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認めざるをえません(2)


「どうして教えてくれなかったのですか!」


 シャーロット姉様に詰め寄る。けれど迫力は無いだろう。ずっと話を聞きたかったのに随分と日が経ってしまったから、当初の勢いは無くなっている。

 婚約披露を行うはずだった日から、1週間以上過ぎていた。


 あの日、シャーロット姉様とアルバート王太子とが婚約者として現れ、会場は騒然とした。けれど誰も、婚約破棄を進めた人達さえもが素知らぬ振りで、非難の声は一切出なかった。根回しされていたのだ。


 王太子の婚約破棄など無かった、ライアン王子の婚約など無かったと、国中の貴族へ知らしめた形だ。

 私は独立式典や結婚式へ出席する国賓という扱いとなった。


 王太子の婚約者に戻ったお姉様は忙しく、今日この日まで個人的な話をする機会が得られなかった。

 純白のドレスに包まれたお姉様が振り返る。私には合わなかったそれは、お姉様のサイズで作られていた。

 結婚式前にほんの少し空いた時間、待合室で控えている。


「最初に言っただろう。全て上手くいくから心配いらないと」


 お姉様の言葉に首をひねる。そんな事言われただろうか。

 もし言われていたとしても、他の言動からお姉様がわざと事を隠していたのは明らかだ。


「シャーロット姉様……」

「おや。そんな可愛い顔で見つめないでくれ」

「ちゃんと答えてください」


 これ以上ないほど頰を膨らませる。お姉様が小声でリスみたいだと笑った。


「最初はこうなる確信が無かった。途中で伝えようと思ったけれど、気が変わった」

「気を変えないでください!」

「はは、そう言うな。何も知らなかったから気づけた事もあるんじゃないか?」

「気づけた事?」


 何かあっただろうか。考えを巡らせるも、何も浮かばない。


「なんだ、まだ気づいてないのか」

「何のことです?」


 シャーロット姉様が楽しそうに笑う。私は怒ってるのに!単に話を誤魔化されてる気がする。


「ミア、ライアン王子との結婚は嬉しかったか?」

「こんな急に決められた結婚、嬉しいはずありません」

「相手はあのライアンだぞ。大抵の女は急だろうが何だろうが、大喜びだ」

「そ、それはそうでしょうけど……素敵すぎて落ち着きません」

「じゃあ誰の隣なら落ち着くんだ」


 お姉様が目を細めた。

 誰の隣と言われて、思い浮かぶ顔がある。


「落ち着くと言いながら、胸が高鳴ったり上手く話せなくなったりした事はないか」


 胸を指で軽く押された。


「結婚を目前に誰のことを考えた。何を思った」


 何も答えられない。


 馬車で王都へ向かっていた時の事を思い出す。お姉様は出来る限り、ライアン王子に私をエスコートさせなかった。それなら普通ユアンが代わりを務めるところ、誰にやらせていた。


「シャーロット皇女殿下。お時間です」


 侍女が扉で呼んでいる。お姉様は黙り込んだ私の頭を撫でて、部屋を出た。

 私も式場へ移動する。


 エアラント王室と縁深い教会は大きくも小さくもなく、歴史を感じる落ち着いた雰囲気だった。天井から放射状に伸びる柱は神の祝福を表しているようだ。


 身長の倍ほどある長いベールを引きながらお姉様が入場し、アルバート王太子が微笑み受け入れる。

 式は厳かに進行され、二人は愛を誓い合った。誓いのキスが少し長過ぎるように感じたけれど、そこはご愛嬌。


 ステンドグラスの光を受けながら寄り添う二人は、とても幸せそうだ。私もあんな結婚をしたい。

 傍らに立つ人を見上げる。気配に聡い彼はすぐに気づき、目が合った。真っ直ぐな瞳に吸い込まれそうになる。


 今までは、望まぬ政略結婚とはいえ婚約者がいた。それが枷となって気持ちを押し込めていた。自由の身となった今、認めずにはいられない。



 ーー私はカインが好きなのだ。



 何を考えてるか分からないこの男に、そばにいて欲しい。いつかのように抱きしめて、そのまま離さないで欲しい。

 顔に熱が集まる。何を考えてるのだろう。恥ずかしい事ばかり浮かんでくる。


 カインの腕に触れる。

 この気持ちを伝えたくて仕方ない。全て伝えたら、彼はどんな顔をするのだろう。少しは表情が変わるだろうか。


「カイン…」

「はい」


 胸から湧き上がる想いが喉元まで来て、息が止まりそうになる。全て出したいのに、口が上手く動いてくれない。


「あの……」

「………」


 どんどん熱が渦巻いて、涙が出てきた。

 カインの瞳を見ていられなくなり、視線を落とす。


「…………い、良い天気ね」


 やっと出てきたのは、言いたかった事とは別の言葉だった。


 外で大きな歓声が上がる。シャーロット姉様が王国民から祝福を受けていた。婚約破棄の騒動があったなど嘘のようだ。

 カインも外に目を向けたのを感じる。


「はい」


 今日は本当によく晴れていた。





前半おわりです。後半は恋愛要素を増して行きます。

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サミュエル様の話は こちら


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屍辺境伯と時の魔術師
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