14.城内視察
「今日はよろしくね、アールス」
数日後、アンナが魔道の塔にやってきた。詳細な計算の為に、実際の警備の様子や宮殿の細かな構造を見たいと言うことだった。
「陛下や宰相にお願いして予定をあけてもらったの」
「よろしかったのですか?」
「いいのよ。私の仕事なんてパーティや式典でニコニコするだけなんだから。さあ、早速行きましょう。」
アンナはあっけらかんと言った。
「あ、なんかここ見たことあるわね」
一つの用具室を除いた時にアンナがつぶやいた。しばらく考えていたが、思い出したのかパッと顔を上げた。
「小さい頃兄様とかくれんぼをしたときにここに隠れたんだわ」
いつまでも探しに来ないから怖くなって泣いちゃったのよ、と懐かしそうに笑った。
「こちらは厨房です」
ドアを開けると中では料理人たちがセカセカと動き回っていた。昼食の用意のため慌ただしい。
「ここは知ってます。よくつまみ食いにくるの」
なぜかアンナはしたり顔である。
「厨房は注意が必要です」
アールスの指摘に「え、なんで!?」とアンナが振り返った。
「間者が料理人や納入業者に紛れて潜入する場合があります。無論人定は厳重に行なっていますが、それでも注意が必要です」
人目を盗んで侵入しようとする輩に対しては魔道による結界などは非常に有効だが、職人として正式に出入りされると魔道ではどうにもならない。その辺りは警備兵との連携や信用のできる職人長に話を聞き、目を光らせる。その説明をアンナは目を見張って聞いている。
「じゃあ侍女が間者ってこともあり得るの!?」
「注意は必要ですが…」
侍女は行儀見習いとして派遣された貴族の娘が多く、出自自体は初めから確かなため、基本的には安全である。
「よかった。いきなり刺されたりしないわよね」
アンナは笑いながらほっとため息をついた。
「姫様が意地悪でなければ大丈夫です」
ちょっとした冗談のつもりだったがアンナは目を丸くしてアールスを見た。姫の気安い人柄につけ込みすぎたか、と内心慌てたがアンナはにこりと笑った。
「そんなにひどい主人じゃないと思うけどなあ」
ほっと胸を撫で下ろし歩を進めるアンナの後ろ姿を見る。しかし、こんなにも気軽に俺のような者と話してくれるとは、とアールスは思う。魔道士の塔で働くようになってから、一番話した女性が王女だとは自分でも驚く。
「姫様、つまみ食いにお越しですか」
厨房の奥から、大柄な男が声をかけてきた。料理長のカパティアである。この男もワトビアのような筋肉質の大男だ。
「違うわ、今日は仕事よ!」
アンナは胸をそらして誇らしげに言い放った。
「仕事ぉ?」
カパティアは不審げに首を傾げたが、程なく後ろのアールスに気づいた。
「アールス。珍しい取り合わせだな」
カパティアとは警備の仕事上、よく話をする。確実に信用できる人間の一人だ。
「…はい。アンナ姫と警備の運用について協力していただいてます」
アールスの物言いにカパティアがさらに不審そうになり眉を顰めた。
「なんだ、その口の聞き方は。気持ち悪い。…そうか、姫様の前だからそんな畏まってやがるのか」
「…」
あまりの図星に黙ってろ、と思ったがカパティアは途端にニヤニヤと相好を崩した。
「いつもはこんなんじゃないんですよコイツは、ワトビアにも俺にも無礼な口を聞くんです」
「まあ、そうなの」
「でも姫様の前ではちゃんとしているようですな。安心しました」
カパティアはガハハと笑い「少しお待ちを」とアンナに告げ、すぐに戻ってきた。手に小袋を持っており、「また感想を聞かせてください」とアンナに手渡した。
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