ワケあり9人目⑤
「さて、鍛冶コンテストに出ると決めたはいいけど、何で勝負する? 部門はいくつかあるけど」
試しの短剣を打ってもらってから、改めて屋敷に戻り、レイネスタに汗を流してもらってから、俺たちは執務室で向かい合って話し合いを始めていた。
鍛冶コンテストに出るにしても、いくつか部門があるから、何に出るかで作る物が変わる。
仮に武器部門に出るとして、その中でも剣や槍などの武器種ごとの登録が必要だし、道具部門に出るなら調理用具から農作業具まで、作る物は多岐に渡るのだ。
レイネスタ本人が何の鍛冶が得意かによるし、部門によって評価ポイントは違う。
武器部門は、当然ながら性能に重きが置かれるが、見た目なども評価点だし、逆に道具部門は使い勝手やコスト面が評価点として重きを置かれるポイント。
要するに、部門によって必要な素材も違えば意識するポイントも違うのだ。
「剣と槍と盾と鎧一式、あとは農具一式と調理具一式、この辺りは出したい」
多分、武器部門辺りを狙うだろうな、と思っていた俺の予想を大きく上回り、レイネスタは全6部門のエントリーを希望してきた。
仮に全部やるにしても、準備に使える期間は変わらないのだから、それだけ負担は大きくなる。
「……本気か? いやまあ、やるってんなら全力で支援するけどさ」
すっかりやる気になった表情のレイネスタは、俺の確認に応えるよう、力強く頷く。
まあ、本人がやる気なら、それもいいだろう。
この件をきっかけに、自分に自信を取り戻せるといいな。
「それじゃ、準備に取り掛かるとしようか。期間は1ヶ月と少し。新年の出し物として相応しいものにしないとな」
「アタシ、すぐに設計にかかるよ。必要な素材とか道具とか、構想が纏まったら知らせるから」
相当にモチベーションが高いようで、レイネスタは話が纏まったと見るや、すぐに執務室を出て行った。
恐らく、鍛冶場の方に行ったのだろう。
やる気があるのなら、とりあえずは好きにさせておこう、と考えてから、俺は執務机で手紙を認める。
これからの予定が大幅に変更になるので、ラウンズのシャルたちに知らせておかないとな。
そんなワケで、レイネスタをお抱え鍛冶師にしたという報せと、そのまま王都で鍛冶コンテストの準備に取り掛かるので領地の方は一旦任せた、という報せを書き込んで、俺はシャル宛の手紙を使用人に渡して送っておくよう指示を出す。
あとは、鍛冶そのものの準備もいるかな。
今日はあり合わせの設備と道具で鍛冶をやってもらったが、多分サイズ感からして人間用だ。
ドワーフという事で体格が特殊なレイネスタ向けに、道具やら何やらを用意すべきだろう。
そう考え、ラウンズ行きの手紙を渡したのとは違う使用人を呼び出し、屋敷にブライアンさんを呼び出す手紙を渡しに行かせる。
「取り急ぎの手配がいるのは、こんなモンかね。あとは、レイネスタ次第か」
彼女がどういった作品を打ち、どういった素材や道具を欲するのかがまだ読めない。
シャルなら、こういった時でも何となく予測できたりするのだろうか?
…
……
………
「わざわざ呼び出すたぁ、いいご身分だな」
てっきり明日になるかな、なんて考えていたら、手紙を出して1時間もしないうちにブライアンさんが屋敷に来てくれたので、応接室で彼を出迎える。
俺と相対するなり、辛辣な言葉を浴びせてくるが、その顔はニヤけているので、恐らくは軽いじゃれ合いのようなものだろう。
「これでも伯爵様だ。黙って敬ってくれてもいいんだぞ?」
そんなじゃれ合いに付き合うように尊大な言葉をかけてみれば、ブライアンさんが大きく噴き出す。
ええ、わーってますよ。
子供が凄んだ所で似合わないのは。
「本当に似合わないな……ブフッ」
「いつまで笑ってるんだよ、全く」
噴き出したブライアンさんが落ち着くのを待っている間に、メイドから給仕があり、改めて俺たちはテーブルを挟んで向かい合う恰好を取る。
「さて、今日の用事は何だ? わざわざ屋敷に呼び出すって事は、それなりに急ぎなんだろ?」
さすが、長い付き合いだけあってこちらの意図がよくわかっているな、と感心しつつ、呼び出した目的を話す。
「ふーん、ドワーフの鍛冶師を迎え入れたから、その辺りの道具やらの相談に乗ってくれ、と」
「そういう事。同じ鍛冶師なら、勝手は何となくわかるだろ?」
餅は餅屋って言うしね。
そんなわけで、唯一の知り合い鍛冶師であるブライアンさんにご足労頂いたのだ。
「だったら、鍛冶コンテストでは敵同士だな。だがまあ、他ならぬお前さんの頼みだ。同じ鍛冶師のよしみで、舞台に立つための準備は教えてやる」
「助かる。ちなみに、本人もいた方が良ければ呼び出すけど、どうする?」
レイネスタを呼び出すかを確認してみれば、ブライアンさんは無言で横に首を振る。
であれば話した内容を俺が覚えておけばいいか。
「まずは手袋だな。鍛冶は高熱のものを扱うから必須だ。それと、特殊な薬品を使う場合もあるからそれ用と鍛冶用でそれぞれ欲しい。それと作業用の服は必要だな。ドワーフ族は身体も頑丈で熱にも強いが、さすがに薄着で作業ってわけにもいかん。あとは目を保護するものもいる。鍛冶で目をやるヤツは本当に多いからな」
なるほど、とブライアンさんの説明で必要な物を心のメモに残しておく。
鍛冶用と薬品用手袋は別々に必要で、あとはゴーグルと作業着だな。
やはり本職だけあって、この辺りの回答に淀みが無い。
「鍛冶道具については、本人が使いにくくしてないなら人間用の物でも大丈夫だと思うが、完璧な状態を目指すなら身体に合ったものは準備はすべきだな」
「他に必要な物や注意はあるか?」
「いや、基本的な所はこれで全部だ。あとは本人と話し合って上手い事やってくれ」
「忙しいのに来てもらって悪いな。助かったよ」
「なに、お前さんは超お得意様だからな。これくらいはサービスの範疇ってこった」
必要な話は終わったと判断したのか、それじゃ、俺も鍛冶コンテストがあるからまたな、とブライアンさんは屋敷を後にした。
そっか。
ブライアンさんもライバルになるんだな。
コンテストは貴族家お抱え鍛冶師以外にも、個人での参加もできる。
彼の場合はきっと個人参加だろうけど、レイネスタはリベルヤ家のお抱えとしての参加だ。
恐らく、コンテスト当日は職人がわざわざ人前に出る事は無いだろうけど、念のために見た目もちゃんとしておくべきかもな。
目論見通りに優勝ともなれば、表彰式なんかには出ないといけないだろうし。
とりあえず、明日はレイネスタを連れて色々な物を揃えにいく必要があるな、と脳内で予定を組み上げながら、俺は鍛冶コンテストの申し込み書類作成に勤しむのだった。




