表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/42

不条理です

 雲一つない空を突き刺すように、白壁の王宮がそびえ立つ。濃いグレーの皇城と違い、空の青によく映えるお城だ。

 そのお城に向かって伸びる石畳を馬車が進む。


「ミア、口が開いてるよ」


 目の前に座る人物に注意され、慌てて口を閉じた。

 ライアン王子でもマリーでもない。女性騎士の制服を着た彼女は、騎士でもない。


「そんな面白いものかな。皇城より大分小さいだろう」

「はい。でも皇城以外のお城は初めて見たので、少し感動しました」

「そうか。ミアは皇国から出た事がなかったな」


 そう言って目尻を下げる顔は見慣れたもので、とても居心地が良い。相手がライアン王子だったら、こうはいかないなと思う。


 1週間前、用意された新しい馬車と一緒に何故か女性騎士の姿があった。女性騎士は数が少なく、皇后であるお母様にしか付いていないので驚いた。

 私に向かって手を振るのでよく見ると、彼女は騎士ではなく、騎士の様に剣や馬を操るシャーロット姉様、第一皇女その人だった。

 その時も今も、目の前にお姉様がいるのが不思議でならない。


「どうした?」

「いえ、不思議だなって。こうしてお姉様とエアラント王国へ来ているなんて」

「私も不思議だよ」


 お姉様が窓の外を眺める。穏やかな横顔だ。

 私と違って何度か王国へ来ているから、新鮮さより懐かしさが勝るのかも知れない。


「何故いらしたかは、やっぱり教えてくれないのですか?」

「ミアが心配だったからだよ」

「もう。嘘ばっかり」


 はぐらかされ、頰を膨らませる。

 お姉様は馬車は使わず、荷物も護衛も少なく馬で駆けて来た。私が最初に襲われた時に皇城を出たなら合流が遅すぎ、次に襲われた時なら合流が速すぎる。それに、襲撃の首謀者が捕まっても関係なく付いて来た。

 何か理由があるはずだけれど、見当もつかない。


「間も無く着きますね」


 マリーに言われて見ると、馬車は城門をくぐっていた。すぐに王宮正面へつけられる。


 お姉様がカインに目配せし、私は彼のエスコートで馬車を降りた。本来は後ろの馬車に乗ってるライアン王子を待ち、エスコートされるところだ。お姉様によってずっと阻まれている。

 そもそも馬車にだってライアン王子と乗るべきなのに、お姉様が私と乗ると言って引かなかった。

 お姉様はライアン王子が嫌いなのかと思うも、二人が話している様子はいたって普通だ。


 ライアン王子が馬車から降り、ようやく彼にエスコートされ王宮へ入る。


「申し訳ありません、ライアン殿下」

「いいえ。ミア皇女殿下が気に病むことはありません」


 微笑まれ、つい目を眇める。今日もお美しい。例によって胸が高鳴り痛くなる。慣れない。


 ライアン王子と出会って1週間。ほとんどお姉様に邪魔され、あまりお話できていない。嫁ぐ前に姉といられるのは嬉しかったけれど、結婚する相手をよく知らないままなのは違和感がある。

 婚約延期についてのお父様の返事は、やはり否だった。このまま彼と婚約披露、そして結婚してしまうのだろうか。


 王宮のホールへ上がると、出迎えがあった。


「ようこそ、シャーロット。ミア皇女殿下」


 お姉様を呼び捨てにし私に敬称をつけるのは、アルバート王太子だ。くせのある髪は、王族の証と言うように銀色に輝いている。


 順番としてお姉様の次に挨拶をするだろうと心積もりしていると、目の前で繰り広げられた光景にギョッとした。

 王太子とお姉様が抱擁を交わしたのだ。同じ色の瞳で見つめ合う姿は、恋人同士のそれでしかない。


「なかなか会えなくて、寂しい思いをさせたね」

「全てアルバートが不甲斐ないせいだ。いま償え」


 額にキスまでした!

 何なんだこれは。婚約解消した二人がこんな事してて良いのか。

 周囲を見渡すと、誰も彼も視線を落とし、二人を見ない振りしている。私もそれに倣った。


 シャーロット姉様達は、変わらず想い合っていたのだなと思う。それはそうか。二人の積み重ねてきた時間が急に失われる事はない。

 なぜこの二人が結ばれず、お互いを知らない私達が結婚するのだろう。


 王宮に着いてから、お姉様が私といる時間はがくんと減った。アルバート王太子といるのだ。もしかしたら、最後に彼と会うために来たのかも知れない。


 私はというと、ライアン王子といられる訳ではない。婚約披露や結婚式に向けて何かと準備に追われている。

 驚いた事に、用意されたウェディングドレスのサイズが全然合っていなかった。特にむ………いや、とにかく、急ぎ採寸を取って直す事となった。国を跨げば情報が正確に伝わらない事もあるのだろう。


 今日は明日の婚約披露に向けて、朝から衣装合わせ、招待客の暗記、会場と段取りの確認などをして、もうヘトヘトだ。既に陽が落ちかけている。


 休憩がてら庭園を通って部屋へ戻ることにした。

 花々が初夏の空気を楽しむように咲き乱れ、応えるように風が吹き抜けた。

 空は黄色、橙、紫、藍とグラデーションを作っている。雲の隙間には陽の光が伸びて見え、とても綺麗だ。


 身体を伸ばし、胸いっぱいに空気を吸い込む。吐き出すと、身体に溜まった疲れが抜けるようだった。気持ちいい。

 ついに明日は婚約披露。それが終われば独立式典、忙しくしてる間にすぐ結婚式だろう。いよいよだ。


 婚約が正式に成されると、すぐに侍女や近衛騎士の人事が決められる。私と王国に移り住むのは今いる約半分。侍女が2名、近衛騎士が4名といったところだ。

 誰がついて来てくれるか考える。ユアンは出世を逃すけど、来てくれるだろう。マリーとヴィクターも。他は誰かな。


 周りを見る。一人になりたいと言ったから、いつかのように近くにいるのはカインだけだ。彼は一緒に来てくれるだろうか。


「ねぇ、カイン」

「はい」


 いつかと違い名前を呼んだから、返事がある。

 太陽を背にしていて髪の端が明るい。特別な美しさもないし、そんな色合いでもないのに、髪も瞳もきらめいて見えてしまう。


 鼓動がうるさいのは、疲れているから。頰が熱くなるのは、陽に照らされてるから。

 彼が来てくれたら、彼と一緒にいたら、私はどうなるんだろう。


「………」

「………」


 黙っていたら、ただ見つめ合うだけになる。

 目を逸らして、後ろを向いた。


「……何でもない」


 もう、カインとは一緒にいない方が良いかも知れない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


サミュエル様の話は こちら


亀更新ですが新連載始めました!
屍辺境伯と時の魔術師
〜亡くなった貴方と迎える幸せな結婚〜



― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ