第二十四話 鍛冶師無双
第三王子たちの依頼を請けて三週間、ギルドマスター・レジーアの間引き依頼を請けて二週間が経過。
その間、俺は魔物を狩っては魔石細工の練度を高めるべく、制作を続けた。
その結果、おおむね思い通りのグラデーションと混色をできるようになり、作れる大きさ、色に幅ができたのだ。
これなら魔石でステンドグラスなんかも作れそうだわ。
それから新装備に関してだが、工房の親方が他の依頼そっちのけで集中してしまったため、高速振動大太刀が完成したそうだ。
ということで、俺は今、工房へと向かっている。
「こんにちはー」
「おう、来たなソーラ! 見ろ、これを!」
店の入口をくぐるなり、親方に物凄い勢いで駆けよられ応対された。
待ち構えてたの?
親方の指し示す場所に目を向けると、カウンターの上に一振りの大太刀が置かれていた。
刃渡り百二十センチ、幅十センチ、厚み二センチのその大太刀は、バイコーンの皮で鞘と柄が拵えられ、紫がかった黒に統一されている。
鞘の先端と柄頭は魔物合金製で、これもバイコーンを思わせる紫がかった銀色。
鞘から抜き放てば、鈍色の刃が現れた。
硬度の違う何種もの魔物合金で構成された刀身は、場所によって濃度の異なる紫銀。
刃と峰は明るく、地は暗く濃い色合いで、刃紋はバイコーンの角のごとくギザギザと尖っていた。
切っ先から五十センチほどは、いわゆる小烏丸造りで両刃になっており、突くことも想定されている。
刃紋の形もあって、より一層バイコーンの角のように感じられた。
――よく切れそう。
それが一見して受けた、俺の印象だ。
「……どうだ?」
「試し切りをしたいね」
ためつすがめつ大太刀を検める俺に痺れを切らしたのか、親方が問いかけてきた。
それに対する答えは当然、使ってみる、だ。
「おう! 裏に行くぞ!」
親方に先導され、工房の裏庭に移動する。
ここは普段から試し切りをするためのスペースとして使われているそうだ。
「こいつを使え」
親方がそう指示したのは、木の台座に吊り下げられた金属鎧が二つ。
いきなり金属を切ってみせろとは……。
しかし、それほどの自信がある、ということか。
「了解」
しばらく型を繰り返し、リーチや振り回され方を確認する。
そして大太刀を上段に構えた。
まずは素の状態での威力を確認しよう。
「フッ」
左足を軸に踏み込み、呼気とともに右足を地面に叩きつけ――同時に、大太刀を一息に振る。
標的に刃が接触する直前から思い切り「引き切り」、大太刀が地面に最接近する頃には、切っ先までが滑るように通過。
――その結果は。
「おお……」
キィン――という甲高い音とともに、試し切りの的となった金属鎧は、袈裟懸けに両断された。
親方も思わずといった様子で感嘆の声を漏らす。
「次だ!」
親方の声に頷き、再び大太刀を上段に構える。
今度はここから魔力を流し込むのだ。
すると……。
――リィイイイイ。
俺の魔力が刃全体に行き渡った途端、鈴のような高い、しかし心地よい音が鳴り始めた。
それと同時に、僅かな振動が柄に伝わってくる。
どうやら、しっかり振動しているようだ。
程々の魔力を注いだところで、一定の放出量になるように調節。
これでも並の大人の十倍程度は常時魔力を消費し続けているが、俺にとっては微々たる量だ。
回復する魔力と消費する魔力では、回復する量のほうが多い。
ということで、この状態なら常に振動させ続けられるだろう。
若干、収まりきらなかった魔力が刃の表面で飛び散り、紫電を奔らせる。
頃合いだ。
「フッ」
再び振り切られた大太刀は、確かに鎧を捕らえた――しかし、接触音は聞こえなかった。
それどころか、鎧も切れているようには見えない。
だが――俺の顔に浮かぶのは、会心の笑みだった。
「こいつは、すごい」
感想を口にするとともに残心を解いて魔力を霧散させ、大太刀の振動を止める。
呆然とする親方から鞘を受け取り、刃を収めた。
ハバキが鯉口に接触する音が響く。
――標的となった金属の鎧は、そこで、ようやく思い出したかのように斜めに、ゆっくりとずれていった。
「……ぉ、……おぉ、……おおおおおぉ!!」
ようやく事態を理解した親方が、全力で吠える。
自分の作った物が思った通りの結果を出したのだから、さもありなん。
一方、俺も久しぶりの実感に歓喜していた。
その理由は――。
【名前:ソーラ 種族:人族 レベル:82
所持スキル:魔力操作10 魔力感知10 七属性魔法10 空間属性魔法9 魔力増大10 魔力回復10 回復魔法10 調合10 木工10 投擲10 弓術8 皮加工9 気配察知10 隠身10 剣術9 体術8 金属加工4 刀術1
転生特典:万事習得】
見ての通り、『刀術』のスキルを習得できたのだ。
ここ最近は、レベルは上がってもスキルにはあまり成長が見られなかったし、新たなスキルも得られていなかった。
というのも、なんとか『刀術』が得られないか……と、刀でばかり戦っていたからだ。
もちろん大物や多数相手のときは魔法も使ったが、これまでより疎かになっていた感は否めない。
魔法も空間属性を極めれば、また新たな属性が出てくるんじゃないかと期待しているので、これからはもう少し使う頻度を上げていこうと思う。
が、まあ、今は親方とともに、自分の成長を喜んでおこう。
◇
「ワシの名はベルム。見ての通り、ドワーフ族だ」
大騒ぎする親方に、周辺の住民までが「何事か」と見にくるなんて事態になったりもしたが、しばらくして落ち着いた親方は、改めて俺に自己紹介をした。
冒険者ギルドのギルドマスター・レジーアに紹介されたときから今まで『親方』としか聞いていなかったし、ちょっと背が低くてガッシリした髭のおじさんだとは思ったけど、特に問題もなかったから気にしていなかったが……ドワーフだったんだなあ。
「それで、だ。ソーラには、この大太刀の『銘』をつけてほしい」
ひときわ真面目な顔になったベルム親方は、出し抜けに、そう要請してきた。
「そりゃ光栄ですけど……親方、ベルムさん初の魔導剣じゃないですか。自分で名付けたほうが良いのでは?」
「いいや、こいつはワシとお前さんのアイデアの結晶であり、お前さん専用の武器だ。これから苦楽を共にする相棒として……ソーラ、お前さんに頼みたい」
驚き戸惑い遠慮する俺に、親方はキッパリと頼むと言いきった。
――さすがに、これを断ることは出来ないな。
「わかりました。この大太刀の『銘』、俺がつけさせていただきます」
俺の答えに、満面の笑みで頷くベルム親方。
親方の名に恥じぬ、良い『銘』を考えないとな……。
「…………『震電』」
「よし! この大太刀の『銘』は『震電』とする!」
俺の命名を受け、親方が叫ぶ。
いやあ、今日は本当に親方に無双されたな。




