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狼煙

剣の国では弓の国が城の国へ協力を要請したという情報を入手したので、それを踏まえて今後どう動くかを王と大臣さらに将軍を集めて話し合っていたが、城の国の情報があまりなかったため会議は滞っていた。そもそも、今まで城の国が他国と戦ったという記録がほとんどなく、

(我々は城の国を攻めるはずであったが、あの戦いで城の国の兵とはとうとう一戦も交える事はなく、気がついたら弓の国と戦うことになっていた。城の国に向かって進軍している最中に突如現れた弓の国の兵に横から攻撃を受けたため我々の受けた打撃はかなりのものになってしまい撤退を余儀なくされた)

という岩石の国の将校が書いた記述が見つかっただけであった。

ちなみに、岩石の国は今はもう残っておらず弓の国の領土の一部になってしまっている。

会議には溶ニも参加しており

「弓の国の西にある利の国に協力を求めてみてはいかがでしょう。利の国からは城の国にも弓の国にも攻撃することができるので、協力を得ることができれば挟み撃ちにできると思うのですが」

と、提案したが王は

「あの国には極力頼りたくない、もし今回協力を求めたらおそらく今後三百年はそれをだしに色々と要求されるだろう」

と、言って却下した。

続いて大臣オルト・エッジワースが

「城の国の支城は他国の本城を凌駕する程堅固であり数も多いため攻略するには一筋縄ではいかないことは理解できます。しかし、弓の国程の強さを持っているとは私には思えません。城の国の領土を手に入れれば弓の国の城は目と鼻の先ですし、まずは城の国を攻略してはいかがでしょうか」

と、言った。

「しかし、城の国には弓の国という用心棒がついておる。下手なことをすればこの資料に載っている岩石の国のように城の国になんの損害を与えることもできないまま弓の国に横から攻撃されて敗北するということも考えられる。そもそも、城の国は敵の味方という立ち位置であり攻撃する理由が少し乏しい。もし我々が攻撃を仕掛ければ弓の国をさらに刺激してしまうのではないか?」

「城の国を攻撃する理由であれば作れるかもしれません」

と、将軍ヨセフが言った。

「どんな方法だね?」

と、王は聞いたが

「申し訳ありませんが今は話せません、もし情報が漏れて国民に広まってしまえば少々ややこしいことになりかねない方法でして」

とのことだったのでそれ以上は追求せず

「話せないならそれで構わぬ。だが、それは成功するか?」

と、聞いた。

「上手くいくと思います」

「そうではなく成功するか、成功しないかで答えてくれ」

ヨセフは少し詰まった後

「…成功します、確実に」

と、自分に言い聞かせるように答えた。

「では城の国攻略はヨセフに任せることにするが何かあればすぐに申せ、ここにいる全ての者が協力しよう」

「早速ですが城の国攻略にあたって王と溶ニ殿に相談がございます。私を含め三人で話したいのでこの場はこれで解散にしていただきたく思うのですが」

「分かった、溶ニ以外は下がってよい。皆ご苦労であった」

と、王が号令を出し会議は終了した。

会議終了後、溶ニとヨセフ以外は退室していく中、王はオルトを呼び止め

「鉄、槍、棍の代官の監視を強化しておいてくれ、あの弓の国の少年が来てから槍の国の代官の様子が少々おかしいという情報が入っておる。鉄と棍の国は今のところ特に変わった様子はないが鉄の国は元々向こう側にいた人間を代官にしておるし、棍の国に関しても用心しておくに越したことはないだろう」

と、指示を出した。


三人での打ち合わせは食堂で昼食を食べながら行われた。

先程は作戦を聞きそびれたため

「三人だけなら作戦を話しても問題なかろう」

と、王が言った。

ヨセフは

(今なら話すことはできるが、だったら先程の成功するかしないかの問答は必要なかったのでは?)

と、疑問を抱きながら

「まず牢屋にいる城の国の捕虜を逃します。国民に捕虜を逃したことがバレるとまずいので時間帯は深夜が良いでしょう。捕虜達が城の国へと入る少し前に自国の北西にある城に放火いたします。その後城の国に対して貴国に自国の城を破壊されたという言いがかりをつければ攻める理由になるでしょう。なので、王には捕虜を逃したり自国の城を一つ破壊することになるので許可をいただきたいのですが」

と、言った。

「だが城の国は弓の国と友好関係を築いている。鉄の国の時のように短期間で攻略しなければ弓の国から増援を送られてどんどん不利になる可能性があるぞ」

「逃亡させる捕虜の中に我が国の兵を混在させます。その兵達に城の国に侵入したあと破壊活動や味方を侵入させる手引き等をさせようと考えております」

「作戦は分かった。捕虜と城のことに関しては許可しよう」

と、二人で話していると。

「ヨセフ殿、俺は何をすればいいんですか?今の作戦の中では俺は特に必要なさそうですけど」

と、溶ニが言った。

「溶ニ殿には北西の城の破壊と、城の国へ侵攻する際の先鋒をお願いしたい」

「先鋒というのはなんとなく分かります。俺の魔法は拠点の破壊を得意としているので先陣を切って拠点を破壊し後続が攻め易い状況を作るということですよね。しかし、北西の城の破壊は他の者に任せた方が良くありませんか?魔法で城を破壊した場合、鉄の国の城のように不自然な壊れ方をするので調査したら捕虜は何もやっていないということがバレると思いますよ」

「本当に捕虜が城を破壊したかどうかということはあまり関係なくて、ようはこちらがブチ切れるきっかけが手に入ればいいのですよ。北西の城を破壊した直後城の国に、貴国は弓の国の友好国であるが貴国自体が我が国に何をしてくるでもなかったため今まではこちらも何もしてこなかった。しかし、貴国の兵が我が国の城を攻撃した以上こちらも黙っているわけにはいかないというような内容の文書を向こうに送りつけて勝手に進軍してしまえば調査している暇もないでしょう」

ヨセフの作戦を聞いて、溶ニは作戦の内容は理解したが内容が悪党じみていたためあまり気乗りはしなかった。しかし、溶ニが見る限りヨセフは本来こんな悪党のような作戦を好むような男ではなく

(北西の城の火をつけた後、その付近で捕虜を皆殺しにしてしまえば口封じができ、作戦をさらに確実にすることができるはずだ。それをやらないということはこの男も良心の呵責を多少なりとも感じているのだろう)

と、思い

「分かりました、協力しましょう」

と、言った。


まずヨセフは捕虜を、捕らえてから時間が経つ者と最近捕らえた者とに分けてそれぞれ別の牢に入れた。捕虜は間諜として剣の国に侵入して来た者がほとんどなので、最近捕らえた者を逃した場合こちらの最新の情報が漏れる恐れがある。そのため、逃亡させるのは捕らえてから時間が経つ捕虜に限定した。

ヨセフは数人の兵に城の国の兵装をさせて牢屋に入れた。その際兵達に

「牢屋の中で捕虜達に、自分達は捕虜となった仲間を逃がすために城の国から派遣されて来ている。剣の国の鍵の構造や退路については全て確認済みだから全て我々に任せておけば良い。などと言って安心させろ」

と、指示を出している。

兵を牢屋に入れて四日後に牢屋は破らた。

牢を破る際に捕虜が

「別の牢にまだ仲間がいる」

と、言ったが

「向こうは向こうで逃げているはずだ」

などと兵達は出鱈目なことを言って誤魔化した。

ヨセフの兵達はまず古くなった武器を一時的に安置する倉庫に向かって捕虜達に武器を持たせ、その後、三日で作った即席の牧場へ行き老馬を奪わせた。

その後捕虜達は剣の国の兵装を身に着けて北西にある城の国へと向かった。

剣の国には弓の国と同じく所々宿駅があり、捕虜達は変装しているためそれを使うことはできたが、ヨセフの兵が替え馬は駄馬で構わないということを宿駅の役人に伝えているため宿駅で用意される馬は駄馬ばかりであった。

捕虜達は脱獄して半月ほど経つ頃に今回燃やす城付近に到着したので、溶ニは滞在していた宿駅から急いで出発して城に入城した。

城は山城であり周囲を見渡すことができるため、捕虜が通過すれば松明の明かりで分かるはずである。

夜が更けた頃、溶ニの許にヨセフの兵から宿駅を出発したという連絡が入り、城から少し離れた所に明かりが見えたので

〈火の柱 百間先より 巻き上がる〉

と、城の中心から二百メートル弱離れた所から呪文を唱えて城を燃やした。

溶ニは城から上がる煙を見て

「この煙は俺が上げたのか」

と、溜息をつきながら呟いた。

溶二はしばらく煙と星を見ていたが、やがて下山して宿駅へと戻って行った。普段より足取りが重い。

それからおよそ半月後、ヨセフの兵達と捕虜達は城の国の都へと入った。




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