33話: 里奈は痛みと子狐を思い出す
残酷(いじめ、暴力)な描写があります。
申し訳ありません。
苦手な方はご遠慮下さい。
〜 キャロル視点 〜
里奈さんは毎日午前中は図書館に通った。
側付きは、私のみ。
他の2人には絶対に知られたくない事があったからだ。
異変は1週間過ぎた頃から起きたのだった。
今日も王宮の図書館に向かう。ベールを着けた里奈さんが珍しいのは理解出来るが⋯。
不躾な視線を向ける者が多すぎる。
それが誰なのかを私は気が付いた。
(学園の生徒がなぜ。)
王宮の図書館は学園であれば入れる。入れるが勿論許可された者のみ。
怪しければ入館出来ない。でも⋯⋯。
その日に里奈さんから話があった。
図書館での視線に気がついていたが、誰にも言ってはいけない。と釘をさされた。
里奈さんは自分が何かを言えば大事になるのは目に見えていたから。
次の日からは私のみを図書館の側付きとし、図書館に行かない事を選ぶのも避けられた。
最初は不躾な視線でチラチラ。
次は聞こえないように何かを囁きあう。勿論里奈さんを見ながら。
暫くすると、聞こえるように話し始めた。
(醜いからベールをしてる。)
(使者の癖に男漁りをしている。)
私は陰口の1つで犯人が解った
(怪しい魔術を使うらしい。アルバート殿がその魔術にかかっている。)
アルバート様と里奈さんが一緒にいるのを見た者は関係者以外いないのだから。
アルバート様の名前だげが出た時点で犯人に結びつく。
側付きの6人はライアン殿下から、エメラルダ侯爵令嬢には気を付けて欲しいと言われていた。
あの令嬢はアルバート様に異常な執着をしているのを殆どの女性は知っている。
下手にアルバート様に関わると危険だからだ。
アルバート様に伝えようと里奈さんに相談するも、誰かに話すのを許可されなかった。
周りは段々エスカレートする。
〜 ✿ 〜
里奈は耐えた。気にしない振りをし、負けるものか!と図書館に通った。
タイミング悪く、ここ最近はアルバートとの時間は無かった。
男性の側付き達に魔術を教える為に、午後のお茶会が開かれていない。
里奈も女性の魔術師に教わっていて、午後に顔を会わす事が無くなったタイミングだったのだ。
図書館の帰りは気落ちしてるが、宮に帰ると魔術と向き合い朝にはいつもの里奈がいる。
キャロル以外誰も知らない。気が付かない。
里奈は里奈なりに
誰かに守られてばかりではいけない。
今向けられる視線や言葉は悪意だらけ。
でも、逃げてはいけない。
その時が来れば対処しようと、里奈なりに迷惑をかけないように耐え続けた。
そんな日々が2週間程過ぎた頃⋯
里奈は心を閉じた。それが楽だからだ。
里奈が心を閉じたのを感じたのは、白狐だった。
天界では女神が今は不在なのだ。
里奈を思い浮かべると、図書館にキャロルと笑いながら話す里奈が視えた。
だが白狐はやはり気が付く。
笑っているが、あの美しい魂の輝きがないと。
白狐は女神が帰るのを待つしか無かった。
悔しそうに目を閉じている白狐を心配する眷属の1人が女神様を呼びに離れた。
眷属如きが女神様を呼び戻すのは容易いものでは無い。
白狐の優しさに触れた眷属達は、白狐が大好きなのだ。
白狐の為にと1人の眷属が命がけで女神に問うた。
〈女神様お帰り下さい。大変です⋯〉
女神に届いたのか解らないが眷属は命がけで祈りその場に倒れた。
他の眷属が倒れた眷属を小さな光の珠にし、服の中にしまった。
〈アイツの祈りが届きますように〉白狐の側にいる眷属達は願った。
里奈に関わる者全員が絶望に落ちるその日が来た。
ライアン殿下が1通の招待状を里奈に渡した。
それはライアン殿下の婚約者であるミランダ公爵令嬢からだった。
殿下曰く
他国からの令嬢を婚約者であるミランダに(お茶会に招待しないのは礼儀としてあり得ない事です。)そう問われたのだ。
いつも他国からの賓客は経験や顔合わせの為にお茶会や食事会にミランダ嬢が招待する。
ベールを外せないのでお茶会ならと。陛下達とも話し合い決まったと。
慣例を無視すると変に勘繰られるか⋯⋯。
側付き達が考え里奈に聞くと快諾してくれた。
お茶会は参加に決定した。
里奈は殿下の婚約者に会える事を喜んでいた。
お茶会当日、キャロルを連れて王宮の1室に案内された。
扉を開け2人入ろうとするも、キャロルは後ろに引っ張られ里奈だけが部屋に入れられた。
男性2人に口を体を押さえつけられる。
どれくらい時間が過ぎたか解らない。
突然扉が開き令嬢数人が出てきた。
その中に居たのだ。エメラルダ嬢が!
キャロルに近づくと左の手の甲をヒールの踵で踏みにじる。
多分骨が折れている。
キャロルは声を上げなかった。歯を食いしばり耐えた。
「つまらないわね。」エメラルダ嬢が笑いながら男達を連れて遠のく。
痛む手を無視して急いで中に入る。
目にしたその光景に腰を抜かした。
テーブルの横に座り込む里奈。
その周りには割れた食器、散らばる食べ物。花や本⋯⋯そこら中の物が里奈の周りに散らばっていた。
里奈はベールの結界に護られた為に、体には傷もなく身だしなみも崩れてはいなかった。
だが、それで大丈夫かは別である。
キャロルは覚えたての魔術で宮の中庭に転移した。
そこにはガルズ司祭とライナス司教がいた。
里奈はキャロルを睨みつけるように見て、絶対に口にするな!と冷たい口調で言われた。
里奈は司祭達に早く帰って来たかったからキャロルに頼んだと笑って伝えた。
あの惨状の後にする笑顔ではない。
誰かに教えなければ。でも、勝手は許されない。
キャロルは悩んだ。
今日は疲れたし、自由が欲しいからと里奈は側付き全員を返した。
侍女や近衛は各々嘘を付き帰した。
里奈は広い邸に1人いた。
夜も更け庭に出た。
この時間に外に出たのはこちらに来て初めてだった。
ふかふかな芝の上を裸足で歩く。
夜空を見上げると日本にはない大きな大きな青い月。
虫の鳴く声に耳を澄ます。
静かな夜。
日本で居た里山の夜を思い出す。
日本で寂しい感情ってあったかなぁ〜。
1人ぼっちは辛いはずだから。
今だからこそ思う。里山で過ごした20年は辛かった。寂しかったはずでは?
芝を歩くと、庭園とは違う控え目の花壇があった。
近衛が〈里奈に似合うのは控え目の可愛らしい花では?〉と考えた。
異界から来た愛し子様に、何かをしてあげたかったのだ。
近衛達はいつか里奈に見せようとコッソリ育てていた。
白い花に目が行く。
かすみ草。里山で何故か枯れずにいた。
テーブルにずっと飾っていた。
里奈はかすみ草をじっと見た。
解らない⋯⋯
解らない何かが、お腹から込み上げる。
ウワァァァァァッッッ
涙が溢れる。 止まらない。
嗚咽で苦しい。
あの人達はなぜあんな事をしたの
なぜ私なの
里奈は地面に這いつくばり大声で泣いていた。苦しい。助けて⋯。と
天界で白狐は見ていた!!
里奈にされる酷い仕打ちに怒り、何も出来ない自分自身にも怒りをぶつけた。
白狐の神力が暴れる。
だが、眷属達は気を失いそうになりながらも、白狐に捕まり離れない。
抱きしめ、落ち着かせようと必死だった。
女神の造る世界が歪もうとした時、女神が帰ってきた。
女神は絶句する。 「白狐っ⋯⋯」
世界が壊れそうな程の白狐の怒りに。
里奈の様子を慌てて記憶の珠で見る。
それを見た女神の怒りもまた凄い。
女神が里奈を思い視た時には、里奈が大声をあげて1人泣き出していた。
白狐が『里奈ッ』と、強く叫んだ瞬間真っ白な光を放ち天界から消えた。
眷属もろとも。
白狐が見た光景は泣き喚く里奈だった。
白狐の姿から子狐の姿に変え、付いて来てしまった眷属を神力で隠した。
宙に浮いたままの子狐がゆっくり里奈の方に降りて行く。
里奈がその気配に気付き顔をあげた。
「⋯⋯⋯。子狐ちゃんッッ」
里奈は子狐に両手をのばし、掻き抱いた。
「生きてたっ⋯⋯。生きてたのね。」
膝をつき子狐を抱きしめ蹲るように、また泣いていた。
子狐の目からも涙が流れる。
暫くそうしていると、里奈がパタリと横に倒れた。
白狐は里奈を確認すると、泣きながら眠っていた。
子狐は白狐の姿になり、あの日一緒に眠ったように自分の胸に里奈を寄せた。
尻尾を布団替わりにフワリと乗せた。
白狐は里奈の頬にキスを落とし、頭を上げ強い視線でそこに立ち尽くす人物を睨みつけた。
アルバートがそこに居た。
『我は白狐。里奈は私の長き友。』
『お前達を許さぬ。里奈の心が戻るまでこの敷地には入れぬ。』
そう言い放った瞬間、里奈の住む宮は真っ白な光に包まれた。
アルバートは宮の外に出された。
泣き喚く里奈がいた
現れた白い子狐
姿を変えた大きな白い狐
友だと言った。
里奈からそんな話しは無かった
宮に侵入しようとした
どんな魔術も効かない
里奈はこの白い光の中
里奈が受けた仕打ちを知った。
何も出来なかった、いや甘く見ていたのだ。あの女を!
そして自分の考えの甘さを⋯⋯
アルバートは膝を着き地面に着いた指で地を掻いた。
この国は白狐の怒りを買ったのだ。
女神をも凌駕する神力の持ち主を怒らせたのだった。




