ワケあり10人目⑩
「……ふむ、今の状況は理解した」
帝国から派遣された一団がサンクリド入りを果たし、晴れて3大国の代表が集った日の午後。
俺とヴァルキア代表、帝国の皇帝代理人ソリド将軍の3人とその側近たちが集まり、今後の話を決めるための場が設けられた。
まずは俺から現状知り得ている事を共有すれば、ソリド将軍はしたり顔で頷く。
「では、各国の方針を聞こう」
すぐに自分の考えは語らず、彼は俺たちの意見を聞こうと目線を巡らせる。
俺とヴァルキア代表、どちらが先に話すか、そんな視線を一瞬だけ交わすと、先に小さく頷いたのはヴァルキア代表。
「連合国としては、これ以上は教国にリソースを割く必要は無いと判断しています。今回も即時帰還すべきかと」
一分の躊躇いも無く、ヴァルキア代表は教国を見捨てるべきと言い切った。
冷酷と言うと聞こえが悪いが、現実を見ている、という事もできる。
どちらにせよ、連合国側はもう決断を下しているのだ。
王国はどう動く、と視線によってソリド将軍から無言で問い掛けられる。
俺は今から言う意見にどんな酷評をされるか、と考えながらも、答えを述べるべく息を吸う。
「王国としては、ここで教国を見捨てるのは愚策だと考えます。確かに、直近で我々が被るであろう被害は決して軽いものではなく、国への利もありません。しかし、結果として教国が滅亡し、難民や亡命者が秩序無く流入すれば、国は間違い無く乱れます。特に我々王国と連合国は教国からそれほど遠くない。現実的な将来と考えられます。それと、バイレンド傭兵団ですが、各地で略奪を行う事に忌避感が無く、好戦的な連中です。ここで我々が撤退する事により、3大国は大した相手ではない、と認識されてこちらの領土を荒らしに、あるいは活動範囲を広げてくる可能性を考慮すれば、この場で3大国を敵に回すのは面倒だと思わせておく方が、後々の事を考えればいいのではないかと」
長々とだが一息に言い切って、俺はやる事はやった、と少し瞑目する。
少し昂った気持ちを整え、再び目を開けば、場の空気は緊迫したものへと変わっていた。
「……なるほど。各国の主張はわかった」
ソリド将軍は王国と連合国の意見を聞いた上で、どんな判断を下すのだろうか。
重々しい雰囲気を纏う壮年の将軍に、注目が集まっていく。
「帝国としては、どちらの意見も頷けるし、間違っていないだろうと思う」
そう前置きした上で、ソリド将軍は俺を真っ直ぐに見た。
「その強さでよく話題に出るバイレンド傭兵団を相手に、勝てる見込みがあるのか、それを君に問いたい。王国全権代理人のハイト・リベルヤ伯爵」
俺を子供と侮る事も無く、ただ真っ直ぐに勝ち目はあるのか、と問うてきたソリド将軍の目を真っ直ぐに見返して、俺は口を開く。
「被害をゼロにするとは言いません。ですが、極力減らした上で絶対に勝つと断言します。教国側の理解と協力が得られるのなら、開戦前に撤退させる事すら可能かもしれません」
虚勢に見えないように気を付けつつ、それでいて自信があるように見せるよう意識して言葉を紡ぐ。
そもそも、元より勝算はあると見ているし、大規模魔術による威圧を許可して貰えるのなら、戦わずして勝つ事も不可能ではないと俺は考えている。
その場合、どこかの地形が変動しかねないというデメリットはあるのだが。
「……なるほど。それならば、我々帝国は王国の意見に賛成しよう。連合国はどうする?」
帝国が俺の意見に賛同したのがよほど意外だったのか、ヴァルキア代表は目を見開く。
3国中2国がこのまま教国を守るという選択をしたのだから、趨勢は決まったようなものだ。
「……これでは、私たちが悪者のようではありませんか。いいでしょう。勝算があるというのなら、連合国も協力しましょう。ただし、状況が悪くなったら、連合国は即時撤退します。いいですね?」
自分の意見が不利と悟り、連合国側も折れてくれた。
とりあえず、当初の予定通りに教国を支援し、旧教国の人間をしょっ引いて、この混乱を終息させる。
3大国で意見が纏まったので、これからの動きを協議しなければならない。
「情報収集等はこのままリベルヤ伯爵に任せてもいいだろうか?」
「はい。問題ありません。ただ、うちは精鋭を連れてきてはいるものの、数が少ないので、人手のいる業務は連合国と帝国にお任せしたいと考えています」
「道理ですね。帝国と連合国で手分けして教国内の治安維持に努めましょう。巡回路は……」
最初こそ意見の違いがあったものの、方向性さえ決まれば、その他の物事が決まるのはスムーズだった。
さすがは国の代表者たちである。
とりあえず、俺たち王国勢はこれまで通り情報収集と教国側との協議をメインに受け持つ事に。
各地の治安維持を帝国と連合国が担ってくれる事になった。
とりあえずサンクリドの守備はうちの兵士たちで賄えているので、帝国と連合国は要人警護以外の兵士を全員治安維持に回せる。
「問題は、恐らく3日後くらいに来るバイレンド傭兵団ですね」
「そこに関してはやるしかないでしょう。リベリヤ伯爵には勝算があるようですし、大いにアテにさせてもらいますよ?」
まあ、俺が無茶を言い出したという自覚はあるので、バイレンド傭兵団との戦闘については俺たちが矢面に立つ事にはなるか。
連れてきた兵士たちには一番危険な場所を担当させる事になるが、無駄な犠牲を出させるつもりはない。
ともあれ、諸々の方向性などは纏まったので、すぐに行動へ移すべく会議は解散し、各々で動き始める。
宿の部屋に戻ってすぐに、俺は主立ったメンバーを集めて、これからの予定を共有し、改めて指示を出し直す。
とはいえ、大きな変化は無く、エスメラルダ率いる暗部と諜報部隊にバイレンド傭兵団の内情や細かい情報を集める方向へシフトしてもらう程度だ。
さて、教国側とも協議する事がいっぱいあるし、これから忙しくなるな。
責任重大な立場になったが、こればっかりは仕方ないと割り切り、俺は業務に邁進するのだった。




