居城にて
その日は、良い朝だった。
日の光は柔らかく草原を照らし、そよ風は草の匂いを遠くまで運んでいる。
弓の国の城、山麓の居館で弓の国国王タタールが目を覚ましたのはそんな朝であったが、眼の輝きは売れ残りの果物のようであり、身体は疲れきっていた。
身体を起こし居館を出ると、近くの井戸から水を汲み上げ顔を洗ったが特に気分は晴れなかった。
それ程までに、昨日入った剣の国へ送っていた間者からの情報はタタールの気分を重くしていた。
顔を拭いていると、
「おはよう、昨夜はよく眠れたようだな」
とタタールは声をかけられた。
振り返ると、サンサルが果物を嚙りながら立っていた。
サンサルはタタールの昔からの友人であり、今は参謀のような立ち位置になっているため昨日の情報を既に知っているはずだが、特に普段と変わった様子はなく、むしろ少しテンションが高いくらいである。それは、王がその様子だと城中が不安になるから頑張って隠せというサンサルなりのメッセージであり、付き合いが長いぶんタタールはすぐに察した。
調子を戻し、
「おかげさまで、枕を低くしてぐっすりと寝ることができたよ」
と、タタールが応えたのでサンサルは少しホッとした様な顔をして果物をもうひと齧りした。
「昨日のことで話がしたい。あとで主郭まで来てくれ」
とタタールは言ったが、サンサルは朝から山登りなどしたくなかったので、
「山麓じゃ駄目か」
と聞いた。
「山麓じゃあ戦いの話をする気分にはならないよ」
「他に誰か呼ぶか」
「いや、とりあえず僕達だけでいいよ」
「そうか、準備が出来次第行く」
二人は簡単に会議の予定を立てた後、一旦別れた。
先に主郭に到着し天守に入ったのはタタールで、しばらくしてサンサルが果物を嚙りながら入って来た。
ちなみに、果物の樹は籠城戦を想定して山麓と主郭に何本か植えてあるが、色々な人が結構頻繁に食べているため、実際に籠城戦になった際役に立つかタタールは少し心配していた。
「さっきも同じものを食べていただろう」
とタタールが少し呆れながら言うと、
「一つでは足りんかったのだ」
とサンサルは返し二人は苦笑した。
「さて」
と、タタールは重く口を開いた。話題は、間者からの鉄の国が陥落したという情報についてである。
鉄の国は、タタールの祖父ティムが三年かけて降伏させた国であり、その名の通り鉄鉱石の埋蔵量が多い。降伏させたとはいえ、ティムは、元々鉄の国の鉄と職人以外興味が無く、鉄の国の自治を認めていた。そのため、今でも鉄の国と呼ばれていたが、正確には弓の国の一地域である。
鉄の国を陥落させた剣の国は、数年前に現れたと言われる異界の男が将に着いてからすでに二つの小国を切り取っており、鉄の国を国として勘定すれば今回で三ヶ国目であった。詳しい事までは間者も調査しきれていなかったが、異界の男は、既に失われた技術である魔法を使い、鉄の国の城を五日で陥落させたという。
「鉄の国を攻撃されたということは、我々と敵対するつもりだろうけど、どんな手を打ってくるんだろうね」
「さあな、魔法を使うらしいって情報しか無い以上、こちらとしては何をどうすればいいか分からん」
「勢いがあることが何より怖いな、今攻められたら勝てないかもしれない」
どんどん話が落ち込んでくるなかサンサルが、
「とりあえず、各地域のリーダーを集めて話し合わんか?人数が多ければ良案も出てくるかもしれんし、一応弓の国はこちらの大陸では最強だと言われている。小国ばかりを攻撃しているところを見るとあちらさんも、まだ弓の国とは戦えないと思ってるんじゃねぇの?」
と言いタタールもそれに同意し一応やるべきことは明確になった。
それからの二人の行動は迅速であった。タタールは使者に持たせる手紙を書き、サンサルは山麓に下りて使者に支度をさせた。
二人は急いではいたが慌てた様子は無く、使者や他の城にいる者に二人の不安は伝染しなかった。
タタールは、手紙を書き終えると、使者に持たせ草原に敷かれた道を四方八方に駆けさせた。




