笑って死のうや … 角田 鉄治 …
いい笑顔だ… 玉五郎 …
そうさ、そうやって、友達や仲間ってのが増えて行くのさ …
笑顔ってのは鍵だよな …
途切れ途切れの鎖の先には、片方に小っち ぇ鍵、もう片方は鍵穴がついててよ、そいつをガチャッと外すのさ 、誰でも持ってる笑顔っつー鍵を使ってよ 、そうやって輪が繋がって行くのさ…
何かいい気分だな …
昔の話しでもしたい気分だな…
俺の育った町は …
ただっ広い大地の平原みたいな田舎でな、空っ風がビュービュー吹いて…
薄ら寒い町だった …
俺は… 本当の親父ってのの顔を知らねぇんだ…
お袋の話しじゃ、俺が生まれて直ぐに消えちまったらしい… 話したくないだけなのかも知れねぇけどな …
俺が2才の時、お袋が再婚したんだ…
だから、角田って名字は義理の親父の姓なんだ、まぁよ、よくある話しだよな …女が子供抱えて1人で生きてくには、塩っ辛い世の中だしよ …
俺が5つの時、妹が産まれた …
小っちゃくて、ぷにぷにしてて、餅みてぇで可愛くてな …
妹は可愛いんだけど … 何だかな…
家ん中の雰囲気が変わったんだよな …
何か… 俺は、蚊帳の外… みてぇな …
何がどうてんじゃねぇんだが…
上手く言えねぇな …
俺が、そう感じちまったんだな…
家ん中じゃ、あんまり喋んなくなって…
笑わなくなっていた…
小学上がって、友達っての作るだろう?けど 、笑わねぇからよ、からかわれんだ…
でな、出来た友達ってのが悪さの好きな篠田って奴でな、篠田ん家は… まぁ今で言う完全なるネグレストだな …
男兄弟3人なんだ、篠田は真ん中、カップメン1個を争って壮絶なバトルだぜ、兄弟3人で、伸びる迄殴り合うんだ…それ見て篠田ん家のお袋さんはゲラゲラ笑ってんだ …
篠田の話じゃ、親父さんは最初から居なくて、兄弟皆、父親が違うらしい… お袋さんは週に1回か2回帰って来て、菓子だのカップ麺だの置いてくだけだったらしい… あんま話したがらないから詳しくは聞けなかったけどな…
だから、篠田と遊ぶ時は万引きしてた…
篠田、何時も腹空かしてたからな …
最初はな悪い事だよなって思ってたんだけどな、麻痺してくんだ、その内にスリルに変わってな …
中学上がって、篠田とはクラスが別になったんだけどな…
青春の息吹きって奴だな…
悪 = 格好いい、みたいな感じになっちまってな… それによ、異性つーの意識する年頃だしよ …
尾崎の世界で、バイク盗んだら捕まってな(笑)
歌ってぇのの危うさを知った…
13の夏だったな …
こりゃぁ痛かったぜ…
それから思考が少し変わってな…
力 = 強さってなっちまって…
明け暮れたな、喧嘩って聞いたら飛んで行 ったぜ、そんなこんなで、過ごしてたな…
俺が小学5年の頃からだったな…
いいなって思う女の子がいてな、名前は翔子… サラサラして肩より少し長い髪で 、人形みたいに目のパッチリした可愛い顔してて、真面目でな…
けど、そう思うのは俺だけじゃ無くて…
まぁ、憧れみたいな甘くて酸っぱいみたいな、そんな感じだ …
告白なんて野暮なこたぁしなかった…
中学2年の秋頃になると、中学出てからの進路をどうする?って話しになるだろ、俺には 、学って事の意味が今いち解らなくてな … 家出て勝手に生きてくからって言ったんだけどな、お袋に泣かれて …
何か悪いなって思ってよ、工業高校行ったんだ、まぁまぁ見渡す限り野郎ばっかり…数少ない女なんて3~5人男がいたんじゃね ぇかな… 俺、そう言う女嫌いでよ …
バイトもしてたんだ、学校終わってからコンビニバイト、ある夜、バイト10時迄なのに交代の奴が来なくて、「何とか12時まで頼むよ…」店長にすがられて、12時でバイト終わって、チ ャリで家に向かってたら、翔子がボーっとして歩いてたんだ …
「おぉ、暫くだな、元気?」
声掛けたら、涙ボロボロ流して泣き出して … 服に土かなんか付いてるし、足とか手も擦り傷、切り傷だらけでよ …
「どうしたんだ?」
聞いても泣くだけで …
「私、死にたいっ!もう嫌だ…」
そう言って座り込んじまって …
近くに公園があるから、其処へ連れて行ってベンチに座って、何も言わないから…
俺も何も言わないでいたら…
翔子が…
「犯…さ…れた… の …」
下向いて、公園のサラサラした土の上に涙落としたんだ …
「誰に…」
俺は翔子に聞いた …
「解らない …」
翔子、全然、顔上げないんだ、ずっと下ば っかり見てよ…慰めの言葉なんて出て来ね ぇって…
暫く2人して沈黙してたんだけど…
俺が翔子誘って無理矢理ブランコ乗せたんだ…
「馬鹿なんじゃない…」
結構、ハッキリ言われたんだけど…
それでも、無理矢理乗せて背中を押した…
ブランコが揺れて …
俺、力一杯、翔子の背中を押して…
「負けんな … 」
それしか出て来なくてよ …
何とか微笑む程になれた翔子を、自転車の後ろに乗せて家の前迄送って行って…
俺は鬼の形相で家に帰って、高校で仲のいい、ちょっぴり目立ってヤンチャな嶋田ってのに電話をして、探してくれ!って頼んだんだ …
嶋田ってのは、地元じゃ一目置かれるような奴なんだけど、俺とは気が合ったんだ
「鉄治、30分待ってな、必ず見つける…」
まぁ、嶋田は、多方向に知り合いもいる奴だから、探せちゃった訳だ…
25分後、嶋田から電話が来て…
「あっ、鉄治? 見つけて、今、店に連れて来たから迎え行かせたから、家の前に出てて …」
俺が家の前に出てたら、バイクが近づいて来て、メット渡されたから後ろに乗って嶋田の店へ行った…
嶋田、高校生なんだけど…
大人びてたから…
6才上の兄貴の名義にして、夜、店やってたんだ、その辺の悪が集まってるような店…
そんで俺が店に着いたら…
店の奥に隠し部屋あんだけど…
猿轡されて、両手と両足を縄で巻かれた20代くらいの男が3人…
既に顔がボコボコ… 岩みたいに腫れて監禁されてた …
「鉄治、悪いな… 俺、こう言う奴らダメなんだ、ヤりそうになったけど待ってた … どうする?お前ヤる?」
嶋田はナイフを俺の前に差し出した
「ナイフはしまえよ、何でボコッちゃった訳? 俺、出番ないだろ?」
嶋田はニコニコしながら…
「そいつらヤッさんだぜ、お前は不味いだろ?これっ、其処の闇金で借りさせた… これで、その子に花でも買ってやれ…」
嶋田は俺に現金100万円を渡した…
「俺の一つ下の妹ね、中学の時… こう言う奴らに殺されたんだ… 回されて… 鉄治の知り合いと同じ塾の帰りに… 俺、それからダメなんだ、こう言う奴らっ… 」
ブスッ…
「フグゥ~!」
嶋田は、一番手間に座らせていた男の肩にナイフをぶっつり差した…
玩具の黒ひげ迄は行かないけど、その男、尻浮かせてたな… ピョンッて跳ねた…
「適当に解放しとく …」
嶋田がそう言ったから …
「ヤるなよ … 」
そう言って店を出た、帰りに通り掛かりのコンビニで茶封筒を買って、嶋田が渡してくれた100万円を入れて、封筒の上に成敗したぜ…って書いて、翔子ん家のポストの中に突っ込んだ …
1週間程経って…
授業が終わる頃、進学校に通う翔子が、俺の通う野郎ばかりの工業高校の門の前で、オドオドしながら誰かを待っていた …
嶋田が俺に
「あ、あの子、めっさ可愛いい… 清白学園の翔子ちゃん…」
「えっ!何で知ってんのっ?」
俺が嶋田に聞くと…
「俺の情報網に入らない情報は無い… 鉄治 、いいなぁ …」
俺は嶋田に
「嶋田… 悪いけど… あの子、送ってやってくんね … 」
どんな顔して翔子に会えばいいか解らなくて…
「俺が何かするかもな …」
嶋田はそう言った…
「お前は絶対出来ねぇ…」
俺はそう言って、翔子に会わないように裏門から帰った。
翌日は日曜で、バイトも休みだった俺は、部屋でゴロゴロと寝ていた…
「鉄治、電話!女の子から、急用だって 」
お袋の声で起きて電話を受けると…
「角田君… 来生です、来生翔子です、ニュ ース見た?」
翔子が電話を掛けて来て、俺にそう聞いた
「あ、いや、今、起きた… 何で?」
「昨日、角田君の使いですって、嶋田さんが …私、校門の前で待っていたんだけど…角田君に会えなくて、それで、嶋田さんが送ってくれたのバス停迄… 本当は家迄送りたいけど…つけられているみたいだから…あんたに何かあったら鉄治に間違いなく抹殺されるんで… そう言って… そしたら、今 、ニュースで死体が発見されたって … 角田君?聞いてる角田君? 」
俺はTVのリモコンのボタンを押した…
翔子の言う通り …
嶋田が20数ヵ所刃物でメッタ刺しにされ、死体が発見されたと報道されていた…
「ごめん… 今、解った… 知らせてくれて、 ありがとな…」
俺は電話を切った …
翔子からの電話を切った後、同じ高校の奴らからひっきりなしに電話が鳴った…
嶋田は、慕われていた …
難しいとこだが…
曲がった事は嫌いだった、金は好きだったけど… 見掛けはギャングみたいだったけど …卑怯じゃねぇし、白黒つけるタイプだって言えばいいかな …
誰が嶋田やったのか調べようぜ…
誰からじゃ無く、そう言う話しになったんだ 。
俺は家を出た …
警察官じゃねぇけど、聴き込みしようと思 ってな …
家を出て直ぐ、不審な黒いワンボックスカ ーにつけられている事に気づいた …
俺の横でビタッと車が止まり、ドアが開いて中から男が二人降りて、俺を車に押し込めようとしたから、俺も暴れる…
もみ合っているうちに、2人に見覚えがある事に気づいた …
嶋田の店で見た奴等さ…
「お前等か嶋田殺したのか!」
ボガスカ殴りながら言ったら…
「てめぇも死ねや!」
俺は頭が沸いて …弾みだったんだ…
1人の奴、打ち所が悪くて…
まぁ、そう言う事になっちまった …
奴らの職業っつーか何だ?勤務先がそうだ ったし…言わなきゃいいのに翔子が、全部警察に話しちまって… 俺は情状酌量みたいになったけどな
その後 …
義理の親父を中心に、家族はハッキリと変わった …
鑑別帰りの…はみ出し者 …
俺は高校も、勿論、退学…
家も故郷も捨てて…
彼方ふらふら~ 此方ふらふら~
風の吹くまま…気の向くまま…
気がつきゃ周りに誰もいねぇし…
誰も信用出来なくなっちまってた …
そして、辿り着いたドヤ街に住み着いて、3ヶ月が過ぎた頃…
鉄虎社長に声掛けられた…
「兄ちゃん、何時からドヤに住みだ ? 」
最初、ヤーさんかと思ってよ、臓器でも取られんのかと思ったけどよ …
しつこく言うんだ …
「兄ちゃん、俺の知り合いによく似てんだ 、そいつ腕のいい解体工でよ、まぁ聞けって兄ちゃん!」
歩き出そうとしてんのに、前に回り込むんだ…
「煩ぇ、話し描けんな!若い奴なら他にいんだろ!」
怒鳴りつけてもよ …
「ガハハッ!まぁ、そう言うなよ、兄ちゃん、短期は損気だぜ、ガハハッ!」
何だ?このオヤジ…
そう思ってよ、押し退けて行こうとしたら
「おぃ、兄ちゃん、逃げんなよ…」
貫禄ある声でそう言われてな …
「今が嫌なら、1年後でも何年後でもいいからよ、本気になったら電話くれや …」
ニッコリ、笑ったんだ …
飢えてたんだよな …
愛情とか優しさってやつに …
そして、もう1回 …
信じてみたくなったのさ …
人間て奴と… 自分をな …
社長が鍵を挿してくれたから…
俺も少しだけ微笑んで …
挿さった鍵ガチャ ッて回したんだ…
そしたら上手く繋がって…
今じゃ、鉄虎で働く仲間達とも繋がった …
笑顔っつー鍵を使ってな…
今は俺、幸せなんだぜ …
社長が教えてくれて、本を読む楽しさってのも知ったんだ …
読んだ本の中に、忘れられない言葉ってのもあって… インディアンの本なんだけどよ
貴方が産まれた時 …
貴方は泣いて、周りの人達は笑った…
貴方が死ぬ時は …
貴方は笑って、周りの人達が泣くのです
俺、鉄虎社長と出逢えて …
こう言うふうに死ねるって…
心からそう想えているんだ…
笑顔の鍵使って…
笑って死ねるってな …




