第9話 「〔ヴァイツ〕再び」
お待たせしました。
第9話、お届けいたします。
早朝の〈ASCF〉第四支部格納庫。
定時整備のために整備員たちが忙しなく奔走する中、今日も元気な染谷の声が響く。
「第四支部所属、第六小隊集合!」
「「「「アイ、キャプテン!」」」」
「点呼、コール始め!!」
「ベガ6、沓城舞!健良です」
「アルタイル6、佐渡直樹!健良ッス」
「レグルス8、四ノ宮光咲!健良です」
「レグルス9、木崎優真!健良です」
「点呼止め!
よし、全員いるな。
それではこれより本日の活動を開始する。
各員乗機の確認に移れ!」
「「「「アイ、キャプテン!」」」」
染谷のかけ声と同時に、俺を含め小隊の全員が、格納庫の奥で沈黙するそれぞれの愛機のもとへ向かう。
四機の灰色の鉄人と、一機の白い鉄人。
五機のIG達は、片膝をついた出撃待機の姿勢で、自身を駆り操る者がやってくるのを、静かに待っている。
俺が向かう先はもちろん、―――〔ヴァイツ〕のところだ。
改修と整備の終わった〔ヴァイツ〕は、着々と稼働準備が進められていた。
跪いた〔ヴァイツ〕の開いたコクピットハッチの前には整備用の足場を掛けられ、数本のリアクターの燃料を補給するホースが腰にある注入口に繋がっている。
第六小隊の着務時間まであと10分ほど。
5分ほどもあれば燃料補給が終わり、リアクターが胎動を始めるだろう。
真正面に立ち、準備が進む〔ヴァイツ〕を下から見上げるかたちでその人の顔に似た頭部と向き合う。
ファンタジーに出て来るオープンフェイスの西洋兜のような頭部は、汚れなき純白の塗装になっている。
複雑に組まれた左右対称の兜の上に、髷のように前に突き出た外界センサが照明に鈍く反射する。
そこから鋭い角状のアンテナが起立し、IGの王者たるその風格と威厳を放っている。
表情の存在しない、無機質で研ぎ澄まされたその顔は、ただ戦いだけを求める獰猛さを内に秘めているようにも感じる。
湧き上がる高揚を抑え、力強い足取りで俺ははしごを登り、〔ヴァイツ〕のコクピットへ続く整備橋を渡った。
こうして、俺の……〈ASCF〉としての日々が始まった。
ーーー
小隊のIGがずらりと並ぶ中、俺と〔ヴァイツ〕は互いを見つめ合う。
一ヶ月ぶりの再会。
バイザー越しに一つ目が並ぶ中、鋭い眼光を放つ青い二つ目は、若干異質な雰囲気を醸し出していた。
〔九十一式〕や〔九十二式〕よりも細身でしなやかなシルエット。
一見華奢にも見える細い腰は、ずんぐりした隣の機体よりも脆そうな印象を受ける。
しかし、そこから生み出される強靱な膂力はそれらを遙かに超越していることを俺は知っている。
また、会えたな……。
思わず口元が緩む。
IGとの再会を喜ぶなんて、IGを遠ざけていた前までの俺では考えられ無いことだな。
あれだけ、ウジウジと両親のことを引きずっていたのに、再びこの鋼の巨兵たちに乗り始めてから、あっさりとすっきりしてしまった。
やはり、俺は根っからのIGパイロットなんだな。
血は争えないね、と俺が家族に内緒でIGのテストパイロットをしていたことに気付いていたらしい姉さんも苦笑していた。
待ち望んだ再会に、俺が感慨に耽っていると、鎮座する〔ヴァイツ〕の開いたハッチからコクピットの中に人影を見つけた。
「日向さん、〔ヴァイツ〕の具合はどうですか?」
「おっ、木崎か!」
俺が声を掛けた、計器端末を操作していた一人の整備員、〔ヴァイツ〕担当整備班班長の日向正利常務伍長がこちらへ振り返った。
〔ヴァイツ〕の修理が完了し、この基地へ届いたのが昨日。
彼らは、昨日俺たちが歓迎会で騒いでいる間も、不眠不休で機体の最終チェックをしてくれていた。
「機体はいい調子だ。
すぐにでも暴れられるぞ」
「そりゃよかった。
隊長から、計器調整を合わせておくように言われたんだけど弄っても大丈夫?」
「いいぞ。
一応データからお前用に調節がされてるみたいだけどな」
実際にコクピットの中に潜り込んで計器端末を確認する。
本当だ。
前の俺の戦闘データから導き出したのだろう、駆動システムの出力やら観測機器や火器管制システムやら、俺好みの調整や表示になってる。
俺が計器端末を見ていると、
『おはようございます、木崎特務一尉。
あなたの入隊に、心よりお喜び申し上げます』
「おう。
久しぶりだな、ホープ」
俺がコクピットに入るのを確認した、感情のない人工知能のクセに「心より」なんて表現をする、変なサポートAIが話し掛けてきた。
コクピットに唯一灯る計器画面の上端に、「LINK:〔HOPE〕」の文字が見える。
「調子はどうだ?」
気まぐれにそう、ホープに問いかけてみた。
『答:1時間56分32秒前の時点で、当機の精密整備は完了しています。
整備記録を閲覧しますか?』
「いや、いい」
『了解』
その返答は予想していた。
流石に人間のような受け答えはできないのだろうな。
だとすると、もう一つの方も外れか?
すると、突然ホープが問いかけてきた。
『問:学習質問。
特務一尉、我々は昨日も会合を果たしています。
なぜ、「久しぶりだな」という表現を用いるのでしょうか?」
やっぱり、また変なこと聞いてきたなコイツは。
所詮プログラムであるAIは、そんな細かいところまで普通は気にせず、要点だけ抑えてスルーするのだが、ホープは違う。
「〔ヴァイツ〕に入ったお前と会うのは久しぶりだろ?」
『告:同調先がどこであろうと、限定個体名称〔ホープ〕は全て同一存在です』
「そんなもん気分だよ」
『理解不能』
流石にそこまでは分からないか。
訓練生の時から、よくこいつは分からないことがあれば何時でも質問をしてきた。
まるでなんでも知りたがる子供のように。
AI特有の無機質な感情の薄い合成音声で。
前々から気になっていたのが、このスタディコールが鳴るとき、いったいホープはなにを学ぼうとしているのか?
ふと考えてみる。
ホープが俺に問いかけてくるとき。
それは大抵、人間が知らず知らずに意味を補完している会話の内容が出た時だ。
それも今のように、そうとう細かいところを、だ。
物の喩えは理解しているようだが、人の心理が絡んだ誤表現を聞くと、必ずその意図を聞いてくる。
そして、大抵感情の壁にぶつかり、理解不能となる。
そんなホープが理解しようとするもの、か。
例えば、AIには無い自我…………もしくは、人の心とか。
ふと、思いつく。
そしてすぐに否定する。
……いや、考えすぎか。
どうせ、プログラマーが変なところまでこだわっただとか、そういうオチだろう。
AIがそれを理解したところでどうなるというのだ。
ホープはサポート面で優秀な、ちょっと変わったAI。
そういう認識でいいだろう。
これから、長い付き合いになるかも知れないんだ。
変な疑念はない方がいい。
結局、そういう結論に落ち着き、俺はコクピットを出た。
コクピットから整備橋に降りる。
と、日向さんが話し掛けてくる。
「お話しは終わったか?」
「ああ」
「ホープの学習能力は高いみたいだからな。
データを積めば積むほど成長するから、よく育ててやれよ」
学習向上型AIの特徴だな。
一定能力のプログラムAIと違って経験の分だけ高性能になる。
これは俺にとっても重要なことだからな。
覚えておこう。
「……実はホープがいるとな、戦闘データは全部まとめてくれるから俺らも助かるのさ。
処理能力が上がって貰えると整備班もありがたい」
「そうなのか」
日向さんがこっそり本音を教えてくれた。
IGに搭載されているバトルレコーダーには、戦闘時の機体の状態や撃破数だけでなく、機体各部の時間毎の出力や搭乗者の動作入力なども、詳細なデータが全て記録される。
内部センサーが絶えず機体を精査して、情報を蓄積しているのだ。
もちろん、コクピットの操縦桿を握っている搭乗者の、信号や状態も含めてだ。
調整に携わっていないのに、機体が俺好みの設定になっていたのは、そういった理由だ。
技術者たちは、僅かでも蓄積されたデータから逆算して、俺の癖を見抜き、機体と俺の同調をしやすくしてくれる。
……いや、もしかしたら過去のパーソナルコードに残っていたデータを引っ張ってきたのかもしれないが。
どちらにせよ、前より操縦しやすくなるのはありがたいことだ。
そして、そういった戦闘データを纏めるのは、情報の取捨選択などで意外と手間がかかるらしい。
情報処理を代行してくれるホープがいるというのは、確かに助かるのだろう。
稼働準備が整うまで、俺と日向さんは機体について話し合う。
「そういや、前にお前が派手にぶっ壊した後、機体の修理やキャリブレーションやらで本部の技術員は大変だったみたいだな。
なんでも、コイツに搭載されてる《フリューレシステム》とやらが完全起動すると、計器が全部イカれちまうらしい」
そうなのか。
たしか後から聞いた話だと、あのシステムは効果範囲内の力場を操るものらしい。
そんなフィクションみたいな力が存在なんて眉唾ものだが、現に俺は機体に乗ってその力を目の当たりにしているしな。
あんなデタラメな機体状態なら、現代程度の計器では一発で狂うのも頷ける。
確かにあのシステムは、優に数年代先を行く技術だ。
俺が納得していると、日向さんは〔ヴァイツ〕の装甲を撫でながらぼやいた。
「それと、こっちでも念のため精密整備をやったんだが……。
まっくとんでもなく複雑だなこの機体は。
こんなややこしい機構の機体なんて見たこと無いぞ。
一旦修理に入ったら中々終わらなそうだから壊すなよ?」
「わかってるって」
「それに、パーツ全取っ替えは勿体ないから、基本的にここでの整備ではやらないからな。
そこんところはしっかり覚えておけよ?
パーツが足りないとか言ったらとんでもない叱責が来そうだからな」
「……了解」
念入りに釘をさされ、背中を汗が伝う。
操縦方法、考え直さないと……。
それと、これも聞いた話だが、〔ヴァイツ〕はHSIDS(精密人体構造模倣型駆動システム)を採用しているらしい。
HSIDSとは、その名の通り人体構造をそのまま機械に置き換えた駆動システムのことだ。
動力炉で生み出されコンデンサに貯められた電力(人体でいう血液)を、動力としてパック化された疑似筋肉たるアクチュエータに送り、機体を動かす仕組みとなっている。
他にも、補助としてのモーターなどいろいろあるのだが……細かいので割愛しよう。
大本の駆動システムは、このように人体構造を参考にしてつくられているのだ。
人体の延長上たるIGを、より人の動きに近づけるために、大抵の機体にはこの機構が採用されている。
この構造は、それぞれの部品が独立して取り出せるため、整備面でとても優れている。
壊れてしまったならその部分だけ取り換えればいいからだ。
だが、技術は有っても資源が無いのが日本という国だ。
コストが掛かりすぎるためそういう訳にもいかず、部品は修理して再利用するのが基本となっている。
その整備が追い付かない場合は代わりの部品に取り換えて、壊れた物は設備が整った中央整備機関で修理し、また再利用する。
こうしたサイクルで日本のIGは保たれている。
しかし〔ヴァイツ〕の場合。
整備効率は極端に悪くなる。
駆動システムの機構がとんでもなく複雑だからだ。
一々取り出して修理するには、各部の繋がりが強すぎ、機構が複雑過ぎて設備も時間も足りないのだ。
かといって部品を丸ごと取り換えるにも、やはり機構が複雑なのと、希少な材質が多く取り入れられているため量産ラインに乗せられないから、まず物が無い。
整備員泣かせの機体だ
故にこの機体は、特別生産型としては傑作だが、試作開発機としてはまだ欠陥機なのだと本部の技術員も言っていた。
だが、そのお陰で〔ヴァイツ〕は従来のシリーズを圧倒する性能を持つことが出来るのだとも。
だから日向さんは俺にしっかり釘をさしたのだ。
「今日はコイツを使うのか?」
「ああ、今日から慣熟訓練が始まるんだ。
早く慣れとかないといけないからな」
今日は小隊初の集団実機訓練がある。
俺にとっては、〔ヴァイツ〕に乗って行う初めての訓練でもある。
確認が終わり次第、IGに搭乗しながら訓練場で待機するように染谷に言われていた。
パイロットスーツに着替えに行こうと〔ヴァイツ〕のコクピットから這いだす。
すると、日向は思い出したように手を叩いて、
「あっ、そうだそうだ!
装備について説明しとかないといけなかったな」
「装備?」
「おう」
〔ヴァイツ〕専用の特殊武装でもあるのだろうか。
そんな話は聞いたことなかったが。
「GSー001〔ヴァイツ〕の開発コンセプトは知ってるな?」
「〈単機での全戦況対応〉、だろ?
えらく無茶なやつだったってのは覚えてる」
「そう、それだ。
そのコンセプトのためのアプローチ方法が装備にあるんだよ」
あ、なるほど。
そういうことか。
「つまり、装備できる兵装が多いってことだな?」
「ついでに同時に携行できる数も、な」
確かに、状況に合わせた武器をどれでも装備できるなら、運用は楽だし便利だ。
例えば汎用な陸戦系の機体の基本装備は、
・主武装となるライフルやマシンガンなどの大型火器
・補助装備としてのシールドやミサイルランチャー
・副兵装として対物ブレードなどの近接武器
・固定装備のバルカン砲やワイヤーアンカー
で構成される。
これでも十分充実しているが、
これ以外の装備、例えば反動の大きい大型砲やフライトユニットなど、特殊な調整が無ければ運用できないものは、装備できない。
装備するためには、カスタムが必要であり、やはりそのカスタム機の汎用性は、低くなる。
だから、それを主武装に装填される弾種や小隊内での役割分担などによって補うのだ。
しかし、もしそれらが全て調整無しに装備できるようになるとしたら?
調整のための時間が無くなり、機体と武装さえあれば良いため状況対応も楽になるだろう。
カスタムによる汎用性や運用性の低下も気にしなくていい。
だが……
「それ、専用機があるから必要無くね?」
そう、IGにはそれぞれの状況に対応した専用機が存在する。
水中戦に特化したもの。
水上戦に特化したもの。
空中戦に特化したものなど、etc……。
陸戦型でも、面攻撃能力の高い重砲台型、スナイパーとして狙撃支援型、機動性能の高い近接格闘型など、専用機ではないがそれに準ずる役割を担う機体もある。
わざわざ一機だけで全ての役割を担う必要は無い。
すると日向さんは、
「あのなぁ……いいか?木崎。
コイツはプロトタイプなんだ。
開発コストはめちゃくちゃかさんだようだが、それでもコイツを量産化させることが大事なんだ。
そして、量産型〔ヴァイツ〕に求められているのは、従来のIGを上回る高い機体性能と、カスタム無しに多種な装備が可能になることなんだよ。
この二つが重要なんだ、他はおまけのようなものだ」
つまり、〔九十二式〕に取って代わる量産機を生み出すために、〔ヴァイツ〕は創られたということか。
〔ヴァイツ〕は技術向上のための試作機だから、新技術の開発で生まれたものを遠慮なくぶち込んで、これほどの力を持っているわけだ。
開発コンセプトは誇張表現、と言うわけだな。
「説明に戻って良いか?」
「ん、ああ。
話折ってごめん」
「いいさ、物事を知ろうとすることは悪いことじゃない。
続けるぞ」
「まず、〔ヴァイツ〕がどれくらい装備できるかから説明しようか」
「〔ヴァイツ〕は、〈持つ〉装備方法というより〈付ける〉装備方法の方が主だ」
「装備可能箇所は、まず
・前腕のウェポンラック
・背部のウェポンラック
・同じく背部でのフライトユニット接続部
・脇下のウェポンアーム
・肩先のウェポンラック
・横腰と後ろの腰のウェポンソケット
・脚部側面のウェポンアーム
などがある」
「だが、脇下と脚部、あと肩先もだな。
ここら辺はあまり使わない」
「使うのは基本、腕と背中と腰だ」
「使用兵装は任意選択だが、指示されることもある」
「けど、特殊な状況下でなければ武装自体は普通と変わらんよ」
「だから、装備はでっかいのから手榴弾みたいな小物まで、なんでもあるから好きなのを選んで良いぞ。
ただし、無駄遣いはするなよ?」
「現在使えるのは、
・〈ボフォースMk.6〉57mm対物マシンガン
・〈187式〉100mm対艦ライフル
・〈PACmen-IG〉地対空ペトリオットミサイル改良型
・〈カゲロウ〉200mm滑腔砲
・65mm腕部仕様滑路式ショットキャノン
・〈アストレア〉対装甲機用大型質量剣
・対装甲用振動切断チェインブレード
・IG仕様対装甲車両用グレネード
・耐弾強化仕様マテリアルシールド
・その他特殊武装
とかになる」
「出撃の時にどれを使うか選択してくれ」
「一応どれも装備できるが、組み合わせによっては荷重で動けなくなることもあるし、FCS(火器管制システム)が複雑になって使えなくなることもある。
……だがまぁ、そこら辺は俺達整備員が教えるから安心していいぞ」
ここまでスラスラと何も見ずに言いきった。
一度も噛んだり詰まったりしない。
全部完璧に記憶しているのだろう
すげぇな。
ここで、日向さんは一旦言葉を切り、
「一応重要な注意点は教えたんだが、なんか質問はあるか?」
と、尋ねてきた。
……正直武器の種類とか長いし多いので殆ど覚えていないがまぁいいだろ。
これから使いながら覚えていけばいい。
だが、その前に、
「訓練の時はどうするんだ?
今までマシンガンタイプのレーザーポインターしか使ってないんだけど、他にもあるのか?」
「ああ、それは……」
『伝:それについては私が説明致しましょう、特務一尉殿』
日向さんが答えようとしたところに、突然ホープが外部スピーカーから割り込んできた。
『〔ヴァイツ〕を用いた訓練の場合、被弾判定方法が変わります』
「どう変わるんだ?」
『実銃を用いた判定になるのです。
ただし実弾は装填せず、変わりに仮想弾を使用することになります』
仮想弾とは、被弾したか否かをコンピューターが判定する装置のことだ。
銃口を向けた先、射線上に他の機体があれば被弾となり、またシールドで遮れば防御判定になる。
ダメージ率が数値化され、規定値を超えれば戦闘不能となるのは、今までのレーザーポインターと変わらない。
「たしかに、それなら実物の取り回しにも慣れやすそうだな。
けど、なんで今までそれを使わなかったんだ?」
『答:これは当機のように多数の兵装を使用したり、特殊な武装を用いるときに有用な手段です。
訓練中の事故の割合が高まるため、安全なレーザーポインターの方が主流なのです』
四ノ宮のお手製教本のような簡潔で分かりやすい説明だな。
万が一、弾室に実弾が装填されていたまま訓練なんてしたら、大惨事になるだろう。
納得だ。
『問:一応、重要な点は説明致しましたが、何かご質問はありませんか?』
ホープのヤツ、さっきの日向さんの言い方をパクりやがった。
見ると、日向さんも気付いたのか、苦笑している。
やっぱ、コイツは変なヤツだ。
一応、日向さんに確認してみたが、ちゃんと合ってるらしい。
すると、またホープは、
『告:木崎特務一尉、〔ヴァイツ〕のサポートAIたる私の能力はスーパーコンピュータを軽く凌駕します。
誤った情報を流すことはあり得ません」
感情無い合成音声から、心なしか不満げで拗ねたような雰囲気を感じた。
俺が日向さんに確認を取ったのが不満のようだ。
いや、ホープに感情が有ったらの話だが。
その時、ホープが告げた。
『伝:当機の稼働準備が完了致しました。
機体のシステムを起動します」
機体が駆動音を立て始め、センサーに光が灯る。
〔ヴァイツ〕が鼓動を打ち始めた。
と、日向さんが俺に訊いた。
「お前の方の準備はいいのか?」
いっけね、まだ着替えてなかった!
染谷にどやされてしまう。
〔ヴァイツ〕のリアクター低い稼働音を背に、俺は慌てて走り出した。
ーーーーーー
ーーー
ー
白い新品のパイロットスーツに身を包み、バイオセンサー付きのヘッドカバーを被る。
「お!似合ってるじゃねえか。
さすが、〔ヴァイツ〕専用モデルは格好いいな」
「だろ!」
日向さんはそう言うと、急に真面目な表情になり、
「……さて、いいか木崎。
〔ヴァイツ〕はこの先の戦いに置いて重要な布石の一つだ。
その自覚を持つことが必要だ」
その言葉に、ゴクリと唾を飲む。
四ノ宮にも言われた、とても大切なことだ。
絶対に忘れない……忘れてはいけない、決意。
「気負うことは無いが、それでもお前が〔ヴァイツ〕に選ばれた責任を持て。
いいな?」
俺は力強く首肯する。
それを見た日向さんは満足そうに頷き、
「……なら、いっちょ行ってこい!」
と、俺の背中を押した。
ーーー
「ホープ、準備はいいな?」
『答:肯定』
「よし、いくぞ!」
『ラジャー、起動シークエンススタンバイ。
リアクター温度上昇、稼働値に到達。
機体チェック、オールグリーン。
同調率、良好。現在95%。
起動シークエンス、完了。
〔ヴァイツ〕、起動します」
整備橋が外され、整備班が退避したのを確認する。
鎖を解き放たれた〔ヴァイツ〕は全身に力を漲らせ、立ち上がった。
胎動を始めた機体が歓喜の声を挙げる。
四肢の先まで一体となる感覚。
アクチュエータが咆哮し、モーターが唸りを上げる。
起動したセンサーから送られる情報の数々が前面に広がるモニターパネルを駆け巡る。
15mの高さからツインアイが映し出す、鮮麗な整備場の風景が眼前に大きく広がった。
IGの王が……〔ヴァイツ〕が今ここに、君臨した。
俺は、操縦桿を握る手に力を込めた。
マニュアル通り、順番にコクピットのスイッチを操作する。
心地良い、聞き慣れた稼動音がさらに力強くなる。
排出口から白煙が噴き上がる。
〔ヴァイツ〕の双眸が蒼く輝きだす。
満身の気合いを込めて、俺は〔ヴァイツ〕を起動させた。
さぁ、行こうか!
俺は〔ヴァイツ〕と一歩を踏み出した――――
そして、伝説が始まる
今回は説明回でした。
いかがでしたでしょうか。
登場する兵器の名前は現代のものから適当に選んでいますが、性能などはあまり関係ありません。
ついでに謝辞。
IGの高さを17mとしていましたが、あとから色々考えたところ大きすぎたため、15mに直してます。申し訳ない




