匂い…
ガルル~… ウォンッ…
3匹の犬が、俺に跳び掛かって来たんだ
俺は犬達を力一杯ぶん殴った…
「おらぁ邪魔だー!」
シュンッ…
奴らパンチを受ける前に …
消えちまうんだ …
俺は1人でシャドーボクシング気分さ …
躰動かしたらな、肺活量が上がって、頭の痛みが治まってきたんだ …
俺等の仕事はよ、現場入って朝の打ち合わせや連絡事項伝えたら、はい、仕事って躰を動かすだろ、そうじゃ無かったから…
調子狂ったんだろうな、きっと
痛みが静まったらこっちのもんよ、俺は羽波行者を助けようと、飛ばされる覚悟で多田氏に飛びついた…
「でやぁーっ!」
ゴリッ…
えっ?
ビキビキッ…ピキッ…
これ… 何の音だ… ?
「グゥワァッ-ッ!」
えっ? 俺じゃねぇよ … なぁ ?
ボキッ、ボキボキッ …
俺は… 目を疑った …
今 、炎の中に放り込まれそうになっていた筈の羽波行者が …
「フッ…」
鼻で笑って …
「グガァカガァ-ッ!」
多田氏の腕と指をへし折り…
今 …
俺の目の前で …
多田氏の首に噛みついている …
え-っ!冴木さんじゃねぇが…
「いったい…何がどうなってんだ…」
多田氏は血が滴る首を左手で抑え…
バッと羽波行者から離れた …
「クックックッ… ハァ-ハッハッ!」
羽波行者は笑っていた …
シュンッシュンッシュンッ…
俺に牙を剥いていた…
犬達が護摩壇の炎の中に消えた
「オ主 … 人間カ …」
多田氏? 多分、多行者は羽波行者に聞いた
「他に何に見えますか…」
羽波行者は心の底を覗き込むように、じぃ っと多田氏を見つめ薄ら笑いを浮かべた…
「オ主… モシヤ …」
ニタレ顔をしていた多田氏の目は剣を出し ギラギラと鈍く光った …
「ソウカ… 読メタ… 熟、抜カリナク小賢シイ男ダナ… オ主ハ… 」
多田氏はぷらぷらした手首と指を無理に合わせ、胸の前でなんとなく印を結び
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」
九字護身法を結んだ …
多田氏に対し、羽波行者は右手の人差し指と中指を立て剣に見立て縦に4回、横に5回、指を動かし空を切る早九字護身法で応じた…
俺はその場から逃げようと思えば、逃げられたのかも知れない…でも何て言うか …
立ったまま金縛り?みたいな感じて…
微妙に動けなかったんだ …
だから…
呆然と二人を見ていた …
ブゥォ-ン … ボォ-ボォ-
護摩壇の炎の中に消えた犬達が…
ガルルルッガルルルッ…
ウォッンウォッンウォッン…
激しく唸りながら吠え続け …
炎が高く捩れながら燃え上がり…
炎を纏った…
大型犬程の大きさの犬の姿に変わり …
多田氏の横に降りた…
「今度ハオ主ノ番ダ… 何ヲ呼ブ…」
羽波行者は目を見開き
「私には偵察と少々の悪戯をする以外の遣い魔は必要ないのですよ…貴方のように臆病ではありませんから… 」
ニヤッと薄気味悪く口元を緩ませた
「オ主自身ガ遣イ魔デアルカラカ … 」
多田氏は左手をスッと上げ、羽波行者を指差し
「噛ミ殺セ… 骨一本遺スデナイ…」
炎の犬は羽波行者に跳び掛かった
ガルルルッガルルルッ…ウォッンッ…
俺は唯の傍観者だった …
壁か空気か?ってくらい…
背景に馴染んでいた…
炎の犬は羽波行者に覆い被さり…
羽波行者は素手で炎の犬の首を掴み…
投げ飛ばした…
羽波行者の手はジュウジュウと音を立て…
肉の焼け焦げる匂いが漂う…
「臭っ、ぐぇ-っ」
今度は吐き気だ … 何故…?
俺は背景と化しながらも、おかしな事に気がついた …
羽波行者…
炎の犬に跳びつかれても、腕噛まれても…
多田氏みたいに血が出ないんだ…
血が流れないんだ …
衣にも何処にも滲んでいない …
この人いったい …
段々、そう思って来てたんだ …
羽波行者が、炎の犬に襲われる度に漂う…
焼ける匂いは俺の吐き気を誘った …
さっき多田氏が言ってた…
オ主人間カ…って言葉がずっと引っ掛かってたんだ …
狗恋山で羽波行者に、俺、そう感じていたからかも知れないけど …
その内に頭がぼーっとして …
俺は頭がぐらぐらして、立っていられなくなっちまって…座り込んで… 意識を失った…
意識失って、普通…
真っ暗になっちまうと思うけど…
この時、違って …
頭ん中がフラッシュバックしていた …
狗恋山の滝の前 …
羽波行者の眼 …
帰りのパーキングでの出来事 …
あの時のイライラ …
オ主、人間カ …
オ主、自身ガ遣イ魔…
多田氏の言葉 …
あの吐き気のする匂い …
そう匂い、それと何かもう1つあった…
聞いた事のある言葉だった …
えぇっと … タンッ…否…タンタカタンッ!違うな…
丹… 砂… そうだ、丹砂だっ!
昔、羽波行者の先祖が探していたって、多田氏が言ってた …
随分前になるが本で調べた事がある…
きっかけが何だったかは、忘れちまったけれど…
内容はこうだった…
日本でも古代から丹生と言うのは丹を産する場所を示し、丹と言う文字は朱色の鉱物(Hgs)を含む鉱物・泥・砂を示した。
これが、何に使われたのかと言うと…
染料・不老不死薬とも伝えられていたんだ
別名、賢者の石とも言われていた。
日本では、奈良の大仏の金メッキ に使われ 、水銀とアマルガム合金を添付した後、加熱し水銀を蒸発させる工法が施され、蒸発した水銀を吸引することにより起こる水銀中毒で大勢の死亡者が出たそうだ…
大仏作った犧か?怖っ!
中国では、不老不死の薬であると伝えられていて、秦の始皇帝や多数の権力者が水銀中毒で命を落としたらしくて、それが日本に伝わった…
食ったり、飲んだりしたらしいぜ …
水銀中毒による症状ってのは …
吸入摂取、摂食等でなっちまうらしいんだがな …
脳・肝臓・中枢神経に影響を及ぼす…と書いてあったな…
何で調べたんだったかな…
そうだそうだ、あの三角の笊被って デンデン太鼓みたいな、鈴みたいの持って 、日本全国巡礼して廻っていた、四国に結界張った、そうだ、あの坊さんの事調べてたんだ…
凄い人だけど、水銀中毒だったよな?
あれっ? 違った?即身成仏しちゃった人…
あれっ?不味いこれ? へへっ
俺、今 、意識失っているっつー事で…
まさか… この現代に… ?
無いだろう…
俺は、気を失いながらも…
底知れぬ不安に襲われていた…
その頃、玉五郎達は…
「ヨシ…用意ハ出来タニャン…」
屋根の上に上った玉五郎、鴉、バロンは
屋根の中央に鴉が、何年も掛けて予め入れておいた切れ目に、1羽と2匹が横並びに立つと…
「行くニャン、セーノッ!」
「グカァ-ゴッ!」
「ワンッ!ワンッ!」
気合いを入れて …
屋根の上をドガドガと踏み始めた…
ドンッドカッ、ドンッドカッ…
凄まじい勢いで屋根を踏む…
メリッ … メリッ…
ズゴゴゴゴッゴーッ…
屋根は切れ目を入れた中央付近から、窪むように崩れ落ちた …
逸れでも更に、玉五郎、鴉、バロンは我が儘な駄々っ子のように…
ドガッドガッドガッドガッ…
屋根を力強く踏みつける…
バキッ… バキッバキメリッバキバキバキ
ズゴゴゴゴゴーッ…
天井裏に入れた切れ目はメリメリと崩れ
玉五郎と鴉とバロンは…
「天井裏カラ、コンニチハ~ッ」
護摩壇を覆うようにリビングへと落ちた…
「作戦成功ニャン♪」
玉五郎と鴉とバロンは互いに微笑み、ハイタッチを決めた…
バッ-フッーンッ…
リビングに崩れ落ちた屋根と、1階の天井が起こした風圧で、気を失っていた鉄治の躰は、風に舞う木葉のように流され…
ドンッ…
壁に躰が強く打ち付けられたのだが …
お陰で鉄治の意識が戻り…
鉄治は瞼を開けた…
「あ… れ… 」
鉄治の眼の中に…
玉五郎と鴉と半透明な犬が、嬉しそうにハイタッチを決めている姿が映った…
「… いいなぁ… 玉五郎… 良かったな…友達出来たんだな… 笑ってら …」
鉄治はフッと微笑むと…
全身の力が抜けてしまったかのように…
再び瞼を閉じた…




