若さって…いいなぁ…
「えっ?あっ、はい、解りました 」
熊八は携帯電話を切ると
「あのな、今日は昼で終わってくれって、元請けから電話あったから、皆、もう昼だから片付けて帰ろうな…」
「あの… 熊谷さん、俺達、人が足りないからと社長に言われて来たんですけど … 」
天野が申し訳なさそうに聴くと
「実際はそうなんだ… でもなぁ~大人の事情なんだ… 」
熊八はニコッと笑った。
「はい… 解りました…」
天野は頷き返事をすると
「政、清 、後片付けだ」
政と清は腑に落ちない顔をし、渋々、片付け始めた。
「天野、悪いが… 後で二人に教えてやってくれな…」
熊八は天野に気を遣いながら、そう言った
天野は微笑み
「大丈夫です、すみません…」
「置き場に戻して来る…」
熊八は重機に乗り走って行った。
3人はその間に、作業現場の後片付けを終らせる。
天野は片付けをしながら…
「政、清 、 今日、鉄さん家行くだろ?早く終わって良かったよな?」
政は仏頂面で …
「何か俺… 面白くないっす… 人足りないつ ぅーから来たのに…」
天野は苦笑いをしながら…
「あのね、政、こう言う事もあるんだ…うちの会社の人間だけで仕事をしているなら 、無いだろうけれど、今回は下請けで入っているだろ?元請けの指示で動かなくちゃならないんだ … 工事が予定より早く終わり過ぎると入って来る金額が違ってくる… 見積りと合わせなくちゃってね、時にはその差額が、数百万、仕事によっては数千万になる事もあるんだ … それで会社が潰れる事だってある、だから、こんな時は、今日これ以上仕事していたら怪我していたかも… 良かった怪我しないで… 俺はそう思う事にしているんだ… 解って貰えたかな?」
政も清も、仕方のない大人の事情を噛み締め頷いた。
それから、重機を置いて来た熊八と一緒に 、現場に来る時に乗って来た鉄虎の車で、会社へ戻った…
「お疲れさまで~す」
4人が事務所に入ると、事務の真奈美が浮かない顔をして溜め息をついていた…
「あっ、お疲れ様です…」
熊八は心配になり…
「真奈みん、どうした? 元気ないね?」
「えぇ、それが社長に何回電話を掛けても繋がらなくて… 繋がってもノイズ凄くて…直ぐ切れちゃうんです … 」
熊八は、自分の携帯を作業着の胸ポケットから取り出し、社長の携帯に電話を掛けた
ガッ-ピーピー!プッ…
「あれ、本当だ …」
天野も政も続いて清も自分の携帯から掛けてみたが… 電話は繋がらない …
「社長の今日の現場… 樹海だった?」
「樹海って…」
政は震えた …
「樹海に現場あるんですか?」
清は質問し…
「無い無い、熊谷さんの冗談だよ、ハハハ ッ!」
天野は大人の対応をし…
「3人面白いねぇ~」
熊八はTV番組プロデューサーのように、笑いながら指パッチンを決めた …
「今日は、麻野の多田さん宅の御浄めに行 っている筈なんです、もう戻って来てもいい時間なんですけど …」
真奈美は冷静に社長の居場所を告げた…
天野と政と清は顔を見合せ互いに頷き
「俺達、麻野迄行って来ますよ、家の場所を知ってますから」
ニコニコしながら天野が言うと、政と清はサッサと先に車に乗り込んでいた…
「天野さん、いいんですか? そんな… 皆さん 疲れているのに …」
真奈美は申し訳なさそうに言った …
「何でも無いですよ、俺達も鉄さんに用事があるので … それじゃ、車借ります!」
天野は真奈美と熊八に言うと、車の運転席に乗り走り去って行った …
熊八は、澄み渡る空を見上げて
「若さって … いいなぁ …」
ポツリと呟いた …
天野達を見送り…
熊八が自宅へ戻ろうと歩き出すと …
プップ~!
ジミーが運転席の窓を開け…
「熊ッチモ早上ガリ?俺ト矢野ッチモ…」
熊八は閃いた…
「矢野さん、俺達もたまには青春しませんか?」
熊八は後部座席に座る、矢野に声を掛けた
「青春~? それはワシに、リングに沈めて欲しいって懇願してるの~?ワシ、出来るかな~♪」
熊八は顔を引き吊らせ…
「違いますよ!」
斯々然々と事情を説明し天野達を追わないかと誘った。
「楽しそう~♪皆で行ってみよう~♪」
矢野は乗り気になり、真奈美に多田家の地図をコピーして貰うと、ジミーの運転で天野達を追った。