業火
「我苦所造諸悪業…」
羽波行者は読経を始めた…
15分程たった頃 …
カツカツカツッ… タッタッタ…
カツッカツッ … タタッ…
天井の上から、何かが歩いたり小走りする足音が聴こえてきた
まさか … バッ、バロン…
俺は天井裏が気になって仕方なかった…
その頃、天井裏では …
カツカツッ… … タタッ…ピタッ
カツカツカツッ… タタタッ… ピタッ…
「クガァー!何時迄ツケ廻ス気ダ … 猫神 … バレテルゾ…」
鴉は、玉五郎に背を向けたまま言った…
「オ前のヤッテル事ガ解ル迄ダニャ…ソウジャナキャ、コッチガヤラレルダロ?オ喋リクロウ…」
玉五郎はニヤッと笑った …
「グェ-カァッカッ!猫神… 良イ事教エテヤロウカ… 」
鴉はクルリンと振り返り…
「主ハナ… 此ノ家カラ誰モ還レナイト 言ッテイタゾ… 誰モ出レナイ…クケェ-! 」
玉五郎はお座りの姿勢で、右前足で首を掻いていた…
「聴イテンノカッ、猫神!グワァ-ァ!ナ ッ、何スル!離セッ! バカ犬!」
バサバサッ!バサッバサッ!
鴉は悶え羽を動かし暴れたが、確りと首の後ろをくわえられ身動きが取れなかった
「バロンッ、オ前ヤッパイイ奴ダナ…ソノ 、 クロウ… 咬ミ殺スナヨ… コッチダ、」
玉五郎は、バロンに鴉をくわえさせたまま 、鴉を縄でグルグル巻きにし梁に逆さに吊るした。
「先ズハ良シダニャン♪ バロン、オ前ヤルジャネェカ、シェパードノクセニ股ニ尾挟ンデ踞ッテタカラ、ダメ犬カト思ッタケドヨ 、遣イ魔仕留メラレル ペットナンテ 、ソウハイネェゼ… 天国ノ原ッパデ仲間ニ 自慢シテヤンナ、オ前ハ遣イ魔ジャネェカラ 、直グニ昇レルカラニャンッ… 」
玉五郎はバロンの頭を優しく撫でた …
「クゥェ-クックッ!猫神、随分優シイナ … オ前、ソイツガ羨マシインダロ?愛サレタママ死ネタペットッテヤツガ… 」
鴉は玉五郎を挑発した…
「アァ、クロウ… ソノ通リダ… オ前ハドウダ? オ前ダッテ同ジダロウガ、違ウカ?」
「ヴッ … 」
鴉は反論せず俯いた …
其から鴉は赤い目を瞑り …
「ナァ… 猫神 … オ前、何処カラ生マレタ? クガァー…」
玉五郎に聴いた …
「俺ハ…土ン中ニ埋メラレタ、デッカイ壺ノ中デ同ジクライノ年ノ猫ト殺シ合イヲシテ生マレタ… クロウ、オ前ハ?」
「クガァーッ、釜カラ生マレタ… 蓋ヲ閉メタ釜ノ中デ108羽グツグツ茹デラレタ中デ…生キ残ッタ …」
クゥーン… バロンは両前足で耳を塞ぎ伏せてしまった…
「ソウダナ… 俺達ミタイナ遣イ魔ッテノハ …ソウヤッテ 創ラレルカラニャン …」
鴉も玉五郎も悲しそうに俯いた
羽波行者以外は、天井裏の足音が気になって気になって仕方無かった、皆チラチラ天井の方を見ていたけど…
暫くすると音が止まった …
音が止まると、今度は …
躰がザワザワしちまって …
何かこう、風邪かな?ってのかな…
窓は開けてあるし室内の熱ったって知れてるのにな、産毛をサァーッと撫でられているように… 鳥肌が立つんだ …
ザワザワ、ザワザワ、してたんだ …
ワァォーーーーーーゥン …
犬の遠吠えが家の右端の方から聴こえた
ワァォーーーーーゥン …
今度は左端 …
ワァォーーーーゥン
それから羽波行者の前方…
ワァォーーーゥン
今度は頭の上…
犬の鳴き声は近付いて来る …
護摩壇から炎が吹き上がり、ブワッッと大きく膨らんだ …
「階由無始貧瞋痴…」
「羽波行者危ねぇ、火から離れた方が … 」
社長は羽波行者の肩を掴み声を掛けたが、言葉を止めた… 社長の顔から血の気が失せ腰が抜けたのか尻餅をつき、後退った…
「おいっ鉄虎どうしたっ!」
冴木さんが社長に声を掛け立ち上がると同時に、異様な獣臭さが漂いリビングを充たした …
社長は瞳孔を開いたまま固まっっている
獣臭ささで目までシバシバして
躰に気ダルさを感じた …
「火消すぞ、鉄治 動けるか?」
「はっはいっ」
「バケツに水持って来てくれ…」
「はいっ」
冴木さんに返事を返し、リビングを出て玄関へ続く廊下の右側にある、風呂場へ行こうと立ち上がった…
「くっ-痛ぅ-!」
こめかみ辺りに、ズキンッと釘でも突き刺したような痛みが走り、俺は頭を抑えた…
「鉄治大丈夫か!此処にいろ俺が行く … 」
「火を消す事は赦しません!」
羽波行者が叫ぶ …
羽波行者の声に社長はハッと我に返り
「救急車、救急車!」
携帯電話を胸のポケットから取り出し、ボタンを押した
「何で…携帯使えねぇんだ… 」
社長は呆然と携帯電話を見つめている
「おいっ鉄虎… 救急車何すんだ?」
社長は指先をプルプル振るわせ、羽波行者を指差した…
「ん?何だよ… 」
冴木さんは羽波行者の横に立った…
「あっ… あんた… 」
冴木さんは、自分の携帯をズボンのポケットから出してボタンを押したが…
社長と同じように携帯電話が繋がらない
「糞っ!」
「私の事でしたら… お気遣い無く… 其と…声を荒げてすみませんでした … 此の業火は… もう… 消せないのです… 」
羽波行者は穏やかにそう言った
俺のこめかみ辺りから始まった痛みは、頭の全体に拡がり…
「うぅっ…うっ…」
バタンッ …
俺は頭を抱えて倒れ込んだ …
「鉄治!」
社長と冴木さんが呼ぶ声は、聴こえているが、頭が割れそうで返事が出来ねぇ…
「何だってんだよ!どうなってんだ!」
冴木さんは獣のように雄叫びを上げた…




