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GUARDIANS・IN・IRON   作者: 寺野深一
第一章 起動編
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第3話 「白と黒の激突 後編」

本日二話目です。

またまた頑張ってしまった………

 



 ホープは掴み取った可能性(希望の芽)をしっかり覚醒させる。



『最奥機密システム、コードネーム《フリューレシステム》

 起動』



 厳かにホープはその名を告げた。


 同時に機体の装甲が開いていく。

 〔ヴァイツ〕の足が、腕が、腰が、肩が、そして僅かに顔が。

 そこからあらわになる灰色のフレーム。

 機体は全体的に各部が盛り上がっているように見える。

 そして、そのフレームを僅かに覗く日の光がそれを照らしだした。


 次の瞬間。



 ―〔ヴァイツ〕が強く蒼い輝きを放ちだした。



 日の光が当てられた途端、露出したフレームが蒼く変色し、強くその存在を主張する。

 放たれた輝きの帯は機体だけでなく、周囲にまで広がっている。

 白かった〔ヴァイツ〕の装甲はその輝きに当てられ、淡い青色を帯びる。

 地に落ちながらも輝きを放つその姿は、ある種の神々しささえ持っていた。

 《フリューレシステム》によって姿を変えた〔ヴァイツ〕。

 《エネミス》はその変化を目の当たりにした瞬間にもう引き金を引いていた。

 両腕のショットバレットは躊躇無くその身を胎動させ、殺意を籠めた鉛玉を吐き出した。

 〔ヴァイツ〕に向かって二閃の閃光が奔る。

 〔ヴァイツ〕の双眸はしっかりとその銃弾を見据えていた。

 その中にいる、俺もホープも目を逸らさず、画面越しの銃撃を見詰める。

 1秒にも満たない僅かな時間。

 音速で迫る銃撃が、その蒼く輝くこの体に触れようとした瞬間。



 ―轟音と共に、周囲に閃光がはじけ飛んだ。



 そして同時に、辺りを強烈な干渉波が吹き荒れる。

 円上に膨らんだ衝撃は《エネミス》をも呑み込み、大気を揺るがした。

 強烈な力の波に押されるかのように《エネミス》は木っ端の如く吹き飛ばされる。

 木々は揺れ、地面は同心円状に抉り飛ばされる。

 空間に紫電が走り、竜巻の如く風が吹きすさぶ。


 これは銃撃に貫かれた〔ヴァイツ〕のリアクターの爆発の威力か?

 いいや、違う。

 これこそが《フリューレシステム》の力だ。



 力場干渉能力。



 〔ヴァイツ〕の中に眠る力は、物理法則すら書き換えた。

 フレームから発せられるある周期数の干渉波が力場に作用し、接近する銃弾の力を消し飛ばしたのだ。

 銃弾は跡形も無く消し飛び、《フリューレシステム》による干渉波は《エネミス》をも吹き飛ばすほどの力を秘めていた。

 現代においても存在できうるはずもないほどの超科学。



 《フリューレシステム》が完全に起動する。

 そして、そこからはもう一方的だった。



 ーーー



 力場干渉能力。

 これは圧倒的過ぎたと言えよう。



 まず、俺と《エネミス》の立場が逆転した。

 《エネミス》の攻撃は一切こちらに通じないが、

 こちらの攻撃は、接近しようが距離を取ろうが関係なく通る。

 《エネミス》がどんなに早く動こうが、

 こちらの速度、機動性には敵わない。

 それ程までに彼我の戦力差はかけ離れていた。


 そして、停止したはずの機体が全く問題無く動いた。

 どんな原理なのか分からないが、動力炉を介さず、フレームから直接出力と信号を送り、機体を動かしているようだ。

 技術年代がおよそ数百年後の超技術が、何故こんな所にあるのか甚だ疑問を感じるが。

 たぶん、フレームの材質が特別なものなのだろう。

 それもほぼほぼ無尽蔵のエネルギーを生み出せるほどの。

 恐らくそんなものは地球に存在しないが、これの開発者はどこからかそれを見つけ出し、この機体に組み込んだのだ。


 それだけでもこいつの凄さが分かると思う。

 正しく最重要機密だ。

 このシステムが量産されてしまえば、兵器の概念すら書き換えられてしまうだろう。

 コイツ一機だけで一軍隊に匹敵する可能性さえあるのだ。



 だが、これの難点は制御の難しさだった。

 確かにIGは人間では遠く及ばない力を持つ。

 しかしそれは所詮、人の能力がグレードアップしただけのことだ。

 それに比べ、こいつは物理法則自体を無視している。

 いや、もはや支配していると言っても良い。

 あり得ない挙動を可能にし、機体や搭乗者にかかる負荷をほとんど減らし、脳が追い付かないほどの性能を叩き出す。

 常識の範疇を逸脱しているのだ。

 並のパイロットが扱えるものじゃない。

 実際、俺自身の情報処理が追い付かず、制御が効かない時もあった。

 俺がまだコイツを操れるのは、嘗てこれと同等の機体性能を誇る()()()()に乗っていたからだろう。


 それに、このシステムには時間的限界がある。

 5分しか稼働できないのだ。

 当然だろう。

 むしろない方がおかしい。

 こんな無茶苦茶なシステムに機体が耐えられるはずも無い。

 だからリミッターを設けているのだろう。

 いくら負荷を減らせるといっても、素体疲労は蓄積するのだ。

 システム停止後の反動がとんでもないことになりそうだ。

 事実、先程から画面の端でタイマーがその数を減らし続けていた。

 残り2分28秒だ。

 今までは、どんなシステムなのか知るための様子見だったが、そろそろ刻限も近い。

 なら……………



 ここで一気に、けりを付けてやる!



 ーーー



 決着を付けるべく、俺は猛攻を開始する。

 脳と機体の限界に挑むような戦いが始まった。


 ーーー



 《エネミス》がエストックを突き出す。

 それを簡単に捌き、掌底を食らわせてやる。

 システムの補助も合わさって吹き飛ぶ《エネミス》。

 その動きにはもう、キレが無い。


 当然だ、もう何度も吹っ飛ばしているのだから。

 それでも撤退しないのは何か意地があるのか、それとも何かを待っているのか……………。

 まぁ、あまり関係の無いことだ。

 敵は潰す。

 それだけだ。

 さっきまでのように性能を試す戦い方なしない。

 容赦なく、破壊してやる。



 吹き飛んだ《エネミス》のもとへ、脳が解るギリギリの速度で迫り、蹴りを食らわせる。

 鞠のように弾む《エネミス》。

 その姿は今の〔ヴァイツ〕と同じくらい満身創痍だった。

 そして、システムの残り時間は1分を切っていた。


 ヒートブレードを構えて突進する。

 出力と運動エネルギーに任せて思いっきりそれを突き出す。

 ギリギリで反応し、紙一重で躱した《エネミス》。

 いや、躱せていない。

 肩口が大きく切り裂かれている。

 ヒートブレードの高温切断面によって溶かし斬られたところは融解し、波打っていた。


 ゴロゴロと転がって距離をとり、エストックを構える《エネミス》。

 俺はそこへ素早く潜り込んだ。

 流石は《エネミス》、その早さには付いて来れた。

 エストックを俺に突き立てようと、振り上げている。


 だが、残念だったな。

 それは通じない。


 右腕を引き抜き、丸みを帯びた《エネミス》の胸部を切り裂く。

 浅い。

 なんとか反応し、《エネミス》は上体を仰け反らせてダメージを軽減させていたようだ。

 だが、重心が持ち上がった機体は、弱い。

 足を祓い、アッパーを叩き込んで、そのまま追撃する。

 ヒートブレードで切り裂き、

 掌底を打ち込み、

 攻撃を捌きつつ足を祓った。

 《エネミス》は苦し紛れの抵抗とばかりに銃を構える。


 発砲。


 閃光が飛ぶ。

 俺は冷静に空間に盾のイメージを描いた。

 紫電が走り、空間が歪む。

 力場干渉の絶対防御。

 難なく〔ヴァイツ〕の《フリューレシステム》は、銃撃を消し飛ばした。

 傷だらけの《エネミス》に正面から向き直る。

 ホープが自動で照準を合わせてくれている。

 俺は銃撃のお返しとばかりにバルカンを叩き込んだ。

 マズルフラッシュが煌めく。


 実はこの力場干渉能力、武器の威力も上げてくれるのだ。

 ヒートブレードは力場を操ることで切れ味が増し、より凶悪な武器になっていた。

 では、バルカンはどうか?


 その答えは、二撃効果の付随だった。


 被弾時だけで無く、後から榴弾の如く衝撃が見舞われる。

 その力は絶大だ。

 なにせ銃弾を防いでも、衝撃に襲われるのだから。


 《エネミス》は無数の銃撃をくらい、大きく蹌踉めいた。

 直撃を受けた胸部はボコボコにへこみ、見るも無惨な状態になっている。

 これはチャンスだろう。

 銃弾の嵐を正面から受け《エネミス》が蹌踉けた所を、トドメを刺すべくさらに追撃する。

 だが、同時にタイムリミットも迫っていた。



 ―残り15秒。



 既に《エネミス》は限界に近く、接近した〔ヴァイツ〕に反応できない。

 右腕を後ろへ引き絞り、振りかぶる。

 ブレードを左側の肩の関節に差し込み、グイッと押し込む。

 そのまま上へ切り開き、引き抜いた。

 装甲が切り裂かれる金切り声のような高音が響いた。

 左腕を切断することに成功する。

 《エネミス》は、バックステップを踏み後方へのがれようとする。



 ―残り10秒。



 追い縋り右腕を狙う。

 力場干渉があるとはいえこちらも満身創痍、万が一にそなえてヤツの攻撃の手は封じておきたかった。

 しかし防がれた。

 《エネミス》は俺のブレードをエストックの腹で受け、そのまま流そうとしている。

 だが、俺はそれをそのまま強引に押し込み、フレームから漲る出力に乗せてエストックごと両断しようとした。

 それを《エネミス》は横合いから俺を蹴り飛ばし、間合いを取ることで対応する。

 まだこれほど動けるとは、一時も油断為らない。



 ―残り5秒。



 鍔迫り合いに持ち込み、力業で押し切る。

 時間が無いから強引な手になってしまう。

 再び受け流そうとする《エネミス》のエストックを、左手でつかみ体をひねりつつ回転して、《エネミス》の腕をエストックごと斬りつけた。

 肩ごととは行かなかったが、銃とエストックを切り裂き無力化する。

 完全に防ぐことが出来ない状況に追い込むため胴体に蹴りを入れ、吹き飛ばされる《エネミス》を更に追う。

 アクチュエータが唸りを上げ、フレームから送られる出力に人工筋肉が雄叫びを上げる。

 両脚が大きく撓り、次の瞬間。

 俺は大きく跳躍した。



 ―残り3秒



 跳躍しつつ、空中で目いっぱいまでブレードを引き絞り、《フリューレシステム》の力を全てをそこに籠める。

 灼熱した刀身に紫電が起こる。

 空間が歪み、全てを破壊する必殺の一撃が生み出された。

 目標は、《エネミス》。

 全力の気迫を込めて、俺は咆哮する。


 これで…………仕留める!


「くらえぇぇぇぇぇぇぇァァァァァア!!!」





 ―残り1秒―




 ーーーーーー



『告:制限時間に到達しました。

 《フリューレシステム》を停止します』


 ホープが告げた。

 そして…………。


「ぐっ…………ちくしょぉぉぉ!!」


 俺のブレードは《エネミス》の頭部を貫……………かなかった。


 間に合わなかった。

 フレームの輝きが消える。

 機体は元の白さに戻っていく。

 再び〔ヴァイツ〕は沈黙する。

 ブレードの切っ先は《エネミス》の眼前僅か手前で停止していた。

 本当に僅か数㎝ほど、届かなかった。

 思わず俺は操縦桿から手を離し、画面を殴りつける。

 その痛みはやけに鮮明に感じられた。




 〔ヴァイツ〕も《エネミス》も動かない。

 時が止まったかのようだった。




 ーーーーーー

 ーーー

 ー



 その静寂を打ち破ったのは、さらなる乱入者の到来だった。


『告:機影接近。

 判別……………完了しました。

 コード:S6ーβ型〔九十二式〕と判定。

 機影数3。

 友軍機の識別コードを確認。

 援軍です』


 ホープがようやく味方の到来を察知した。

 レーダーにビーコンが現れ、画面の端の方に三機のIGが見えた。

 背中に4枚の戦闘機のような翼を持ち、ジェットエンジンから勢いよく蒼炎を吐き出しながらこちらに迫ってくる。

 《エネミス》はというと、そちらもそれを察知したのだろう。

 顔にある赤く細い線状のセンサーが明滅した。

 そして這いずるように後退し、素早く飛び立つ。

 折りたたまれていた蝙蝠のような黒い翼を広げ、噴出口から橙色の鱗粉を撒き散らしながら、上へ上へと上がっていく。

 ほとんど一瞬の出来事だった。

 俺はそれを画面越しに見ていることしか出来ない。

 《エネミス》の進む先を見ていると、その一点が突如揺らいだ。

 蜻蛉のように空間が揺らぎ、そこから一機の歪な飛行体が現れる。

 《エネミス》は、その歪な飛行体の開いた腹の中へ入り、見えなくなった。


 すると、こちらに急行していたIGの内の一機がそちらへ進路を変えた。

 大型の銃と小型のシールドを構え、謎の飛行体へと進んでいく。

 しかし、飛行体は《エネミス》を収容すると目にも止まらぬ速さで過ぎ去っていた。

 追いつけないと判断したのか、IGは進路を戻し残る二機と合流した。



 数秒後、土塊を巻き上げながら三機のIGは静止する〔ヴァイツ〕の目の前へ着地した。



 ーーー



 三機のIGは俺の目の前に降り立つと、展開していた翼を折りたたんだ。

 油断なく辺りを警戒し、バイザーの中の一つ目(モノアイ)をキョロキョロとさせていたが、やがて索敵が終わったのかこちらを見据える。

 俺も機体を立ち上がらせ、彼らに向き合う。

 まだそれくらいの動力は残っていた。


 やっと、終わったのか……………………。

 安心とともに、かつて無い疲労感と虚脱感がやってきた。

 張り詰めていた緊張の糸が解れ、強張っていた肩の力が抜けていく。

 むかつくような吐き気は収まっていた。

 代わりにやってきた瞼が重くなる感覚。

 やっとだ。

 やっと日常に戻れる。

 拓真やクラスメイトたちとたわいのない話をして、眠い授業を受け、家へ帰って家族と夕飯の席を共にし、翌朝また学校へ行く。

 そんないつも通りの、そしてかけがえのない日常へ。

 ………………今にして思えば、この機体に選ばれ乗り込んだ時点でそんなことはありえないのに。

 疲れ切った俺はそんなことには気付かず、安心しきっていた。

 呑気に、そういえば彼女は無事に救助されただろうか、などと考えていた。



 だが、俺はすぐにそんな考えは甘かったと知ることになる。

 こちらを見据えたIG達は、こちらへゆっくり歩いてくる。

 そして、三機は散開すると半円にこちらを囲み――



『〔ヴァイツ〕の搭乗者に次ぐ!

 直ちに全て行動を辞め、機体の動力炉を停止させろ。

 そしてコクピットから抵抗せずに出てこい!』



 ―――その銃口をこちらへ向けた。



GW中は結構投稿できそうです。

ご愛読頂けると嬉しいです。

ご意見ご感想等頂けるとさらに嬉しいです。

お待ちしております。

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