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第五十七話 続・決闘無双

「神ね……。そういやあザコ騎士団長を倒した後に、神を自称するやつが現れたな」

「何?」


 神、神、言う教皇に、俺はこちらの得た情報をこぼしてみせる。

 すると案の定食いついてきた。


「聞いてないのか? 騎士団長とそっくりな悪魔が現れて、神を名乗ったって」

「……そんな話は、聞いておらぬ」


 さすがに、あの戦いの中での会話までは聞こえていなかったか。


「あ、そ。まあ、どうでもいいけど」

「……フン、マック・プルートを超える者を倒したから、こちらが恐れるとでも思ったか?」

「いいや。単に、あんたらの力はあいつに比べて劣ってる、ってだけの話だよ」


 俺の言葉を牽制ととった教皇は、余裕の態度を崩さない。

 しかし、自称神に比べ、教皇も勇者も、それぞれ瘴気と魔力で劣っている。


 まあ、瘴気と魔力が単純に比べられるものかどうかは不明だが。


「戯言を……勇者の力は、一万人もの聖職者たちの物だ。それが貴様に劣るわけがあるまい」


 いよいよ俺が虚勢を張りだしたと見たか、教皇はニヤニヤし始めた。

 しかし、そうか……一万人もの生贄を捧げて召喚したのか……勇者がまともな神経の持ち主なら地獄だろうな。


「ま、やってみりゃ解るさ。さっさとけしかけたらどうだ? その傀儡の勇者様を」

「……ならば、望み通りに殺してやろう。勇者よ、神敵を八つ裂きにせよ! その躯を、余と神に捧げるのだ!」


 教皇の指示に、勇者が即座に動き始めた。

 淡い光を放つ剣が腰から抜かれ、ヒーターシールドが体の前面に構えられる。


 その隙きのない様子は、勇者のスキルレベルの高さを窺わせた。

 さて……勇者の状態はどんな感じか、剣を合わせれば判るかな?


「っと」


 いきなりつっかけてきた勇者の剣を、『震電』でいなす。

 相手の動きは鋭く速いが、奇妙なちぐはぐさがある。

 ――いきなり付与された力を使いこなせていないのか?


 十合、二十合と、どんどん刃が交差する。

 だんだんと勇者の息が上がってきている雰囲気があるが……そう感じたところで回復魔法『身体賦活』が発動された。


 普通なら、よほどの達人でもなければ、魔法と剣の切り替わりに隙きができるものだが、勇者にはそれがない。

 とはいえ、慣れているからできているという感じもしない。


 それが、奇妙なちぐはぐさを感じさせているのだ。

 当たり前だが、地球では戦いの素人だったのだろう。

 ……おそらく短期間でレベルを上げたために、基礎的な体力までは上がっていないから、こういう『対症療法』的な戦い方になっているんだろうな。


 体力が減った→身体賦活、怪我をした→治癒、地力が足りない→身体強化――というような感じだ。

 うん、来たよ『身体強化』。


 勇者の全身が白く輝き、動く全体の速度が一段階高まる。

 が、なんの工夫もない、真っ直ぐな太刀筋は、俺にとっては簡単に対処できる程度のものだ。


 レベルはどうかわからないが、確実にミスティの方が勇者より上。

 これは俺がかつて壁になるだろうと感じていた、対人経験の少なさからくるものだ。


 ――やはり、勇者は操られているというより、自分の意志と体の動きが分断されている感じだな。

 体の方は戦闘系のスキルで最適な動きをしているが、本人の戦意のようなものがない。


 それと、瘴気は一欠片も体内にないようだ。

 このオートパイロットとでも言うべき状態さえどうにかできれば、勇者を殺さずにすむかもしれない。



 十五分程、勇者と剣を交え続けた頃、俺はさらなる違和感に気づいた。

 それは、『勇者の魔力が消費される度、微妙に気配が変化する』というもの。


 なんというか、違う者を感知したような――。


「ああ、そうか」


 これはアレだ、『一万人生贄にした結果、その魔力が一緒くたになっている』のだ。

 だから一人分消費されるごとに、『魔力探知』に引っかかる感触が変わる。


 となると……回復する前に全部消費させれば、最後には本人の魔力だけが残る、か?

 しかし、魔力とオートパイロットが無関係なら意味はない。


 その辺りの確証が得られれば良いんだが……。


「いっそ本人に聞くか?」


 そんなことが可能なのかは判らないが、やってみて損はあるまい。


「あー……『俺の言葉がわかるか』? 解ったら面あて開けてくれ。駄目なら俺が取るが」


 剣戟と魔法の炸裂音に紛れるように、俺は勇者の耳にだけ届くように『日本語』で声を掛ける。

 ――動き回りながら待つことしばし、残念ながら反応はなかった。


「じゃあ、取るぞ」


 そう宣言して、俺は勇者の兜に小さな光の玉をぶつけた。

 それは即座に破裂し、周囲に閃光を撒き散らす――目くらましだ。


 一瞬、硬直したのを見逃さず、俺は動いた。

 目は見えずとも、言われれば反応するのは道理。

 勇者は盾を目の前にかざし、頭を守る。


 それは狙い通りの反応で、俺は跳躍して勇者の上を取り、兜の蝶番を『金属加工』スキルで変形、破壊した。

 魔法の品とかでなくて良かったわ。


「やっぱ、女だったか……」


 それも女子高生くらいか? かなり若い。

 俺は胸クソの悪さと、やるせなさで顔をしかめた。

 こんな若い子が奴隷同然に扱われていたら、何されてるかわかったもんじゃない。


 ――しかし、それは後回しにせざるを得ない。

 何しろ、確認のしようもないのだから。


「じゃあ、『俺の言葉が解ったら、二回、瞬きしてくれ』」


 俺は再び日本語で話しかけ、鍔迫り合いの格好に持ち込んだ。

 ――すると、今度は反応があった。

 彼女は二度、瞬きしたのだ。


「よし……! 『俺は日本からの転生者だ。なんとか君を助けたい。ステータスは見せられるか?』」


 上手く行ったと快哉を上げ、俺は続けてこちらの意思を伝える。

 彼女のステータスを確認できれば、何か糸口がつかめるかもしれない。


 この世界のステータスは、自分自身と見せようと思った相手にしか見えない。

 鑑定スキルなどないので、相手の強さを見切る能力も戦士には要求される。


 さておき、教皇に俺のやってることは、まずバレないということなのだ。

 ――来た!


 彼女の顔の横に表示されたステータスを確認する。

 何か、おかしなスキルとかは……ある!


『種族:魂魄』? 『転移特典:呪縛』……前者はなんだか解らないが、後者はあからさまに怪しい。

 というか、どう見てもコレだ。


 転移特典ってことは、召喚された時に――おそらくは自称神によって――付与されたのだろう。

 俺が転生したときに、管理者によって『万事習得』を与えられたのと同じだ。


「こりゃあ……本人以外には、どうにもできない類か?」


 勇者から身を離し、再び剣を交える。

 そもそも特典をどうにかしようなんて、考えたこともない。

 なにしろ、自分にプラスになっているのは間違いないのだから。


 しかも、この世界の者にとっては明らかに上位者である『管理者』による処置なのだから、どうにかできるとも思えない。

 大体、あの謎空間で出会った管理者の圧倒的な存在感からして、今現在の俺でも足元にも及んでいないだろうことは解る。


 翻って、自称神がかつて管理者であったなら……今はまだ、かなり弱っているのか?

 アレが太古の戦いで殺されたとされる『悪神』なら、その可能性もあるか……。


 管理者の力は魔力だった気がする。

 ならば、自称神はなぜ瘴気を使っていた? ……魔力が使えないのか?


 あり得るか……。

 推測に推測を重ねても正解にたどり着けるとは思わないが、現状やってみるしか手はないな。


 まずは、勇者の特典が瘴気によって付与された可能性に賭けて浄化してみる。


「『浄化光』!」


 光属性の魔法が、辺り一面を照らし出す。

 ――残念ながら、勇者には特に影響はなさそうだ。

あ、でも教皇と御者には効果てきめんだったようで逃げ出している。


 まあ、これで邪魔をされることはなくなったから良しとしよう。

 さて、次は……。


「『俺がストップって言うまで、魔法使いまくってくれ』!」


 一万人分の魔力を吐き出させてみよう、と指示を出す。

 勇者は二度瞬きし、俺に向かってドカドカ魔法を撃ち始めた。

 上級相当の魔法を連発しているため、どんどん魔力が減っていく。


 それにしても、意識はあっても、わざと外すとかできないんだな……『空間結界』で防いでるから良いんだけど。

 ともあれ、十分もすると勇者の魔力が残り少なくなってくる。


「『ストップ』!」


 俺の声に従い、勇者は魔法を使うのをやめ、三度、剣での戦いに戻った。

『魔力感知』で確認したところ、現在の勇者の魔力は、おおむね人一人分――彼女自身の魔力のみが残っている状態だろう。


「『今の君は、自分の魔力だけになってる。光属性を使って、全力で呪縛を押しのけようとしてみてくれ』! ……上手く行ってくれよ」


 俺がそう言うと、勇者の体が光り始める。

 だが、剣を振るう動きに変化はない。

 徐々に魔力が減っているので、俺は『魔力操作』で彼女の魔力を補充していく。


 ――さて、何か効果が現れればいいんだが。

 ここまでは無双というほどのこともできていないから、どうにかきっかけだけでも掴みたいところだ。


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