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異世界キャバクラ王 ~酒チートと氷魔法で、夜の社交界を支配する~  作者: 阿鼻恭介
第4章 育つ店、広がる縁

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第67話 酒商会の集まり

 朝の柔らかな陽射しが西通りを照らす頃、Club Moon Dropでは開店準備が着々と進められていた。


 レンはカウンターの中でグラスを磨きながら店内を見渡す。


 ロイとディーノは受付の登録帳と正式会員証を確認し、来店されるお客様を迎える準備を整えていた。


 ルークは厨房で酒に合う軽食と甘い菓子の仕込みを進める。


 ノアは店内を歩き、椅子やテーブル、花瓶や照明まで細かく確認していた。


 リリア、エルナ、セレナ、ミーナもそれぞれ身だしなみを整え、お客様を迎える準備を終えている。


「みんな。」


 レンが声を掛ける。


 全員が手を止めて集まった。


「今日もいつも通り、一人ひとりのお客様を大切にしよう。」


「はい!」


 元気な返事が店内へ響く。


 やがて開店時間となり、ロイが営業中の札を掛けた。


 昼営業が始まる。


 最初に姿を見せたのは、正式会員のエミリアだった。


「おはようございます。」


「いらっしゃいませ、エミリア様。」


 リリアが笑顔で迎える。


 その後ろには商人の奥方、若い女性、そしてその友人の姿もあった。


「今日もよろしくお願いします。」


「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」


 リリアが四人を席へ案内し、エルナ、セレナ、ミーナもそれぞれ接客へ入る。


 レンはカウンターで注文を受け、冷やし果実酒やビールを丁寧に用意していく。


 厨房ではルークが頃合いを見ながら軽食を仕上げ、ロイとディーノが料理を運ぶ。


 いつもの昼営業。


 派手さはない。


 しかし、その穏やかな時間こそがClub Moon Dropの魅力だった。


 昼営業が始まってしばらく経った頃だった。


 入口の扉が静かに開く。


「こんにちは。」


 聞き覚えのある落ち着いた声に、ロイとディーノが揃って顔を上げる。


「いらっしゃいませ、バルド様。」


 ロイが丁寧に一礼する。


 店内にいたレンもその姿に気付き、少し驚いたように目を丸くした。


「バルドさん。」


 昼営業で姿を見るのは珍しい。


 夜営業では何度も来店しているが、この時間帯に訪れることはほとんどなかった。


 リリアがすぐに歩み寄る。


「バルド様。」


「こちらへどうぞ。」


 そう言って案内したのは、レンの正面にあるカウンター席だった。


「ありがとう。」


 バルドは静かに腰を下ろす。


 レンはカウンター越しに笑顔を向けた。


「珍しいですね。」


「昼営業に来られるなんて。」


 バルドは小さく笑う。


「今日は酒を飲みに来たわけではない。」


「少し相談があってな。」


「相談ですか。」


「営業が落ち着いてからで構わない。」


「急ぐ話ではない。」


「分かりました。」


 レンは頷く。


「それまで、何かお飲みになりますか。」


「今日は紅茶をいただこう。」


「かしこまりました。」


 レンは酒ではなく、香り高い紅茶を淹れ始めた。


 店内ではエミリアたちの笑い声が響き、女性キャストたちも自然な笑顔で会話を続けている。


 バルドはその様子を静かに眺めていた。


「……いい空気だ。」


 小さく漏らした一言に、レンは微笑む。


「ありがとうございます。」


「皆が作ってくれている空気です。」


 バルドはゆっくりと頷いた。


「誰一人、無理をしているようには見えん。」


「自然に笑い、自然に会話が生まれている。」


「それがお前の店の強みだな。」


 レンは紅茶を差し出す。


「ありがとうございます。」


「俺一人では、こうはならなかったと思います。」


「スタッフのみんながいてくださるからです。」


 バルドは紅茶を一口飲み、満足そうに頷いた。


「その考えを忘れるな。」


「店は店主一人では育たない。」


「仲間がいて、お客様がいて、初めて店になる。」


「はい。」


 レンは真剣な表情で答えた。


 昼営業はその後も穏やかに続いていく。


 ルークが仕上げた軽食が運ばれ、お客様の笑顔が広がる。


 ノアは店内を見回り、小さな変化にも気を配っていた。


 そして、昼営業の混雑がひと段落した頃。


 レンはカウンター越しにバルドへ向き直る。


「お待たせしました。」


「先ほどのご相談というのは……。」


 バルドは紅茶のカップを静かに置いた。


「では、本題に入ろう。」


 その表情は、先ほどまでとは少し違っていた。


 商人としての真剣な顔だった。


 レンがカウンター越しに声を掛けると、バルドはゆっくりと紅茶のカップを置いた。


「では、本題に入ろう。」


 先ほどまで穏やかだった表情に、商人としての鋭さが戻る。


 レンも自然と姿勢を正した。


「はい。」


 バルドは一度店内へ視線を向けた。


 リリアたちはそれぞれのお客様を接客し、エルナ、セレナ、ミーナの笑顔と会話が店内へ心地よい空気を広げている。


 ロイとディーノは受付を離れず、来店されるお客様を丁寧に迎え、ルークは厨房で軽食と甘い菓子を仕上げ、ノアは静かに店内を見回っていた。


 その様子を見届けたバルドは、小さく頷く。


「やはり、お前の店は落ち着く。」


「ありがとうございます。」


「皆のおかげです。」


 レンがそう答えると、バルドは静かに笑った。


「その答えがお前らしい。」


「店主が一人で店を作っていると思っていない。」


「だから、この店には自然と人が集まる。」


 レンは照れくさそうに笑った。


「まだまだ勉強中です。」


「だが、その姿勢を忘れなければ十分だ。」


 バルドは一息つくと、本題を切り出した。


「三日後、俺の酒商会の幹部十二名が集まることになっている。」


 レンは静かに頷く。


 バルドの酒商会。


 それは、この街で最も規模が大きく、影響力を持つ酒商会だ。


 街の酒の流通を支え、多くの商人や店と関わりを持つ中心的な存在。


 その幹部たちが集まる会議は、今後の方針や取引を決める重要な場でもある。


 レンも以前、バルドからその規模と影響力について聞いていた。


「会議はうちの本部で行われる。」


「昼過ぎには終わる予定だ。」


 バルドは紅茶を一口飲んでから続けた。


「その後、幹部たちを連れてこの店へ来たいと思っている。」


 レンは静かに耳を傾ける。


「Club Moon Dropを貸し切りにしてもらえないだろうか。」


 レンは驚くことなく、少しだけ考えた。


 三日後。


 準備する時間は十分にある。


 スタッフへも事前に伝えられる。


 ルークも料理の準備ができるだろう。


 レンは穏やかに微笑んだ。


「もちろんです。」


「三日後でしたら貸切営業として対応できます。」


 そして、少しだけ言葉を続ける。


「ただ一点だけ、条件がございます。」


 バルドは静かに視線を向けた。


「何だ。」


「十二名様での貸切は問題ございません。」


「ですが、その際の仮会員につきましては、今回の貸切の次にご紹介いただいた方からとさせていただきたいのです。」


 バルドは一瞬だけ考え、すぐに理解したように頷いた。


「なるほど。」


「この場にいる幹部たち全員を一度に仮会員とするのではなく、順を追って信用を積み重ねるということか。」


「はい。」


 レンは静かに答える。


「この店は紹介制で運営しておりますので、一度に広げすぎることは避けたいと考えています。」


「ですが、今回の貸切をきっかけに、次へと繋げていければと思っております。」


 バルドは満足そうに微笑んだ。


「いい判断だ。」


「焦らず、確実に広げていく。」


「それがお前のやり方だな。」


「ありがとうございます。」


 レンは頭を下げた。


「Club Moon Dropを選んでいただけることが嬉しいです。」


 バルドは店内を見渡す。


「幹部たちにも、この空気を知ってもらいたい。」


「酒だけではない。」


「料理だけでもない。」


「この店には、人が自然と笑顔になれる空気がある。」


 レンは少し照れながら笑った。


「そう言っていただけると励みになります。」


 バルドは静かに頷いた。


「だからこそ、ここを選んだ。」


「商談や会議では見えない人柄も、この店なら自然と見えてくる。」


 レンはその言葉の意味を考える。


 酒を酌み交わし、穏やかな時間を過ごす。


 その中で、人は肩書きではなく、一人の人間として向き合うことができる。


 それこそがClub Moon Dropの目指す姿だった。


「ありがとうございます。」


「精一杯おもてなしさせていただきます。」


 バルドは満足そうに微笑む。


「頼もしい返事だ。」


 そして、少しだけ真剣な表情へ変わった。


「ただ、一つだけ事前に伝えておかなければならないことがある。」


 レンも自然と表情を引き締める。


「何でしょうか。」


 バルドはレンの目を真っ直ぐ見つめた。


「今回の幹部会には、カイルも出席する。」


 その名前を聞いても、レンの表情は大きく変わらなかった。


 ただ、一瞬だけ静かに息を整える。


 カイル。


 これまで何度もClub Moon Dropを敵視し、営業妨害を繰り返してきた男。


 酒商会に所属する商人でありながら、レンを快く思っていない人物でもある。


 店内では相変わらず穏やかな時間が流れている。


 リリアたちの笑顔も、お客様の笑い声も変わらない。


 レンはその空気を感じながら、小さく頷いた。


「承知しました。」


 バルドはレンの返事を静かに待つ。


 レンは真っ直ぐバルドを見つめ返した。


「どなたがお客様でも、Club Moon Dropは変わりません。」


「いつも通り、お迎えします。」


 その言葉を聞いたバルドは、安心したように微笑んだ。


「その返事が聞けて安心した。」


「お前なら、そう言うと思っていた。」


 バルドは最後の一口まで紅茶を味わうと、静かにカップを置いた。


「相談に乗ってくれて助かった。」


「こちらこそ、お声掛けいただきありがとうございます。」


 レンは笑顔で頭を下げる。


「三日後は、皆様にゆっくり過ごしていただけるよう準備いたします。」


「期待している。」


 バルドは穏やかに微笑み、立ち上がった。


 その姿に気付いたリリアがすぐにカウンターへ歩み寄る。


「ありがとうございました。」


「またお待ちしております。」


「ああ。」


 バルドは軽く頷き、店を後にした。


 扉が静かに閉まると、昼営業は再びいつもの穏やかな時間へ戻る。


 レンはカウンターへ戻り、お客様から注文を受ける。


 リリア、エルナ、セレナ、ミーナはそれぞれ担当するお客様との会話を楽しみながら、自然な笑顔で接客を続けていた。


 厨房ではルークが軽食を仕上げる。


 出来上がった料理はロイとディーノが各テーブルへ運び、お客様が食事を終える頃を見計らって甘い菓子も提供していく。


 ノアは店内を静かに歩き、小さな変化にも目を配っていた。


 レンはカウンター越しに、その光景を見つめる。


 三日前に貸切の話を聞いていたなら不安も大きかったかもしれない。


 だが今は違う。


 仲間たちはそれぞれが自分の役割を理解し、自然に動けるようになっている。


 だからこそ、大切なのは特別なことをするのではなく、いつも通りのClub Moon Dropを届けることなのだ。


 昼営業は最後まで穏やかに進み、やがて最後のお客様を見送る時間となった。


「ありがとうございました。」


「またお待ちしております。」


 リリアたちの挨拶が重なり、店内は静けさを取り戻す。


 ロイとディーノは受付を片付け、ノアは客席を整え始めた。


 ルークも厨房の片付けを終え、夜営業の仕込みへ取り掛かる。


 レンは皆へ声を掛けた。


「みんな。」


 全員が手を止め、レンの前へ集まる。


「昼営業、お疲れ様。」


「お疲れ様でした。」


 レンは全員の顔を見渡してから話し始めた。


「三日後、夜営業は貸切になる。」


 スタッフたちの表情が少し引き締まる。


「バルドさんの酒商会の幹部十二名が来店される予定だ。」


 エルナが少し驚いたように目を丸くした。


「十二名もですか。」


「そうだ。」


「貸切営業として対応する。」


 レンは続ける。


「それと、もう一つ伝えておくことがある。」


 店内の空気が少しだけ静かになる。


「その中には、カイルさんも来店される。」


 その名前に、ディーノは思わず息をのんだ。


 ロイも真剣な表情になる。


 リリアたちも互いに顔を見合わせた。


 レンは落ち着いた声で続ける。


「でも、特別なことは何もしなくていい。」


「俺たちがやることは、いつもと同じだ。」


 リリアが静かに頷く。


「いつも通り、お客様をお迎えするんですね。」


「その通り。」


 レンは微笑んだ。


「Club Moon Dropは、お客様によって接客を変える店じゃない。」


「紹介制だからこそ、誰が来店されても安心して過ごせる空間を守る。」


「それが、この店の約束だ。」


 ロイが力強く答える。


「受付は私たちが責任を持って対応します。」


「私もロイさんと一緒に頑張ります。」


 ディーノも真っ直ぐ頷いた。


 ルークも口を開く。


「料理も、いつも以上に丁寧に準備します。」


 ノアも穏やかに微笑む。


「店内は私がしっかり確認します。」


 リリア、エルナ、セレナ、ミーナも揃って頷いた。


「私たちも、いつも通り笑顔でお迎えします。」


 レンは皆の返事を聞き、安心したように笑う。


「ありがとう。」


「三日後も特別な営業じゃない。」


「いつものClub Moon Dropを届けよう。」


「はい!」


 店内に力強い返事が響いた。


 その声を聞きながらレンは静かに頷く。


 三日後、これまでで最も緊張感のある貸切営業が待っている。


 だが、不思議と不安はなかった。


 一人ではない。


 信頼できる仲間たちがいる。


 その事実が、レンの背中を静かに支えていた。


 夜営業の準備が始まり、Club Moon Dropには再び穏やかな時間が流れ始める。


 三日後に控えた大切な一日へ向けて、店は今日も変わらぬ歩みを重ねていくのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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