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婚約者に婚約破棄され見捨てられた魔術師と「役立たず」と嘲笑った元パーティに追放された魔道士、最強となり異世界無双。  作者: 限界まで足掻いた人生
第2章

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第83話:水曜日の郵便局と、海を渡る論理

シエルの研究室 ―― 遺された思考の断片

監獄塔の冷気から解放された俺が最初に向かったのは、帝都の片隅に隠されたシエルの研究室だった。


最低限の食料と生活必需品、そしてあの「物理的な粉末」に対抗するための薬学資料を鞄に詰め込む。シエルのデスクは、主人が連れ去られたあの日から時が止まったように散らかっていた。


「……相変わらず、整理整頓という概念が欠落しているな、あの耳長は」


皮肉を呟きながら、俺は棚の奥から一冊の古びた手帳を引っ張り出す。そこには、シエルがかつて大英エルフ帝国を捨てた際に持ち出したとされる、地脈回廊の秘匿座標が記されていた。


俺の右腕は、依然として魔力の過負荷による熱を持っている。だが、シエルの研究室に残されていた安定剤を打ち込み、強引に神経を鎮静化させた。今は、痛みに構っている時間さえない。


秘密の回廊:ヤードの裏道

研究室を出た俺は、銀のヤードから譲り受けた電子キーを取り出した。


向かう先は、一般の地図には決して載ることのない特殊通路。帝都アルビオンの地下深くに張り巡らされたヤード専用の高速回廊だ。


薄暗い地下通路の壁面に電子キーをかざせば、無機質な石壁が論理の組み換えによって流動し、青白い光を放つ次元の裂け目があらわになる。それは帝都の法典術式をバイパスし、空間そのものを折り畳んで移動する、法と秩序の番人たちだけに許された禁断のショートカット。俺はその静寂の中に足を踏み入れ、地脈の奔流に身を任せた。


視界が歪み、数秒の浮遊感。 再び地面を踏みしめた時、俺はすでに帝都の喧騒を遠く離れ、海の匂いが混じる湿った風の中にいた。


目的地:水曜日の郵便局

回廊を抜けた先、霧に包まれた寂れた港町の路地裏に、その場所はあった。


古びたレンガ造りの建物。看板には「水曜日の郵便局」と、時代遅れの文字で刻まれている。一見すれば、何の変哲もない地方の集配所にしか見えない。


だが、俺の演算眼アイは、その建物全体を覆う極めて精緻な隠蔽術式を見逃さなかった。


「……ここか。海の向こう、エルフの帝国へ渡るための『正規ではない』唯一の窓口」


エルフの帝国は、物理的な海を越えた先にあるだけではない。それは、幾重もの次元の霧によって守られた隔離された聖域だ。通常の船では一生辿り着くことはできず、かといって公式な定期便を使えば、俺のような追放者は即座に拘束される。


この郵便局は、帝都と帝国の間でやり取りされる「公にできない書簡や物資」を運ぶための、闇の交易拠点だった。


俺は鞄を背負い直し、重厚な木製の扉を叩く。


結末:不純な投函

扉が開くと、中には山積みにされた手紙の山と、片目を眼帯で覆った老エルフが、不機嫌そうに羽ペンを走らせていた。


「……今日は水曜日じゃない。営業は来週だ、若造」


「曜日の定義なんて、状況次第で書き換えられる。……これを見ても、同じことが言えるか?」


俺は銀のヤードから与えられたキーを、カウンターに叩きつけた。ヤードの最高権限を示すその輝きに、老エルフの手が止まる。


「ヤードの刺客か……? それとも、ただの死に損ないか」


「どっちでもいい。俺を、エルフの帝国まで運べ。……手紙メッセージの代わりに、俺自身をあっちへ投函とどけてもらう」


老エルフは眼帯の奥の瞳を細め、俺の右腕の火傷と、その瞳に宿る殺気混じりの論理ロジックを値踏みするように眺めた。


「……物好きなことだ。あそこは今、女王の戴冠式と、王子の話題で持ち切りだぞ」


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