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(閑話)初恋は実らない?

アルバート王太子視点です。



 彼女と初めて会ったのは5歳の時だ。


 夏も盛りの暑い頃、婚約のため皇城へ上がった。しかし、応接室に案内されてから随分と放置されていた。お相手の皇女が来ないのだ。

 それなりに行儀を教えられていても、まだ幼かった。暇を持て余し、部屋から勝手に抜けて庭へ出た。


 抜け出したと言っても一人ではない。エアラント王国の第一王子という身分上、必ず護衛が付いて回る。これを撒くのがこの頃のマイブームだったが、やめておいた。


 皇城は王宮より大分広く、庭園は様々な景色があった。その一つとして小川を見つける。

 先客がいた。女の子だ。俺と同じ様に、いやそれ以上に護衛を引き連れている。


 彼女は小川に素足をつけ、水を豪快に跳ねさせて遊んでいた。


「楽しそうだね」


 気軽に話しかける。本当なら見なかった事にして立ち去るべきだけれど、お互い子供だからとマナーは無視した。

 暑くて、難しい事は考えたくなかったのもある。王国より北とはいえ、真夏の太陽は容赦なく照りつけていた。


 彼女が振り返る。晴れ渡る夏の空を映したような瞳と目があった。

 麦の穂のような黄金色の髪が、その周りを囲むように散る小さな水滴が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いた。

 陽の下で遊んでいるのが不釣り合いなほど白い肌に、暑さに染まる頰、桃のような薄紅色の小さな唇。

 幼心に、天使のように可愛いなと思った。


「楽しいよ!」


 くしゃりと笑うとなお可愛い…なんて思ってたら水をぶっかけられた。


「あはははは」


 濡れた姿が面白いのか豪快に笑われる。


「よし、そこで待ってろ!」


 小川の水は存外気持ち良かったが、やられてそのままにする俺ではない。

 青くなる護衛は放って、かけ寄りながら靴を脱いだ。足が水に浸かれば、一瞬夏の暑さを忘れる。


 水を蹴り上げ彼女に飛ばした。彼女も負けじと蹴り上げるので、お互い全身水浸しになる。

 立場上、遠慮されずに一緒に遊べる人間はこれまでいなかった。二人で笑い、遊び、終いには疲れて川辺に寝そべった。


 彼女がアルメリア皇国の第一皇女シャーロットと知ったのは、父上の鉄拳をくらってからだった。


 シャーロットは相当やんちゃだった。二人で色々やった。

 本で身長の3倍を超えるタワーを作り崩れて潰されたり、生まれたばかりの皇女の顔に落書きしたり、塔の屋根に登り彫像を壊したり。




「アルバート!勝負しよう!」


 練習用の剣を投げつけられた。

 10歳頃になって、シャーロットは男の子のような振る舞いが増えた。


「いいけど、シャーロットは剣が扱えるのか?」

「サミュエル兄様が剣術の先生を倒したんだ!だから妹の私にも出来る!」

「えっと、これが初めてってこと?」

「他に相手してくれる人なんていないもん」


 そう言いながら構えはかなり様になっていた。たぶん才能がある。

 彼女の気がすむまで相手をすれば、日が暮れてしまった。


「やったー!アルバートに勝ったー!」

「まった!砂で目潰しは卑怯だ!ノーカウント!」

「ふふん。使えるものは全て使う!戦場に卑怯も何も無いのだよ」


 自慢げな姿が可愛かったので、許して降参してあげた。次はやり返して負かしたけれど。




 彼女が王国へ来た時は、必ずと言って良いほど護衛を撒いて城下町へ降りた。

 二人とも目立つ容姿だが、帽子で髪を隠せばわりとバレなかった。


 シャーロットは美人で俺も顔はいい方だから、よくサービスされる。

 多めにもらった串焼きを二人で食べてた時、彼女の口元にソースがついたから舐めとってあげた。


「なっ?!はっ…ぁ?」


 シャーロットの顔がみるみる赤く染まる。悪戯が成功したとばかりの笑顔を向けた。


「思ったより可愛い反応だ」

「お、思ったよりってなんだ!」

「じゃあ、想像通り可愛い」


 腰を引き寄せる。彼女はだんだんと女性らしい身体つきになっていた。俺もまあ成長していたから、同じくらいだった身長は頭一つ分大きくなっていた。


 覆い被さるようにして唇を奪う。串焼きの味のはずが、やたら甘い。

 長く味わい過ぎたのか、シャーロットの身体から力が抜けてしまった。抱きとめ、潤んだ瞳で睨む彼女を撫でる。


「ま、まだ婚姻前だぞ」

「二人だけの秘密だ」

「……ばか」




 そして今、彼女との婚約が無かった事になってしまった。

 父上も俺も外ばかり見て、内が疎かになっていたみたいだ。独立を前にこの有様じゃ、シャーロットに笑われる。


 いや、泣かれるか。あれで意外と泣き虫だからな。昔はよく、何をしても兄のサミュエル皇子に敵わないと泣いていた。

 今だって本質は変わらない。不遜な態度は弱い自分を見せたくないからだ。


 しばらくしてシャーロットから手紙が届いた。


『まさかこのまま別れるつもりじゃないだろうな。私の方が剣の扱いが上手い事を忘れるなよ』


 剣は俺の方が上手いだろ。そこは譲らないけれど、このまま別れる気はもちろんない。

 頭が硬くて私利私欲にまみれた奴らを丸め込むのは骨が折れるが、ライアンにも手伝わせて何とかしよう。


 心置きなく、俺の可愛いシャーロットを迎えるために。



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サミュエル様の話は こちら


亀更新ですが新連載始めました!
屍辺境伯と時の魔術師
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