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解体屋 鉄治  作者: MiYA
16/25

… 多田家へ …



プップ~プ~ッ!


多田家の前に車を止め待っていると、見覚えのある黒いセダンが、後ろからクラクシ ョンを鳴らした。



「社長、多田さんの車です …」



俺は、以前、1度見た事のある多田氏の車を覚えていたので社長に伝えた。



「よし、ご到着だな… いいか二人とも、食い物・飲み物・贈り物・注意だぞっ!」


社長は車のドアを開けた


「了解…」


「はいっ」


冴木さんと俺も社長に合わせ車を降りた。


多田氏は社長の車の後ろに車を停め、ドアを開け車を降りた。



「いゃ~どうも多田さん、ご足労頂いて申し訳ありません…」



社長は深々と多田氏に頭を下げた。冴木さんと俺も社長の後ろに立ち頭を下げた。



「いぇいぇ、此方こそ… 鉄虎さんに御迷惑 をお掛けしてしまいまして、本当に申し訳ありません…私が無知なばかりに…本当に申し訳ありません …」



多田氏は目にうっすらと泪を溜め、何度も頭を下げた。



「いぇ、いぇ、そんな … ガハハ!何か本当にもう~すみません、うちの若い奴ら、てんで根性無いもんですから、鼠が走ったって驚くんですよ、もう俺も情けなくて…」



社長は多田氏の哀しげな顔に耐え兼ね、場を取り繕った。



当たり前だが、俺達の仕事で鼠が走ったくらいで騒ぐような奴は、まずいない …

猫かっ?兎かっ?ってくらいデカイ鼠と屋根裏で遭遇しニヤッと微笑まれ、喰われる っ!と凍りついた記憶なら、俺の頭ん中の秘蔵ファイルに残っているが …



まぁ、その話しはいいか …



社長の和ませは成功し多田氏も微笑んでいた。



「では、此方へ … 」



多田氏は俺達を先導し、鍵穴に鍵を差し込み家のドアを開けた



えっ? 俺は違和感を感じた…


以前、会った時は家に近寄ろうともせず、車の中で話したし…怯えるような仕草さえ見せていたのに…



多田氏は家の中へ土足で進みリビングの窓を開けた…



「何年も住んでいないので… 散らかっていますけど…どうぞ!」



俺達に声まで掛けて …



まぁ、いいけどな …



何年も人が住んでねぇ、家や部屋ってのは … 淋しいっていうか、悲しいっていうか…

だいたい、何処の家でも出て行った年のカレンダーが壁に貼ってあってな…

この家にも5年前のカレンダーが貼ってある … 家ってのは不思議なもんだぜ …


住人が戻る家ってのはガタが来ないんだ、全く来ない訳じゃないが、来ても知れてんだ … 2~3年使って無い別荘なんかが良い例だな… 埃を払えば、はい、もと通り!

だけどな、住人が死んだり、人が2度と戻る事が無い家ってのは… 家も解るのか… 朽ちるんだ…天井の板が剥がれて …垂れ下がるか、床に落ちているか …それに 、畳も腐るしな …


解体工なら誰でも知ってる事だろうけど … 時々、胸に込み上げてくる想いがある …


此処に誰かの生活ってのがあって…


この家は住人を待ってたんだろな…


そんな事、考えちまうんだよな…


あっ、すまねぇ余談だな…



ブウウ~ンッ!



家の外から車の停まる音が聴こえ



「遅くなりまして… すみません…」



えっ? 聞き覚えのある声だなと思い、振り返ると羽波行者が立っていた …



「いやぁ~すみません、羽波行者、此方が 、此の家の持ち主の多田さんです、 で、此方が今日、御浄めをして下さる羽波行者さんです」



社長が仲に立ち説明をした…



「お世話になります、多田と申します、どうぞ宜しくお願い致します。 羽波行者さん …」


「此方こそ宜しくお願い致します。多田さん…」



互いに挨拶を交わす



「あぁ、鉄治、車の後ろの段ボールに酒とか入ってっから持って来てくれ!」


「はっはい」


俺は社長に言われ車へ戻った。


段ボールを出そうと車の後ろのドアを開けた…



アッチィニャッ~



玉五郎は鉄治達が車を降りてから、息を潜め後ろのドアが開くのを待っていた。

玉五郎には確信があった…

鉄治と冴木の荷物の他に、段ボールの中に買ったばかりの酒や角材が入っていたので



必ズコノドアハ開カレル … ニャヒッ!



鉄治が後ろのドアを開けると、姿を消した玉五郎は悠々と車を降り



オ先ニャン♪



家の中へと駆けて行った…



「ん? 玉五郎 … ?んなわけないよな…」



鉄治は段ボールを抱え、車のドアを閉め、家の中へ戻った …



「おぅ、こっちだ」



俺は社長の前に段ボールを下ろした。



「では、皆さん、すみませんが、お手伝い頂けますか?」



羽波行者が声を掛けた …



「此処に小さな護摩壇を作りたいので、宜しくお願いします…」



えっ?手作り護摩壇?


段ボールの中に角材が入っているのが見えたから、社長何作る気なんだ?とは思ったけどよ…



「あの、私はそう言う事に無知でして… 羽波行者さん、何故、今此処で… その…ご っ … ごっ… ゴクウを作るのでしょうか?」




ヒュ~ヒュイッ!猿が飛んだ …




「いゃいゃ、多田さん、悟空は違いますよ 、護摩壇、護摩壇!ガハハ!」



社長が顔を真っ赤にして突っ込む…



冴木さんは俺達に背を向けているが、肩が振るえている … 判断に困るけど… 笑っていると言う事で …



「はい、此処に集まられた皆さんで、浄め を行いたいと思っています… それには、心を込めなければなりません… 上部(ウワベ)だけでは解決出来ないと、私はそう想ったのですが …」



羽波行者は多田氏を見つめた …



「そうですね、想いは大切ですね… よく、 想いが残ると死んでも、死にきれないと言いますからね … 」



多田氏はニコニコしながら応えた。



「そうですね… 私も… あると思います… 不思議なものですね…」



羽波行者もニッコリ微笑んだ …



「もぉ、いいからよ、護摩壇作っていいですかっ!」



冴木さんがイラつき護摩壇を作り始めてしまった …



「冴木? お前何で作れるの?」



社長が聴くと



「昔やったバイトでな …」




冴木さんのバイトって、何 ?

俺は聞きたくてウズウズしたが…堪えた…




「凄いですね… とても器用ですね…」



羽波行者は微笑みながら、冴木さんを誉めた。



すると冴木さんは



「あんた、何で修験者やってんだ?呪い殺したい相手でもいんのか?胡散臭ぇ笑顔しやがって …」



冴木さんはニヤッと笑ったが…


羽波行者も俺達も目を丸くした…



「それは… どう言う意味でしょうか ? 私の家は代々、修験道を学んでおります。ですから、父や祖父に習い私も修験道を学んでいるのですが…」



「へぇ~御愁傷様なこったな…じゃ、ガキん頃からやってんのか?」



冴木さんは手を動かしたまま、羽波行者に聞いた



「えぇ、そうですが…」



「嫌になんねぇのか?あんた代々続いてるから修験道を学んでるって言ったけどよ… … まぁ、いいや.ほらよっ!」



冴木さんは手早く作り上げた護摩壇の枠を置き、家の外へ出て行ってしまった …



フリーズ … 室内寒過ぎっ…




「ガハハ!ガハハ!本当に申し訳ない…うちは威勢がいいだけが取り柄で、ガハハ !本当どうしようも無くて…ガハハ!俺も泣けちゃって、ガハハ! 」



社長は笑っているが、目は遠くの海を遊泳している… 今、何処




「何か誤解を招くような節が、私にあったのだと思います… 私の方こそ申し訳ありません…」



羽波行者は俯いた …



冴木さん、本当は別の何かを聞きたかったんじゃないか ?何をと聞かれても解らないけれど… 俺はそう感じていた …




冴木は1人、家の外へ出て煙草を吹かしながら多田家を眺めていた…


何か家の中にいるとムシャクシャするんだよな… 何だろうな…


それに、チラチラ何か見えそうで見えない物がいるっていうか



気のせいだろうけどな …



冴木の心にモヤモヤした思いが募る…


煙草吸ったら戻らねぇとなぁ …




カァーガァーカァー…



バサバサバサッバサッ



カツカツカツッ… カツッ




んっ? 鴉か…



多田家の屋根に1羽の鴉が止まった…



カツカツカツッ、カツカツカツッ


鴉は、屋根の中心辺りに円を描くように歩いた。



何やってんだ? あの鴉 …



冴木は鴉を見ていたのだが…



「あの~ すみません、この家に引っ越して来られたんですか?」



エコバックを肩に掛けた近所の主婦が3人、冴木に訪ねた。



「奥さん、綺麗だね、子供いんの?」



冴木は目を輝かせ、真ん中に立っている主婦に聴いた



「いぇ、いゃですぅ、そんな~」



近所の主婦は恥ずかしそうに俯いた



冴木はフッと笑い…



「この家、壊すんだ … 暫くこの街に通うから宜しく … 」



「そうなんですかぁ~良かったですぅ~この家、薄気味悪くってぇ~」



主婦は何となく可愛らしい話し方で応えた



「どう薄気味悪かったんだ?良かったら聞かせて…」



冴木は真剣な眼差しを送った …



「変な一家が住んでいたし… 何か変な宗教 していたみたいだし… それに、毎日、鴉が見に来ているって言うか、何時も1羽で…」



「鴉に何かされた訳じゃないんだろ?あんた綺麗だから鴉に狙われてんのかもな… 」



冴木は主婦の左手に目線を落とす…


主婦は左手薬指の結婚指輪をスッと隠す仕草を見せた…



この女 …


すぐ落ちるタイプだな …



冴木はニッコリ笑って…



「気をつけて帰って」



主婦が帰り易くなるように手を振った



「… そっ、それじゃ~」




主婦達はチラチラ振り返り、女子高生のようにキャッキャッと話しながら帰って行った。



バカ女 …


そんなに刺激が欲しいのか…



冴木は心の中で呟いた …



それから再び、屋根の上の鴉に目を向けたのだが…


鴉は何時の間に飛び立ったのか、屋根の上から居なくなっていた …



「鴉もいなくなったし、煙草も吸い終わっ ちまったし… さて、戻るか … 」



冴木は家の中へ戻って行った …



リビングの中央には、手作りの護摩壇が既に出来上がっていた。




「冴木さぁ~ん~お~か~え~り~」



社長が幽霊バージョンでお迎えしたが、冴木さんは…



「おうっ、始まるのか?」



気にもしていないようだった…



恐るべし… 冴木 猛 …




「では、皆さん初めましょうか…」



羽波行者が俺達に背を向け、護摩壇の前に床堅を組んだ…



社長や冴木さん、多田氏も胡座をかき、手を合わせたので俺も胡座で手を合わせた 。



「皆さん、そのままで聞いて下さい…」



羽波行者は、俺達に背を向けたまま話し始めた…



「本日、此の場をお借りして行いますのは、懺悔法… 祟りを鎮める祈祷の一つです 、怨念を気によって燃焼させ、怨霊の魂を 怨念から解放し、怨霊達の供養をし、先祖の犯した罪を詫びます!」




皆、羽波行者の言葉を頷いて聴いていた。



羽波行者は呼吸を整え、指先を動かしていたが… 俺達には羽波行者の後ろ姿しか見えないので… 俺は手を合わせたまま軽く瞼を閉じた …





何…ヲ… 懺…悔…ス…ル…



… 小僧…






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