんなものが世に出回れば人ではなくお金が国を支配するようになってしまうから本来なら利の国なんかいらないけど、城壁を破壊し尽くせばそこに含まれていた土や藁いい肥やしになって作物を育てやすくなるはずだ」

タタールは早口でそう言った。凄まじい剣幕だが話している内容は本人も分かっていない。

サンサルもタタールの話を聞き取ることができず、

「何を言っているか良く分からん。つまりどういうことだ」

と聞いた。

「利の国を滅ぼす」

今度は簡潔に答えた。

「それならそれで構わんが何か作戦はあるのか?今度の魔法使いは剣の国とはまた違うようだぞ」

「確かに僕達はまだ魔法使いとは戦ったことはないし、彼女達は今、僕が嫌がらせのように防御施設を設置した港町を拠点としている。倒すのにどれだけ時間がかかるか分からない。ただし、諜報を聞いている感じだと利の国そのものは大した強さではなさそうだから、そっちを壊滅させるならそれほど時間はかからないと思うよ。国が壊滅してしまえば彼女達は当然バックアップも受けられなくなる。いくら魔法使いでも食料や増援なんかの支援がないまま戦えば必ず隙ができるだろうから、まずは利の国を叩く方がいいと思う」

「分かった、お前が利の国を攻撃している間、俺とマナンで魔法使いの動きを視察しておこう。いつ出立するんだ?」

「三日後がいいだろう」

「そういうことなら後でソリルとエルスに使者を送ってお前に増援を送るように頼んでおこう。兵数は多い方がいいだろう」

その後サンサルは自分の屋敷へと戻り、書簡を二通書き上げ使者に持たせると北西の長ソリルと西の長エルスの元へと向かわせた。

三日後、城の山麓にはおよそ七万三千人の兵が集まった。

二日間でタタールは士気を高めるための演説をいくつか考えていたが、長い話など誰も聞かないだろうと考えて

「行くぞ、草原の敵を討滅する!」

と、短く言った。人数が多いため後ろの方にはどう考えても聞こえていないが、前の方で鬨が上がりそれが伝染していくように後ろに伝わって行った。

その後、タタールの軍勢は土煙を上げながら利の国へと向かって行った。


利の国の将軍レナード・エリオットは弓の国の襲来に備えて準備を進めていた。

彼は本来ならバクスケークの暗殺と国に反旗を翻す事さらには国を脱出する事を考えていたはずだが、今のところ逃亡用の船の用意と逃亡先である船の国に屋敷を用意すること程度の準備しかできていない。彼にとって王や知りもしない国民などどうでもよかったが、他の将軍や自分に付き従ってくれた兵士達など軍の人間だけはどうしても見捨てることができなかったためである。

レナードは将軍達を代表して

「弓の国は相手国を攻める際は強力無比ですが、存外守りはそこまで堅くないと云われております。港町を奪ったのですから魔法使い達に増援を送っては如何でしょうか」

と国王バクスケークに進言していたが、王は弓の国の襲撃に備えて一人でも多く国内に兵を残しておきたいと考えていたためその意見は却下された。

仕方ないので、

「それでは、北西部の防御施設と北東部の山々の天嶮を利用して敵の侵攻を防ぎつつその間に剣の国に協力を要請するくらいしかありませんが、北西部は平野になっている上に防御施設は整備がまだ完全には完了しておりませんし、剣の国は城の国と交戦中なので協力を得ることは難しいと思われます。如何致しますか」

と二つ目の作戦を提案した。

レナードや他の将軍達は、前者の作戦なら落城を狙えるためまだ可能性があると考えていたが後者ではどうにもならないと考えている。

しかし、バクスケークは

「前者の作戦ではオヅロッグの守りが手薄になる。後者の作戦に致せ」

と意見を変えなかったためレナードは北西部へと向かうことにした。出発する前にレナードは他の将軍を集め、

「貴殿らは北東部へと向かわれよ。敵はおそらく北西から来ると思われるので、そちらには私が向かう。勝てない戦いで危険に晒される必要もないだろう」

と言って北東部へと向わせた。

(逃げるだの、王を殺すだのの算段を立てていたはずだが結局一番面倒なところを受け持ってしまったな。何を考えているんだか)

そう思いながらレナードはオヅロッグから出立し、アブリス、アプトックを抜け北西にある砦に向かった。


タタールの軍勢はソリルとエルスの軍と途中で合流したため、およそ九万四千人にまで増えていた。本来なら軍を三つに分け三方向から攻撃するというのが弓の国の戦い方であるが、

「そんな戦法を使わなくても問題なく勝てるよ。敵兵は戦う前から疲れ切っているとの噂だしね」

と言ってその作戦はとっていない。

弓の国の軍は作戦らしい作戦など取らなかったがそれでも充分強く、レナードの軍は戦う度に退却を強いられ、投石機によって北西部の防御施設は次々と破壊されていった。

しかし、利の国の将軍レナードもただやられていたわけではない。数は少ないが北西の平野部には狭隘な場所がいくつかあるためそこに敵を誘い込んで、弓の国が得意とする逃げる振りをしながら背面騎射で戦う戦法を封じてみたり、嵐が来る少し前から秘密裏にいくつかの川を木や土などを使って堰き止めていたのでそれを壊して川を氾濫させ敵の進行を遅らせてみたりと、防御施設が完全ではなかった分工夫して戦っていた。その甲斐あって弓の国の軍の進行スピードをかなり遅らせることができたが止めるには至らず、結局二ヶ月程でアプトックまで侵攻されてしまった。さらに、バクスケークが剣の国へと送った使者は全員サンサル達に捕まってしまったという情報もレナードの耳に入ってきたので、剣の国から増援は送られて来ることはもうない。

(潮時だな)

そう思ったレナードは、弓の国の軍がアプトックで留まっている間にバクスケークがいる城へと駆け、彼に

「もう降伏するか停戦協定でも持ちかけるしかありませんぞ、向こうが応じるかどうかは存じませんが」

と言った。

バクスケークは戦いに負けていることは重々承知しているが、魔法使いには利用価値がまだ残っているような気がしてならなかった。もし降伏や停戦をするのであれば弓の国が出す条件は十中八九、魔法使いの処刑であろう。しかし、できればそれは避けておきたかったのでバクスケークは

「よかろう、停戦の準備を致せ。ただし儂は蛮族の所には行かぬ、貴様が行って話をしてこい。そして、此度の戦いは儂でも魔法使いでもなく貴様の一存で行われたことにしろ」

と言った。

(この野郎、何を言いやがる)

レナードは内心そう思ったが、弓の国にこれ以上侵攻されると兵士達だけでなくアブリスにいる友人達も危険に晒されるので停戦には賛成であった。なんなら停戦協定などというその場凌ぎのようなものではなく、軍を解体して降伏したいくらいである。しかし、

「降伏ではなく停戦でございますか?」

と聞いたところ

「そうだ」

と返事が返ってきたため降伏は諦めた。

戦いの責任を全て自分が負うとなれば、首が飛ぶ可能性があるためレナードはどう動くべきか少し悩んだが、

(船の国へと逃げるため弓の国の人間と一度コンタクトは取りたいと思っていたし丁度いい機会かもしれないな。ただ、責任をバクスケークになすりつける方法をなんとか考えなければ)

と考え

「御意」

と、答えた。

その後レナードはアブリスに戻り、弓の国宛に講和を申し入れるための書簡を書いていたところ彼の部下が屋敷に入ってきて

「将軍がお戻りになる前に弓の国から使者が参りました。弓の国の王が我々の代表と話がしたいと言っていたとのことであります」

と言った。

(降伏の催促か?まぁ、なんにせよ弓の国の王と接触する機会ができたわけか)

レナードは弓の国の正装を用意し、荷物を馬に積み込むとタタールが待つアプトックへと向かった。

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