(閑話)男だらけの談話室
ハリー視点です。
「エアラント王国の件では、ミアが世話になったようだな」
「………」
父上がカインに話しかける。既にワイングラスを3回も空けた後だ。
少し前は政略結婚させようとしていた娘の恋愛結婚、何をそこまで落ち込んでいるのやら。
「道中での話を聞かせてくれるか」
「…報告の通りです」
「ふむ。報告は受けているが、ミアの事について聞きたい」
「はい。マルポータ子爵領内の襲撃では待ち伏せ地点手前で馬車を止めたため、殿下は火炎瓶が投げられるより先に…」
カインが襲撃時のミアの動きや様子について語り出した。僕は難しい話は苦手なので右から左へ聞き流す。こういうのは得意な人間に任せればいい。
おそらく父上も違う内容を聞きたいのだろうけれど、放っておく。
このチーズ、なかなか深みがあって美味い。ワインに合うな。
「待て、その話はもう良い」
「はい」
「カイン、お前とミアの事を聞きたいのだ」
「………」
今度はカインが黙り込む。あまり喋らない事は知っているけれど、まさか皇帝を無視はしないだろう。どう答えるか考えてるのかな。
それにしても美味いチーズだ。パンケット領の物か。僕の部屋にも用意させよう。
「父上はお前とミアの馴れ初めを聞きたいのだよ」
サミュエル兄さんが口を挟んだ。そして最後の一切れを取られる。
「………」
まだ答えが返ってこない。表情は変わらないから、照れてる訳ではなさそうだ。
甘い物が欲しくなったのでチョコレートに手を伸ばす。
「つり橋効果です」
一瞬場が固まった。つり?何だ?
言葉を発したカイン本人は、これ以上続くものも無いのかワインを口にしている。失礼にならないよう飲んだだけで、好きでもなさそうだ。
「えっと、ミアと川釣りにでも行ったの?」
「いいえ。心理効果の事です」
「心理効果って?」
「…ミア皇女殿下は、襲撃による緊張を異性への興奮と混同したと思われます」
「へぇ、そんな事あるんだ」
そうかそうか…って、いやいや。馴れ初めを聞いていたはずだよね?
まぁ馴れ初めも何故二人が恋仲になったかを聞くものだから、彼は結論を先に言ったとも取れるか。
驚いた。カインには話を膨らませる気も楽しむ気も無いようだ。
頑張って話しかけていた父上が言葉を失っている。
サミュエル兄さんが吹き出した。
「カイン、次はお前がミアを好きな理由について説明してみろ」
兄さんの問いにカインが端的に答える。無感情に答える様は、恋心を語ってるとは到底思えない。
次々と質問が繰り返され、そのうち話が政治的なものへと移った。
「では我が国軍とキトル公国軍を比較した場合はどうだ」
「圧倒的優位ですが、東方部族との結びつきは軽視出来ません」
また僕は右から左へ聞き流す時間となってしまった。父上は母上似のミアを思って一人で落ち込んでいる。
もはやこの場を楽しんでるのは、サミュエル兄さんだけだ。
そのまま時間だけが過ぎ、父上は呑み過ぎて痛む頭を抑えて、兄さんはカインという新しいオモチャを見つけて、僕は美味しいチーズの銘柄を控えて、会はお開きとなった。