(閑話)喉が渇きました
喉が渇いた。
暑くて仕方ないのに、ベンシード伯爵邸ではお茶も飲めなかった。長閑すぎる景色が広がり、しばらく皇女が立ち寄れる場所など無さそうだ。
今日は侍女を連れて来てないから、私に飲み物を用意してくれる人がいない。日帰りだからと夏の馬車を甘く見ていた。
帝都まで我慢するしかないのか。それなりに汗もかいてるから、脱水にならないか不安だ。
身体が持たなそうなら……申し訳ないけれど、農家でも何でも立ち寄らせてもらおう。
「………」
カインが椅子の下から何かを取り出した。よく騎士が携帯している木製の水筒だ。
う、羨ましい!まさか喉カラッカラの私の前で飲む気じゃ…!と思っていたら、こちらに差し出された。
「……いいの?これ、カインの物でしょう」
「はい」
カインも喉が渇いてるはずだ。……けれど、私も相当喉が渇いている。お言葉に甘えて、少しだけ貰おう。
受け取った水筒にカップなどは無く、直接飲むタイプの物だった。重みがあり、まだ一口も飲まれてないと分かる。
慣れない飲み口に戸惑いながらも、水を頂く。
……おいしい!!
大して冷たくもないのに、身体が欲していたからか本当に美味しく感じる。喉が潤う感覚につい飲み過ぎてしまう。
困った。少しどころか半分以上飲んでしまった。欲求に素直すぎる自分が恨めしい。
勢い余って口から溢れた水を拭いながら水筒を返す。本当に申し訳ない。
「ご、ごめんなさい。飲みすぎたわ」
「………」
カインが水筒を受け取り、そのまま残りを飲み干した。すぐ無くなったのが分かる。申し訳なさに肩を縮こめた。
……あれ?
今、私が口をつけた水をカインが飲んだ。私が口づけた飲み口に、カインが…………。
フツフツと、顔に、全身に熱がこみ上げる。
私、今、カインが!だって、口が、カインの!!!
頭が大混乱を起こしている。想像すれば分かった事なのに!なぜ気づかなかったのか!
カインは平然としているのがまた悔しい。
羞恥に濡れる目で睨んでいると、彼がまた何かを取り出した。2本目の水筒だ。
2本あったのなら最初に言って欲しい!!返す必要なかった!!
耐えられず顔を覆う。
「………」
何を思ったのか、また水筒を差し出してくれた。
そりゃまだ喉は乾いている。けれどカインの事を考えれば、全部飲むなんて出来ない。
そしたらまた…口が…私の、カインが…口を……!!
「飲める訳ないでしょぉーーー!!!!!!!」
回し飲みの経験なんてない、箱入り皇女様です。




