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GUARDIANS・IN・IRON   作者: 寺野深一
第二章 波乱到来編
11/51

第10話 「実際には、こんなことはできません」

時間が出来たので書き終わりました!

今回短めです

 



 市街地を模して造られた訓練場を白い鋼の巨人が駆け抜ける。


 しなやかなその四肢に漲る力を余すところなく活用し、広いアスファルトの道を一陣の風となりながら駆けていく。


 その背後から時折、幾筋もの赤いレーザーがその機体めがけて殺到する。


 躱し、防ぎ、隠れ、転がり……。


 白い巨人は銃撃の中を、その卓越した運動性能を駆使して疾走した。


 そして、それに追い縋るのは四機の灰色の巨人たち。


 白い巨人に比べれば太いボディラインだが、それを感じさせない身軽な動きで三次元機動を魅せる。


 僅かな隙をついて、手にしたマシンガンの銃口を向け、無数の閃光を奔らせ、獲物を追い詰めていく。



 見事な連携で、〔ヴァイツ〕を追う四機の〔九十二式〕達。


 迫り来る〔九十二式〕の強襲を紙一重で捌く〔ヴァイツ〕。



 追う者と追われる者、圧倒的不利なこの状況。


 第二IG戦闘訓練場での第六小隊の訓練の様子の理由。


 そう………時は数分前に遡る。



 ーーー



「本日の模擬戦は、多対一という追撃戦のシチュエーションで行う!」


 訓練場にて、愛機と共に整列した俺達に向かって染谷は言った。

 〔ヴァイツ〕との再開を果たしたのち、俺の慣熟訓練と小隊の連携強化のために特別訓練が催された。

 この先一週間ほど、俺達には出撃の任務は無く、こうした訓練が続くことになっている。

 つまりは、人数が増えただけで、日々の内容はこれまでとあまり変わらないと言うわけだ。


「質問!」

「なんだ、四ノ宮特務二尉」


 四ノ宮が手を挙げ、染谷に尋ねた。


「なぜその状況想定なのですか?」

「それには二つの理由がある。

 まずは小隊の連携強化を図るためだ。

 お前達の入隊で小隊のバランスが大きく変わったからな。

 どのように戦闘を行うか、見ていく必要がある」


 もう一つの理由は、


「それと、〔ヴァイツ〕の技量を見る必要がある。

 戦闘データや能力値資料を見たんだが、これの機体数値は〔九十二式〕と全然違うからな。

 戦闘方式を間違えればせっかくの性能を殺すことになる。

 適切な戦闘方法を模索する為には、実際に戦闘を見るのが一番いいという判断だ」


 なるほど、その為には多対一というシチュエーションが適していると言うわけだな。

 多は連携を確認できて、一は単独だから己の技量のみで戦うことになるということだ。

 と、ここで気付く。


「え、じゃあ今日の訓練は俺対皆ってことですか!?」

「そういうことだ」


 えええ!?

 無理だよ、そんなの!

 俺はまだ〔ヴァイツ〕には一度しか乗ったこと無いんだぞ。

 いきなりIG四機(しかも四ノ宮含む)と戦えなんて無理ゲーだろ!?


「マジですか?」

「マジだ」


 うっそーん……。

 あまりの理不尽さに既に絶望する俺。

 すると、俺の表情を見た佐渡が俺の肩を叩き、


「ドンマイッスね」


 と、同情した表情で慰めてきた。

 ホントだよな、まったく。

 染谷はそんな俺を完全に無視して続けた。


「勝敗判定を説明するぞ。

 まずは追撃側――つまり俺達の方だが、勝利基準は目標の撃墜、〔ヴァイツ〕を時間以内に行動不能にすることだ。

 逆に木崎、お前は既定時間の間逃げ切ることが勝利基準だ。

 それか……俺達全員を撃墜し返すことだな」


 んなこと、できるか!

 と思ったが、染谷の表情は至極真面目だ。

 俺と〔ヴァイツ〕が勝ってしまうことを真剣に考慮してるのだ。

 ……いや、流石にそれは不可能と思うよ?

 だって俺、四ノ宮とタイマン張っても勝てるか分からないんだし。

 増して、四人なんて……ねぇ?


「制限時間は30分だ。

 木崎はその間逃げまくれ。

 俺達は木崎をリンチにするぞ、いいな!?」

「「「おう!」」」


 俺以外の三人は染谷の言葉に威勢良く応じる。

 俺?既に萎えてますよ。


 すると、染谷が始めてニヤリと笑い、


「ああ、それと撃墜されたやつは、昼飯抜きだからな」


 さらりと付け加えた。


「えええぇぇ!?」


 俺の絶叫が木霊した。

 IG戦をやった後というのは体も脳も疲れているから、凄く腹が減るのだ。

 それに加えて、実は今朝寝坊しかけたせいで俺は朝食を抜いている。

 しかも、今日姉さんの帰りは遅く、弟は友人の家に泊まりに行ってしまっている。

 二人とも帰ってくるのは朝になるから食事の用意などない。

 日曜日なので冷蔵庫の中身は薄く、最近はバイトにも行けないせいで金も無い。

 昼飯抜きなど死んでしまう。


 悲痛な俺の叫びを聞いた者たちが大笑いした。

 くそったれ、絶対に勝たなければならない。

 そう心に決めてコクピットへ降りたのが数分前。



 そして今に至る。



 ーーーーーー

 ーーー

 ー



『捕捉警告:10時の方向、距離200』

「うおっ!?」


 慌てて〔ヴァイツ〕を後ろへ跳ばせると、今まさに俺が踏み出そうとした大通りに、遠距離から一閃の閃光が奔った。

 そのまま数歩下がり、射域から逃れる。


「危なッ!……」

『捕捉警報:3時の方向、距離50』

「またかよッ!?」


 俺が跳びさがったところへ、今度は真横の路地からマシンガンの掃射が襲い掛かる。

 それを躱しながら建物の影に隠れ、辺りを警戒しつつ掃射の合間を待つ。

 銃撃が止んだ瞬間、シールドを構えつつ路地に飛び出す。

 手にした〈187式〉ライフルを路地の向こうへ向けるが、すでにそこには何もいない。

 ……いや、


『接近警報:正面頭上、距離50』

「上かッ!」


 高く跳躍し、建物の群れの上に躍り出たIGが、()()

 10階建てのマンションの屋上に着地し、シールドを構えながやこちらに銃口を向けた。

 次の瞬間……


「うわあぁぁぁ!?」


 横に避けられない狭い路地に銃弾の嵐が吹き荒んだ。

 そんな状況下で俺が出来るのは、せいぜいシールドを構え嵐をしのぐことだけ。

 シールドに分間1200発もの仮想徹甲弾の雨が降り注ぎ、ガリガリと損傷ゲージが増えていく。


 不味いな……。

 このままではジリ貧だ……。

 シールドもあと10秒と持たないだろう。

 負ければ昼飯抜きになってしまう。

 それだけは絶対に避けなければならない……。


 脳をフル回転させ、打開策を捜す。

 しかし、その間にも止まない銃撃を受けて、赤いゲージは磨り減っていく。

 コクピットの中央画面の端でゲージが消えていくたび、俺の中で焦燥が膨れ上がっていく。

 焦りと戦いながらも、思考は加速を続けた。

 幾つもの作戦が立てられ、その分だけ思考の中の〔ヴァイツ〕は撃墜された。

 逃げれば撃たれ、向かえばハチの巣にされた。

 それでも俺は考え続けた。

 何度でも立案、演算、撃墜を繰り返し、それでも思考の奥底へ潜り続けていった。

 いつしか視界に映るゲージの減りは、止まったかのようにゆっくりに見えた。


 ……そして辿り着いた、一つの答え。


 ホープの演算能力もあって導き出せた可能性。

 ………しかしこれは一か八かの賭けだ。

 失敗すれば、徹甲弾の嵐が瞬く間に損傷ゲージを吹き飛ばすだろう。

 その瞬間、〔ヴァイツ〕は稼働を停止し、俺は敗北することになる。

 そして、俺の昼飯も無くなることになる。

 だが、これ以外に打開策が無いのも事実。

 ほぼ絶望的と言っていいこの状況では、俺にできることなど殆どない。


 伸るか、反るか。


 ただ、昼飯のためだけに、最大限加速した思考の中で、決心するのに掛かった時間はわずか1秒足らず。


 そして、俺は……()()()()()()()()()()()


 支えを失ったシールドは重い衝撃音をたてて地面に倒れ、モニターに〈SHIELD LOST〉の文字が浮かび上がる。

 と、同時に俺は腰のソケットからある物を投げていた。

 画面に、倒れたシールドの上でそれがエフェクトを伴い爆発するさまが映された。


 実際には銃弾など出ておらず、まして爆発など起きてもいない。

 しかし、仮想弾によるシミュレーターモードでは、外を映す中央画面にはさも爆発が起こったかのように投射される。

 さっき俺が捨てたシールドも、実際は無傷だが、画面にはズタズタになった状態が映されている。

 つまりあの二機から俺は、投げた指向性グレネードの爆炎によって見えない、はずだ。

 だとすれば、どうなったのか分からない状態でマシンガンを無駄撃ちはしない。

 画面に吹き荒れていた徹甲弾の嵐は止まるはずだ。


 そして、上の二機は……予想通り銃撃を止めた!


 その僅かな隙を突いて、俺はライフルの狙いを定める。

 あちらからは爆炎の中からいきなり〔ヴァイツ〕が飛び出してきたように見えるだろう。

 しかし、彼らとてIG操縦のプロ。

 冷静にマシンガンの銃口を俺に定めてくる。


 けどな、銃撃さえ止まってしまえばこっちのものだ!


「ホープ、狙え!」

了解(ラジャー)、照準を〈α3〉に固定、コンプリート。

 いつでもどうぞ』


 操縦桿の引き金を引き、発砲(トリガー)


 100mmもの口径を誇る〈187式〉の、仮想徹甲弾の凶悪な衝撃が、一機のシールドを穿ち、仰け反らせる。


『対象への有効効果を確認』


 ホープが無機質な声で告げる。

 仮想弾とはいえ、コンピューターが威力を計算し実際に効果を機体に反映させるのだ。

 僅かに時間が生まれる。

 間を置かずにもう一機に視線を向ける。

 俺の反撃を意に介さず、俺に向かって仮想銃弾を浴びせかけてくるが、一機だけが放つ弾幕なら〔ヴァイツ〕の持ち前の高い機動性で避けきれる。

 今度はその次々と銃弾を吐き出すマシンガンに照準を合わせた。


「いけぇぇ!」


 再び、応射(トリガー)

 ホープによる補正もあって、違うこと無く命中する。

 残ったIGもまた大きく仰け反り、爆散するマシンガンの破片から身を守るようにシールドを引き寄せた。

 僅か二秒に満たない、瞬間の攻防。

 そしてまた時間が生まれる。


 それと入れ替わるように、路地を挟んだ反対側に所にいる、先程俺がシールドを弾いたIGが、反動から復活しマシンガンを構えた。

 30mの高さから撃ち下ろされる銃弾は、しかし一秒も掛からず止まってしまった。

 単発式の高威力なライフルでは起きにくく、連射式のマシンガンで起きやすいこと………。


 そう、弾切れだ。


 実際にリロードアクションを行わない仮想弾による模擬戦では、操縦技術である残弾のある弾倉交換(タクティカルリロード)をすることが出来ない。

 たとえ出来たとしても、さっきまでただの的だった俺に対して、マニュアルで射撃はしていないだろうから、どちらにしても途切れること無く撃ち続けることは、不可能だったと思うが。

 ホープの残弾カウント通り、タイミング良く弾切れが起こってくれた。

 優秀な相棒に感謝だ。

 そして、全弾撃ちきった状態での弾倉交換は、交戦中において致命的な隙となる。

 シールドを構える隙を与えず、俺は無防備な胴体を狙って、ライフルを放つ。


 違わず、命中。


『撃墜報告:α3の撃墜を確認』


 着弾と同時にホープが告げた。

 画面に映るIGはコクピットのある胸部に直撃したせいか、衝撃で両腕が千切れ跳ぶ。

 これが実戦ならぞっとしない光景だが、敵機撃墜を喜んでいる暇は無い。

 まだ一機――ホープがα1と呼称した機体が残っている。

 そいつの主武装を破壊した今、絶好のチャンスが到来しているのだ。

 これを逃すわけには行かない。


 と、俺が建物の上へ跳躍しようとしたその時、


『接近警報:9時の方向、距離20』



 路地の先から新たな一機が現れた―――。



 ーーー



 新たに出現した〔九十二式〕は、手にマシンガンではなく反り返った細身の長剣、刀を持っている。

 そのつや消しの黒い刀には見覚えがあった。

 訓練生の時に、模擬戦の近接格闘訓練で散々辛酸を舐めさせられた、ドS教官殿の愛刀。

 てことはあの機体に乗っているのは……


「四ノ宮かッ!」

『ご名答ッ!』


 積極回線(オープンチャンネル)を通じて答えてきた四ノ宮を、距離を取りながら捕捉し、狙い撃つ。

 しかし、こんな近距離で放ったのにも関わらず、仮想徹甲弾は四ノ宮に当たること無く、路地の先の建物を破砕しただけだった。


 〈捕捉前回避〉。


 向けられた銃口の向きから弾道を予測し回避するという、格闘戦において右に出る者がいないと言われる四ノ宮だからできる、無茶苦茶な超絶技巧。

 こんな近くでも使えるのか、と思う暇も与えてくれない。

 その一瞬の間に距離を詰めた四ノ宮が、手にした刀で鋭い一閃を放ってくる。

 頭部のセンサーを狙ったその一撃を、まさしく目と鼻の先でギリギリ回避し、大きく後ろへ跳ぶ。

 追撃を予測し身構えるが、何故か四ノ宮は追ってこない。

 もう少し距離を取り、路地を抜ける。


 その間に、四ノ宮に勝つための方法を模索する。

 脳内を駆け巡る幾つもの選択肢、作戦。

 その中から、現状行えるものを選び出し、組み立てる。


 ひとまず、この状況を打開したい。

 まずは時間を稼がなければ。


 ――とりあえず、ライフルじゃ絶対に負ける……。


 そう判断して、この隙に〈187式〉を後ろ腰にマウントし、背中に装備してある〈アストレア〉―大型質量剣を取り出そうとした瞬間。


 四ノ宮が斬り掛かってきた。


「ウソだろ!?

 なんだよそりゃ、普通は待つだろ!」

『なに甘ったれたこと言ってんのよ!

 現実で敵が待ってくれる訳ないじゃない。

 ボサッとしてると張り倒すわよ!」


 そうだけど!

 確かにその通りだけどさ!

 ……だけどさ、もっとこう

 小説みたいな展開の方を期待してたんだよ!


 俺の魂の叫びはドSな四ノ宮さんには届かず、ろくに抵抗もできないまま追い詰められていく。

 武器も取り出せず、手刀で四ノ宮の刀の側面を打って捌くので精一杯だった。

 窮地に陥った俺の背筋を冷や汗が伝う。


 ………やばいな。

 割と本気でやばい。

 なにがやばいって、四ノ宮の状態がやばい。


 実は戦闘状況に入ると、四ノ宮はキャラが変わるのだ。

 普段の快活だがどこか大人びていて、清楚な感じが見る影も無くなり、一転超攻撃的な性格になる。

 特に口調まで変わってる時は、一番苛烈でドSな時だ。

 相手に対して絶対に容赦しないし、逃がしたりなんてしない。

 俺は今まで一度だけ、この状態の四ノ宮と戦ったことがあるのだが、殆ど抵抗できないままフルボッコにされた。

 周りからしたらどこのアニメキャラだよとか思われるのだろうが、相手する側からしたらそんな生易しいものじゃない。

 ギャップ萌えとかそんな次元を超越している。

 赤の他人だと言われても信じられるよ、俺は。


 苛烈さを増す四ノ宮の猛攻をギリギリで捌く。

 もうこれ以上は捌き切れないほどに、剣戟が激しくなった時、


『伝:ケースNo.8の状況を確認。

 オートヘルパーを発動します』


 ホープ様ぁぁ!!


 思わずそう叫んで、画面を拝みそうになるほどベストなタイミングで、ホープが操縦補助機能を発動させた。

 ホープのアシストが働いたことで、なんとか〈アストレア〉を取り出し、〔ヴァイツ〕の出力に任せて無理やり四ノ宮を押し返す。

 距離を広げて俺は質量剣を正面に構え、居合いの姿勢をとる〔九十二式〕と再度応対した。


 振り出しに戻ったことで、無音の駆け引きが始まる。

 互いに油断なく仕掛けるタイミングを探り、そして、


「おおおおおぉぉぉ!!」

『いぃああああぁぁぁ!!』


 烈迫の気合いと共に、俺達は同時に地面を蹴る。


 次の瞬間。

 轟音を上げてぶつかり合った二振りの剣は、火花を散らしながらせめぎ合った。


 また、瞬間。

 四ノ宮は流れるように刀を滑らせ、〈アストレア〉をうけながそうとした。

 対する俺は、その名の通り質量を以て、刀を弾き飛ばそうとする。


 そして、瞬間。

 俺達は同時にそれが不可能だと判断し再度、今度は逆方向に地を蹴った。


 ほんの僅かな三つの瞬間を以て、行われた工程。

 再び静止し、白い巨人と灰色の巨人が向かい合う。


 今の攻防で、彼我の差は大体分かった。

 速度はあっちが上。

 力はこっちが上。

 技量はあっちが上だが、

 性能はこっちが上。

 大雑把だが、これで正しいだろう。

 全て引っくるめた総合的な能力差なんて考えない。



 ――――「大切なのは、カードの強さじゃない」

 ――――「カードの切り方だよ」


 ふと、昔聞いた言葉を思い出した。

 あれはいつのことだったか。

 思い出せないが、それはまあいいだろう。

 用は……


「……劣っているなら補えば良い。

 勝てないなら別の物で戦えばいい。

 俺の切れるカードで、お前に勝つ!!」


 脳をフルに回転させ、一重に二重へに策を練り上げる。

 能力差、状況、状態。

 全て考慮し、活かし、活路を切り開く。

 まずは……


「その足から止めてやる」


 ニヤリと笑い、そう呟いた。

 そう、すべては勝利(昼飯)のために……。




 さぁ、第二ラウンドの始まりだ。




 ーーー


というわけで、次話に続きます

予想外に長くなってしまった……。

木崎が昼飯のために頑張り過ぎたようです。

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