12話: 女神と白狐の密談
女神と里奈のこれからについて話し合うのだ。
女神は神力で作った銀色の椅子に深く腰掛ける。
白狐は腰を降ろし横になり頭を挙げ女神を見据える。
白狐が先に口を開いた。
『女神よ。そなた、その女神らしくない口調や所作は里奈の前では止めよ。』
キョトンとする女神より先に、また白狐が口を開く。
『神聖さや威厳が全くないのだ。里奈にこの世界の話や先行きを話す時にその態度は厄介だ。』と。
ムムッ。眉間に皺が寄る。
失礼な話である。
ではあるのだが、的を得ている。
なんだかムカつくが頷いて了承した。
女神がやり返そうと話し出す。
「そちが同じ神であっても、先に話したそちの存在は里奈の記憶から一時的に消す。それだけは絶対に譲れぬ。」
強い口調で話す女神に
『それで良い。
我の子狐の姿を見たら日本を確実に思い出す。あの日本で生きた記憶はあれど、辛かった寂しかった負の感情は女神の力で消したのであろう?
ならば、暫くはそれで良い。』
と頷いた。
女神は白狐が反対すると思った。
一時的にでも存在が里奈の記憶から消えるのだ。
逆の立場であったらどうか考える。
考えるが、全ては里奈の為。
ならば同様の考えになるのかと納得する。
するが、やはり寂しい気持ちにはなる。
だから
「ありがとう。」
そう素直に伝える。
白狐はどんな事でも里奈の為ならば即答なのだ。
意地悪案件をするような私とは違うのか。
何だか、格の違いを見せつけられた気がして深く落ち込む。
あからさまに落ち込む女神に、心の中で小さく溜息を吐いた。
異界の神から聞いてはいたのだ。
まだ女神としては若い。と。
だが、今はそんな事はどうでも良い。
『聞くが、里奈が目覚め納得したならば外界に降ろすのであろう?
何か考えはあるのか?』
今までの女神を見るからに、多少の不安を覚える。
そんな我の気持ちに気付いたのか、鼻息荒く話し始めた。
「ある程度の順序は大まかではあるが、ちゃんと考えてある。
外界の私に近しい人間に里奈の事を全て伝える。
その者は必ず里奈の力になる。」
話す手順はこうである。
里奈を降ろす国は、女神の森とやらを抱え瘴気や魔物とやらを女神の眷属と共に抑え込んでいるらしい。
外界で1番信用なる国だと。
女神を崇める大司教に、里奈の全てを伝え、味方となり盾にもなって貰う。
王族をも取り込み、自国をある程度治めたら他国に里奈を送りたい。
その為に王族の権力が必要となる。
各国、それぞれ抱える問題に里奈の力を貸す。
各国の問題を解決したならば、女神自らが森を元に再興する。
のだと。
女神曰く、森を再興してからが本題になるらしい。
里奈の異界の知識で、こちらにはない共存というあり方を根付かせたいらしいのだ。
これまでの話は、深く納得した。
手を加える箇所はありそうだか、最後に放った案には理解を示せなかった。
女神曰く。
里奈には世界への助力と、働いてばかりでは良くない。申し訳ない。
なので、愛する男性を作らせてあげたい。と。
??である。
白狐は意味が解らない……。
だが、女神は知っている。
見てしまったのだ。
里奈の記憶を読み、あちらの異界で何を望んでいたのかを。
恋人に愛される世界。
本や映像なるものを見て、物語の中で主人公と自分を置き換えて自分を励ましているのを。
全てを諦めた様な里奈だが、心の深くより奥深くにある願いを。
異界で自身が無の扱いをされる現実。
儚い物語の中での夢から覚める、寂しそうな里奈を。
この世界で、親しい人は必ず出来る。
が、だか恋人だけは解らないと。
『伴侶を用意するのか?それは里奈に失礼ではないのか。
自分から好意を持ち、相手からも気持ちを貰う。お互いがそうでなくば上手くは行くまい。』
女神が白狐を少し睨む。
こやつ、やっぱり好きになれないかも。
正論かましてきた。
私とて解ってはいるのだ。
私も意味なく考えたのでは無い。
「里奈の年齢を18歳にした。
精神も若くなるはず。
それは異界でやれなかった言動や行動を逆に出来る様に魂に手を加えたのだ。」
だが……。と続きを話す。
「里奈は他者に対し、会話を楽しんでみたい。
喧嘩とやらをしてみたい。
誰かと出かけてみたい。
話しをしながら、楽しくッご飯を一緒に食べたい……ッ。
そんなッ些細な事をッ
若い里奈はずっとずっと願ってッ。
願っていたのだッッ……。。」
女神が言葉を詰まらせる。
「故に里奈は異性に恋しい。と思う感情を持った事が無い。親や周囲にでさえも、寂しいとは思うが恋しいと思う事が無かったのだ。
恋しいと思う感情が芽吹く前に、諦めたのだ。」と。
だから逆転させる事が出来ぬ。と……。
女神の里奈への愛する気持ちに、理解に少しだけ絆された白狐であった。
若い女神なりに必死なのだと。
「ただ、恋人と言っても水面に小石を投げる程度のお膳立てしかせぬ。
記憶の珠から里奈と相性良い者を1度だけ選定する。珠が選ぶのだ。大丈夫じゃ。」
そうか。
女神自身が選ぶのでないのであれば……。
大丈夫か。
と、白狐が失礼な考えをしていると。
「おぬし、今私を馬鹿にしておるであろう?」
と、睨まれた。
白狐は、何の事やら?
と、首を傾げ女神の睨む視線を受け流した。
ほのぼのしている場合ではない。
と、手順を整理し行動に移すとする。
「まず、大司教と話をつけよう。」
女神が右の手を開き肩の高さまで上げる。銀色の珠が現れ、宙に浮く。
銀色の珠に声をかける。
「ナサニエル。聞こえるか。」
直ぐに返答が来た。
「これは女神様。突然のお声掛けですが何かありましたか。」
優しげな口調の男性の声が聞こえてきた。
「ナサニエル。我が愛し子を外界に降ろす。心得よ。」
女神のその言葉を後に全く返答がない。
暫し待つと、かすかに嗚咽が聞こえてきた。
女神も白狐も静かに待つ。
「……。うぅ。うぅぅ。も、申し訳ありません。お見苦しい声を……」
「良い。暫し待つ故に落ち着け。」
女神と2人、静寂の中にいる。
今はその空気も悪くない。
女神とナサニエルとの静かなやり取りに、この世界の優しさに安堵する。
同じ情景の中での話が数話続きます。




