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第一話「そんなことある!?」



「エミリーちゃん! またね!」


「ハイ! また明日、お会いシマショ」


憧れの彼女の声に、教室の隅で掃き掃除をしていた少年が振り返った。

二つに結った金色のウェーブ髪を揺らして、一人の少女が教室から出ていった。


「ねぇ、エミリーちゃんの青い瞳《ひとみ》って、いつ見ても綺麗よね!」


「うん! まるでビー玉みたいで吸い込まれそう! いいなぁ。私もハーフだったらなぁ」


「憧《あこが》れるよねー!」


エミリーちゃんに挨拶した女子達が、きゃあきゃ騒いでいた。


健《けん》は視線をホウキに向け、その会話を聞いていた。


手を動かすたびに、耳の横の黒髪がピョンピョンと跳ねている。


(……今日も話せなかった……)


健はため息をついた。





放課後の掃除が終わり、ジャンケンに負けた健は、ゴミ捨て当番になってしまった。


ゴミ捨て場から戻ってきた健は、浮かない表情のまま教室の扉を開けた。


「あっ! た、高宮《たかみや》くんっ!!」


誰もいないと思っていた健は、顔を上げた。


「あれ? 志堂さん、まだいたの?」


「う、うん……今日は、学級委員会だったから……」


おかっぱ頭の彼女は、学級委員の志堂《しどう》 絢《あや》。

真面目でおとなしく、クラスのオアシス的存在だ。


「ああ、それで」


納得した健は、一番前の席で帰る支度をしている彼女の横を通り、後ろの自分の席へと向かった。


「…………」


絢は、通りすぎる健を横目で見ると、顔を赤くしてうつむいた。


「偉いね、こんな遅くまで」


「えっ!?」


健に話しかけられ、絢は驚いて振り返った。


「このクラスの委員長は、やっぱり志堂さんしか務まらないよ!」


自分の席でランドセルを背負った健が、絢の方へ歩み寄った。


「そ、そんな……っ! わ、私は……っ、これくらいのことしかできないからっ!!」


慌てて謙遜《けんそん》する彼女を見て、健はニコッと笑った。


「誰にでもできることじゃないよ」


「…………っ」


絢はポーっと見惚《みと》れた。


「……あっ」


我に返った絢が、何かを返そうとした時だった。



「おーおー! なに、いい雰囲気醸し出してくれてんだよ、お二人さん!」


「っ!?」


廊下の窓から顔を覗かせ、人差し指でサッカーボールを回しているのは、クラス一《いち》のお調子者。

ツンツンと元気よく跳ねた栗色の短髪がトレードマークの大山《おおやま》 剛士《つよし》だ。


「剛士……」


「い、いい雰囲気なんて……っ、だ、出してないわよっ!!」


キョトンとする健とは対照的に、絢は顔を真っ赤にさせて怒鳴った。


「真面目な委員長さんは、不真面目なオレには厳しいねぇ〜」


剛士はニシシと笑った。


剛士と絢は幼稚園の頃からの幼馴染《おさななじみ》だ。

普段真面目で静かな絢は、剛士の前だけでは強がりな一面を見せる。


「ったく、健。お前が遅いから、もうみんな帰っちまったぜ? おかげで、オレがボール片付けなきゃならんくなっちまった


「ごめん。ゴミ捨て当番になってしまって」


健は苦笑いで謝った。


剛士はヒョイっとボールを教室の後ろ目掛けて投げた。

ボールは壁に当たると、すぐ下のボール入れのダンボールの中にスポッとおさまった。


「しゃ!」と小さくガッツポーズを取り、剛士は帰ろうと歩き出した。


「あ、でも、放課後の教室で二人きりを狙うってことは、実は真面目なのは表面《ひょうめん》だけってことかぁ?」


剛士は足を止め、肩越しにニヤリと振り返った。


「ど、どういう意味っ!?」


絢は赤い顔で剛士を睨んだ。


「わかってんだぜ? お前の魂胆《こんたん》くらい。健とのツーショットを狙ってたんだろぅ?」


「え?」


「つ、剛士っ!?」


絢はわかりやすく慌てた。


「委員長が、そんな下心《したごころ》ありありでいいのかねぇ〜っ!?」


両手を頭の後ろに当ててニヤつく剛士のからかいは止まらなかった。


「オレが来なかったら、はたしてどこまでいってたやら。なんなら、いっそ健に言っちまうか? 『あなたのことがす……』」


「やっ、やめて……っ」


絢が必死になって剛士の先の言葉を止めようとした。

慌てすぎたせいか、足元の注意が疎《おろそ》かになり、近くの机の脚に思いきり引っかかってしまった。


「ガッ」と鈍い音を立てて、机がズレる。


「きゃああっ!!」


「あぶないっ! 志堂さん!!」


絢の高い悲鳴と共に、健はとっさに駆け寄った。


ガタンッと椅子を巻き込む転倒に埃《ほこり》が舞う。


一連の様子を見ていた剛士は、「あれま……」と呆気にとられた。


間一髪のところで、絢の体を衝撃から守った健は、細めていた目を開けて彼女の様子をうかがった。


「……だ、大丈夫? 志堂さ……ん!?」


健は右手に妙な感触を覚えた。

絢の体を支えたつもりだが、やたら柔らかい。


次第に健は冷や汗を流し出した。


(……こっ、これって……っ、ま、まさか……っ!!?)


視線の先の絢は、体勢《たいせい》を崩して顔を向こうに向けていたが、彼女の耳は真っ赤に染まっている。


先ほどまでからかっていた剛士も言葉を失い、ただ苦笑いで眺めていた。


(ま、間違いない……っ、これは……)


健は確信した。


恐る恐る自分の右手に目をやった。


「っ!?」



(ぎょええええええええええええーーっ!!?)



豊満《ほうまん》な絢の胸を鷲掴《わしづか》みにする自分の手に、健は心の中で大絶叫を炸裂させたのだった。




次回へつづく!


第一話、最後までお読みいただき、ありがとうございます!楽しんでいただけたら嬉しいです。

※お知らせ

現在、スキルアップを目指して、カクヨムにて過去作『ワンド&ソード 〜王の守護者〜』の「修正版」を投稿しています。

一話を短く、よりサクサク読めるように整えていますので、もしご興味があればこちらも覗いてみてください!

※執筆の原点である「なろう版」の『ワンド&ソード』も、当時の設定や掛け合いをそのままにこの場所に残してあります。

始まったばかりの本作ともども、応援よろしくお願いいたします!

次回「男同士の抱き合い」もよろしくお願いします!!

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