第18話 「任務の日 突入」
本日2話目です
第18話、お届けします
銃撃の中を掻い潜り、《エネミス》へと迫る。
〔ヴァイツ〕の機動性を活かした三次元戦闘だ。
横に一回転しながら〈187式〉を構え、撃つ。
ホープによる弾道補正を受けて放たれた100mm徹甲弾が、正確に《エネミス》の翼を穿った。
ギィィンという不快な着弾音が集音マイクを通じてコクピット内に響く。
徹甲弾の重い衝撃が灰褐色の怪物を錐もみさせた。
『対象への有効打撃を確認』
「再照準しろ」
『了解』
態勢を立て直した《エネミス》へと接近し、さらに銃撃を加える。
空中では姿勢がとりにくいため殆ど外れるが、《エネミス》も攻めあぐねている。
上下左右にしつこく《エネミス》を追い立てながら、照準が定まり次第ライフルを放つ。
「ライフルの残弾数は?」
『答:残り12発』
深川地区の時のようなミスを繰り返さないためにも、こまめに残弾数を確認していく。
残弾数はモニターにも表示されているのだが、ホープは面倒臭がることなくきちんと答えてきた。
AIなのだから当たり前か。
交戦中に、面倒だからって『モニターを確認ください』なんて言われたら、こっちは堪ったもんじゃない。
すると、逃げ惑う状況にしびれを切らしたのか、《エネミス》が突然動きを変えてきた。
銃撃戦では敵わないとみたか、今度は広げていた翼を折り畳み、ジェット機のような姿勢で一気にこちらへ吶喊してくる。
そして、両腕から針状剣を突き出し、乱数機動を織り交ぜて迫ってきた。
当然被弾面積が減り、スピードも上がる。
シールドを兼ねている翼で体を覆っているため、防弾性も上がっているだろう。
肩のバルカンと合わせて牽制射を放つ。
しかし、乱数機動のせいで照準が合わず、逸れた弾閃が彼方へと消えていった。
仕方ない……。
俺は一旦上空へ上がり、〈187式〉を構えていた右腕を降ろす。
そしてMFDを手早く操作し、火器管制の武器選択を切り替える。
「ホープ、照準は任せるぞ」
『了解。
〈ボフォースMk.6〉との接続、オンライン。
フルオート射撃、レディ』
「よし、撃て」
『発射』
停止した俺に向かって、下から《エネミス》がバカ正直に突っ込んでくる。
貫通力を上げるために、さらに加速しながら。
突撃態勢に入っている今なら、すぐには回避行動に移れない。
ホープに照準と発砲を任せ、フルオートで〈ボフォースMk.6〉を連射する。
的確な自動射撃が、次々と《エネミス》へと殺到していく。
分間1200発もの銃撃を受けて、堪らず進路を変える《エネミス》。
畳んでいた翼を広げ、左側に進路をとった。
――しかし俺の狙いは、《エネミス》の突進を防ぐことでは無い。
射線から逃れるため、双翼を広げた今の《エネミス》には防御手段が無い。
無理やり進路を変えているために、速度も落ちている。
「射撃やめ」
『了解、射撃停止』
ホープに自動射撃を止めさせる。
そして俺は、ライフルから持ち替えておいた〈カゲロウ〉を、《エネミス》の灰褐色の体へと向けた。
天井からスコープを引っ張りだして、照準を合わせる。
「照準補正頼むぞ」
『いつでもどうぞ』
ホープが頼もしい返事を返してくる。
流石は俺の相棒だ。
そして、照準器の目盛りと《エネミス》の姿が重なった瞬間。
「墜ちろ!」
引き金を引いた。
〈カゲロウ〉の銃口が火を噴き、反動が機体を揺らす。
長身のバレルを駆け抜けた炸裂弾頭の榴弾が、鋼鉄の矢となって中空を疾駆した。
そして、着弾。
違わず《エネミス》の背中に突き刺さった200mm榴弾が炸裂する。
直後、爆発が巻き起こった。
爆炎がその灰褐色の体を食い荒らし、衝撃波がその身を粉々に打ち砕いた。
灰褐色の怪物は、跡形も無く爆散する。
眼下の海へと消えていく《エネミス》の亡骸。
集音マイクが正直に拾った着水音が、寒々しくコクピットに木霊した。
『対象の完全撃破を確認。
現在の合計撃墜数、1』
ホープがそう告げる。
戦闘、終了。
続いてポイントに向かうべく、フライトユニットを戦闘形態から巡航形態に戻した。
「ふぅ……」
強張った肩をほぐし、体の力を抜く。
ここからは連戦だろうから、常に気を張っていなければならない。
今の内に、気分をリラックスさせておいた方が良い。
「…よし!」
頬を叩いて気合いを入れる。
そして島の方に機体を向けると、通信が入った。
四ノ宮からだ。
『終わったわね?』
「ああ、終わった」
スピーカーから、凜とした声が響いてくる。
戦闘状態の集中した四ノ宮だ。
こっちはこっちで大人っぽい格好良さがある。
堂々とした雰囲気が魅力的だ。
『それじゃ行きましょうか』
「ああ、行こ……う…?」
『ん?どうしたの?』
「いやー……その」
『なによ』
画面越しに、こちらへ近づいてくる四ノ宮の〔九十二式〕を見る。
……いや、正確にはその〔九十二式〕が肩に担いだ、大太刀を。
「まさか……それで墜としたの?」
『当然』
そう言って愛刀を振ってみせる四ノ宮。
えぇ……?
機動性が制限される空中で、刀使った接近戦とか……。
マジかよ。
どんだけ接近戦が好きなんだよ……。
思わず呆れて脱力してしまう。
『な、なによ。
〈アマテラス〉使っちゃ悪いって言うの?』
「いや、悪いって訳じゃ無いが……」
四ノ宮さん割と脳筋なんですね。
なんて、口が裂けても言えない。
特に筋肉ってところに敏感に反応しちゃうから。
だってほら、四ノ宮の胸って…その……薄いだろ?
四ノ宮は相当体を鍛えてるから、胸まで筋肉質そうだし。
『とッ、とにかく!隊長たちと合流するわよ!』
「はいはい」
無理やり話を逸らそうとする四ノ宮。
無線通信用の小窓が開いているから、彼女が今どんな表情をしているのか丸わかりだ。
気恥ずかしかったのだろう。
少し顔が赤くなっている。
やだもう四ノ宮さんったら、可愛いねぇ。
と、暖かい目で見ていたら、四ノ宮の〔九十二式〕が急発進してしまった。
慌てて俺もその後を追う。
島から2キロほどしか離れていないので、島はすぐそこだ。
さて。
可愛い四ノ宮も見れたことだし。
俺の気力の再充塡はとっくに完了している。
やる気マックスだ。
よし、突入だ!
ーーーーーー
ーーー
ー
スラスターの推力を調節して、甥島――ポイント〈グレイ〉へと降り立った。
ここでフライトユニットをパージし、地上戦に備えておく。
俺達が今居るのは島の西側にある砂浜だ。
先行している小隊の三人もここに着陸したようだ。
砂浜の隅にパージされたフライトユニットがあった。
「ホープ、広域索敵モード。
常時戦闘態勢に移行しろ」
『了解。
索敵結果を広域マップに表示します』
索敵レーダーが捉えた《エネミス》の反応が、中央画面に現れた島の地図に重ねられた。
この付近の《エネミス》は、粗方染谷たちが排除してくれたようだ。
残る地上の脅威は、島の反対側に2体、中心部にある小高い山間部に3体だけだ。
山間部に戦力が集中しているのは、恐らくここに奴らの拠点があるからだろう。
かつて調査団がこの島に立ち入ったときの拠点の、一部がまだそこにもあるのが確認されている。
先行する染谷たちも同じ考えのようで、友軍機の信号が三つそこへ向かっていた。
「とりあえず、隊長たちと合流しよう」
『そうね』
四ノ宮の了解も得て、染谷たちがいる方へ機体を向けた。
現在地から先行している彼らの所までは、大体1キロほどだ。
島には道は無いが、ほとんどが起伏の激しい草原なので、IGが進むのにも然したる支障は無い。
30秒もかからずに追いつけるだろう。
『隊長たちが会敵する前に追いつきたいわね……』
「そうだな、急ぎ目に行こう」
『ええ』
周囲を警戒しつつも、島の中を駆け足で進んでいく。
山間部に近づくにつれて、緑が減っていき岩が多くなってくる。
地面もゴツゴツしていて、揺れが酷い。
少し酔いそうだ。
進んで行くと、やがて前方に友軍機の反応があった。
スピードを緩め、染谷たちの方へ向かう。
100m圏内に入り、小隊用の通信回線を開いた。
「レグルス9よりベガ4へ。
追い付きました」
『おお!了解した。
こちらは現在潜伏中だ。
来るときには見つからないように』
「判りました」
染谷が応じた。
指示に従ってもう少し進むと、体勢を低くして隠れる三機を見つけた。
CEDを作動させているのだろう。
『現在の状況は?』
『二人を待っていたんスよ』
『合流次第突入するつもりだったからね』
四ノ宮がそう尋ねると、佐渡と沓城が答えた。
二人の位置は染谷よりも後方だ。
突入時には支援に回るのだろう。
そして、岩陰に隠れる染谷の〔九十二式〕の更に向こう。
3体の《エネミス》が、キョロキョロと油断なく辺りを見渡している。
これほど警戒しているのは、襲撃の情報が伝わっているからだろう。
既に仲間が討ち取られたこともだ。
奴らはごつごつとした急斜面の、せり出したような台地の上に立っている。
そしてその奥。
ぽっかりと大きい、暗い空洞が口を開けていた。
丁度IG一機、《エネミス》一体が通れるくらいの。
『あの空洞が奴らの拠点への入り口だろうな』
通信で染谷が説明してくれる。
『恐らくこの島が出来たときの火口の一つだろう。
今は活動を休止しているようだ。
一応突入の際は炸裂系の武器は使用するなよ。
崩落の危険があるからな』
火口か。
確かに休止している火山なら、拠点として使うことも出来そうだ。
この島には平地が少ないからな。
『それでは、突入の手筈を確認するぞ』
「『『『了解』』』」
『まずは俺が陽動を仕掛ける。
一体か二体を引っかけるから、俺の合図と同時にレグルス8とレグルス9が残ったのを速やかに排除しろ。
排除したら木崎は内部の警戒、四ノ宮は外部の警戒だ。
最後に引き付けた奴らを俺が始末する。
ベガ6とアルタイル6は俺の援護。
レグルス二人の方は気にしなくて良い。
質問はあるか?』
「『『『無し!』』』」
『それじゃあ作戦開始だ、位置につけ!』
「『『『おう!』』』」
ーーー
『準備はいいな?』
『いつでも来いッス』
『こっちもOKだよ』
『行けます』
「いいですよ」
『よし!』
染谷は確認をとると、岩陰から飛び出した。
シールドを構え、《エネミス》へと勢いよく突き進んでいく。
『おおおおお!!』
スピーカー越しに染谷の雄叫びが聞こえてきた。
反応した《エネミス》共が、突進する〔九十二式〕の方を向く。
すぐに腕の銃口を向け、次々と弾丸を浴びせる。
だが、その攻撃は耐弾強化されたマテリアルシールドによって弾かれた。
染谷のシールドは前衛用の特別仕様で、一際防御力が高い。
その分重くなり機動性は落ちるのだが、接近戦をしない彼にとってはあまり関係ない。
銃撃の効果が無いと見た《エネミス》達の内、一体がエストックを取り出して染谷の方へ立ち向かっていった。
よし、陽動成功だ。
『今だ!いけ!』
「『了解!』」
一体を引き付けた染谷の指示で、同時に飛び出す俺と四ノ宮。
残る二体がこちらを向く。
しかし遅い!
「くたばれ!」
〔ヴァイツ〕の機動性を活かして一瞬で距離を詰める。
前腕の銃を向けようとするが、それより早く背後に回り込んだ。
腰から抜き放った単分子ショートブレードを、首元から突き立て蹴り飛ばす。
一撃で致命傷となった《エネミス》は斜面を転げ落ちていき、爆散した。
奇襲作戦は素早さが命だ。
反対側を見ると、四ノ宮が真正面から《エネミス》を愛刀で斬り倒していた。
よほど〈アマテラス〉が好きなんだね……。
染谷に言われたように、内部から増援が飛び出してくるのを警戒する。
手に持ったブレードを腰に戻し、〈ボフォースMk.6〉に持ち替え構える。
ちらりと横目に見ると、四ノ宮も外部を警戒していた。
手にしていたのは流石に〈アマテラス〉ではなく、普通にマシンガンだった。
しばらくして、
『よし、片付いた。突入するぞ』
自身の敵を撃墜した染谷たちが、俺達の元に来た。
無事にトドメを刺したようだ。
火口の入り口の前に集合する。
突入前にもう一度配置や行動の確認しておくためだ。
『突入班は俺とベガ4、レグルス8、レグルス9だ。
アルタイル6は入り口にて待機。外を警戒しろ』
『了解ッス』
『なにかあればすぐに報告しろよ。
それと突入班の隊列だが、正面は俺、真ん中にレグルス二人で殿はベガ6に頼む』
『OK、任しといて』
打ち合わせを終え、いよいよ入り口の前に立つ。
『突入!』
そして、染谷の指示と同時に暗い穴へと飛び出した。
そして俺達はアイツと遭遇することになる。
というわけでまたまた続きます。
一応次話が最後(の予定)です。