心を動かすもの
春節突入で既に10日(°▽°)
会社には出ているものの、開店休業状態です。
コッソリ更新してしまいます(´∀`)
今回の第二部はかなり史実をイジってしまいました。
何処かで本来こうでした、って言う解説回を書こうと思います。
それでは引き続きお読みくださいm(_ _)m
「台湾出兵はご存知でしょ?」
「まあ....従道さんが突っ走ったから、木戸さんがすんごい怒ったなーくらいは。」
何で俺が明治の人に時事問題を解説せにゃならんのか。
後藤先生はかなり国際情勢に疎い状態なので、一応新聞記者であった俺の方が詳しいくらいだった。
「西郷従道さんの台湾出兵は征韓論のすぐ後ですから、元老の皆様も疑問に思われた方が多かったですね。でも今回の要点はそこではありません。」
俺たち3人は朝鮮行きの船の中だ。
ちなみに今回のもう1人はミツルだけどね。
結婚式を間近に控えた新郎の行動ではない。
絶対間に合うように帰るからと、ぶつぶついう義兄義姉と凶暴な母を振り切って強行したのだ。
綾さんは俺を信頼してくれているので、お気をつけてと見送ってくれた。
絶対帰ります。めちゃ頑張ります!
「要点は二つ。先ずは琉球国宮古島の島民が日本国民であるという前提で、清国に対して台湾島民への処罰を要求したこと。二つ目はその前提で最終的に清国から賠償を引き出した事です。」
そもそも台湾問題は、宮古島の島民が台湾へ漂流し、台湾人がそれを虐殺した事に端を発している。それを日本は琉球の帰属問題まで持ってったわけだね。
俺たちは食堂で軽く食事中。
我々の他は数名の人が、遅い昼食をとっている。
「清国は冊封体制を揺るがされたわけだ。」
ホントに分かってます?チョット不安なんですが。
「ソレがこないだの琉球処分と繋がっとるいう事ったい。」
ミツルの方が分かってますよ!後藤さん!
「そーね。日本はコレ幸いと琉球に対し、清国との冊封関係を解消せよと詰め寄る。琉球はそんな事できんと抵抗してたけど、内務省がゴリ押しで国王サラって東京に連れてきたのが今年の4月。琉球は廃止され沖縄県となりました。新聞各社、相当に書き立てましたが、ご覧いただいてないですか?」」
フーンと後藤さんは遠い眼をする。新聞は読んでください。
「で、結局丸くオサまったと?」
オマエそこは知らんのかい。
「全然オサまってない。日本は領土を確定させたいから交換条件で先島諸島を差し出すけど、清国は領土なんかいらん、琉球を独立させたまま冊封体制を維持したいと主張。」
そこまで聞いた後藤さんはひと言。
「日本の言い分にはちょっと無理があるねえ。」
政治家向きじゃないですね、先生。
「ともあれここまでが吉田の言ってた経緯です。お分かり頂けましたか?」
漢城府までは大阪釜山経由。
時間は十分あるので、質問は受け付けますよ。
「ソレで李鴻章はカンカンに怒っていると。」
「その事情はよく知らないですが、怒っていても無理はないですね。この間さらに江華島事件があって、朝鮮の独立状態を認めよと日本が要求。清国の冊封体制は日本国に相当揺るがされてます。」
目を剥く後藤さんとミツル。
「ソリャ怒るばい、怒って当然たい。」
「清国が怒らないと思う方に無理があるねえ。」
俺に言われても困るんですが。
「福沢先生はしきりにこの事を危惧されていました。日本政府は油断しすぎじゃないかと。」
「僕が政府顧問なんて言い出したのは自殺行為だ。なんで福沢さんは止めてくれなかったのかなあ。」
アナタの大物ぶりに期待してたんだと思われます。
「そんでツヨシよ、ここまでの話ばさらに複雑になったとやろ?結局誰が何を企んだからこうなっとるの?」
ミツルはお手上げ状態。後藤さんも同じ表情。
説明しよう!100%憶測だがな!
「俺たちは後藤さんがグラバーと三菱に操られてると思ってたよな?ハチローさん情報だった。」
「そーな。あん人はそそっかしくて困ったもんたい。」
オマエが言うな。俺も言えない。アナタは笑うなよ後藤さん。
「実際には後藤さんのタメを思ったグラバーと岩崎さんの企てで悪意はなかった。俺たちは背後にイギリスまで居るかとも危惧したけど、ただの友人同士の思いやりだったと言うわけ。」
「粗忽モンが多くて困ったもんじゃ。」
だから!オマエが言うな!
「だがその一部始終を見ていた者がいる。」
「ソレが吉田くんかい。」
「他に誰がおりますか。公使館で情報収集していた悪徳商人はいい事思いついちゃったわけです。」
折から日本へ不満と恐怖を持っていた李鴻章へ、この情報をリークする。
「元々軍事顧問派遣にも怒っていた李鴻章、さらに政治顧問を派遣すると聞いて、激怒するのは予想が付くでしょう。」
「そもそも部下を僕にくれた、吉田くんの目的は何だったんだろうね?」
後藤さんは少し戻って疑問を呈する。
「元々は純粋に後藤さんのお手伝いをしたかったんでしょう。公使館に紹介したのも本人の言う通り、元部下が困っていたからかも知れません。」
「ソリャ吉田に対して、思いやりが過ぎるんじゃなかと?」
ミツルは会ったこともない吉田に対しかなり厳しい。
「ともあれ焦った花房さんの軍事蜂起計画は、吉田にとって好都合だった。元部下達には花房さんを全力で支えろと命じる一方で、李鴻章に一発逆転の作戦を持ち込み、自分の武器を売り渡そうとする。」
「清国が使う武器かね?」
「俺なら軍事蜂起を意図する人物、つまり大院君に使わせますね。」
金を出すのは清国だろう。その武器を蜂起軍に使わせて、立見少佐の新軍を壊滅させる。
後は清国が素早く派遣する、より大きな軍隊が蜂起軍を鎮圧。
清国は日本との衝突を避けることができ、朝鮮国内の影響力を上げることが可能だ。
「どーですこの性格悪い作戦!」
「確かにな....しかしそこを見破った犬養くんもナカナカ.....。」
要らんことを言わないでください。
「そいでん未然に防げたとなら何も問題なか。」
ミツルは笑顔でウンウンと頷いた。
「全くだね。コレで立見さんの仕事も無駄にならず、日本国は朝鮮内に一定の場所を得た。花房さんの暴走が事実であれば、僕から説得してやめさせると。完璧だな!」
2人は笑顔でカンパイする。いやめでたしめでたし、ジャナイヨ!
「ヤバいのはこの後ですよ。吉田は部下を通じて全ての情報を知っている。新軍の訓練が10月には終わると聞いて、それじゃ10月まで待とうと思いますか?」
2人のカンパイが凍りつく。
「ソリャおんし、もしかして.....。」
「君の性格が怖い。じゃあ既に武器は輸出されてると?」
俺は確信を持って頷く。
「それ以外に考えられませんね。白根さんまで引っ張り出して牽制しましたけど、恐らく吉田の準備は完了している。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
明治12年(1879年)8月25日
日本国在漢城府公使館。
長い長い俺の説明を聞き終え、立見少佐はしずかに口を開いた。
「今の犬養くんの説明、どの辺りまで事実ですかな?公使閣下。」
花房公使はデスクに腰掛け、両手を顔の前に組んだまま目線は虚空を見据えている。
「花房殿!お答えください!」
立見少佐は少し大きい声になる。それでも返事はない。
俺は喋りすぎなんでもう結構。後は後藤さんにお任せ。
「花房くん。君が置かれていた立場は、大変厳しいものだったとお察しする。それにも関わらず多くの結果を上げてきた、その行動力も称賛に値するよ。」
花房公使の目が光ったように見えた。
恐らくは後藤さんの言葉が、この場では最も彼の心に届くだろう。
スチャラカに見えても伝説の男だ。
「しかし今の状態は評価できん。僕の非常識な顧問就任なんていう話も悪かったんだろうが、仮に君がそのために軍事蜂起を引き起こそうなどと画策しているなら、それは侵略行為となんら変わりない。」
そーですよ。昭和に入って同じような工作が山ほど起きるんです。
ここで悪しき前例が出来るのは、この後への影響を考えてもよろしくない。
「私に.....どうしろとおっしゃるので?」
花房公使はようやく口を開いた。
そしてその事は、俺の推論が間違いではない(少なくとも花房さんに関しては)という証明でもあった。
「ここで一区切りとしようじゃないか。犬養くんの考えでは、蜂起軍には既に武器が行き渡り、いつ攻めてきてもおかしくない状態だ。我々と一先ず日本へ帰って様子を見よう。夏休みとでも何でも、理由などいくらもつけれる。」
公使館で働いていた元部下達は、やはり脱走して姿を消していた。
コレも俺の仮説を補強する事実である。遺憾だが。
「私は.....命など惜しいと思いません。職務を放棄する事など論外です。」
クッソまじめで恐れ入るが、コッチは綾さんとの祝言がかかってんだ!意地でも連れて帰る。
「立見少佐、朝鮮軍の規模はどのくらいでしょうか?」
俺は現状を把握したい。こういう時は軍人と話をする方が効率的だ。
「左様、陸軍全軍で2万人程度ですな。財政も厳しいので大きくはない。」
「そのうち、漢城府近郊に所在するのは?」
「3500から4000というところでしょう。」
新軍の人数は500名程度という事だから、漢城府の陸軍全てが蜂起すれば、先ず太刀打ちできないだろう。
ましてや彼らは、まだ基礎訓練も終わらぬ兵士達である。
「花房さん、お分かりでしょう?新軍だけでは勝ち目はない。」
「それはどうでしょうな?」
「ですから我々と一緒に....何ですって?」
聞き漏らしてしまったが、少佐が俺の目の前で笑っている。
「犬養さんが新軍には勝ち目がないとおっしゃったので、口を挟んでしまいました。ワシは少々異なる意見ですからな。」
花房さんはゆっくりと立ち上がった。
少佐は笑うのをやめて、公使を正面から見据える。
「少佐.....何かお考えでも?」
花房さんはすがりつくように立見さんの袖を掴む。
「公使閣下、ワシの考えは一つです。閣下のやられておられた事は、兵士たちを悪戯に危険に晒す恥ずべき行為と思いますな。」
花房公使の動きは止まる。
立見少佐の不意打ちとでも言っていい言葉に、何かを打ち砕かれたようだった。
剣の達人っていうのはこういうもんなのかと俺は感心する。
言葉のやり取りにも呼吸ってもんがあるとすれば、今の言葉は防御をする前の、呼吸の狭間をついたような一撃だった。
不意に花房公使の両眼から、後悔と涙が溢れ出す。
「すまないっ.......私は......何とすれば...。」
花房公使の心を動かしたのは、結局後藤さんの思いやりでもなく俺の警告でも無かった。
誇り高い武官の恥ずべきという言葉。
何と重い言葉なのか。それは兵士たちの命そのものと言っていい。
しばらくの沈黙の後、少佐が先に口を開いた。
「そうそう、もう一つ考えた事がありますな。」
彼は再び笑みを浮かべている。
「朝鮮軍が何千人来ようと、戊辰の長州軍ほどのモノではないって事ですわ。」
戊辰戦争の伝説、立見艦三郎は気負う事なくそう言った。




