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マッスルガールキングダム  作者: カシノ


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7/7

007

「男の立場ってものがよく分かったでしょう」


 ピューレさんはワイングラスをくゆらせながら、諭すように話す。アンティーク調に揃えられた彼女の私室は夜の闇に染め上げられ、木々の温かみは感じられない。こちこちと響く縦時計の秒針が心拍の速さを自覚させ、雲の合間から差し込む月明かりが、ピューレさんの横顔を酷薄に照らし出す。


「相当ショック受けてるけど、性奉仕は奴隷の中でも最上位の仕事なのよ? 普通の奴隷はてきとうな鉱山に突っ込んで、それでも弱くて役に立たないから、腹いせに殴り殺して終わり。折角だからそっちも見ておこうか? キミがどれだけ恵まれてるか、よーく分かると思うよ」


 この世界の女性は、力も健康も、長寿すら手に入れた。生殖の必要性もなく、彼女等にとって男とは、あらゆる能力が劣る暇潰しの道具でしかない。

 拳を握り締めて立ち尽くすしかできない僕に、ピューレさんが詰め寄る。


「ちょっと優しくしたらすぐにつけ上がる。差別がどうとか権利がどうとか、ほんっとうに面倒くさい。役に立たないゴミの分際で、よくもまあアタシに面倒をかけてくれたわね」


 ピューレさんの右手が両頬を鷲掴み、無理やり目を合わせられる。暗がりの中でありながら、彼女の瞳は嗜虐的な光を放っている。


「謝りなさい。生意気言ってごめんなさいって。全裸で土下座しろ」


 突き放すように両頬を解放される。ピューレさんにとっては些細な動作でも、転びそうなほどよろけてしまう。蹈鞴を踏んで留まる僕を、彼女は裂けるような笑みで見下ろす。


「早くしてよ。これ以上アタシの時間を無駄にさせないで」


 押し潰そうとする視線。膝は震えて言うことを聞かず、腰はほとんど抜けている。拳は握った形で固まってしまい、開くことは叶わない。

 ピューレさんは大仰に溜め息を吐き、更にもう一歩、詰め寄ってくる。


「もういい」


 短い言葉と共に、ピューレさんが僕の胸倉を掴む。

 殴られる、と目を瞑った直後、ひと息で服を左右に破かれた。中央から綺麗に裂かれ、一瞬のうちに下着姿に剥かれてしまう。


「貧相な体。生きてて恥ずかしくないの?」


 人差し指で心臓の真上を、とん、と突かれる。指一本分の力は槍で突かれたみたいに鋭く、ベッドの上に押し飛ばされる。


「オペラもこんな生意気なガキの何が良かったのかしら」


 両脛の上に座られる。柔らかくて重い感触。お尻を載せられただけなのに、まったく動ける気がしない。


「うわ……もう大きくなってる。殺されるかもしれない状況で興奮するなんて、どこまでも卑しい生き物。まあいいわ。今後は二度と逆らえないようにするから」


 一物を鷲掴まれる。ぞっと血の気が引くが、縮まるには至らない。ピューレさんの言う通り、命の危機を自覚しながらも、見上げた彼女の美しさに怒張を制御できない。


「知ってる? 限界を超えてイキ続けると、別の液体が出るんだって。気持ち良さとか全然なくて、魂を引き摺り出されるみたいな喪失感に襲われるらしいわ。トラウマになって勃たなくなる男もいるみたいだけど、キミはどうなるかな」


 ピューレさんの指先が竿の血管をなぞる。氷が張るような怖気が何故か股間を硬くする。ピューレさんは口の端を歪め、蔑みの目で一瞥すると、ひと息で僕の下着を取り払い──


「──は?」




 ◇◆◇




 何が起こった。

 三度は放ったというのに、僕の一物は未だに硬度を保ち続けている。太く長く、棍棒のようなそれはピューレさんの分泌液でぬらぬらと妖しげに輝き、傘の段差が陰影でえげつないほどに強調されている。とても自分の一部とは思えない。

 いや、本当に自分のものじゃないかもしれない。恥ずかしい話、僕の股間は小さい方だ。誰かと直に比べた経験はないが、思春期の過ちで一人サイズを測ったときは、日本人の平均を下回る細さに絶望した覚えがある。おまけに堪え性がなく、頻度もそれほど多くない。どうせ使い道がないのだからと悲しい理由で納得し、生涯童貞でも仕方がないと諦めていた。


「なんでだ……?」


 ベッドに倒れ伏すピューレさんを見やる。彼女は気品も威厳もかなぐり捨て、潰れた蛙のような仰向けで腰をひくつかせている。

 考えられない状況だ。百戦錬磨のテクニシャンならまだしも、僕はピューレさんが初めての相手だ。女性の悦ばせ方なぞ知る由もなく、実際、前半戦はピューレさんにされるがままだった。挿入したあともへっぴりした腰使いで出し入れするのが精一杯で、元の世界なら下手すぎて呆れられていただろう。

 しかしピューレさんは、恍惚とした表情で痙攣している。白目を剥き、シーツに水溜りを作りながら、途切れ途切れの呼吸を繰り返している。

 演技ではないと思う。けれど初体験で、自分より大きくて年上の女性を満足させられるはずがない。いったい僕の身に何が起こったのか。


 いや。

 一つだけ、心当たりがある。


 書斎の整理をしていたときに目にした、如何にして女神の実は生まれたか、という本。

 学術的な記載は乏しく、歴史考証にしても根拠がない。研究者のピューレさんには価値がなかったらしく、部屋の隅で埃を被っていた。だが、妄想にしては服飾がなく、見てきたものをそのまま書き起こしたような文体が妙に印象に残った。


 著者曰く。

 女神の実は自然界に存在していたものではない。虐げられ続けてきた女達が、文字通りその命と引き換えに生み出した、悍ましくも尊ぶべき果実である。

 故に果実は、女が望んでやまなかった岩をも砕く剛力と、不死に等しい生命力、永遠の美貌を与えた。反対に男には一切の力を与えず、そればかりか食した男に耐え難い吐き気をもたらす。正に、女のためだけに存在する果実だ。

 しかし、もしも女神の実を摂食できる男がいるならば。

 その男は、女が望む力を得るだろう。男を上回る身体を手に入れ、男を排斥した国家を築き上げた我等が、それでも男に望むもの。


 すなわち、神の如き男根(マジカルチ⚪︎ポ)の顕現である。

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