第85話(最終話) オレの娘だ
「それならそうと、どうして言ってくれなかったのよ!」
始業式当日の予定が全て終了したあと、臨時の清蓮学園女子魔法学校校長室として使用されていた第二応接室にメグミは押しかけていた。相手は先ほど発表があったばかりにせよ、校長先生である。
「清野に口止めされていたからな。それに、競技会で負けていればオレはクビになっていたんだ。決まってもいないことを口にするわけにはいかないだろ?」
真っ当な説明をするダグラスにメグミは言い返せない。しかし、まだ腹立たしさが残るメグミは別件で食い下がる。
「それはわかったわよ。それにしても夏休みの間、いったいどこに行っていたの!?」
「その質問には答えない」
またそれ? さすがに、怒る気にもなれない。
「ハイハイ、落ち着くから――だいたい察していたけど、今居の行方を捜していたんでしょ?」
競技会後、ナタリア女学院魔法科主任教師の今居壮が行方不明になっているという情報は、メグミの耳にも届いていた。おそらく、それにダグラスが関わっていることも予測はできている。
「もしかしたら――って思っていたけど、今居ってやっぱり前の世界の知り合いなの?」
メグミの質問にダグラスはどう回答するか躊躇った。誤魔化すことも考えたが、いずれ知られてしまうことなら――と、事実を言う。
「そうだ、アイツはオレのいた世界から転生してきた。名前はアルベルト・ヴィルディーム」
「転生――」
まあ……異世界に関係していると思った時点で想像してはいたけど、ダグラスの口から『転生』という言葉が出てきて、やはり驚く。もはやファンタジーだ。
(魔法があるのだから、いまさらか……)
「それで、そのアルベルト・ヴィル……なんとかという人とダグラスはどういう関係だったの?」
「――オレの弟子だった男だ。そして……オレが殺した相手だ」
「……えっ?」
いきなり、そんなことを言われて面食らう。
「ちょっと、殺したって――」
「だから言っただろ? オレは犯罪者だ。この手で殺した相手は何人もいる」
確かに、「自分が犯罪者だということは否定しない」そんなことを言っていた気がする。でもさすがに、「人を殺した」とまでは想像もしていなかったのだが――
「アイツは――アルベルトは魔族に魅了され、魔族召喚という禁忌を犯そうとした。だから殺した」
顔色も変えず、淡々と話すダグラスに、メグミは言葉を失う。しばらく、二人とも黙っていたが、メグミはある疑問が浮かんだ。
「……ねえもしかして、今居はこの世界で魔族召喚に成功したんじゃない?」
前にいた世界にさえ存在しない『魔族の麻薬』がこの世界にある――そうダグラスは言っていた。ということは……
「ああ、今居――アルベルトは魔族召喚を成功している。しかも、一度ではない」
そして、それが意味することは、この世界に魔族が何人もいる――ということだ。
「それって、かなり危険なんじゃ……」
「そうだな。とてつもなく危険だ」
勇者でなければ倒せない相手――そのような者がこの世界にいる。当然、この世界に『勇者』はいない。
今居が盛サナエ以外の魔族を召喚しているのは間違いないだろう。それらがこの世界を支配しようと考えでもしたら、ダグラスひとりではとても対処できない。
盛サナエだってそうだ。「今はなにもするつもりはない――」そうダグラスに言っているが、いつ心変わりするかわからない。魔族とはそういうものだ。
「それで、ダグラスは責任を感じているのね?」
たとえ予期しえないこととはいえ、自分がアルベルトを殺したという行為でこの世界に迷惑をかけてしまった――それについては、紛れもない真実だ。
「まあな……」とダグラスは応える。
なんか、とんでもないことを聞いてしまったなあ……メグミは困惑の表情を見せる。聞かなければ良かったと思っても仕方ない。いずれ起こるであろう魔族の脅威に対して、魔法使いである自分も対処しなければならないのだろう……そんなことを漠然と考えてしまう。
するとある疑問が湧いてきた。
「ねえ、転生者って他にもいると思う?」
今居は転生者である。そして、ダグラスは転移者――そうなると、他にも異世界から転生、もしくは転移した者がいると考えるほうが自然だ。それをダグラスに質問する。
「オマエにしては至極真っ当な質問だな」
どうせ、いつもくだらないことしか質問してないわよ――とふてくされるメグミ。ダグラスは答えた。
「転生者は他にもいると確信する。なぜなら、オレはすでにもうひとりの転生者を知っている」
「えっ? それって、誰?」
ダグラスが人差し指をまっすぐ前に突き出した。
「大埜メグミ――オマエは十七年前、オレがこの手で殺した、オレの娘だ」
「……………………えっ?」
その時、ふたりの前に『黒い空間』が現れる。モヤのようにフワフワと浮いていた。
それだけでも異様であるのだが、自分のカラダがそこへ吸い寄せられているのがわかった。
「ちょッ! な、なにこれ!」
メグミは慌ててダグラスの背後に回るのだが、彼はいたって冷静のまま――
「ふん。エイドルフめ、やっとアレに気づいたか。四カ月もかかるとは――ヤツもまだまだだ」
そんなことを平然と呟いている。
「エイドルフって誰よ!? アレって何よ!?」
何がなんだかわからない――メグミは混乱するのだが――
「大埜、いい機会だ。オマエも一緒に来い」
「えっ? 一緒に来いって――どこに!?」
「アスタリア大陸――オマエがかつて生活していた異世界だ」
自分がかつて生活していた――い、異世界ぃぃぃぃっ!?
いまだ理解が追いつかない――という表情のメグミの手をダグラスは握る。そして、その黒い空間へダイブするのだった!
「な、なに!? ちょっと! う、うわぁぁぁぁっ!」
メグミの悲鳴を残してふたりが吸い込まれると、臨時の校長室から人気が消えた。
《 終 》
読者のみなさま
最後まで読んでいただきありがとうございました!
この作品はHJ小説大賞への応募用に公開したため、なろうでの連載はここまでといたします。
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それでは、またどこかでダグラスたちに会える日を期待して――




