ワケあり13人目⑪
「お待たせしたんだぁ。族長が会ってくれるそうだぁ」
「悪いな。助かるよ」
ティミィたちを保護して数時間後。
空が夕焼けに染まり始めた頃に、俺たちはウェイビー氏族の住処としている森へと足を踏み入れていた。
そこからは森の入口で待機し、ノルとティミィたちを集落へ先行させたのだ。
族長と交渉を終えたノルが戻ってきたのが、それから30分後といったところか。
「とりあえず、ハイトだけ顔を合わせてみる、って言ってたけんど、多分みんなも後で入れると思うんだぁ」
「なるほど。そういうわけだから、ちょっと行ってくる。一応、野営の準備はしておいてくれ」
仮に集落内に入れて貰えるならそこで野営でもいいが、立ち入りが許されなかった場合はどこか近くで野営を張る事になるだろう。
大した距離を移動しないのなら、ある程度の準備をしていた方が野営もスムーズに進むしな。
「了解~。こっちは任せといてよ」
「大丈夫だと思うけど、ハイトも気を付けるようにね」
残る兵士たちの統率を双子に任せ、俺はノルの案内でウェイビー氏族の集落内へと足を踏み入れていく。
集落への道はわからないよう隠されていたが、逆にそれが僅かな違和感を感じるような感じ。
素人は素通りするだろうが、山や森を歩き慣れている人なら気付くかもしれないな。
そんな感想を抱きながら、茂みを抜ける。
その先に広がっていたのは、大きな木の上に作られた木造の家たち。
いわゆるツリーハウスというやつだ。
家の高さはそうでもないが、下半身の蜘蛛部分の大きい蜘蛛女族だからこその作りなのか、入口の横幅が大きい。
前に見た山の部族に比べると、作りがしっかりしているし、どこか家の作りに統一感がある。
いわゆる、部族の伝統のようなものがあるのかも。
「こっちが族長の家だぁ」
集落内でも一際立派な中央の木に、他よりも大きな家が建てられており、一目で偉い人の家だ、とわかる作りだ。
他が1階建てだったのに対し、2階もあるのでわかりやすい。
ノルは8本の脚で驚くほど身軽に地面を蹴ると、ひと飛びで族長の家の前へと降り立った。
これはとんでもないジャンプ力だ。
他の蜘蛛女族の身体能力を見てないからわからないが、みんながこんなに高い身体能力を持っているのなら、森の氏族でもその気になれば戦えるんじゃないかね。
とりあえず、待たせるわけにもいくまいと思い、俺は魔力で身体強化をして、ノルと同じようにひと飛びで大きな木の上へと降り立つ。
多分、高さ5メートルはあるだろう。
今更ながら、こんな高さでもひと飛びにできてしまう魔力という存在の万能感よ。
まあ、ここまでをできるようになるのって、相応の身体づくりと魔力操作の習熟を要求されるんだけどな。
「あ……き、今日はどうも……ありがとう……」
ノルに案内され、開け放たれていた族長の家へ入ると、まずはティミィが俺を出迎え、しどろもどろになりながらも、今日の事に対してお礼を述べ、ぺこりと頭を下げる。
多分、この一つのお礼にしても、彼女にしてみれば相当に勇気を振り絞ったのだろう。
「ま、そんなに重く考えなくていい。俺はノルに頼まれた依頼をこなしただけだからな」
言葉を返さないで動作だけで済ますのも感じが良くないし、大仰に反応すると彼女の心臓に悪そうなので、俺は優しい微笑みと簡単な言葉を返すに留める。
それからすぐに正面のティミィから視線を外し、奥にいる1人の蜘蛛女族へと視線を移す。
体格は……多分一般平均女性くらい。
理知的な、それでいて大人の女性、という感じの顔立ち。
見ただけで族長らしい風格を備えていそうな彼女が、ウェイビー氏族の族長なのだろう。
「なるほど、そなたがティミィを救ったという人間の者か。ノルから聞く通り、まだ子供のようじゃが、ひとかどの者であるようじゃ。まずは妾の一族を救ってくれて礼を言うぞ。ありがとう。全く、クラタンの脳筋どもときたら、ノルマを課すだけで飽き足らず、自由すらも奪おうとは」
なるほど。
ウェイビーの族長はのじゃい系か。
こういうのは合法ロリがお決まりのような気はするが、俺的には幼女体形に興味は無いのでこっちの方がいいや。
と、思考が少し脇に逸れたが、名乗る前に礼をしっかり述べて頭を下げてくる辺り、ちゃんと纏め役なんだな、って感じ。
彼女の前に見た族長がアレだから、恐ろしく人間ができているように見える。
いや、きっとできているタイプの人なんだろうけども、比較対象が酷すぎるという話で。
「おお、名乗りがまだであったな。妾はエレーニャ・リデル・ウェイビーと申す。仰々しいかもしれんが、蜘蛛女族の族長は名前の後にリデルを付ける習慣があるのでな。一族の恩人であるそなたは、気軽にエレンと呼ぶが良い」
エレーニャ・リデル・ウェイビ―、か。
なんか貴族みたいな名前だな。
しかも愛称で呼ぶように言ってくる辺り、割と好感度は高いっぽいか?
リデルが付くのは蜘蛛女族の族長の習慣という事は、あのクラタンの族長も〇〇・リデル・クラタンって名前だよな……。
絶対に名前負けしてるじゃん。
「ウェイビーの族長と知己を得られて光栄だ。一応聞いてるとは思うけど、俺はハイト・リベルヤ。リアムルド王国で侯爵の地位にある。とはいえ、別に貴族扱いは求めていない。仲良くしてくれると嬉しい」
「うむ。よしなに頼むぞ」
友好的にウェイビーの族長、エレンと握手を交わす。
しかし思ってたよりも話がスムーズそうだ。
これはこの場を作ってくれたノルに大いに感謝しないとな。
「しかし念のためと思って直に会ってみたが、ハイトはなかなかに気のいい男よな。己の立場をひけらかさず、かといってへりくだるでもない。とても好感が持てるぞ」
どうやら、妙に好感度が高いのは俺の第一印象が彼女の好む人物像に合致しているかららしい。
「話に聞けば、そなたの従者たちもおるというではないか。今宵はこの集落に泊まっていくと良い。木を燃やすような真似をせぬのなら、下のスペースは好きに使って構わぬ」
「そいつは助かる」
「んだらノルが迎えに行くんだぁ。ハイトはもう少しエレン様と話すといいんだぁ」
エレンから集落にみんなと一緒に泊まっていいと許可を貰った途端、ノルがみんなを迎えに行く、と族長の家を飛び出してしまう。
そこまで気を使わなくても、と声をかけようとしたが、ノルはあっという間に行ってしまった。
まあ、行ってしまったのなら彼女の厚意に甘えるとするか。
それに、ノルはもう少しエレンと話せと言っていたし。
「ノルは相変わらず活発で気遣い上手じゃな。脳筋のクラタン氏族とは思えぬわ。してハイトよ。ノルとティミィからかいつまんで聞いたが、そなたは国に許可を取った上で蜘蛛女族の現状に介入するつもりらしいのう?」
ノルが俺をこの場に残した理由を理解すると共に、エレンが俺に向ける視線が変化する。
先ほどまでは恩人として迎える雰囲気だったが、今は俺を品定めするかのような視線だ。
切れ者を思わせる顔立ちながらも、どこか柔らかさが同居していた先ほどと違い、今は刺すように鋭い空気で、未だ部屋の片隅に残っているティミィが恐怖の表情でカタカタと震えるほど。
さすがは、森の氏族を代表する族長、というところか。
どう話せば彼女が納得するか、頭を回転させながら、俺は息を吸い込むのだった。
さて、今回のワケあり13人目は皆さまご想像の通り、蜘蛛女族の誰かですが、ハイトに落とされるのは誰か予想できるでしょうか?
①ノルフィー ②ティミィ ③エレーニャ ④クラタン族長 ⑤4人の中から数名 ⑥全員
答えは6択です。
ぜひとも予想してみて下さい。
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