結婚までのあれこれ
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テオドールは、客間から移動して欲しいと言われた時、てっきり別館へ行くのだと思っていた。
しかし、家族のプライベートスペースの一室を急ぎでテオドール用に仕立てるので、移動は暫く後に。そしてその場所はナタリアの隣の部屋だと言われ、緊張してしまった。
ナタリアを見ると『ああ、空き部屋でしたね』とあっけらかんとしており、平気なのかと少しだけ残念に感じてしまう。
使用人達が動き回り、空き部屋を綺麗にし家具の搬入を速やかに終える。
改装中の客間も、なるべく早く終わるようにと指示が飛び、平和祭りの一週間前には何とか形になる手はずが整った。
部屋を作ると決まってから三日後に、テオドールはその部屋へと移動した。
テオドールに、これからは着替えたら私の部屋で夕食まで過ごそう、と言われたナタリアは、急に恥ずかしくなってしまった。
階段からナタリアの部屋へと向かう手前にあるテオドールの部屋。
ナタリアは、部屋を整えている時に時々中を覗いていたが、そこにテオドールが居ると居ないとでは感覚が違う。
家族のスペースにテオドールが居るということに、ナタリアは結婚すると実感が湧いた。
結婚式を始めとして、いつからどこに住むのか等、決めることは沢山ある。全ては平和祭りが終わってからになるが、その前に少しでもテオドールと話をしておいた方が良いのだろうか。
結婚式は一年後くらいになるのだろうが、社交シーズンには自分もタウンハウスに行っていた方が良いのだろうか。
一つ考え始めると、あれもこれもと考えつく。
これはお母様かお義姉様に相談した方が良いな、とナタリアは自分一人では答えが出ない疑問に答えてくれそうな人を思い出した。
ナタリアはまず義姉であるディアーズに聞くことにした。
ドーレ領に嫁いで四年ということで、覚えていることは母より多いのではないか、と思ったからだった。
この時間ならディアーズは兄の執務室にいる筈。
そう予想して向かうと、案の定ソファでお茶を楽しんでいた。
ケネスの執務室なので漏れ無くケネスも居ることになるが、そこは話の内容次第で頼りになるところもあるかもしれない。
ナタリアは結婚式の事、生活する場所の事等、最近気になっていることを、ポツリポツリと話した。
ディアーズは、うんうんと聞いてくれたが、最後に答えをくれるのかと期待したナタリアに告げた言葉は意外な事実だった。
「私はね、体一つで嫁いだのよ。ケネス様が全て用意するからって仰って、本当に体一つで来たら全部用意してくださってたのよ」
え?とケネスを見ると、ああ、うん、と歯切れの悪い返事を返す。
「お兄様、どういうこと?」
「ああ、その、私達は婚約が決まってからわりと早く結婚までしたから、ディアーズの家に負担がかかるといけないと思って」
ケネスとディアーズは珍しく恋愛結婚だ。
ディアーズの生家は子爵家で、ディアーズは殿下に仕える侍女だった。
侍女になって二年目、平和祭りに殿下の侍女として初めてドーレ城へ来たディアーズは、そこでケネスと恋に落ちた。
お互いが一目惚れだと言い、それならさっさと決めてしまえ、と言う殿下の一声であれよあれよと婚約がなされ、出会って半年後には結婚してドーレ城に嫁いできていた。
その間、ディアーズは仕事の引き継ぎがあったり、各所への挨拶があったりしてなかなかに忙しかったと聞く。
子爵家はドーレからは王都を挟んで反対側の西側に領地がある為、頻繁に打ち合わせも叶わない。
ということで、いろいろ面倒なことを省いて兎に角早く嫁いでもらいたかったケネスは、全部揃えるから体一つでおいで、となったらしい。
改めて聞くと、その情熱的な恋愛話に、ナタリアはあっけにとられる。
ケネスとディアーズが出会った時は、自分は婚約破棄の後で、人目が煩く感じていた頃だった。その為、祭りの最中もなるべく城にはいないようにして、紹介所に仕事と称して入り浸っていた。
気がつくとケネスが婚約していて、あっという間に朗らかな義姉が嫁いでいた。
いつの間に婚約していたのか?と疑問は湧いたが、おめでたいことだから、と流していた。
それに、この義姉のおかげで城が明るくなり、ナタリアはありがたく思っていた。ナタリアの婚約破棄騒動から領民の暴動未遂、そんな暗いドーレ家がディアーズのおかげでグンと明るくなったのだから。
さらにレイソンも生まれ、ドーレ家安泰と良いことずくめ。
ディアーズは女神かな、とナタリアは何度も思ったことがある。
自分は知らなかったが、影でケネスが頑張ったからなのか、と今更ながらに理解したナタリアだが、どうやら自分の疑問には答えがもらえないとわかっただけだった。
それではお母様に聞こうか、と思ったナタリアだが、ディアーズが『そういうことはテオドール様と話した方が良いわ』と薦めてきた。
やはりそうなるのかな、と考えたナタリアは、それでは近いうちに聞こうかな、と返事をして、レイソンと遊ぶことにした。
レイソンとお絵描きを始めてすぐに扉がノックされ、テオドールが顔をのぞかせた。
「ああ、やっぱりここにいた」
入室の許可をもらったテオドールは、ナタリアの横に座った。
『部屋にいなかったから、ここかなと思って』とテオドールが言うと、ディアーズが『ナタリア、あれ聞いたら?』とナタリアへ話しかけた。
今?と躊躇したが、ディアーズがいる方が聞きやすいかもしれないと思い直し、顔をテオドールへ向けた。
「両家の顔合わせから色々なことを決めると思うんですけど、その前に少しでも擦り合わせをした方が良いのかな、と思いまして」
「ああ、成程。ある程度詰めておいた方が早いか。ではまず何からにしようか」
テオドールは顎に手を当て、少し考える。
考えがまとまったのか、まず自分の考えていることだけど、と前置きをして話し始めた。
「住むところだけど、王都の公爵家別邸を考えている。ただ、これは父とも話さないといけないから、何とも言えないけどね。あと結婚式については殿下の式の前にはしたいかな。二人で参列したいからね。それと」
「え?殿下の式の前って、半年くらいしかないですよね。確か殿下は五月初めだったと」
「そうだね。忙しいとは思うけど、リアさえ良ければ体一つでおいで。両家の顔合わせのタイミングでウエディングドレスも依頼しよう」
なんだかついさっき聞いた言葉が出てきて、ディアーズとナタリアは顔を見合わせて笑ってしまった。
なぜ二人が笑ったのかわからないテオドールは、ケネスを見て答えを求める。
「ああ、さっき私の結婚の経緯を話していて、似たようなものだったからじゃないかと」
「ああ、ケネスも婚約から結婚まで早かったな。あ、同じくらいか」
「体一つで嫁いでこいと言うくだりもな」
「政略結婚でもないし?」
「そうだな」
「じゃあ、協力してくれるよな。なんなら平和祭りが終わったら、リアだけでも王都へ行って良いんだ。あちらのタウンハウスで生活してくれれば、打合せもしやすいし、頻繁に会えるし。連れて行っても良いか?」
「それは両親が寂しがるから却下」
「あら、ナタリアがいないのは私も寂しいわ」
「ほら、却下だろ?」
テオドールは何とかしてナタリアを王都へ連れて行こうとするが、決定打に欠けて許可はもらえそうになかった。
結婚までの日数はさておき、テオドールが考えていることはわかった。
何にしろ、王都で両家の顔合わせの時に、一発で話し合いが終わるようにしないといけない、ということで、夕食時の家族が揃ったタイミングで、結婚の日や住む場所、またその内装の工事や調度品等のことについて、テオドールが考えていることを辺境伯夫妻へ話した。
辺境伯夫妻は静かにテオドールの話を聞いていたが、平和祭りが終わったら、ナタリアを王都へ連れて行きたいとの言葉は拒否をした。
ケネスが『だから言っただろ?』と言うと、テオドールは『また会えない日々を送るのか』と項垂れた。
その姿を見た辺境伯は、
「ずっとタウンハウスでというのは許可できないが、顔合わせから一ヶ月間、そして式の一ヶ月前からタウンハウスでの生活は認めよう」
だからこちらにいる間に、仕事の引継ぎをしっかりしておくように、と言われたナタリアは、後任が困らないようにしないといけない、と気を引き締めた。
「殿下の式の前までに結婚したいということに、反対がなかったな」
「良かったよ。殿下は五月の頭だから、私達は四月頭には結婚したいよ。だから、リアは三月頭にはタウンハウスで生活を始めて」
「待て待て、三月頭って五ヶ月も無いじゃないか」
「来月の平和祭りの後、王都での顔合わせに向かうだろう?その後の一ヶ月はタウンハウスに居て良いってことだから、会えない期間は三ヶ月。う〜ん、三ヶ月もあるのか」
「そのくらいは我慢しろよ」
夕食後の談話室での話題は、テオドールとナタリアのこれからについて。
主にケネスとテオドールが話している。
「せっかく部屋を作ってもらったから、週末は転移で会いに来るか」
「お前、そんなにナタリアに会いたいのか?」
「それはそうだろ?リアだって会いたいだろうし」
こっちにまわってきた。ナタリアはビクッと肩を揺らし、なんと答えると四方丸く収まるか考えた。
が、咄嗟に出た言葉は
「そ、そうですね」
「ほら。だいたい自分だって離れて暮らすのは辛いって知っている筈だろう?ケネス」
そもそもこんな会話になったのは、『ナタリアが王都で暮らし始めるのを、もう少しだけ早められないかケネスからも辺境伯へ言ってくれ』とテオドールが泣きついたことによる。
それに対して『二月は雪が積もって移動が大変だから、早くても三月が妥当』とバッサリ切り捨てたケネス
「そもそもドーレ領はそんなに雪降らないだろう?」
「そろそろ大寒波がきてもおかしくない」
「王都でゆっくり式の準備をした方が良い」
「安全第一。雪道なめるなよ」
「それなら平和祭りが終わったら私と一緒に」
「却下」
二人の会話を、ナタリアは呆気にとられた表情で、ディアーズは楽しそうにニコニコ笑いながら見ている。
「リア、リアはどう思う?」
テオドールがナタリアに意見を求める。
が、ナタリアの返事はテオドールの期待に答えられなかった。
「二月なら、お義姉様も安定期にはいっているので。それまではレイソンのお相手したりお手伝いを」
ナタリアが自分と同意見ではないと知り、ショックをうけたテオドールだが、新たな案を提案する。
「それならレイソン君も連れて行こう」
「却下。親子を引き離すのか?」
「私とリアは引き離すくせに」
いつまでこのやりとりは続くのだろう。
ナタリアは溜息をついて温くなったお茶を飲み干した。
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