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もう一人の魔法使い 3

七海はいつ嵐が起こってもいいように準備を進めていた。

最低限用意すべきものは港町の地図、嵐の航行に耐え得る船、食料と水、人員である。

地図は以前港町へ行った時の記憶を思い出しつつ最近弓の国へ行った商売仲間から情報を聞き、それらの情報を突合させて作成した。船については購入するだけの予算はなかったため、利の国の港町アプトックに停泊している船で頑丈そうなものを積載されている食料や水ごと奪取することにした。

地図、船、食料と水についてはとりあえず目処がたったが人員だけはどうにもならなかった。どのような条件で募集をかけても嵐の中出航するということがネックとなり、結局集まったのはロバー、シーカ、ルカの三人だけだった。集まった人数は少なかったがロバーはカリスマ性と山賊や海賊などの人脈、シーカは諜報能力、ルカは資金集めというような特長をそれぞれ持っている。

七海はさっそく作戦会議を開いたが、

「討ち入るだけの人数は俺が賊と接触して集めてやる。奴らはたぶん作戦を守らないだろうが貧弱な利の国の兵よりは役に立つだろう」

とロバーが言った後

「では其奴らへ支払う金子(きんす)は儂が用立てよう」

とルカが言った事で話がついてしまい五分足らずで終わった。

それから数日間、七海はアプトックに滞在し奪取する船を選んでいたが、利の国では部品を均一化して一種類の船を大量生産するという方針で大型船を作っているためどの船も性能は変わらない。そのため、新しければどの船でもよかった。

会議から十日経った頃から日に日に少しづつ風が強まり、波の高さも増してきていたため、七海は三人を召集し

「明日の夜出航します」

と伝えると店の様子を見に一度アブリスに帰った。


店には鍵がかかっていなかった。

鍵をかけて行くのを忘れたにも関わらず油や家財に特に変わった様子はなかったが、見覚えのない手紙とこれまた見覚えのない一振りの剣が置かれていた。

手紙はレナードが書いたもので

(防衛設備の整備や軍資金集め、兵の訓練で忙しいので申し訳ないが協力することができない。そこに置いてある剣は俺が岩石の国跡地へ行った際、そこにあった神殿に納められていたのを失敬してきた物だ。近くにあった石板によるとその剣には魔力が込められていて前の使用者は洪水を引き起こしたと云われていたらしいが、使い手が国を裏切ると呪いを併発するとも書かれていた。役に立つか分からないが良ければ使ってくれ。ただし、使う場合は呪いに気を付けろ。君は既に別の国から利の国へと来ているからそれが裏切り認定されてしまうかもしれない。武運を祈っている)

と書かれていた。

置かれていた剣はレイピアと呼ばれる斬撃よりも刺突に重点をおいたもので、鍔には装飾が施されている。試しに手に取ってみたところ柄に燕雀之志という文字が浮かび上がり、建物の中にいるにも関わらず突然つむじ風が発生した。

その後数分間帯刀したまま色々試しているうちに、剣を帯刀している間は大規模なものでなければ詠唱無しで魔法が使えるようになったことと、七海の魔力が剣によって底上げされていることが分かった。あとは、呪いの事が少々気になったが今のところそれらしい症状はない。

(いい剣だが燕雀之志とは酷い言われようだな)

そう思いながら苦笑を浮かべ、レナードの手紙を懐にしまうと七海は自らの店を後にした。

七海はその後レナードの家に向かったが留守だったため、感謝の手紙を扉に挟みアプトックへと向かった。

アプトックへと向かう途中に自分のオリーブ畑があったため、大き目の枝を七本程回収することにした。オリーブの木は頑丈なので、この枝で杭を作って魔法で射出すれば飛び道具になるかもしれない。


七海がアプトックに到着したのは出航当日の夕方頃である。

この時点で土砂降りの雨が降っており、風もかなり強く吹いていて、辺りは既に暗くなり始めているため船を奪取するには丁度良い天気になっている。

七海は

(予定を早めても問題ないかもな)

と思い始めていた。

他の者も同じようなことを考えていたらしく、シーカが

「もう出ても大丈夫じゃないかな。さっき港を見てきたけどこの天気じゃ誰もいないよ」

と報告してきたので七海は三人の仲間と、ロバーが連れてきた山賊と海賊計百二十八人と共に港へと向かった。ちなみに集まった仲間はこれだけではなく、前日の時点で海賊約二百人が既に弓の国へと向けて出航している。

港に停泊している船は普段より少なかったが、七海があらかじめ目星をつけていた船は停まっていたため、一行はその船に乗り込んだ。

船に乗り出航準備を終えると七海は

〈風の音は 水面に響く 鬨の声 振るう采配 我が手の中に〉

と詠唱した。

短歌の心得はなかったため七海には呪文の出来の良し悪しは分からなかったが、この詠唱で嵐の風を操ることはできるようになったらしく、周囲の風の流れを完全に把握することができるようになった。

船は嵐の風を受けて勢いよく出航した。

航行している間七海は他の仲間に杭の作成を頼み、自らは海賊達と共に操船に専念した。

しかし、嵐を利用して弓の国の港町にも、船の国の貿易船にも気づかれることなく奇襲をかけることが作戦の肝であるため、七海は常に起きて魔法を使い続けなければならない。無論起き続けることなど不可能であり、出航して七日目に七海は寝不足で気絶し、その後二日間目を覚まさなかったためそれ以降は海賊だけで船を操作することになった。

出航して十日後、弓の国の港町の沖に到着したが途中で合流した海賊船はこの前日に一隻沈没してしまったため、全体で約三三〇人いた人数は二百人近くまで減っている。

七海は三日ぶりに魔法を使い、港町へ船を急接近させた。

櫓で海を監視している者がいれば、船がいきなり現れたようにしか見えないため大層驚いただろうが、嵐だったためこの夜櫓には誰もいない。

上陸後、七海は

「厩舎に火をかけつつ武器庫、食料庫を制圧してください」

と指示を出したが、人員がほとんど山賊と海賊で構成されていたためロバー、シーカ、ルカの三人しか聞いてくれておらず、他は勝手に襲撃を始めている。

仕方がないのでロバーに町の東側へと向かった者達の指揮を、ルカには町の中央へと向かった者の指揮を、シーカには各地の戦況の報告を頼み七海は自ら厩舎の破壊に向かった。

ロバー、シーカはすぐに町へと向かったがルカは

「彼奴等の扱いに慣れているロバー殿はともかく儂では彼奴等を抑えきれぬぞ。余り期待はせんでくれ」

と、少々自信なさげなことを七海に言い残してから町へと向かって行った。

七海も早速厩舎へ向けて駆けた。

燕雀之志の剣の効果で能力が上がっているため、七海は神童と呼ばれていた中学生時代の頃のような万能感を感じていたが、

(こんな統制の取れていない部隊で勝てるのだろうか)

という一抹の不安も感じていた。

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