第34話 「筆休め」
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34話、お届けします
ヴァイツのこと。
仰々しい言い方だったが、なんてことはない。
単に、改修に時間掛かっているから、まだ一ヶ月くらい修理が終わらないという報告だった。
完全に他の要件のついでだったらしい。
睦戸は一言、
「改修後を楽しみにしておくといい」
とだけ言って終わった。
ーーー
というわけで……
それでは余りにも面白みがないので、
今回はヴァイツについて、ちょっとした説明をしようと思う。
〔ヴァイツ〕
型番 GS-001
全高 15,2m
素体重量 30,6t
動力源 レス・キャラクト型ミューオン触媒核融合炉
ジェネレータ出力 2230kW
駆動方式 HSIDS
最大同時搭載可能量 21t
装甲材質 高硬度Hカーボン製複合装甲
平均巡航速度(徒歩) 時速50㎞
最高速度(ダッシュ時) 時速210㎞
基本データはこんな感じだったはずだ。
『白』、というネーミングには、どんな色にも染まる機体という意味が込められている。
武装という色を塗ることで、どんな戦場にも対応出来るという、この機体のコンセプトにピッタリな名前だ。
試験機であるヴァイツの性能は、非常に高くなるように設定されているというのは、以前にも言ったと思う。
このデータからもジェネレータ出力からして、破格な性能を持つことが分かるだろう。
これを可能にしているのが、ヴァイツに搭載されている最新の動力炉だ。
レス・キャラクト型ミューオン触媒核融合炉。
これはレス・キャラクトさんという人が開発した、ミュー粒子(負ミューオンという)を媒介とした水素やその同位体(重水素とか三重水素とか)の間に起こる核融合反応から、動力としてエネルギーを生み出す装置のことだ。
長年の課題だった、負ミューオンの生成にかかるエネルギーコストを解決し、更に高出力化まで成し遂げた、奇跡の発明品として有名である。
小型かつ高出力であり、これまで主流だったガスタービンエンジンやディーゼルエンジンにとって代わる動力源として、主にIGに多く利用されている。
だが、その製造方法や構造については全て企業秘密であり、一切外部には伝えられていない。
そのため、核融合炉市場は完全にキャラクト社の独占状態であり、値段も恐ろしく高価だ。
もちろん購入者が分解したりなどして構造を暴くことなども禁止している。
ヴァイツのリアクターは、〈ASCF〉が専用に発注した特別品だ。
通常よりも出力が高く、フレームに合わせた構造をしている。
普通なら、破損したリアクターは別の物と交換し、壊れたものをキャラクト本社へと送り修理を依頼している。
しかし、ヴァイツのは特別製であるため、替えがあまり利かないのだ。
なので、破損した場合に備えて、〈ASCF〉の技術班や日向たち整備班にキャラクト社の技術者も在駐している。
今回はその壊れ方に難があったため、修理が難航していると聞いていた。
機体の腹部にそのリアクターはあるのだが、あの黒いエネミス――ガープとの戦闘時に、保護機能を上回る衝撃を受けた際、リアクターの外殻が破損していたのだ。
そこで、もともと提案されていた強化プランを実行するのも兼ねて、ヴァイツは大規模改修を受けることになった。
そして今に至るというわけだ。
ーーー
さてと。
新たな配属先とヴァイツの改修。
睦戸が言っていた用事のうち、二つが済んだわけだが……。
「それで、最後の要件は何なんですか?」
「うむ、それについてなのだが……」
そういうと、睦戸はチラリと四ノ宮の方を見た。
「これは内密にしておきたいことでな。
出来れば四ノ宮くんにはしばし退室してもらいたい」
内密にしておきたいこと、か。
四ノ宮ですら教えたくないようなことなど身に覚えがないのだが。
「ええ、構いませんけど」
「助かる」
戸惑う素振りも無く、四ノ宮は素直に引き下がった。
彼女が出た後、ゆっくりと扉が閉じ重い音を立てた
いちいち追及しないのは、上官命令だからなのか性分なのか。
「……それではいいかな?優真くん」
「はい」
「私がしたいのは簡単な質問だ。
これには正直に答えてもらいたい」
言い方は柔らかいが、これは有無を言わさない確固たる命令だ。
責められているわけでもないのに、背中をつと汗が流れる。
「優真くん――」
睦戸の頼み、それは……
「――〔シュヴァルツ〕について、教えてくれ」
ーーーーーー
ーーー
ー
第四支部からの帰り道。
「しかし、一ヶ月後か……」
「そうね」
俺のふとした呟きにも、四ノ宮は応じてくれる。
「結局早かったね」
「異動のこと、知ってたのか?」
「いいえ。……でも、予想はしてた」
予想はしてたのか。
視野の広い四ノ宮は、こういうことにも敏感らしい。
「こういうのってよくあるのか?」
「わりとね。
IGって技量の差が出やすいから、強い人ほど異動は多いの」
「四ノ宮も?」
「私は……うん、そうね。多い方だと思う」
そういう四ノ宮の横顔は、少し寂しげだった。
「でも、第一小隊か!
すごいことだよな、やっぱり」
「あ、うん。そうだね」
暗い雰囲気を掻き消すように、ことさら明るく言ってみる。
四ノ宮もそれに微笑みで返してくれた。
「なにせ最強部隊だもんな。
きっと全員凄い人達なんだろうな」
「本物の実力者たちだものね」
……いえ、貴方もそっち側の人間ですよ。
「あ……そうなると、俺達は東京に行かなきゃいけないのか」
「ううん、そこは違うみたいよ。
第一小隊は基本的に応援任務らしいから」
「じゃあ、途中で合流して任務に行くことになるのか」
「らしいよ。
小隊の中でも、東京に住んでるのは三人くらいしかいないみたい」
「意外と少ないんだな」
「全国から選ばれた人達だしね」
全国展開してるんだから、それもそうか。
それぞれの生活もあるだろうし、わざわざ東京に引っ越させるわけにもいかないんだろう。
「任務が応援ってのは……」
「単体任務に当たっちゃうと、もしまたガープみたいなのが出たときに対応できないから」
「てことは、あまり合わない人とかもいるのか」
「うん」
やがて、駅が見えてくる。
これまで逆方向に帰っていたのが、今では同じ電車だ。
丁度帰宅ラッシュの時間帯とぶつかり、ホームはスーツを着た大人達でごった返していた。
疲れた雰囲気が溢れる人混みをくぐり、改札近くの車両の列に並ぶ。
やがて、ホームに電車がやってくる。
内房線、各駅停車館山行き。
すし詰めのようになりながら、車内に乗り込む。
はぐれないように自然と近くに寄りながら。
そして、電車がゆっくりと動き出す。
人混みに押されながら、見慣れた街並へと向かっていく。
明日もまた、同じような日常が待っている。
朝がきて、
家を出て、
学校に行き、
部活で騒ぎ、
……また家に帰る。
そんないつも通りの毎日が。
それでも……俺達の日々は少しずつ変わってきていた。
そう、時間は流れていく。
―――もうすぐ、夏がやってくる。
作中の表現で、現実とは異なる描写などもありますが、そこら辺は近未来ということで納得していただきたい……




