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GUARDIANS・IN・IRON   作者: 寺野深一
第二章 波乱到来編
9/51

第8話 「入隊」

大変お待たせいたしました!

第8話、お届けします

 



 厳かな雰囲気で、睦戸は告げた。


「木崎優真訓練生。

 貴官が訓練過程を完了し、我が〈ASCF〉へ加入するに足る能力を得たことを認める。

 よって、只今を持って貴官の入隊を承認し、〈ASCF〉作戦実行部・特務一等尉として『レグルス9』のコールサインを与える」

「ハッ!」


 場所は、本部のあの執務室。

 俺と四ノ宮の前には、睦戸と阿多野が立つ。

 総勢四名のささやかな入隊式だ。


 支部で召集を受けた俺達は、また地下のモノレールを使って本部を訪れていた。

 案内された執務室で俺は睦戸と阿多野に再会する。

 今回はちゃんとした格好で、二人は俺の入隊承認と四ノ宮の昇級が理由で呼んだことを教えてくれた。

 たった一ヶ月と二週間の育成期間で、彼らは俺を迎え入れてくれることを認めてくれたのだ。

 とても嬉しいことだ。

 それだけ、俺の実力を買ってくれているということだからな。

 辛くても努力したかいがあった。


 睦戸は任命書と隊服を持って、俺の前へ歩み寄った。


「これからも励めよ」

「はい!」


 恭しく俺はそれを受け取った。

 睦戸は続ける。


「入隊に伴い、貴官は関東第四方面支部所属・特務第六機甲小隊への配属となる。

 同時に、無期限任務として貴官を新造試験機アイロンガーディアン、コードネーム〔ヴァイツ〕の専属パイロットに任命する。

 この任務は今後の対エネミス作戦に置いて非常に重要な役割を担うこととなる。

 その自覚と責任を持って今後の活動に勤しむように。

 …………入隊おめでとう、木崎優真特務一尉」


 睦戸はよく通る渋いバリトンでそういうと、両足を揃え右手を額にあてた。

 その表情は僅かに微笑んでいる。

 自然と俺も背筋を伸ばし、同じ姿勢をとった。

 威厳に溢れた、とても格好いい姿だ。

 俺もこんな男に成りたい、そんな憧れを抱く。

 睦戸が下がるのに合わせて、俺も四ノ宮の隣に戻る。


「続いて、四ノ宮特務曹長。前へ」

「ハッ!」


 阿多野が四ノ宮を呼んだ。

 四ノ宮は敬礼をし、前に出る。


 ふと見えた横顔に俺は違和感を覚える。

 その時、チラリと四ノ宮がこっちを見た。


 ―――――目が合う。


 こっちを見る目は一見真剣そうな顔つきだが、どこか変だ。

 何かがいつもと違う。

 その何かが分からないまま、四ノ宮の顔は後ろ姿に隠れてしまった。

 緊張しているのだろうか。


 睦戸が再び前に出る。


「四ノ宮光咲特務曹長。

 貴官が、担当訓練生であった木崎特務一尉の育成任務を完遂したことを認める。

 その功績を称え、ここに貴官の一階級昇進を認証し、貴官を特務二尉とする。

 引き続き、任務に励んでくれ」

「ハッ、了解であります!」

「配属は木崎特務一尉と同じく第四支部所属・第六小隊となる。

 互いに己の力を高めあい、精進せよ」


 そう締めくくり、睦戸は敬礼した。

 四ノ宮もそれに敬礼で応じる。


 そうか、同じところに配属されるのか。

 それも第六小隊、あの三人組と一緒の部隊だ。

 なら、余り緊張することも無いだろう。

 訓練の時も、時々彼らと会うことがあった。

 彼らなら既に俺が〔ヴァイツ〕に乗ると知っているだろうし、良い人事派遣だと思う。

 もちろん、俺にとっての話だけどな。


 四ノ宮が俺の隣に立つ。

 先程の違和感はもう感じられ無かった。

 いつもと同じ、快活な感じだ。

 俺の気のせいだったのかな。


 だと良いんだけど…………。



 ーーー



 その後は諸連絡があり、入隊に関する規則や予定等の説明を阿多野から受けた。


 一つ、俺が気になっていたことがある。

 高校のことだ。

 一応通う必要性はもう殆ど無い。

 俺は実質就職が決まったようなものだからな。

 なので、拓真や他の友人たちなど心残りはあるが、別に辞めること自体は構わないのだが………。


「――ああ、そのことなんだけどね。

 こちらは今まで通り、通い続けてもらいたい」


 通い続けても良いみたいだ。

 良かった、出来れば俺も辞めたくは無かったからな。


「高校は卒業しておいた方が良いよ。

 君がいつまでも戦い続けられる訳じゃないし、もしかしたら心変わりということもあるからね。

 それに、こちらに入るために学校を辞めさせたとなれば、上や周りからの印象も悪いというのもある」

「なるほど………。

 じゃあ、もし学校に行ってる間に出動要請があった場合はどうなるんですか?」

「抜けてきてもらうことになるかな。

 一時間以上戦い続けることは滅多に無いから、終わったあとに学校に戻ってもらっても構わない」


 ん?となると


「単位は大丈夫なんですか?」


 ほんの一瞬だけ阿多野の目が泳いだ。

 俺はそれを見逃さない。


「…………そこは安心していいよ。

 〈ASCF〉は政府の機関だと言えば納得してくれるかな」


 ちなみに俺が通う高校は国立です。


「…………大丈夫なんですか?」

「情報統制は完璧だ。

 マスコミでも組織の存在を知っているのは一握りだしね」


 …………。

 ま、まぁあまり深く聞かないでおこう。

 俺は知らなかった、ということにしておけばいい。


 まったく、本当に腹黒い男だな!阿多野は。


「君が学校のときは迎えを行かせるように手配してあるよ」

「〔ヴァイツ〕はどうするんです?」

「遠方の要請なら輸送機に積んで、空中でヘリから君をそちらに受け渡す予定だ。

 近くの場合は恐らく支部まで急行してもらうことになる。

 万が一君の街に襲撃があったなら、避難のドサクサに紛れて所定の位置まで来てくれ。

 直接〔ヴァイツ〕を射出することになるから確実に受け取ってくれよ?

 本当にそれは緊急手段だからね」

「了解です」

「………まぁ、それ以外にも()()()()手は考えてあるからね。

 とりあえずの所、君は安心してくれて大丈夫さ」


「いろいろ」のところに含みを感じたが、まぁいいだろう。

 手段はしっかり考えてくれてあるようだし、そういうことならお言葉に甘えて、俺は学校に行かせてもらおうかな。

 すると、阿多野は四ノ宮の方を向き、


「君の方も準備しておいてくれ。

 整い次第、実行してもらうことになるからね」

「了解しました。

 ………ですが、それは本当に必要事項なのですか?」

「もちろんさ、極めて重要な案件だよ」


 何の話をしているのだろう。

 主語が無い会話を聞くのは疎外感があって余り良い心地ではないな。

 話の感じから察するに任務の話のようだが。

 どこかウキウキとしている様に見える阿多野に対して、四ノ宮はやや訝しげな反応をしている。

 怪しいな、阿多野の企み事の匂いがするぞ。


「………もう少し詳しい説明を頂きたいのですが」

「それはまたの機会に、ね。

 代表や私も忙しい身なのでね」


 案の定阿多野はそう言って、はぐらかしてしまう。

 やはり何かあるな。

 追求を避けるように阿多野は会話を締めようとする。


「それでは、説明は以上だ。

 何か質問等はあるかい?」

「あの、詳しい説明を―――」

「無いようだね!

 それでは解散だ、お疲れ様。

 明日から任務に励んでくれ」


 四ノ宮の要求を握りつぶす阿多野。

 阿多野は強引に話を打ち切ると、有無を言わさない口調で解散を言い渡した。

 なにがなんでも押し通すつもりなのだろう。

 睦戸の方を見ると、こちらは呆れ顔だが特に何も言わない。

 仕方ない。

 これ以上の追求は無駄だろうな。

 ジトッとした目で四ノ宮は阿多野を見ていたが、やがて諦めたのか右手を額に当てると背を向けた。

 渋々といった感じで扉へ向かう四ノ宮に俺も続いた。


 ーーー


 四ノ宮は部屋を出ると、大きく溜息をついた。


「はぁ……まったくあの人は」

「いつもあんな感じなんだろ?

 俺ん時もなんか代表に変なことを吹き込んでたぞ」

「そうだね。

 私も数回しか会話したこと無いけど、基本的にいつもあんな風におちゃらけてるよ。

 副代表がアレで大丈夫なのかしら、この組織は………」


 多いに同感だね。

 四ノ宮も大変だな。

 すると四ノ宮はこちらを見て、


「それより木崎、貴方のコールサイン、『レグルス』ナンバーじゃない!」


 と、やや興奮気味に言った。


「それって凄いのか?」

「『レグルス』ナンバーは特務部隊でも特に突出した能力を持つ人だけ与えられるにナンバーなのよ!

 〈ASCF〉でも貴方を含めて10人しかいないんだから。

 たしかに〔ヴァイツ〕に選ばれたんだから、突然っちゃ突然なんだけど……それでも凄いことには変わりないよ!」

「そ、そうなのか」


 お、おう……なんか凄いもんもらっちゃったようだな。

 育てた訓練生の能力が高ければ、四ノ宮の実績に繋がるのだろう。

 俺の訓練をしただけで昇級というのも頷ける。


 そもそもそんなに俺の能力値って高かったのか。

 いくらテストパイロットやってたといっても、俺の能力なんて並か良いとこ平均より上かと思ってた。

 予想外の高評価に内心ビビってるのは内緒だ。


「ちなみに四ノ宮のコールサインは?」

「レグルス8よ」


 少し自慢げに薄い胸を張って四ノ宮は答えた。

 その姿は実に可愛らしいが、それもそうか。

 仮でも何でも無く彼女は〔ヴァイツ〕の前任パイロットだ。

 つまり、あの機体のシステムに選ばれた存在なのだ。

 彼女ほどの能力であれば、レグルスは当然の称号と言えよう。

 凄い存在なのだ、彼女は。

 そんな彼女の指導を受けられたのだから、俺はとても幸運なパイロットだ。


「部隊配属は明日からなんだけど……。

 今から挨拶に行く?」


 四ノ宮が聞いてきた。

 今の時間は17時34分。

 帰りもモノレールを使って良いと言われているし、支部から家も30分ほどしか掛からない。

 あまり遅くならないだろう。


「そうだな、行こう!」


 と気さくに答えた。


 ーーー



 後に、俺はその考えが甘かったことを知る。



 ーーーーーー

 ーーー

 ー




「「「「入隊おめでとう!!!」」」」



 モノレールから降りた俺達を待っていたのは大勢の支部に所属する隊員達だった。

 普段は上までしっかり締めている隊服も、今は皆一様に着崩している。


 ――何事だ!?


 一体なにがどうなっているのだろう。

 突然の出来事に目を白黒させている俺達を歓迎団はわっしょいわっしょいと連れて行く。

 俺と四ノ宮は為す術無く流れに身を任せるままに通路を練り歩く。

 行き先は、格納庫だ。


 天井が高く陸上競技場ほどの広さがあるそこは、普段はIGやら装備やらで散然としているのだが、今はちょっとしたパーティー会場と様変わりしていた。

 機材の変わりに設けられた複数の丸いテーブルにはオードブルや飲み物が並べられ、隊員達が談笑しながら自由に飲み食いしている。

 磨き上げられた床には濃い赤色のカーペットが敷かれていた。

 無骨な壁は明るい装飾が施され、いつもの質素な感じは欠片も感じられない。

 驚いたことに、端に寄せられたIGまでも、両手を広げカラフルな横断幕を持ち、装飾の一部と化している。

 頭部に巨大なパーティーハットまで乗せられている徹底様だ。

 いつもは司令や連絡が流される大きなスピーカーからは陽気なジャズポップのBGMが絶えず流れ、場の雰囲気を明るくしていた。

 天井には「木崎・四ノ宮隊員、配属おめでとう!!」の大きな文字が掛けられていた。


 楽しげな空気のパーティー会場は俺達が入った途端、さらに盛り上がりを見せた。

 みんなこちらに笑顔を向け、歓声や指笛が鳴り響く。

 促されるままに一段高くなったステージへ登ると、歓声は更に大きくなった。

 なんか有名人になった気分だ。

 ステージの上にいるアイドルとかって、いつもこの熱狂に晒されているのか。

 なんてどうでもいいことが頭に浮かぶ。

 四ノ宮もさっきから「えっ?……なに……どういう」という言葉になっていない不思議そうな声を上げている。

 俺達がステージへ上がったのを確認すると、マイクを持っているMCは高らかに声を上げた。


「さーて本日の主役の登場だ!

 みんな多いに騒げ!!

 今夜は、宴だぁぁぁ!!」

「「「「おおおおお!!!」」」」


 ここに至ってようやく俺も四ノ宮も事態を呑み込んだ。

 彼ら―恐らく第四支部所属の殆どの隊員―は俺と四ノ宮の配属に際してサプライズパーティーを開いてくれたのだ。

 本部召集のとこを事前に聞いていたのだろう。

 俺達が本部に呼ばれている間にパーティーの準備をして、何も知らない俺達が戻ってくるのを待っていたのだ。

 俺達に召集が掛かったのは15時頃だったから、僅か二時間ちょっとでここまで用意したのだ。

 凄い気合いの入れ様だ。


 ある程度して歓声が収まってくると、MCが再びマイクを構えた。


「せっかく盛り上がった所だが、まずは支部長殿の挨拶だ。

 一同、傾注せよ。

 ……支部長、よろしくお願いします」

「うむ」


 支部長と呼ばれた壮年の男がMCからマイクを受け取った。

 この人がこの支部のトップか。

 支部長がゆっくりと話し出した。


「さて………。

 ご存じの通り今日は、新たに我々の仲間となる木崎特務一尉と四ノ宮特務二尉の歓迎会だ。

 既に見知った者も多いと思うが、今夜が初となる者もいると思う。

 そして、彼らは今から我らが第四支部の戦友となる。

 これからともに戦っていくというのに、我々は互いにまだ知らないことばかりだ。

 今日という日はそのためにある。

 どういうことか、諸君らなら分かるな?」


 支部長はそこで一旦言葉を切る。

 静かにその言葉に耳をかたむける会場。

 場は一瞬、静謐で真剣な雰囲気に包まれる。

 僅かな時間で普段の張り詰めた気を戻したのだ。

 その様子は流石プロフェッショナルと言うべきか。

 そして、支部長は大きく言い放った。



「今夜は無礼講ということだ、存分に盛り上がれ諸君!!」

「「「「おおおおおおお!!!」」」」



 再び大歓声。

 ここの支部長はノリがいいな。

 隊員たちは先程の空気などどこ吹く風だ。

 会場は完全にどんちゃん騒ぎに戻っていた。


「支部長、ナイスな挨拶ありがとうございます!

 さーてそれじゃ、次はさっそく主役二人の挨拶といこうか!」


 といってMCはこちらにマイクを差し出してきた。

 おいおい、いきなり無茶振りかよ。

 四ノ宮は危険な空気を察知したのか、素早く俺の後ろに隠れてしまった。

 おいやめろ四ノ宮、背中を押すんじゃ無い。

 俺に押しつけようとぐいぐい背中を押し出す四ノ宮。

 いつの間にか俺は、マイクを握らされステージの中央まで押し出されていた。

 四ノ宮に恨みがましい視線を送るが、あの女は絶対に目を合わせようとしなかった。

 うぅ……周囲の視線が痛い……。

 場を盛り上げろという残酷な雰囲気が、眼下に分かりやすく満ちていた。

 明るく生きることをモットーにしている俺なのだが、こういうハイテンションで盛り上がるのは苦手なんだ……。

 しかしこれはやらなきゃいけないノリなのだろう。

 早く始めろとさっきから隊員達がせっつかしてくる。


 ……しょーがない、腹をくくるぞ。

 俺も男だ、やってやるさ!


「あ、どうもご紹介にあずかりました木崎です。

 え、えーと……今日はこのような場を設けていただきありがとうございました。

 皆で楽しめたらなと思ってます。

 新人なんで、至らないことも多いと思いますけどどうぞこれからよろしくお願いします……。

 じゃあ、盛り上がっていきましょう!」


 はい、チキりました。

 というか、いきなり盛り上がるなんて出来る訳ねーだろ。

 これが精一杯だわ。

 噛まなかっただけ褒めてくれよ。


 と思ったが、


「「「「おおおお!!」」」」


 と歓声が帰って来た。

 ぶっちゃけノリさえあればよかったらしい。

 安心した。

 どうだとばかりに四ノ宮にマイクを渡す。

 四ノ宮は渋面を作りながらも受け取り、さっきの俺とおなじ場所に立つ。

 そして、


「今日付けで配属されました四ノ宮です。

 これからよろしくお願いしますね!」


 とびっきりの笑顔を観衆へ向けた。


 ―――直後


「「「「うおおおおおおお!!!!」」」」


 会場が割れんばかりの大歓声に包まれた。

 たったよろしくといって笑みを浮かべただけで、隊員達(主に男性隊員)は今日一番の盛り上がりを見せている。

 美少女パワー凄ぇ……と戦慄する俺。

 そして、笑顔を見せただけでこの大盛況を生み出した、当の本人はというと、


「どうよ!」


 と、とびっきりのドヤ顔をこちらに向けてきた。

 頭半分低い位置にある端正な顔立ちは、してやったりといった表情が現れている。

 ちくしょう、そんなの反則だろと思うが、結果が離れすぎてて悔しさも沸いてこない。

 これが遺伝子の差というやつか。


「参りましたよ、流石教官殿だ」

「ならよし、あと教官呼びはもうやめてよ……」


 僅かな意趣返しとばかりに教官殿と呼んでやる。

 四ノ宮は訓練生の時から教官と呼ばれるのを嫌がっていた。

 なんでもよそよそしいのが嫌なのだそうだ。

 なので、俺は四ノ宮をからかうときは教官殿と呼ぶ。

 今はもう違うが俺の教官だったことに変わり無いからな。


「分かってて、わざとやってるでしょ?」

「もちろん」

「もう……」


 呆れ顔の教官殿もまた可愛らしいね。

 子供っぽい自慢をしてくるときもあれば、凜とした大人っぽい表情を見せるときもある四ノ宮に俺はいつもドキドキしっぱなしだぜ。

 なんてね。


 ……なんか拓真みたいな軽薄なノリが最近多いな俺。

 四ノ宮みたいな美少女と一緒に居ることが多いとこうなってしまうのだろうか。

 前まで女子と話すこと自体少なかったから判らないが、俺の本性がこういうヤツだとは思いたくは無いな。

 といっても、俺のノリを四ノ宮が嫌がってる素振りは無いからな、いつの間にかやってたりするから恐ろしい。

 気を付けなければ。


「さーて、てめぇら。

 お待ちどうさまだ、飲めや騒げや!

 歓迎会の始まりだ!」


 MCの言葉が引き金となりお祭り騒ぎが始まった。

 と同時に、大勢の隊員達が俺達の元に押し寄せた。



 そこから、戦いは始まった。



 ーーー



 ふぅ~。

 やっと次々とやってくる隊員達の波が一段落した。

 いやー大変だった。

 挨拶が終わった途端次から次へと、支部の隊員が挨拶に訪ねてくるのだが……。

 なにしろ数が多いからな、ほとんど名前を覚えていない。

 まさかこんなに歓迎されるとは思わなかった。

 突然のことに俺も四ノ宮も驚いて、曖昧な挨拶しか出来なかった。

 まぁ、俺は四ノ宮のおまけのようなものだろうけどな。

 隣を見ると四ノ宮もぐったりしながらジンジャーエールを飲んでいる。

 すると、疲れとともに空腹感がやってきたようだ。

 こっちを向き、尋ねてくる。


「ねぇ、料理取りに行こ」

「いいぞ」


 丁度良い、俺も腹が空いてきた頃だ。

 二人で料理が並べられているテーブルの方へ向かう。

 サンドウィッチ、唐揚げ、フライドポテトなど定番の冷えても大丈夫な料理など、洋食がメインのメニューだ。

 適当にアルミ皿によそり、会場を囲むように置かれた長机へと移動した。

 しばらく料理をつついていると、四ノ宮が、


「そういえば第六小隊の人達どこだろう?」


 と、尋ねてきた。

 そういえば見かけないな。

 その時、タイミングよく愉快な三人組はやってきた。


「ここにいたのか、探したぞ」

「やっほー」

「お疲れッス!」


 第六小隊隊長の染谷貴之と隊員の沓城舞、佐渡直樹だ。

 沓城が口を開く。


「いやー、凄い人気だったね。

 大変だったでしょ?」

「うん、すっごい疲れた」


 四ノ宮がそれに応じた。

 キャッキャウフフとすぐにガールズトークが始まる。

 そういえばこの二人は仲がよかったな。

 それを見た染谷が相変わらず堅物な言い方で、


「舞、四ノ宮、小隊最初の顔合わせだ。

 改めて挨拶するのが先だろう」


 沓城は不満げに口を尖らす。


「もー、お互い既に顔見知りだからいいじゃん」

「そうはいかん、これは必要なことだ。

 いいか、隊の中でより円滑な連携を図るためにはだな……」


 言い合いを始めた二人を見て佐渡が諫める。


「二人ともこんな時に止めるッスよ。

 新入りが困ってるじゃないッスか」

「むぅ……」

「分かったけど……直樹に言われるとなんかむかつく」

「言い方酷いッスよ!?」

「だっていつもは貴之と直樹がやってることじゃない」

「うっ、それはそうッスけどね……」


 沓城に言われてしゅんとしている佐渡。

 ドンマイだな。


「まぁ、最初だし自己紹介からでもいっか」


 結局沓城が折れたので自己紹介を始めることになった。

 まずは染谷が口火を切った。


「改めて……第四支部所属特務第六機甲小隊、隊長の染谷貴之だ。階級は特務准佐、コールサインは『ベガ4』。IG戦では前衛を務めている。よろしく頼むぞ」


 続いて沓城、


「次はあたしね……同じく第六小隊、副長の沓城舞です。階級は特務二尉、コールサインは『ベガ6』。IG戦では後方支援兼遊撃担当だよ。改めて、二人ともこれからよろしくね!」


 最後に、佐渡。


「第六小隊、隊員の佐渡直樹ッス。階級は特務軍曹、コールサインは『アルタイル6』ッスよ。IG戦だと後方支援担当になるッスね。よろしくッス!」


 ……聞いた限りだと俺の階級が隊で二番目なんだけど。

 どういうことなんだろう。

 あ、〔ヴァイツ〕に乗るために必要だったのか。

 そういえば、たしか初めて〔ヴァイツ〕に乗ったとき、ホープは四ノ宮のこと特務一尉って呼んでたな。

 納得。


 実は考えている間、四ノ宮がこっち見て、先良いなよって雰囲気出してたけどずっと無視してた。

 さっきの挨拶は俺が先だったからな、今度はお前先行けよな。

 レディファーストだ。

 すると四ノ宮は諦めたように居住まいを正し、口を開いた。


「本日より特務第六機甲小隊配属となりました、四ノ宮光咲です。階級は特務二尉、コールサインは『レグルス8』で、IG戦では遊撃担当になります。よろしくお願いします。」


 最後は俺だな。


「同じく配属となりました、木崎優真です。階級は特務一尉、コールサインは『レグルス9』です。戦闘では遊撃担当になると思います。よろしくお願いします」


 一通り紹介を終えると、染谷は満足そうに頷き、


「よし、それでは親睦でも深めようか」


 と持っていたグラスを掲げた。


「「「「「カンパーイ!」」」」」


 カチリと交わった五つのグラスから、水滴が弾けた。


 ーーー


「そういえば、木崎はなんで〔ヴァイツ〕に乗ったんスか?」


 持ってきた料理があらかた胃の中へ消えた頃、ふと思い付いたように佐渡が俺に訊いてきた。


「〔ヴァイツ〕に乗った……理由ですか」


 そういえばそれは話したことなかったな。

 すると、丁度料理を取って戻ってきた染谷や談笑していた沓城と四ノ宮も話に食いついてきた。


「そういえば気になるな」

「それ、わたしもまだ訊いたこと無かったね」

「なんでなんで?」


「うーん……理由はいくつかあるんですけど。

 まずは、うちの両親が《エネミス》に殺されたってのが大きな理由ですかね」


「いきなり重いな」

「重いねー」

「じゃあ《エネミス》は仇なんスね」


 ……重いって言う割に反応軽いな。


「まぁ、ここに居る皆はだいたい似た境遇の人達だよ」


 四ノ宮の言葉で納得する。

 そりゃそうか、《エネミス》に恨みが無きゃわざわざ危険に飛び込んでいくようなことは俺だってしない。


「それで、いくつかあると言っていたが、他はどんな理由だ?」


 染谷が促してくる。

 反応が軽くとも、やはり弁えているのだろう。

 俺だって死んだ両親の話はあまりしたくない。

 しみったれた雰囲気は苦手なんだ、話を変えてくれるのはありがたい。


 ふむ……別の理由か。

 俺は〔ヴァイツ〕との衝撃的な出会いの時を思い返す。

 そういえば


「あとは……逃げたくなかったんですかね」

「なんだそりゃ」


 俺の言葉の意味がわからず周りは不思議そうな顔をしている。


「昔から、自分が出来ることから逃げることができないんです。俺が出来ることで役に立てるなら、周りに合わせてそれをやらないのは嫌なんです」

「あははっ、変な義務感ッスね」

「あれでしょ、木崎って皆がやりたがらない委員会に入っちゃう人でしょ」


 それは俺もやりたくねぇからやんないよ。


「だがまあ、誰かの役に立ちたいというのはいいこと何じゃないか?」


 そう言ってもらえるとありがたい。

 だが、染谷は同時に真剣な口調で釘を刺してきた。


「但し、作戦行動中は余計なことをするなよ?

 部隊での作戦行動では一人のミスが致命的なものに繋がりかねんからな」

「はい」


 その辺は理解しているとも。

 俺だって時と場合は弁えているつもりだ。

 無茶はしない。

 とその時、


「理由ってそれだけなの?」


 と、無邪気にただ疑問を口にしたといった具合で四ノ宮が問いかけてきた。

 ギクッ……。


「……それだけだよ」

「二つだけなら、いくつかあるなんて言わないでしょ?」


 思わず目を逸らした。

 細かいな、そして鋭いな。

 たしかに二つほど理由はあるのが……一つは絶対に言えない。

 …………特に四ノ宮には、な。


「気にすんな気にすんな、それより飲み物でも取りに行こう」


 とりあえず、苦笑い。

 はぐらかされた四ノ宮は釈然としないようだが、席を離れた俺の後ろについてきた。


 ……まあ、理由はいつか教えるとしよう。



 ーーー


 飲み物をとって戻り、しばらく小隊の三人組と談笑する。

 染谷は元が堅物なせいか冗談に真面目に答えようとして、天然のようなズレたボケをかましてくることがあれば、沓城がそれをからかったりする。

 染谷はやはり真面目に受け取り、困ったような顰め面をしていた。

 その表情がやけに珍妙で面白く、それを見た小隊の全員が思わず吹き出す。

 話の中で佐渡がふざけたことを言えば、染谷と沓城の二人からツッコまれ、俺と四ノ宮はしゅんとなった佐渡を見てまた腹を抱えて笑った。


 ――楽しいな。

 やはりこの陽気な三人組といると退屈することがない。

 四ノ宮も、笑いが止まらなくて涙目になっている。



 ……やっぱ、君はそうして笑っている方が似合うよ。



 ふと喉まで出かかった言葉を胸に押しとどめ、大切に仕舞っておく。

 今はまだ、この言葉を彼女に言うときじゃない。

 これはまた別の機会までとっておこう。

 いつか、彼女が鋼鉄の戦士ではなく普通の女の子として俺たちと笑い合えるときまで、な。


 年相応のはしゃぎを見せる彼女は、形容できる言葉がないほど美しく、尊くて、また儚かった。




 楽しい時間は、閃光花火の先に咲く火花の如く流れていった。

 眩しいばかりの輝きを見せて、やがて消えていく。


 途中から始まったビンゴなどのパーティーゲームで他の隊員達と大騒ぎし、やがて料理や飲み物もあらかた皆の腹の中に収まった頃。

 辺りがすっかり暗くなると、ようやく会はお開きとなった。

 途端、辺りの様子は急速に変わっていく。

 先程までの熱気と活気は、静かな心地良い気怠さへと変わっていった。

 一人、また一人と、欠伸を堪えながら格納庫の外へと隊員たちは去って行く。

 後に残ったのは、僅かな熱の残滓と散らかった快騒の名残だった。



 ーーーーーー

 ーーー

 ー




 パーティーゲームの景品を抱えながら、俺と四ノ宮は夜道を並んで歩いていた。


 第六小隊の面々は夜勤があるそうで、まだ正式に配属されているわけではない俺達は、未成年だということもあり、先にお暇させてもらった。

 次に会うときは、俺も四ノ宮も隊服を着て彼らと並んでいることだろう。

 客としてではなく、共に戦う仲間として。



 並んで歩く俺達の間に会話はなかった。


 それでも、同じ熱狂的な時間を共有したせいか、言葉はなくとも通じ合っているような、そんな奇妙な感覚があった。


 四ノ宮もまた、俺と同じ感覚があるのだろう。


 時々交錯する視線は穏やかで、口元は柔らかに微笑んでいた。


 本部で感じた負の違和感が嘘のようだ。


 アスファルトを踏みしめる、ザリッザリッという二つの足音が重なって、夜闇に消えていく。


 頬を撫でる風が、火照った体の熱を僅かに運んでいく。


 変わらない景色は、しかしゆっくりと後ろへ過ぎていく。



 道を蹴る足音、


 耳の脇を過ぎる風、


 風に擦れて奏でられる木々の斉唱、


 僅かに絡まった衣擦れの音、


 どちらともなしに漏れる、吐息。



 支部から街へと続く、何も無い道に二人だけ。



 今だけはこの静かな世界は、俺と四ノ宮だけのものだった。





 やがて、まだ活気ある最寄りの街に着く。

 道行く人々はまばらで、俺達はその真ん中を歩いた。

 道路を幾つも車が過ぎ去った。

 居酒屋の引き戸の向こうから愉しげな喧騒が聞こえてきた。

 さっきよりも短い間隔で通り過ぎる街灯の明かりが妙に眩しかった。


 もう重なった足音は、雑音に紛れて聞こえなかった。



 駅に着く。

 交通用ICカードをかざし、人気のない改札をくぐった。

 四ノ宮とはここで別れだ。

 四ノ宮は右側に、俺は左側の方面の電車に乗る。

「じゃあな」と言おうとして四ノ宮の方を見た。

 四ノ宮も同じ事を思ったのか、こちらを見た。


「また明日」

「おう。また、明日」


 手を振り、四ノ宮は階段の向こうへ去って行く。

 俺も、階段を上りホームへ立つ。

 停車していた電車に遮られて、反対側の彼女は見えない。


 また明日、か。

 去り際の四ノ宮の笑顔が脳裏をよぎる。

 いつも別れ際に同じ事を言っていたはずなのに、今日はそれが妙に嬉しかった。


 電光掲示板とアナウンスが電車の到来を告げる。

 ややホームとの間が開いたスライドドアの先へ渡り、穏やかな照明に照らされる。

 俺は人がまばらな車内で適当な席に座り、窓にもたれ掛かる。

 やがて、電車が動き出した。

 最初はゆっくり、段々早く。

 景色は移りゆく。

 長い一日は過ぎていく。



 明日へと続いていく。



 ■■■



 楽しかったなぁ。

 電車に揺られながら私は思う。

 つかの間の休息だが、歓迎会は楽しかった。

 久しぶりに舞さんともゆっくりはなせたし、染谷隊長も佐渡さんも相変わらずだった。

 木崎も……


 ………なぜだろう。

 帰り道、あの二人きりの道を思い出すと、妙に顔が熱くなるのだ。

 不思議だ、風邪を引いてしまったのだろうか?

 体調管理はしっかりしていたと思うのだが……。


 まぁ、それは置いておこう。

 それよりも明日からまた、任務の日々が始まる。

 これからは木崎や第六小隊のみんなが同僚になる。

 〔ヴァイツ〕無き今、これまで以上に頑張らなければならない。

 気を引き締めなければ。

 〔ヴァイツ〕はもう……私の機体()では無いのだから。

 ………けど、木崎なら大丈夫だろう。

 わたし以上にきっとうまく〔ヴァイツ〕を乗りこなしちゃうのだろうな。


 そういえば、阿多野さんからの任務。

 あれはどういうことなんだろう?。

 一週間ほど前に、文書で送られてきた指令。

 任務というにはあまりにもよく判らないものだった。

 だって、《エネミス》とはまったく関係ないのだから。


 本当に何を考えているのだろう、あの人は……。



 木崎のいる学校に、入学しろだなんて……。




 ■■■





 そして、新たな波乱が到来する。





次話もいつ投稿できるかわかりません……

なるべく早くしたいですね

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