… 猛獣・珍獣・大集合 … 冴木 猛 …
昔の話し …
そんなもん今更話して何になる…
胸糞が悪くなるだけだぜ…
まぁ、今日は良しとするか…
俺はガキの頃 …
ロクデナシの親父と…
泣くか従うかしか出来ねぇ母親と…
そんな二人の、愛ある家庭とやらで育てられた。
たまに帰って来ては、昼も夜も… 一升瓶片手に酒に溺れる親父…
母親に手をあげて金を毟り取っては…何処かに消えちまう
ガキながら、正義感とやらが強かったんだろうな、母親殴りつけてる親父を止めようとしたら、今度は俺が伸びる迄殴られた…
強くなりてぇって思ってたな…
何時か親父を殺してやろうと思ってたな…
ガキの成長ってのは止まらないから、躰はデカくなるし反抗期ってのは来るし…
中学にもなりゃ、アル中の親父なんかに負けて無かったな …
クズは消えるのが… 世の為、人の為 …
消えてもらおうと思ってな、包丁で腹ぶっ刺してやったんだけどな、生きてたな…(笑)
躊躇った覚えは無いけどな、可笑しなもんだぜ… 世の中ってのはよ…
こんなんだからよ、更正の見込み無しで
俺は少年院行き…
出てからは会ってねぇから…
親が何処に居るのかも知らねぇな …
もう死んでんじゃねぇか?
それから、各地を転々として…
あるドヤ街で鉄虎と竜也に出逢った …
あぁ、鉄虎は解るだろ?
竜也ってのは名字は真木…
それで、俺が猛だ …
猛獣・珍獣・大集合みたいだろ?(笑)
俺の人生の宝と言えば…
そうさな、鉄虎と竜也に逢えた事だな …
味気無い、ザラザラした砂を噛んでるみたいな人生が… 2人との出逢いでパッと華やかに一変した…
夢ってのを持てたんだ …
知り逢った当初なんて、毎日殴り合ってた
だけどよ、二人とも強ぇんだ!それにも況して懲りない!タフガイだな…
初めて面白い奴等を見つけた …
そう思った…
竜也は伸しても伸しても、ギラギラした眼で俺を睨んでな …
あぁ、何時かコイツにヤられるな …
素直にそう思った…
鉄虎は鉄虎でしつこいんだ、真夜中に奇襲攻撃してくんだ…
夜行性だせアイツ…
俺の人生なんて、どっちにヤられても仕方ないな …
なんて思ってたら仲良くなってな…
三人で泥々になって働いて、互いに肩寄せて泣いて笑って … 歩いて来たな…
竜也は逝っちまったけどな …
本当に竜也の奴は馬鹿野郎だ …
現場で倒れる何日か前の真夜中に、電話掛けて来て
「冴木、俺、死ぬかも知れない…」
声震わせて、そう言うから…
「あん? 悪い女にでも手出したのか?それ とも闇金から金でも借りたか?どっちも任せろ何とかしてやる…」
「冴木 … それよ、どっちも死ぬじゃなくて殺られるだろ? 危ねぇな~ 相変わらず … 何とかするって、お前っ、裏で何やってんだ? 死んでも死にきれねぇよ!危ねぇな 、悪い事すんなよ … 鉄虎に迷惑掛けるだろう ?」
竜也の奴、ショボクレ声出して心配そうに説教するからよ
「只のバイトだ!世の中には困ってる奴が多いんだ気にすんな… 所で何で死ぬんだよ …」
そしたら竜也の奴、黙っちまって …
あんまり黙ってるから
「おいっ寝てんのか?鉄虎みたいに奇襲掛けるぞ!」
「やめろよ、敵わねぇよ… アハハッ! 俺な 、先月から山通ってんだよ …」
真夜中に何の話ししてんだ?と思ったけど 、無下に出来なくてな
「山?山男になる気か?何しに行ってんだよ… バイトか埋めてんのか?」
「お前のバイトはヤバイね、危な過ぎるわ !何埋めたいんだよ!俺は修行に行ってんだよ!山伏の!」
竜也が山伏修行?何言ってんだろうなって思って
「そんな事して龍になって滝昇るのか?趣味に文句つける気はねぇけどよ …」
「昇らないよ!それより今な、冴木と鉄虎に贈り物しようと思ってな、頑張ってんだ楽しみにしててくれよ !」
嬉しそうに話してたから
「贈り物なら熊持って来てくれよ!ガァー !強ぇだろうな!」
「無理だっ!それより冴木… 会社と鉄虎を支えてくれよ… 頼む…冴木…」
そう言って電話切られてな…
変な奴だな…結局、何が言いたかったんだ ?最後の言葉… 遺言みてぇだし …
そう思っていたら…
本当に逝っちまったよ…
俺と鉄虎にイラタカ遺してな …
あの馬鹿!解ってたんだろう、てめぇが、もうすぐ死ぬって …
俺に電話迄して来て、言えねぇのかってんだ!糞ったれが!馬鹿野郎… 竜也の奴は筋金入りの馬鹿野郎だ!
鉄虎には言っていないが…
竜也の葬式、全部終わってから…
喪服着たまま街行って、そこいらのチンピラに喧嘩売って殴らせて貰ってな…
少しは心が落ちつくかと思ったのに全然駄目で 、また、そのチンピラが弱ぇんだよ!
1発殴ったらゴリッて歯折れるし、お前等ポ○中かってくらい骨脆、骨弱…
冷めちまって…
弱い者虐めみたいで嫌になってな… そのまま帰った…
真木が逝って49日の法要も済んだ頃 …
何でだろうな …
真木に逢えるような気がしてな…
俺達が出逢ったドヤ街に行ってみたんだ…
何か見覚えあるのが居るなと思ったら、鉄虎も来てたんだ … 同じ日にだ、驚いたな…
俺はストーカーみたいに隠れて、遠くから鉄虎の姿見てたら…
あいつ、薄汚れたモッズコート着てる若造と何か話してたんだ、何話してんのか気になって、鉄虎に気づかれないように近づいた。
「なぁ、兄ちゃんドヤ街が悪いって言ってんじゃねぇよ、俺もドヤ上がりだ、ガハハ !若くて活きのいいのが欲しいんだ、本気で仕事してみねぇか? どうだ?」
「うっせーな!若い奴なら他にもいんだろ 、話し掛けんな!」
「まぁまぁ、そう言わずに聴いてくれよ、 ハッキリ言うぜ、兄ちゃんな勿体ないって 、確り仕事覚えてよ、一人前になったっていいじゃねぇか、じゃ、名刺だけ渡しとく わ、兄ちゃんよ俺は嘘は嫌いだ、あんたなドヤには勿体ねぇんだ!」
俺は息が止まるかと思ったぜ …
その若造のギラついた目、その背格好…
俺達が知り逢った頃の
真木 竜也に瓜二つだ った…
鉄虎は絶対、この若造を連れて帰るだろうな…
そう思いながら俺は、黙ってドヤ街を離れたんだ …
角田 鉄治 … お前の事だ …
お前も珍獣の仲間入りだな …
冴木はふっと笑い、煙草に火をつけると流れる煙を見つめた …