第41話 「トリガーアンドダッシュ」
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第41話お届けします
――都心に比べて高層ビルが少なく背の低い住宅街が広がる無人の通りで、二体の巨人が比喩ではなく互いに火花を飛び散らせていた。
舞い散る閃光とアクチュエーターの軋みが、この戦いのエフェクトでありBGMだ。
引き金を引けば銃閃が踊り、フットペダルを踏みこめば力強い震動が足元から帰ってくる。
目が敵の姿を捉えたのを脳が認識した時には、すでに構えた〈ボフォースMk.6〉から徹甲弾が放たれ、また次の瞬間には景色が灰色の路地へと変わっている。
激しい乱数機動が生み出す負荷に、コクピットシートに体が縫い付けられるようだ。
両腕が燃えるように熱い。
滴る汗が目に染みる。
内臓がひっくり返るような感覚が消えないし、脳が揺さぶられたせいで額の裏がガンガンする。
でもそんなものは、とめどなく溢れるアドレナリンが全て知覚の外へと流し去っていた。
ただひたすらに、発射と疾走を繰り返す。
報告も警報も置き去りにして、目まぐるしく変わる景色の中を駆け巡る。
九十二式の肩幅ギリギリの道を全速力で駆け抜ける戦闘機動は、極度の緊張とともに俺に最高の高揚感をもたらしていた。
「いくぜいくぜいくぜぇぇぇッ!!」
無意識のうちに、口角が吊り上がる。
迸る熱量に任せて、俺は思いっきり叫んでいた。
戦闘が始まって僅か十分も経っていないというのに、俺はもうクライマックスへと突入していた。
‐‐‐
二門の銃口から放たれる57mm徹甲弾が、エネミスの装甲を容赦なく抉っていく。
四方八方から繰り出される銃撃に、灰褐色の装甲はもう傷だらけで、今にも砕け散りそうだ。
……しかし、まだ砕けていない。
正体不明の材質で構成される鎧は、強力な〈ボフォースMk.6〉であっても容易に貫くことができないのだ。
特に強固な翼の装甲を避けて攻撃を加えているというのに、未だエネミスは健在している。
ヴァイツの時に使っていた〈189式〉ライフルや〈カゲロウ〉ならば、ほぼ一撃でカタが付くのだが、しかし標準的な装備では火力不足は否めない。
それを解決するためのアレも、まだ使うには早いし……。
すると突然、エネミスが行動パターンを変えた。
ある一点に向かって移動を始めたのだ。
その場所とは……
「なるほど……考えたな」
大通りがクロスする、交差点だ。
視界は開けていて、こちらが飛び出す場所も限定される。
つまり、動きの予測も反応もしやすい。
下手に仕掛ければ、逆に狙い打たれてしまう。
今までのように撃って隠れるを繰り返すわけにはいかないだろう。
けどな……
「それは安直すぎだッ!」
俺が再び飛び出した先は、エネミスの頭上。
建物をジャンプ台にして、ヤツの真上へと跳び上がったのだ。
そのまま無防備な頭部に向けて、発射。
予想外の登場に反応しきれないエネミスに、57mm徹甲弾が雨あられと降り注ぐ。
粉塵を巻き上げ、凶悪な破壊力を秘めた銃弾が、灰褐色の怪物を派手に吹き飛ばした。
エネミスはとっさに上に銃口を向けるも、そこにはもう俺の姿は無い。
俺は建物の群れへと再び潜り込み、cedを起動させる。
これで、エネミスは完全に俺の姿を見失っただろう。
別の場所へ移動し、ワンテンポおいてからまたエネミスの前へ飛び出す。
三次元機動を織り交ぜた攻勢が再開された。
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私が自分の獲物を仕留めた後急いで駆けつけてみれば、そこにあったのは一方的な戦闘だった。
リズム、場所、時間……すべて不規則に現れる木崎の九十二式が、なすすべのないエネミスに銃弾を浴び続けている。
みるみるうちにエネミスはその体が傷だらけになっていく。
それでも、いやらしいくらいにしつこく攻め続ける木崎。
新しい戦法というのが見事に決まっているようだ。
木崎の考え出した戦法。
それは、至近距離での超高機動翻弄戦だ。
障害物とcedを活用して、居場所を悟られないようにいたすら動き回り、補足した瞬間に攻撃する。
攻撃したら、またすぐに建物へと隠れ姿をくらます。
敵がこちらを探している隙に素早く移動して、また攻撃するというのをエネミスが倒れるまで繰り返す。
敵に一切攻撃する間を与えずに、一方的な戦闘を展開するのだ。
性能差を運動量によって補うという、面白い発想だと思う。
市街地でしかできないことだが、敵をくぎ付けにできる分効果的だと私も思った。
それに、木崎の優れている部分も上手く活かされている。
あまり目立たないが、木崎の射撃の腕は目を見張るものがある。
佐渡さんのような狙撃とはまた違って、高機動状態での射撃精度が凄まじいのだ。
模擬戦のときから感じていたのだが、今はさらに磨きがかかっているようだ。
あれだけ激しい戦闘機動をしているにも関わらず、的確にエネミスを撃ち抜いている。
それに加え、周囲への被害を最小限にとどめることも忘れない。
その技巧には思わず舌を巻いた。
そして何より特徴的なのは、このスタイルのために用意した装備構成だ。
両手に〈ボフォースMk.6〉を持ち、ブレードやシールドを一切排した装備構成。
軽量化と火力強化のために行き着いた結果、こうなったそうだ。
はっきりいって常識外れな構成だ。
エネミスの攻撃は、その一つ一つが脅威となる。
高火力のショットキャノンに鋭利なエストック。
直撃すれば九十二式の複合装甲といえど無事では済まない。
防御に使えるシールドやブレードは必需品といえる。
なのに、木崎は敢えてシールドを選択しなかった。
防御力を捨ててまで、火力と機動性を上げたかったのだろう。
大した決断だ。
……まぁ、シールドは私も持たないのだけどね。
そして、最も特徴的なのが、その主装備だ。
プルバック式のマシンガン二丁持ち。
これが実は凄いことなのだ。
普通はマシンガンを二丁持ちするなど、精度が極端に落ちるからやらないし、そもそもできない。
だが、それを可能にしてしまうのが木崎優真という男だ。
銃器の扱いに関しては、彼は類まれなるセンスを持っている。
非常に癖の強い〈189式〉や〈カゲロウ〉などの高火力な武器をいとも簡単に操ってしまう。
私がヴァイツに乗っていた時は、癖が強すぎて持て余してしまったというのに……。
そして今回も、彼は〈ボフォースMk.6〉の二丁持ちを悠々とものにして見せた。
まるでなんでも吸収してしまう子供のように。
……それに彼はまだ、切り札を残している。
いったいどこまで強くなるというのか.
木崎のこの新しいスタイルがどのような未来に繋がるのか。
その片鱗が今、見えようとしていた――
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とうとうエネミスが、地に膝を屈した。
その灰褐色の体は、銃撃に見るも無残に食い荒らされ、満身創痍となっている。
絶え間ない57mm徹甲弾の嵐には、いかな鋼鉄より硬い鎧を纏うエネミスでも耐えきれるものではなく、もう抵抗する力すら残されていない。
胴体をかばっていた右腕は原型をとどめておらず、左腕に至っては肩から先が千切れ飛んでいた。
ショートしたように放電を散らすその傷口からは、オイルのような赤い液体がしたたり落ちている。
地面にその雫が落ちるたび、重く跳ねた液体が灰色の街に赤い染みをつくりだす。
凄惨。
その姿にはこの一言が最も似合っているだろう。
「……ちょっと、やりすぎたかな」
機体のカメラごしにエネミスの成れの果てを見下ろしながら、思わずそう呟いた。
……しかし、ヤツはまだ生きていた。
『告:熱源反応!』
「なっ……!?」
突如エネミスは翼をはためかせると、大きく飛び上がったのだ。
完全に沈黙していたから、少し油断していた。
みるみるうちに、九十二式の跳躍限界よりも上空に昇っていくエネミス。
あそこまで行かれてしまうと、〈ボフォースMk.6〉で撃ち落とすのは難しい。
……仕方ないな。
「あんまり使いたくなかったんだけどな……。
ホープ、〈グリーレ〉を展開しろ!」
『了解。背部ウェポンアーム、展開』
ホープの復唱と共に、背中に折りたたまれていた武装が展開されていく。
それが終了すると、中央の大画面に照準器が現れた。
その中心にいるのは…上昇するエネミス。
不本意ながら、奥の手を使わなければならないようだ。
sIG117WzF〈グリーレ〉150mm重榴弾無反動砲。
それがこの武装の名称である。
ドイツ製のアイロンガーディアン専用兵器であるこの無反動砲は、俺が特別に許可をもらって装備しているものだ。
〈カゲロウ〉に準ずるほどの威力を持ち、直撃すればエネミスでも粉々に吹き飛ばせる代物だ。
普段は銃身を折りたたんで背中にマウントしているが、使用時には肩に乗せるようにして展開される。
俺のとっておきの奥の手だ。
発射時に無防備になるためできれば使いたくなかったが、こうなってはしょうがない。
うかうかしていると、逃げられてしまう。
照準器の中の敵を見据え、躊躇なく引き金を引く。
そして今、その獰猛なる砲台が火を噴いた――
――着弾。
爆炎を噴き上げ粉々になって消えていくエネミス。
俺は……勝った。
こうして俺は、新たなスタイルを手に入れた。
次話は武装説明になります
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