立見無双
前半は犬養毅、後半後藤象二郎の視点です。
いよいよ終盤に差し掛かり、ようやくどうするか決めました(´∀`)
もっと緻密な思考能力が欲しい
「我らもキナ臭い情報は掴んでおりましたので。分析は怠っておりませんでした。」
立見少佐は得意げにその分析を披露する。
「残念ながら何者かが煽動しているとの情報はありませんがな。我々が掴んでおるのは、旧軍の中で給与遅配の不満を持つ者が、抗議行動を起こそうと同調者を募っておるという事です。」
「言葉も不自由な国外で、良くそのような情報収集が出来るものですな。」
後藤さんが感心したように言うが、立見少佐は何事でもないように報告する。
「我々の配下には500近い朝鮮人がおります。彼らが新軍に不満があるフリをするだけで、情報は筒抜けに入ってきますので。」
つまりそれだけ少佐とその配下達は、軍の人心を掌握しているわけだ。
訓練が順調とはミツルから聞いていたが、その中身は順調以上のものであるらしい。
我々は公使館応接室で会議中である。つまり戦うか撤退するかを決める。
俺の方からこれ以上言う事はない。今は立見少佐による主戦輪のプレゼン中だ。
俺はこの方面では完全に役に立たない。
皆がコリャいかんと結論付ければ、逃げるときには大声出すけどね。
花房公使は別人のように生気を漲らせていた。
ココを凌ぐと腹を決めると、持ち前の行動力が出るものらしい。
「これまでのところ、漢城府内の半数近くが抗議活動に同調していると.....かなりの数だ。」
公使は漢城府の地図を睨みつつ、立見少佐に先を促した。
「それだけではありませぬ。新軍設立と同時に、5営あった軍編成が2営へ縮小されております。それに伴ってかなりの兵士が退役を余儀なくされた。不満を持っておるのは退役兵達も多く、それらが同調すれば反乱は一気に倍増するでしょうな。」
室内は戦慄に覆われる。
「それでは....反乱は最大3000名以上?」
頷く立見少佐。
「そうなる前に叩くのが上策と言えます。されど反乱を起こす前にこちらが動けば、いかに証拠があろうとも心情的に我々を擁護してくれる方は、朝鮮にも日本にもいなくなりましょう。」
「反乱軍が動いてから叩くと?それで勝ち目はあるのか?」
懐疑的な花房公使。
立見少佐は励ますように言う。
「退役兵士達は連携が取れておりません。蜂起が起こってから集まってくる事になりましょう。それに蜂起が先ず狙うのは食糧庫です。それを鎮圧してしまえば、蜂起拡大を防げましょう。」
「最初に動くのはどれくらいの人数になるだろう?」
後藤さんも地図を睨む。
「下士官達は蜂起を抑え込もうとしておりますので、蜂起が起こるとすれば少人数による暴発的事故になると思われます。まあ扇動者の存在は不気味ですがな。恐らく狙われるのはこの宣恵庁の倉庫。」
立見さんが指す先には、何やら印がつけてある。
「兵士が受ける俸給米は、主に此処に保管されております。蜂起煽動の中心となっている東別営からもほど近く、此処を拠点に蜂起は起こるでしょう。」
「そこまで把握できていても、先制攻撃は出来ぬか。」
公使は重苦しく言う。
「戦の後にも勝利しようと思えば、此処は我慢のしどころ。」
立見さんはこの騒動の先も見据えて献策している。皆これは聞かざるを得ない。
「現在は50名ほどが漢城府内で警戒に当たっています。動きがあり次第報告が入りましょう。」
「それで....動きがあった後の鎮圧行動は?」
花房さんが質問する。
「暴発組は先ず間違いなく東別営へ駆け込み、仲間を増やすとするでしょう。そこを急襲して鎮圧するのが上策と思われます。」
皆が頷いている。どうやら方向性は定まったようだ。
「少佐すいません.....その作戦どれぐらいの期間がかかります.....?」
ミンナ俺を睨む。すいませんね非常識で!でも俺絶対帰るんで!
「朝廷でも俸給米の遅配は問題視されており、明日にも臨時で下賜される事になっておるのです。動きがあるとしたらそこですな。」
え?給料出るの?じゃあ蜂起も起こんないじゃないですか。
「確実に動きはあります。何せワシが知っておるところでは、あの倉庫は空っぽですからなぁ。」
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僕と花房さんは引き続き、具体的な作戦行動について少佐から説明を受ける。
犬養くんはもう飽きてしまったらしく、護衛を受けながら市内の見物へ出て行った。
そう言えば一緒に船で来た頭山くんも、先程来姿を見ない。
「騒動が始ってしまえば、先ほど申し上げた通りかなりの軍勢が集結するでしょう。時間が経てば経つほど我らにとっては不利。」
僕と花房さんは頷いて同意を示す。
「そこで戦は瞬時に決めねばならず、こちらは攻めて出るしかありません。公使館に篭城などというのは下策ですな。」
「此処へは攻め込んで来ない可能性もあるのでは?」
僕はそう疑問を呈するが、2人にあっさり否定される。
「旧軍の兵達は、新軍を『倭技軍』などと称して憎しみの対象としております。一旦蜂起があれば必ずや此処へ押し寄せるでしょう。」
花房公使は冷静な口調でそう説明した。
「では犬養くんが言う通り大院君が煽動しているのであれば、王宮に攻め込む事もあり得るのでは?」
この疑問に対しても、立見少佐が否定的見解を示した。
「最終的に蜂起が巨大化し、彼らが調子に乗ればそんな事も起こり得るでしょう。その前に必ずや近衛である新軍を襲います。」
そうかこの軍は近衛か。ならば篭城などはあり得ない。
「状況を鑑みて、暴発が起き次第静かに東別営を包囲。正面より襲撃を仕掛け、兵営におるすべての兵士を引きずり出します。」
「東別営に常駐する兵士数は?」
花房公使が尋ねる。
「此処へは本来一個連隊が駐留する事になっておりますな。しかし内規の乱れからかなりの脱走者が出ておるようです。まあ1500名ほどがおるでしょうか。」
少佐の情報収集は万全のようだ。しかし3倍の兵を如何にして?
「引き摺り出しに成功すれば、襲撃隊はひと当たりして後退致します。まあ退却する様に見せかけるわけですな。」
「釣り野伏ですか。」
僕は有名な薩摩の戦法を口にする。
確かに指揮官不在の蜂起軍にはハマるかもしれない。
「東別営から南西へ向けたこの大通りは、一本道が1町(約110m)ほども続きます。1000名引き摺り出すには格好の舞台と言えましょう。」
「しかしそれでは襲撃隊を危険に晒すのでは?」
身を隠す場所もない一本道を、一町も退却するのは射撃の的と言っていい。危険すぎる。
「ワシの兵士達は装備を付けて、一町を弾込め一回の間に走り切ります。まして相手も動きながらの攻撃で、まともに弾など撃つことは出来ますまい。」
ウームそれはそうだろうが.....。
「引き出してからは道沿いの民家の屋根から、一斉の射撃を加えます。此処で粗方は戦闘不能に出来るでしょう。さらにワシの部隊には工作兵もおりまして。」
少佐は愉快そうに笑っている。
「工作兵ですか?」
「コレは偶然の産物ですがな。実に手際よくやってくれる者どもでして。」
なんだか知らぬが打つ手が多いのはいいことだろう。全て出し尽くして蜂起を鎮圧するという事だ。
全てを検討し尽くしたのは、深夜にかかろうかという頃だった。
花房公使は秘蔵の日本酒を引っ張り出して、出陣前の杯と振る舞ってくれる。
「事が起これば僕もご同行させていただきますよ、少佐。」
花房さんは目を見張って驚く。
「後藤先生とんでもない!アナタに何かあっては福沢先生になんとお詫びすればいいか....。」
「公使、後藤先生ならばご心配は無用でしょう。」
何故か立見少佐は笑って請負ってくれた。
「後藤先生は大石流の皆伝とうかがっております。幕末には英国公使への襲撃を返り討ちにし、英国から勲章まで貰ったと聞く。ワシも是非腕前拝見したいものじゃと思いますぞ。」
よく知っている。僕は却って怪しんだ。
立見少佐は僕の疑念に気付いてか、少々照れたように笑う。
「どうも男という奴は下らぬ生き物ですな。ワシも強い男の話は大好物にござってな。」
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翌日、朝から公使館には人の出入りが多く、緊張が張りつめている。
僕は皆と簡単な朝飯を済ませる。
犬養くんはさぞ緊張していると思いきや、意外と場慣れした風格さえある。
「随分と落ち着いたもんだね。犬養くん。」
僕が問いかけるのに彼はキョトンとしている。
「いや間もなく戦闘があるかもしれないんだし。普通の民間人は逃げ出す状況じゃない?まあこの場は此処にいた方が安全だけどさ。」
すると犬養くんは合点が入ったような顔をする。
「俺は民間人ですが、戦場の経験は多いので。」
どんな民間人だソレは?
「後藤先生はホントに新聞読まないんですね。」
オマケにあらぬ方面で馬鹿にされてしまう。僕にココまで歯に絹着せぬ物言いをするのは、彼を除けば猪之助ぐらいのものだろう。
その時応接室へ人が飛び込んできて、部屋の雰囲気は一変した。
「宣恵庁倉庫で暴動が発生!200名ほどが役人を殺害し、倉庫を襲っております!」
叫び報告するのは、立見少佐配下の下士官だ。
「来たか。」
少佐は立ち上がる。
皆の耳目が彼に集まる。
少佐はゆっくりと二振りの刀を手に取り、一振りを僕に手渡した。
「妙なご縁にござる。コレだからこの世は面白い。」
僕は刀を受け取って、その重みを思い出す。
暫く忘れていた武士である事の重み。
「予定通り実行に移る!総員戦闘配置につけ!」
立見艦三郎が3倍の敵に挑む、蜂起鎮圧作戦の開始だった。




