懺悔文 …
砂嵐のような木屑や埃が、風圧と共にリビングを駆け抜けた…
羽波行者は腰を落とし膝を立て風圧に耐え …多田氏は素早く壁に寄り、木屑や埃の直撃を避けていた…
軈て、駆け抜けた風は鎮まった…
羽波行者は、ゆっくりと立ち上がると…
「鴉…何をしている… 主を裏切る気か? 」
「……… カァ…」
鴉は、しょんぼり俯いた…
「さぁ、来るのだ… 鴉よ… 」
羽波行者は左手をスッと肩まで上げ、鴉が留まり易いよう、軽く腕を曲げた…
鴉の目から… 赤い涙が零れた…
俺ハ… 何ノ為ニ創リ出サレタ…?
主ノ命令デ、多田一族ノ偵察ニ出掛ケタ時ノ事ダッタガァー…
羽休ニ留マッタ木ノ先ニ見エタ、赤イ屋根ノ家 …
家ノ中デ、オカメインコガ
「可愛イ、可愛イ」
… 人間ニ頭ヲ撫デラレテイタ…
オカメノクセニ …
俺ハ胸がムカムカシテ…
脅シテヤロウト、赤イ屋根ノ家ノ窓辺ニ近ヅイタ …
窓ニ横向キデ、俺ノ顔ヲ、ベタ~ット付ケテ…
グガァ~ガァーッ!
怒リヲ込メテ鳴イタラ、オカメヲ撫デテイタ女ハ…
「キャーッ!鴉っ!」後退ッタ…
オカメノ奴ハ…
クスット笑イヤガッタ…
汚イ鴉 …
アッチヘ行ケ、同ジ鳥ダナンテ…
恥ズカシイ …
グガァー!オカメダ!
頬ニ紅ツケタ、オカメインコニダ!
俺ダッテ…
頭ノ一ツモ撫デラレタカ ッタサ …
玉五郎… バロン … サイナラ…
玉五郎とバロンはスッと手を伸ばし…
鴉の頭を撫でた …
「行ク事ナイニャ… クロウ… オ前ノ心ノ声ハ聞コエタニャン… 俺達ハ知ッテイル…大昔、人間達ノ欲ガ今ヨリモット少ナカッタ 頃、人間達ニモ俺達ノ声ガ聞コエテイタ事ヲ… アノ主ニハ、1000年経ッタッテ、クロウノ心ノ声ハ聞コエリャシネェンダ… アンナ奴ノ所ニ戻ル事ハニャイッ!鉄治ナラ… 絶対、家ニ置イテクレル! ダカラ、行カナクテイイッ!」
玉五郎は一歩前へ進み、胸を張り羽波行者を睨みつけた。
「ハァーハッハ!これは驚きましたね…猫の説教ですか… 解っていないようですね、 遣い魔は主には逆らえないのですよ…何故なら、その存在そのものを消せる力を持 っているからです…身代と言われる物です…鴉、消えたいのですか… ? 私は心優しい主です、決めなさい鴉…私の腕に留まるか… それとも消えるのか… あぁ、もう一つ… 身代を消された遣い魔がどうなるのかを伝えなくては… 遣い魔としての姿、主との記憶、全てを無くし怨霊と化し、唯ひたすら人間を祟り無限の時を途方うのですよ… 解りますか?其こそ地獄です … ハァ ーハッハ!鴉というのはとても賢い生き物なのですよ、御先祖様は貴方を選んだのですよ、貴方のその賢さを…さぁ、どうします 、鴉 …」
羽波行者はニヤッと薄ら笑った…
「此ノ場ニ及ンデ、御先祖様トハ笑止千万 !オ主ガ勘吉デアロウ… 行ケッ!」
多田氏は炎の犬をけしかけた。
ガルルッウォンッウォンッ!
炎の犬は高く跳上がり、羽波行者の顔面に飛び掛かった…
「鴉… 鴉、助けて下さい… うわぁ~私の顔が~此の犬の目を…鴉―!」
鴉の躰がビクッと動く
「主 …」
鴉はファサッファサッと翼を扇いだ…
「クロウ!」
「ワンッワンワンッ!」
鴉の躰は宙に浮き、赤い涙を流しながら
無理ダ…
逆ラエナイ …
今度コソ… 本当ニ …
サイナラ…玉五郎 …
サイナラ… バロン…
俺ノ… 友達 …
「 グガァーガァーッ!」
鴉は天井まで上がると素早く急降下し炎の犬の目を狙い嘴を突き刺した…
「グガァーーッ!」
ギュウウッ !
嫌な音だった …
バンッ…
羽波行者は顔面に噛みつく炎の犬を、壁に投げつけた …
羽波行者の左半顔の皮が1枚捲れ、人体模型のように生々しい肉が見えていたが …
血は1滴も流れてはいなかった
羽波行者は左手で鴉の首を掴み…
首を掴まれた鴉は苦しそうに…
躰をピクッピクッと動かした …
「戻りましたね 鴉 … 遅いですよ…」
ゴッ…ギッ…
「… グッ…… カ ……」
「クロウー!」
「ワンッワンッワンワンッ!」
玉五郎とバロンが叫ぶが…
鴉からの声は無く…鴉の躰に力もなく…
ぶら~りと羽波行者の手の中で揺れた…
羽波行者は鴉の首をへし折り…
薄ら笑いながら、鴉の頭を口に運んだ…
ガリッボリッ… ゴリゴリッ…
ゴリッ…ゴリッ… ボリッ…
骨を咬み砕く嫌な音を鳴らしながら…
… 羽波行者は … 鴉を喰った …
「クッ…クロウッ… コッ… コノ…野郎…テッ…テメェ…許セネェ…シ ィヤァァーッ!」
玉五郎は両前足から、鋭い爪をビュンッと飛び出させ羽波行者に飛び掛かった…
「… 僕ダッテ行クッ!ウワァンッ!」
バロンも羽波行者に突進する…
泣いている …
玉…五郎… が泣いている …
俺、起きなきゃな …
鉄治の心に玉五郎の悲しみが…
その心の痛みが伝わる…
「おっ…俺は…寝てる場合じゃねぇんだー! 」
鉄治はガバッっと起き上がると
「原始の力だ―うぉぉーっ!」
羽波行者に猛突進した…
多田氏は左手を高く上げ空中に円を描いた
ボォォーッ ゴォォーッ!
炎の犬がリビングの四隅を廻る、四面の壁から炎が上がり…
リビング中が炎に包まれた …
「コレデ… 逃ゲ場ハ無イ … 勘吉…死ネ…死ネバイイノダ… ぐはっ… 」
多田氏は血を吐き出し、ガクンッと膝を折りその場に踞る …
人ノ身ト心トハ…脆イモノヨ…
五ツノ命ヨ…我、子孫達ヨ…
我、怒リ… 我、憎シミ…我、呪イ …赦セ…
最後ニ美シイ者達ヲ見タ …
心ニ熱ヲ持チ…
ソノ熱ヲ放ツ者達ヲ …
愛トイウ熱ダ …
我ハ…
アノ若者ガ云ウ通リ…
激シイ怒リト哀シミノ渦ニ巻カレ…
愛ヲ忘レテシマッタ …
愛アッテコソノ人ダトイウ事ヲ
我ハ悪行ノ限リヲ尽クシタ …
ダカ… 五ツノ命ハ、子孫達ハ…違ウ…
我ガ渦ノ中ニ引キ摺リ込ンダノダ…
間ニ合ウダロウカ…
否、其デモ…
最後ハ我モ、人トシテノ死ヲ望ム …
「我―苦―所―造―諸―悪―行」
多田氏は踞りながらも顔を上げた…
口元から血をダラダラと吐き出しながも…
目を確りと見開き羽波行者を見据え、懺悔の経を唱え始めた …
多田氏、否、多行者は心から深く深く懺悔し5つの命と子孫達に詫びていた…
同時に、羽波行者に向かう者達の身を案じていた …
見開くその眼からは、滝のように泪が溢れ流れ落ちていた …
… … … 懺 悔 文 … … …
始マリ無キ古ヨリ…
我、身 ・ 我、気 ・ 我、 意 …
我、全テニ …
貧欲・怒・愚・諸々ノ悪業ヲ重ネ…
我ノ負イシ、全テノ罪・咎,
皆 尽ク …
深ク深ク懺悔シ奉ル …
… … … 多 拍道 … … …
炎の犬は…
トボトボと多田氏の元へと戻り…
炎が多田氏の躰に触れる手前で身を伏せた
クゥ―ン… クゥン…
鼻先を突き出し,多田氏を恋うように鳴いた
「済マヌナ… オ前達ノ母ニ…何ト詫ビレバ良イモノカ… 」
多田氏はスーッと手を伸ばし…
「陽・月・雲 ・空 ・地 … 我、愛シキモノ達ヨ… 穢レ無キ魂ニ…戻レ … 我、愛シノ命達ヨ…」
五匹の犬達につけた名を呼び …
ギュウッと炎の犬を抱きしめた…
炎の犬は離れようとしたが…
拍道は泪を流し微笑み…
炎の犬を力強く抱きしめた …
ワァォ~ンッ… ワァォ~ン…
炎の犬は哀しそうに鳴いた …
犬の炎が…
多田氏の躰を包み込み …
炎の中で多田氏は微笑みを浮かべ…
そして静かに… 瞼を閉じた …




