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ポム  作者: 天野 うずめ
3/16

一緒に行こう、お散歩。

「ポム、散歩行く?」


言った途端に、ポムはすでに足下にいる。

嬉しそうに身体を揺らしながら、「ぽむ!」と催促する。


「はいはい、行こうねー」


靴を履いて、靴ひもを結んで、立ち上がる。

僕の動作に合わせて、ポムは壁と壁の間を器用にジャンプして伝って、僕の頭の上に飛び乗ってきた。


「お、コツをつかんだなー」



散歩はポムがうちにやってくる前から続いている僕の日課でもある。

明け方、夕方、夜暗くなってから、大学が休みの日には昼に出たりと、時間帯はその日まかせだけども、必ず一回は外に出る。

ぐるっと町内を一回りしたり、近くの神社の境内に足を運んだり、少し遠出をしてみたりと、コースもその時の気分で決める。

ポムが来てからは、ポムが興味を示す方向に行くことも多くなった。


てくてく、ぶらぶら。

何も考えずに歩いたり、何かごちゃごちゃ考えていたり。毎日見ている街並みは、同じ風景のはずなのに、毎日観察していると毎回少しづつ、だけどしっかりと何かが違っている。そんな変化を感じることができるのが、僕が散歩をする一番の理由だ。


ポムの指定席は僕の頭の上。

犬みたいに、健康のために歩かせなくていいのかなと思うときもあるけれど、結局のところこいつは犬ではないので、まぁよしということにしている。

それにこっちの方が何かあったりしたときにすぐに対応できると思うし。

例えばポムが急に犬にフンを食べようとしたときなんか、歩かせていれば止めるのが一歩遅れることがあるかもしれないけど、元々頭の上に乗せていればそんなことはできやしない。


させやしないけども。


傍から見るとまん丸の毛玉を頭に乗っけて歩いている人だ。

まぁ僕はあんまり気にしていないからいいとして。


「ふぁ~」

いつものように訳の分からない鳴き声を発しているポムは、嬉しそうに移りゆく景色を堪能している。

「今日は昨日と反対方向行ってみようか」

僕もまた、移ろう街並みと、歩みと共に進んでいく時間の移り変わりを心から楽しんでいる。


時たま近所の小学生がポムを撫でさせてと寄ってきたりするのも楽しい。



今はちょうど黄昏時だから、神社の裏手にある山に登るのが良いかもしれない。

そこまで高くも低くもなく、町全体を見渡せる素敵な山だ。


「よいしょっと……!」

「ポム!」


頂上に生えている一本杉に手をかけながら、眼下に広がる町を見渡した。

夕方の太陽が、町をはちみつ色に溶かして温かく包み込んでいる。

その中で人々は、今日の夕食の献立に悩んだり、明日のテストの心配をしたり、泥だらけになってボールを追いかけまわしたり、手をつないで歩いたり……。

それぞれの営みを、それぞれのペースで送っている。


そんな様子に、僕は、

「素敵だね」

という以外の言葉が見つからない。


そして、僕もその中の一つなんだ。

そう思うとふと嬉しくなってきてしまう。


「ぽむ!」

「あぁはいはい、そうだね。おまえもだね」


頭の上のポムをそっと掴んで胸に抱きなおしてから、僕はもう一度町を見下ろした。


ポムの白い毛も、今日は夕日の光を受けてはちみつ色に染まっていた。

お読み下さりありがとうございます。


お散歩はよくやります。

ちょっと気持ちがもにょもにょしてる時とか、ちょっと考え事をしてる時なんかは、お散歩が効果的らしいです。あまり大きな問題を抱えているときは逆効果だったりしますが、お散歩をするとすっきりして気持ちが整理できますよね。

Coping method の一つらしいですよ。

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