Eternal LiFe
エルフ達は洞窟の奥に隠されていた転移魔法陣を使って転移した。
その後、ガラス器具や機械が散乱する廊下を進み、いくつもの角を曲がり階段を下った先でようやくリリーナが立ち止まった。
『着いたよ』
「リリーナ、ここはどこなの?」
リリーナが章喚したウルグに乗ったコトミが聞いた。
『予想は付いてるんだろう。ここは[レザルボアマギカ]地下に広がる研究施設跡地さ』
「やっぱりそうなのね。
でも昔の秘密主義者達がわざわざ外につながる道をあんな辺鄙な場所に作ってたなんて信じられないわ」
『この場所は色々ヤバい魔法や化学の実験資料の宝庫だからね。
秘密主義共が工夫して秘匿しようとしたけど、中にはいざという時に誰にもバレずに持ち出す抜け穴を作ったバカな奴もいたのさ。
逆に盗み出す為の穴を掘った奴もいる。
あの洞窟はそのバカの一人が作った道に繋がっていたんだよ』
リディアがハクシキの書から光の玉を放った。
光の玉は部屋の中央で弾けてランタンのように周囲を照らした。
その部屋は一方の壁に檻があった。
他には薬品を混ぜる為のフラスコや、鎖や用途を直ぐに思いつかないような物騒な何かが無造作に散らばり埃を被っていた。
革帯で人を縛りつける台や椅子もある。
明らかに人体実験、特に苦痛を伴う何かを目的に作られた部屋だ。
『さてお若いの。
この部屋に見覚えはあるかい?』
「いや……なにも」
『じゃあ質問を変えるよ。
Eternal Lifeプロジェクトという言葉を知っているかい?』
「えたーなるらいふ……
オレが唯一覚えていた言葉だ。
ロジーナさんがその言葉を縮めてオレの名前にしたんだ」
「だから“エルフ”なのね。
リリーナ、そのEternal Lifeプロジェクトっていったいなんなの?」
『知らないのかい?この部屋で行われていた実験の名前さ。
捕獲した不死生命を利用した計画でね。
名前の通り不死能力を持った人間を生み出す為の実験だったのさ』
「それは人魚?それとも他に不死生命は存在するの?」
『いいや、初期の頃はカメとかクラゲみたいな長く生きる生き物を使って実験を重ねていたそうさ。
だが、あるとき遂に不死能力と呼べる力を持つ魔物を見つけたのさ。
研究者達はそれを“不死鳥”と呼んでいたようさね』
「トリ?」
『あぁ、鳥さ。
未知の魔力で身を覆い、死ぬと全身を焔で燃やし何事も無かったかのように空を舞うらしいさ。
その鳥の魔力を人型に埋め込んで不死魔力を持つ人間を作ろうとした。
エルフはその失敗作なのさ』
「失敗作?
オレはコトミに斬り落とされた指が生える所を見た。それに……自覚はないけど一度死んで蘇っている」
『不死生命としては成功しているさ。
だが、奴らが作りたかったのは不死の人間だったのさ。
お若いのには哺乳類特有の生殖器と歯が無いだろう。
ベースに使ったのが鳥だったから失敗したのだろうさ』
「は?」
『おや?自覚が無かったのかい?』
「あー、エルフ。落ち着いてこれを見て」
コトミは水の屈曲や光の反射を利用して鏡を作ってエルフの前に出してやった。
その鏡の前でエルフは凍りついた。
「歯が無い……」
目が覚めてから衝撃の連続で気にする余裕もなかったが、喋るときに確かに違和感を感じていた。
その原因が今、わかりやすく目の前にあった。
『どうやら顔に強い衝撃を受けた後、顔は再生できたけど、歯までは再生出来なかったようさね。
今まで歯だと思っていたのは精巧な入歯だったのさ。嘴にならなかっただけ良かったと思うしかないさ』
「さっきの話から推測すると、鳥には乳首やへそや歯が無いから人型と合成するときに失敗したって事?」
『察しがいいね。その理屈で行くなら手も翼になっただろうが、その辺の事は当時の化学者共でないと説明できない話だろうさ』
「なるほど……んっ?
あたし、これまでにエルフの身体にヘソや乳首がないのは見たんだけど……
もしかして、……そういう器官もないの?」
『あぁ、無かったよ。蘇らせた直後は服なんか着てなかったからさ。
態度や物言いから察するに男のつもりではあるみたいだが、外見で性別を特定しうる器官はないさ』
コトミはもちろん、身体をリリーナに託し状況を静観していたリディアも、ストールで顔半分を隠しながらエルフの上半身と下半身の境目辺りを意味ありげに見た。
複数の視線に晒されてエルフは身体の前側、具体的には胸と股間を手で隠した。
「話が脱線している!
オレを蘇らせたと言ったな、それはどういう事だ?」
怒気のこもった声でエルフが話題の修正にかかった。
『すまないね、お若いのを見つけたのはこの檻だよ。
何らかの薬物を投与されて再生出来ないでいたのをワタシが薬物を排除してやった。
そうしたら後は自力で再生していったさ』
リディアの身体を介して指し示した方の檻にエルフは近付いた。
「リリーナ、おかしくない?
エルフはここが機能してた何百年も前に作られたんでしょう?
だったら薬物を無効化出来ても、老衰で死ぬんじゃないの?」
『不死、とは言ったが少し違うよ。
そこには、致命傷や不治の病は元より、不老も含まれている。
推測だが、エルフの今の姿は一番生物が力を発揮出来る成熟した年代の姿なんだろうさ』
「……そう、もう歳を重ねる事も出来ないのね」
『心は兎も角、身体の方ならそうさね』
「大方オレはこの鎖に繋がれて身体を弄り回されていたんだろうな」
開けっ放しの格子扉を潜ると中はなんとか人一人が立ち上がって手を広げる事が出来る程度の広さだった。
足元に鎖が落ちていたので拾い上げると、首が嵌りそうなサイズの鉄輪にf,37と掘り込まれていた。
檻の中から外へ目を向けると、明らかに人を傷付ける目的の道具がすぐ目に付く。
『おそらくは、お若いのの身体で不死能力を他所に付与する方法や、その限界を確認していのさ』
「オレはモルモットだった訳か……」
『その通りさ。ワタシはお若いのを拾った後、死者蘇生の魔法の準備に取り掛かった。
しかし、油断した隙に逃げられてね。
その結果、外にカイトヒルを放って捜索する羽目になった』
「エルフ、もういいでしょう。早くそこから出て来て」
コトミが耐えきれないというように震えた。
エルフは檻の中を見渡し他に何かないか確認してから檻を出た。
f,37と刻まれた首輪以外にそれらしい物は無かった。
「さっき人型って言ってたな。
それはどういう意味だ?クローン体か?何処かから拐ってきた人間だったのか?」
『そこまでは分からないさ、その辺の推測を語っても、混乱するだけだろうからさ』
「嘘でもオレは人間だって言って欲しかったな」
『すまないね』
「いや、いい」
項垂れたエルフをリディアは気遣わし気な目を向けた。
エルフの方へ歩み寄ろうとしたリディアの足は、しかし、コトミの方へ向いた。
リリーナがリディアの意志を遮り、その身体を介して動く。
ずっと沈鬱な顔をしていたコトミへ、リリーナが声を掛ける。
『ひとつ聞くよ、ワタシが不死生命と言って直ぐに人魚と言ったね。
人魚の存在を確信して、しかも不死である事も知っているとしか思えない反応の早さだった。
それは何故さ?』
「……どういう質問?
あたしとエルフから情報を引き出して売ろうって魂胆かしら?」
コトミは左手をリディアに向けた。魔法の構えだ。
そんなコトミなど気にも止めずリリーナは言葉を紡ぐ。
『勘違いしてないかい?
ワタシはお若いのが不死生命である事は最初から知っていて、その上ワタシしか知らなかった情報をほとんど代価なしに教えている。
脅しに従うしかないお前に、随分と甘い対応をしていると思わないのかい?』
「それは……」
『ま、ワタシもリディアも嫌われるのは本意じゃないからさ。
これを最後の質問にしよう。何故人魚に執着している?』
「……人魚の血は万能薬になる。
あたしにはどうしても治したい病がある。
人魚がその手がかりになるならあたしは人魚に会いたい。それだけよ」
『くっ……ぷははははは』
リリーナは憑依しているリディアの顔を歪め、お腹を抑えて笑い出した。
『すまないねぇ……くくっ。
そうかい、確かにそうさ。隠し事は不治の病とも言える。
咄嗟の思い付きにしては中々の逃げ口上じゃないさ、気に入ったよ。
お近付きの印としてはなんだがそのウルグはお前にやるよ。
脚代わりに使うといいさ』
コトミは唇を噛み締めてリリーナを睨んだ。
しかし、何も言い返す事もできなかった。
*(๑^. .^๑)۶ 〜
三章fin.
E.エルフ
S.ショウタ
Rf.ラフラ
E.「ショウタ、お前は昔の事をどれくらい覚えている?」
S.「昔か、姐貴と住み出す前はジャルパ行商隊と一緒にいたんだが、その辺の記憶は曖昧なんだ」
E.「じゃあ、それより前は?」
S.「知りたいか?あれはずっと前だな。
俺がまだ酒の飲み方も、女の抱き方も知らなかった頃の話さ」
E.S.次回“サンイチロクの生涯”
Rf.「えぇ!ショウたん女を抱いた事あるの!?」
S.「ラフラ!?何故ここに」
Rf.「細かい事は気にせずに、いつ抱いたの?どこの子?」
S.「……抱いたことありません」
E.「どうでもいい」




