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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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12.王女

 そこにいたのは第二王女のアンナであった。

 簡素ながらもそれなりの物とわかる水色のドレスをまとっている。

「そんなにかしこまらなくてもいいわ。顔をあげて」

 アールスは顔を上げ、アンナを見た。仕事上姿を見る事はあるのだが、同じ一室でこれほど近くで直接顔を見るのは初めてである。

 16歳の少女らしくあどけなさの残る表情をしている。大陸随一の王国の王女ということから、縁談の話は引きも切らないが、婚約者は決まっていない。アンナは教育を受ける過程で算術の才を見せ、自身も算術に興味を示し、数の塔に通い詰めるようになった才女であった。


「色々検討した結果、アンナ姫にお願いしようと言う事になりました。算術の才は申し分ありませんし、機密の点からも王族自らが携わって頂ければ、これ以上安心な点もございませんから」

 セキが笑みをたたえてアールスを見る。

 確かに機密の点では王族に警備の配置や方法を開示するのはなんの問題も無い。しかし実際に通用しうる警備の計算が出来るのだろうかと言う疑念がアールスには拭えない。専門的な教育を受け才を見せた王女と言っても、16歳の少女である。

「さっそく始めましょう。セキ様も出て行って下さいな。セキ様が間者だったら困りますし」

 アンナはいたずらっぽく笑って言った。

「ハハハ、これは手厳しい。では私は退散しましょう。アールス殿、よろしくお願いします」

「え」

 嘘だろ、と思わず声を上げそうになる。いくらすぐ外に騎士が詰めているとはいえ、王女と2人にするなどありえるのか。どうすればいいか分からない。アールスはすがるような目でセキを見たが、笑って出て行ってしまった。

 

 王族は皆、護身用の法具を携帯している。何かあれば護身の魔法も作動するだろうし、警備の兵もそれを探知しすぐに来る。それに2人にするからには自分でさえ分からない方法で監視されているのだろう。アールスはそう考えた。

 王族に対して、こちらから発言する事など許されない。アールスはただ黙って頭を下げているしか無かった。居心地が悪い事この上ない。

「よろしくねアールス。あなたの事は遠目に何度か見た気がするわ。ワトビアがなかなか面白い奴だって言ってたわ。あなた一人を寄越すなんてよっぽど買われているのね」

 アンナが机を挟んで値踏みするような目でアールスを見る。

「…恐れ入ります」

 快活な姫だと言う噂は聞いているが、緊張がほぐれる事はない。考えれば女性と話す機会もあまりなかった。魔道士の塔にも女性はいるが、警備担当の者はおらず、専ら薬草の研究や生活魔術に携わっており、接点もなかったのだ。

「ちょっと待ってね」

 アールスをじっと見ていたアンナが踵を返し書類棚にある紙束を抱え、机の上に置いた。

 図面のようである。


「宮廷の図面よ。今日に備えて私ある程度計算したのよ。細かい所はあなたに聞いて修正するわ。ところでお茶を飲む?」

「いえ…その、私のような者に、もったいない事でございます」

 突然の事でアールスは大いに慌てた。 

「まあ私が飲みたいから勝手に淹れるわね。パ…父上にもよく淹れるからなかなかのものなのよ」

 気にした様子も無くアンナは今度は奥にある食器棚に向かう。

「おそれながら、私がお持ちします」

「いいわよこれくらい。あ、術でお湯をつくってくれない?」

「かしこまりました」

 やっと「やること」が出来、アールスは安堵した。杖をかざしポットの水を瞬時に温めた。

「便利ねえ」

 ティーセットを持ったアンナが感心した表情でポットを覗き込む。距離が近い。ふわりと漂う甘い香りにアールスはたじろいだ。

「恐れ入ります」

「そんなに恐れないでよ」

 アンナがすねた口調で顔をつんと上げアールスをにらんだ。

「申し訳ありません…高貴な女性の方…ましてや王族の方と話す機会など考えた事もございませんでしたので、どのようにしてよいか分からず、失礼いたしました…」

 アールスの真実の言葉だった。本当にどうして良いのやらと途方に暮れていた。


「そうねえ…」

 アンナは小さな顔を傾け言葉を探した。

「私は今日は算術士なのよ。魔道士の塔からの依頼を受けてセキ算術士長の指名を受けてここにいるの。私ならそれなりの仕事ができると判断されての事よ。自分で言うのもなんだけどわりと出来るのよ」

 アールスに諭すように語りかける。

「存じております」

 アールスが答えるとアンナの大きな目がさらに大きく開き、身を乗り出してきた。

「ほんと?そんな噂でもあるの?」

「魔道士の塔にほぼ籠っている私にも姫様に算術の才がある事は聞こえております」

「そうなのね…」

 愛でも囁かれたようにうっすらと頬を染めアンナは嬉しそうに微笑んだ。変わった人だなと思ったがアールスは黙っていた。


「とにかく私が言いたいのは算術士としてここにいるの、だから私が王族と言うのは忘れて。ここではただの算術士と魔道士という対等の関係でいたいのよ。気を使われて必要な意見を貰えないのは困るわ」

 貴族、ましてや王族ともあれば自分のような一介の魔道士など人とも思っていないだろうと考えていたし、実際そのような態度を取られる事もあった。しかしアンナはまったくそのようなことがなく、数の塔と言う限定の場所ではあるが姫自身から『対等な関係』を求めてきた。こんな姫もいるのだな、とアールスは不覚にも感動していた。そして腹を決めた。

「姫様の寛大なるお言葉、非常にありがたく存じます。このアールス、ご期待に沿えるよう、忌憚なき意見をさせて頂く所存です」

「…ま、いっか。お願いねアールス」

 少し肩をすくめアンナはにっこりと笑った。

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