第二話 私を大切にしないなんてとんでもない!
そしてクララは、肩で息をしながら最後の一句を叫んだ。
「以上の理由により!私を捨てるなんてとんでもない!」
しん、と執務室が静まり返る。
「殿下、どうか考え直してください!断罪するなら私ではなく、昨日の夕飯で残されたピーマンにしてくださいませ!」
言い切ってから、クララははっとした。
やってしまった。
必死になりすぎて、最後の方は何を言っているのか自分でもよくわからない。
ピーマンの断罪って何。
ああ、きっと殿下は呆れていらっしゃる。
こんな情緒不安定な婚約者、やっぱりいらないと――。
じわりと涙が滲みかけた、その時。
「――くっ、……ふ、ははははは!」
フェリクスが、お腹を抱えて笑い出した。
「あはは!最高だよ、クララ。ピーマンの断罪か。確かに、あれは僕が悪かった。次からはちゃんと食べるよ」
「で、殿下……?笑い事ではございません。私は真剣に、流行の波から殿下をお守りしようと……」
「流行?ああ、あの噂のことか」
フェリクスは立ち上がると、呆然とするクララのそばへ歩み寄り、その手から扇をそっと取り上げた。
そして次の瞬間、彼女の腰に手を回し、そのままひょいと自分の膝の上へ抱き上げる。
「ひゃっ!?」
「困ったな。僕の執務室の机が、君の可愛すぎるプレゼン資料で埋まってしまった。おかげで仕事が手につかない」
顔が近い。
近すぎる。
クララの思考は、その瞬間きれいに停止した。
「クララ。君は大きな勘違いをしているよ」
「か、勘違い……?」
「僕は流行に敏感かもしれないけれど、それは国の政治や商いの話だ。愛する女性を流行り廃りで選ぶほど、僕は節操なしじゃない」
「……」
「それに、君の資料の中で、僕がいちばん信じたのは最後の一枚だよ」
フェリクスは、似顔絵の描かれた紙に目を落とし、ふっと優しく笑う。
「君が三億ゴールド稼ごうが、僕の肝臓を守ってくれようが、そこは正直どうでもいい」
「えっ」
「大事なのは、君がそこにいて、僕を大好きだと、そんなふうに必死で伝えてくれることだ。それだけで、僕の人生の価値は無限大なんだよ」
クララの顔が、資料に引かれた赤線よりも真っ赤になる。
「じゃ、じゃあ……断罪イベントは……?」
「やらないよ。やるわけがない。君は僕があんな愚かな真似をするとでも思っていたのかな」
「い、いえ……そういうわけでは……ただ、その、最近あまりに流行っていると聞いたものですから……」
「なるほど。流行が怖くて、あんな資料まで作ったのか」
「……はい」
「可愛いな」
即答だった。
しかも、まったくためらいがない。
フェリクスはクララの目元に滲んだ涙を指先で拭うと、とびきり甘い微笑みを浮かべる。
「さて。クララのプレゼンは、文句なしの満点だ。僕を納得させるには十分すぎる内容だった」
「ほ、本当ですか……?」
「ああ。だから次は、僕の番だね」
彼はクララの手を取り、その手の甲に深く、熱い口づけを落とした。
「僕がどれだけ君を好きか。そして、君がどれだけ僕にとって唯一無二の存在か。今からたっぷり説明しよう」
「ご、言葉でですか……?」
「言葉でも伝える。でも、それだけじゃ足りないな」
「足りない……?」
「一晩かけて、じっくり覚えてもらおうかな。覚悟はいいかい?」
クララはかっと茹で上がった。
「ひ、一晩!?それは資料が何枚になるのでしょうか!?」
「資料なんていらないよ。言葉と態度で示すから」
真っ赤になって固まる婚約者を、フェリクスは満足げに抱きしめ直す。
どうやらこの場で、王国始まって以来の甘すぎるプレゼン大会の開催が決定したらしい。
もちろん、結論は最初から決まっている。
私を捨てるなんて、とんでもない。
そんな言葉ごと抱きしめてしまうほど、二人は最初から、どうしようもなく両想いだったのだから。
最後までお付き合いありがとうございました。
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