ワケあり9人目⑮
「……以上が、今回の顛末になります」
王都へと帰還し、冒険者ギルドへ諸々の証拠品を持って行って、ギルドマスターに報告。
文面にすればとても簡単に見えるが、それまでに色々とあった。
4足歩行のゴーレムは当然ながら危険物認定され、門で足止めを食ったし、ギルドに連れていったらそれはそれで揉めたし、ギルドマスターの部屋に辿り着くまでに、おおよそ3時間を要したのだ。
何度同じ説明をしたかわからないが、色々とイレギュラーなのはこちらなので、おいそれと文句も言えない。
「……なるほど。やはり君に頼んで正解だったようだ。今回の件を聞くに、老練の戦鬼でも奇異の魔術師でも、完璧な達成は難しかっただろう。やはり、君はS級とすべきだな。これより、冒険者ハイト・リベルヤをS冒険者とし、二つ名を与える事とする。二つ名は、万能の魔剣士だ」
なんだろう、有無を言わさずにS級に認定される事になってしまったぞ。
あまりにもキッパリと言い切るもんだから、口を挟む事ができなかったぜ。
「荷が勝ちすぎる気がしますが」
「むしろ遅すぎたくらいだよ。元より、現在のS級2人からも推薦の話は出ていたんだ」
こんな子供にS級の称号を与えていいのか、と確認してみれば、現S級2人からも話は出ていたとか。
うーん、俺からしてみれば、剣も魔術も極めたわけじゃないし、どっちつかずの中途半端と言われても反論できないけどなあ。
自分が思っている以上に、周囲の人たちが俺の事を買ってくれていると感じるね。
無論、ありがたい話ではあるのだけども。
「そういうわけで、冒険者資格証は置いていってほしい。次にギルドに来る時までは更新しておくよ。それとも、国王陛下に預けた方が早いかな?」
「ちゃんと取りに来るので預かっておいて下さい」
ギルドマスターが、半分くらいは冗談っぽくS級の冒険者資格証を陛下に預ける、とか言い出したので、俺は焦ってそれを止めた。
別にそれでも問題無いと言えば問題無いのだが、陛下の事だ。
何かにかこつけて宴席を設けたり、王女殿下方と引き合わせたりしそうで面倒な事になるぞ、と俺の直感が告げている。
「それならこちらで預かっておく事にしよう。時に、今回の依頼報酬は通常通りで構わないかな?」
「いえ、今回はエンシェントゴーレムの素材を全部下さい。うちの鍛冶作業に使いたいので。むしろ買い取ります」
最近、色々と高難易度の依頼をこなす事が増えたので、こうしてギルドマスターから報酬の受け取り方を問われる事があるな。
まあ、魔物の素材が欲しいギルド側と、報酬が欲しい冒険者という構図で、基本的にはお互いにウィンウィンの関係ではあるのだが、高難易度依頼に出てくるような魔物ともなれば、希少性もさる事ながら、素材としての性能の高さも相当だ。
そこで、依頼達成者に魔物素材の優先購入権があったりする。
あるいは、今回の俺のように、依頼の報酬金から差し引く形にしたりも可能だ。
「なるほど。素材価値はどの程度かは不明だけれど、この後解体場に行って査定を受けてくれればこっちで処理しよう。差額は後で屋敷の方に届けさせるよ。足りない場合は請求書を持たせるけど」
「それで構いません。請求書の場合はリベルヤ家宛てでお願いします」
今回のこれは貴族家としての経費になるので、しっかりとリベルヤ家の宛名で請求書と領収書を貰わないといけない。
まあ、別に俺個人の資産で払う事も余裕ではあるんだけど、経理上の処理で色々と面倒になるしね。
日本にいた頃も、そういう方面の処理は色々と面倒だったから、それはこっちの世界でも変わらないという事だ。
「あとは……そのゴーレムだけど」
「うちで面倒見ますよ。ヴァルツと同じでサンプルとか報告書はギルドにも共有しますから」
知性があり、人間の言葉を理解するどころか会話が成り立つ。
そんなゴーレムをどうするかと言えば、魔生物扱いで登録を出す、という形に落ち着いた。
要するに、何か問題が起きたら俺の責任になる、という事だ。
「……まあ、それがいいだろうね」
4足歩行のゴーレムを、うちの子は渡さない、とばかりに抱き締めながら、ギルドマスターを無言で睨むレイネスタを見て、俺は肩を竦め、ギルドマスターは苦笑い。
どのみち、リベルヤ家以上にこういうデリケートな問題に対応できる場所の方が珍しいので、ギルド側も折れるしかないのだが。
「それでは、これからも期待しているよ。S級昇格おめでとう。万能の魔剣士」
S級冒険者特有の、二つ名で呼ばれるという体験を自分がする事になって、どこか落ち着かない気分になるものの、きっとこれからそれが当たり前になっていくのだろう。
しかし、何だかんだで冒険者初めて1年経つ前にS級まで上り詰めてしまったな。
今年の春に冒険者登録したばっかなのに。
そう考えると、今年の俺の人生経験ってめっちゃ濃い。
死にかけた事も数知れず。
あと数日で新年になるけど、この1年を振り返ったら、むしろ今日の出来事は優しい部類で。
「それでは、失礼します」
諸々のやり取りやら手続きも粗方済んだので、ギルドマスターの部屋から退出し、最後に解体場に行って素材の査定をしてもらう。
もっとも、これについてはこちらで引き取ると既にギルドマスターと話がついているので、あくまで価値を確認してもらうだけだ。
「確認させてもらったよ。査定結果はギルマスに渡しておくから、手続きはこれで終わり」
「ありがとうございました」
解体場での査定も終わったので、ギルドを出て待たせていたヴァルツを回収してから、俺たちは屋敷に戻った。
「よし、それじゃ早速作業に取り掛かるね! 行くよヨツアシくん!」
いつの間にか、4足歩行のゴーレムにヨツアシくんと名付けていたレイネスタが、屋敷に着くなり待ち切れんとばかりに鍛冶場の方に走って行ってしまった。
4足歩行のゴーレム、もといヨツアシくんもそれに続く。
ヨツアシくんを見たうちの使用人が驚きそうな気もするが、何だかんだでヴァルツを見ても少し驚くくらいで翌日には順応していたから、多分大丈夫だろう。
きっと、恐らく。
「……俺も仕事するか」
これから、色々と事務処理なんかもあるので、もう休みたい気持ちに鞭打って、俺も己の仕事をすべく執務室へと足を向けるのだった。




