28話: 始まる悪意
エメラルダ侯爵令嬢は、イライラしていた。
最近王子殿下の執務室を訪ねても、アルバート様がいないのだ。
ミランダ様にそれとなく聞いてみたが解らず殿下に尋ねてくれると言ってくれた。
返事を待つ間も調べたが、誰も何も知らない。
ミランダ様が聞いてくれた話によると
「アルバート様は陛下が直接にお仕事を頼まれているそうですわ。
殿下もお仕事の内容はご存知ないそうよ。」
使えない。イライラする。
ミランダ様にお礼も告げずに足早に立ち去ると、アルバート様を見付けた!
今日は殿下の執務室にいらっしゃるのね!
早歩きになるのも気にせず、
アルバート様の背中に声を掛けた。
「アルバート様。ご機嫌様。
お久しぶりですわ。お顔が見れずに寂しかったです。お仕事が忙しいようですが、お体は大丈夫ですか?」など、
振り向きもしないアルバートの背中に矢継ぎ早に話しかけ続ける。
アルバートは、このうるさい女を振り切ろうと早足で歩き殿下の執務室を開けると同時に鍵をかけた。
殿下と側近達は、いきなり扉が開いたと同時に突然表れ鍵をかけるアルバートにキョトン顔だ。
「どうした?アルバート。何があった。」
そう殿下が聞くと
「うるさいのが居たから閉めた。」
話しながら殿下の机に近づき礼をとる。
作法はしっかりしているアルバート。
アルバートが胸下から封筒を出し、「陛下からです。」
封筒を殿下に渡す。
「では、私はこれで下がります。まだ暫くはこちらには来られませんので。」
礼を取り後ろを向いたが一瞬動きが止まり、また殿下を見る。
殿下が不思議そうに見てると
「窓から出ても?」と質問したのに殿下の返答も待たずに窓からヒラリと出て行った。
ここは2階だが殿下も側近も気にしない。
アルバートだからな。
扉の向こうにいる人物を避けたのだろう。
一同は納得する。
封筒を開け中を確認する
「2日後に例の視察の方と会う。
私1人と書いてあるから、君たちはここで仕事をしてくれ。」
側近達は頷く。
「視察の方たちには、私達はお会い出来る機会があるのですか?」
と1人が尋ねた。
「今回の視察団はかなり特殊で、事情は陛下と宰相。それと教会しか解らないのだよ。」
嘘を交えながら申し訳なさそうに話しをする。
「いえ、機会があればと思っただけですので。」と少し焦る。
殿下は、視察団=愛し子様と結び付くのを知ってはいるが、なぜアルバートがこれ程関わってくるのかが解らなかった。
が、アルバートに関する案件はまた放置する事にした。
侯爵令嬢か……。と、扉を凝視する。
側近も思う事があるらしく扉をみる。
「鍵は暫くかけておけ。」
そう伝えた。
出てこないアルバートを待ち続けるが、暫くすると殿下付きの近衛に建物から出された。
諦められないエメラルダは、家の者にアルバートを調べ上げさせた。
すると、早朝から夜まである宮に行ってる報告があった。
エメラルダはその宮に行くと侵入しようとした。
が……。結界に弾かれ入れない。
門から少しだけ離れた茂みに隠れ様子を見る。
1台の馬車が近付く。アルバート様が乗っているのを確認した。
馬車は門をくぐった直後、すぐに消えた。
侵入出来ない結界に、中を覗けない結界も張られている。
アルバート様が自ら関わる人物を知りたくてエメラルダは、そのまま待った。
暫く待つと馬車が出てきた。
ベールの人物が窓の外を見ている。
女性だと確信した瞬間。
そのベールに手を乗せ、優しげに微笑むアルバート様がいたのだ。
衝撃を受けた。
アルバート様が表情を崩すのを見た事等無いのだ。
微笑む等、あり得ない。
アルバートを1番知っていると自負するエメラルダは、衝撃を過ぎるとベールの人物への憎しみを爆発させた。
あのベールの女を排除しなければならない事を。
それがアルバートの逆鱗に触れるとは知らないエメラルダなのだ。
〜❀〜
馬車が止まる。エスコートされ建物に入る。
ここは緑の宮と呼ばれ、他国の要人を招く宮なのだ。
アルバートにエスコートされ扉の前にくる。
里奈はベールをアルバートに外して貰う。
アルバートが「大丈夫ですよ。」と優しく伝える。
里奈は頷いてアルバートの手をとる。
扉が開くと、静寂の中にあの日の人達がいた。
里奈は笑顔で見渡し、習ったばかりのカーテシーをする。
みんな笑顔で拍手をくれた。
やはり優しい。
会場奥には、王族・大司教にと知った方が並んでいた。
アルバートにエスコートされ前に行く。
カーテシーをすると、皆さん微笑んでくれた。
大司教が
「里奈さん。お元気そうで良かったです。カーテシーもお上手ですよ。」
そう声を掛けてくれる。
それからは立食パーティー形式なので、沢山の方とお話をした。
里奈の為に堅苦しい場にはせず、気楽に出来る様にとの心遣い。
里奈はちゃんとそれも理解している。
だからこそ、嬉しさ倍増で笑顔も倍増になるのだ。
里奈の楽しむ姿に、事情を知る陛下や大司教は大満足。
愛し子様と直接話せたあの日居た者達も大満足。
たがその中に紛れ込んだ悪意は大司教しか気が付いていない。
大司教は悪意ある者を視る事が出来るからだ。
大司教はさり気なくその人物の行動に注視する。
愛し子様の周りには目立たぬ様に神殿からの護衛も紛れ込ませている。
里奈は王妃様にやっとお礼を言えた。
「私の為にありがとうございます。
何もかもがお気に入りです!!」と。
王妃様は涙目で「良かったです」
胸がいっはいで、それしか応えれなかった。
代わりに、里奈の両手を取り
「何かお困りの事があれば何でも仰って下さい。」
少し言いにくそうに。そして恥ずかしそうに
「この世界でのお母さんになれればと。」
烏滸がましいですが……。
そう伝え終わると同時に里奈が王妃様に飛びついた。
言葉通り、飛びついたのだ。
後ろに倒れそうな王妃を陛下が支える。
里奈は小さく震えていた。
泣いているのだ。
王妃様は里奈の身体に腕を回しぎゅっと力を込め抱きしめた。里奈は
「ありがとうございます。」
そう伝えるのが精一杯だった。
泣き顔のままでは…。
里奈はお化粧直しに一旦退場した。
会場を後にする愛し子様に先程の様子を知る者は知らない者に伝言ゲームの様に伝えて行く。
話しを聞いた人達の中には、涙する者もいた。
王妃は立場上泣く事はない。出来ない。
だが、今回ばかりは目尻にハンカチを宛て涙を吸わせた。
里奈が戻り笑顔で王妃様をみる。
ほのぼのする中で、アルバートが里奈の手を握り指を絡めた。笑顔のアルバート。
あ!この人拗ねた。
と里奈と大司教と司祭は理解する。
が、他はビックリ。
王妃に嫉妬するアルバートを見るなど明日は嵐だ!!と。
楽しく茶会は過ぎて行く。
お茶会は進み、無事に終わる。
あの家は今日は動かない。
と、そう思ったその時。会場を飾る花から鞭の様に葉が伸びた。
伸びた葉は人を攻撃しながら、里奈に一直線に伸びる。
全ての花から葉が無数に伸びる様は異様で、会場は悲鳴と逃げる者で大混乱だ。
配備された近衛が剣を抜き斬り捨てる。隠れていた護衛も応戦を始めた。
里奈の側に居る陛下や大司教に殿下が里奈の前に直ぐに出て応戦する構えを取る。
アルバートは里奈を抱きしめ、結界を張り頭上に何やら魔法陣を浮かべた。
アルバートは里奈の気配を結界で消したのだ。
「女性は私たちの後ろに下がって」
とアルバートが指示する。
里奈の気配が解らない葉は里奈を探す。
その異様な光景を見て無表情な里奈。
ただその光景を見ている。
(怪我した人達は私を受け入れてくれた。)
ここに居る人達は『大切』な人だ。
感情が荒ぶって行く。
解らなない何かがお腹の中から込み上げてくる。
アルバートは里奈の表情をじっと見ていた。すると何かの異変を感じた。
魔力暴走
里奈の怒りの魔力が体から揺らめき始めた。里奈の魔力は普段誰も感じれないし視れない。神力で一体化させ隠されているからだ。
それが外れたならどんな事になるか。
アルバートは焦る。
神力は誰にも止められない。
聖力を持ち女神様に近い大司教であってもだ。
紫の魔力が揺らめき始める。
爆発寸前。
アルバートは里奈を強く抱きしめる。
「里奈。里奈。」何度も呼ぶが里奈は無表情のまま。
里奈の頬に両手を添え、顔を上に向けさせる。視線を合わせようとするが、里奈と視線が合わない。
アルバートは「リリ」と愛称呼びをし、里奈に優しく口付けを落とした。
口を離し里奈を暫く見つめると、里奈と目が合う。
ニコリと笑うと揺らめいていた神力が静かな神力へと変わる。
里奈から眩い紫色の魔力が放出された。
光が止み会場を見渡すと、伸びていた葉は全て消えていた。
怪我をしていた者は全て治っていた。
驚く事はそれだけではない。
荒れた会場等無かったかの様に、全てが元に戻っていたのだ。
破れた服も乱れた髪も。
散らばっていた料理もお皿さえも。
静まり返る会場で、里奈だけがニコニコしていた。
ある人物を神力の縄で縛りあげたままで。




