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第二十三話 試行錯誤無双

 全てのバイコーンを『空間収納』に収め、王都に戻った俺は冒険者ギルドに向かった。

 あの五人組のことは黙っておくとして、上級の魔物でも強いといわれるバイコーンが、二十体もの群れで現れたことは伝えておく必要がある。


 幸い、俺はノマイン男爵家と懇意にしていることが知られていて信用もあるので、ギルドマスターとの面会申し込みもすんなりと進んだ。


「こいつは、確かに異常だね……」


 王都の女性ギルドマスター・レジーアは、魔物解体所でバイコーンの死体の山を前に、野性味のある美貌を歪め唸った。

 山での解体は、血抜きと素材にならない内蔵のみを処理したので、パッと見は生きている時と変わらない。


 それが二十体並んでいるのだから、山での一件を理解するには、これ以上ない説得力であろう。

 ついでに俺が遭遇しまくった中級の魔物も並べておけば、俺の運が良かったり悪かったりしたのかも確認できるかもしれない。


「やっぱり、上級冒険者が大量に長期依頼で出ちまってるのが響いてるか……」

「そうなんですか?」


 レジーアのつぶやきに問いかけると、彼女は現状を説明してくれた。

 それによると、他国で上級冒険者を対象とした高額の長期依頼が出ているとかで、多くの上級者が王都から出てしまっているそうだ。


 その結果、中級・初級が狩るような魔物は通常通りだが、上級が狩るクラスの魔物は減らず、今回の事態につながったのではないか、というのがレジーアの考えである。


「……ソーラ。このバイコーン、どこにも傷がないが、どうやって倒したんだい?」

「それは秘密です」


 まあ、解体した時に割いた腹以外、傷らしい傷がなければ疑問に思うのは当然だろう。

 だが、冒険者としては「切り札を教えろ」と言われて話すわけがないのもまた、当然のことだ。


「じゃあ、質問を変える。この数を一人で、それも短時間で倒せるんだね?」

「ええ」


 今度は俺の力量自体に切り込んできたが、これは誤魔化す必要もないため、イエスと答える。

 ここまで来ると、次の展開も読めるなあ……。


「よし。なら、緊急事態への対処、その報酬として三千の貢献ポイントを付与する。これで、あんたは上級に昇級だ」


 レジーアは、あからさまにギルドマスターの職権を濫用すると宣言した。

 三千のポイントが加われば、男爵の護衛+魔石細工で得た三千九百ポイントと、もともと溜まっていた三千七百ポイントで、合計、一万六百ポイントになるから、確かに上級に届く。


「じゃあ、俺がやるのは間引きですか」

「そうさ、ギルドマスターからの指名依頼だよ。報酬は期待してくれていい」


 俺の推測に、レジーアはニヤリと笑ってそう答えた。



 第三王子たちの依頼を請けている上に冒険者ギルドからの依頼まで請けて大丈夫なのか? と思うだろうが、実際のところ、俺がやることはさほど変わらない。


 なにしろ魔石細工を作るためには良い魔石が必要で、より鮮やかな色味を持つのは、より強い魔物の魔石だからだ。

 個人的には低級な魔石も淡い色合いで好きだが、まあ、今回は王族からの依頼だから、お高い素材をふんだんに使った物も用意しておくべきだろう。


 ということで、俺は午前は魔物狩り、午後は魔石細工制作という生活を続けていた。

 それとともに上級冒険者にふさわしい装備も必要になり、ギルドマスターに紹介された工房にオーダーメイドを頼んでいる。


 今回の作ってもらう装備は、バイコーンの素材がメイン。

 一部の魔物は角や牙、爪などが合金の素材として扱われる。

 バイコーンは角がそれで、十本もあれば一人分のフルプレートが作れるという。


 俺の場合はバイコーンの皮を用いた金属との合成鎧となるので、五本もあれば十分すぎるそうな。

 では残りの角はどう使うのか? というと――新たな武器だ。


 バイコーンの角は攻撃時に用いられるが、歯状と言われる植物の葉のような形のそれは、魔力を込めると高速で振動する性質を持っている。


 長さ五十センチもの高速振動するノコギリのような角での攻撃は、金属鎧すら薄紙のようにあっさりと貫通・両断する。

 レベルの高い上級冒険者でも決して油断できない相手なのは、この角があるからなのだ。


 では、その角を人間用の武器にすればいいんじゃないか? と誰もが考えた。

 ところが、今に至るまで使える武器になった例はない。


 なぜかというと答えは単純で、「人間が持つ魔力では足りない」のだ。

 なにしろ上級の魔物は、人間の数十倍の魔力を持っているのだから、そんな魔物が使う攻撃に消費される魔力が少ない訳がない。


 しかも魔力の供給を補うためには高価な――上級以上の魔石を使い捨てにする必要があり、形にはなっても恐ろしいランニングコストがかかるのだ。


 畢竟、バイコーンの角を使った武器は、恐ろしく使い勝手の悪い物になってしまう。

 ――だが、ここで例外があった。


 何を隠そう、俺だ。

 俺の魔力量は、何年にも渡る魔力吸収のおかげで、現在では並の人間の十二万倍ほどにまで増えている。


 大人の魔力がソフトボール大なのに対して、俺は直径四メートルくらいあるのだ。

 そりゃあ、上級の魔物素材の武器くらい、なんてことなく機能させられるわ。


 この事実を知った工房の親方は狂喜乱舞し、お蔵入りになっていた武器の計画を持ち出した。

 それは、バイコーンの角合金を用いた高速振動剣。


 そこに俺が使う武器である刀の形状を取り入れ、俺が十全に使える長さと重さを測定。

 ――ここに高速振動剣を超える、高速振動大太刀の製造計画がスタートしたのである!


 ……いや、他の装備もちゃんと作ってね?



 一方、魔石細工だが、現在は魔石の融合に苦労している。

 というのも、単純にくっつけるだけならなんてことなくできるのだが、接合部を目立たなくするのが難しい。


 これまでは、パーツごとに違う色を使ってくっつけていたため問題なかった。

 言ってみればプラモデルみたいなものだ。


 これを徐々に色を変えるグラデーションにしたり、同種の魔物でも個体によってほんの少しずつ色の違う魔石をキレイにくっつけたりしたいのだが……。


少しずつ厚みを変えたり、ミルフィーユ構造にしてみたりもしたがしっくりこない。


「うーむ……厚み、混ぜる……うーん、ん?」


 混ぜることを考えながら魔石を変形させていると、ふとアウラお嬢様との話を思い出した。


「魔石は魔力の塊……なら、散ってしまわないように液体に近いところまで柔らかくさせられる、か」


 魔石の色の違いは魔物の持つ属性の違いの表れでもあるので、色違いを複数変形させるときは、それぞれの属性に合う魔力を放出する必要がある。


 基本である無属性で『魔力操作』を行い、徐々に魔石を柔らかくしてゆく。

 なんというか、氷を水にするような感じだ。


 そして融合させたい部分だけを接触させ、自然に混ざるに任せる。

 すると――。


「おお!」


 絵の具を水で溶かしたようなグラデーションが生まれた。

 まだ狙ったとおりに制御できているわけではないが、少し頑張れば、ある程度は意図したグラデーションが作れるようになりそうだ。


 これなら魔石細工での無双も、まだまだ続けられるであろう。

 融合した魔石を見つめながら、俺は一人ほくそ笑んだ。


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