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ダンジョン最深部にコンビニが? ~金払いのいいA級パーティを「太客」に囲い込み、その売上でブラックな魔王軍を買収して、俺が新しい魔王になります~  作者: たくみ
第一章 悪徳店長

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1:魔王軍直営コンビニ、ダンジョン・マート深層店へようこそ

「いらっしゃいませー」


 自動ドアが開く電子音と共に、俺の口からは条件反射でその言葉が飛び出していた。

 視界には、清潔に磨かれた白い床。

 整然と並ぶ商品棚。

 そして、レジカウンターの奥にあるバックヤードへの扉。

 どこからどう見ても、日本全国どこにでもあるコンビニエンスストアだ。


 ただし、店の外が「ダンジョンの最深部」であることを除けば。


 俺の名前は相田アイダカズヤ。

 かつて日本で、コンビニオーナーとして、過労死ラインギリギリで働いていた。


「過労死ライン? それは貴方の経営の仕方に問題があるからですよね?

 そんなことより、今年の恵方巻きの予約目標を教えてください。」


 高圧的に接してくる本部のSV(スーパーバイザー)、独立したはずなのに、やってることはサラリーマンと変わらない。むしろ酷くなったかも……。

 そして今、俺は異世界に転移し、再びコンビニのレジに立っている。


 ただし今回の本部は、人間が経営していなかった。


『――というわけで、貴様の任務は単純明快だ』

 レジカウンターに設置された業務端末の画面に、禍々しい角を生やした男が映し出されている。


 魔王だ。このダンジョンの主であり、俺を店ごとここへ召喚した張本人。

 背景には、パワーポイントで作られたような『今期の勇者搾取計画』というグラフが表示されていた。


『ここ、ダンジョン第999層は、我が魔王城への最終防衛ラインだ。

 ここに辿り着く頃、勇者一行は疲弊し、ポーションも食料も尽きかけているはず!

 そこで貴様の店だ! 砂漠のオアシスの如く店を構え、回復アイテムや食料を市価の10倍で売りつけろ!』

 魔王は画面越しに拳を握りしめ、熱弁を振るう。


『勇者の資金を枯渇させろ! 装備の修理費すら奪い取れ!

 そうすれば、奴らは初期装備の「ひのきのぼう」で俺に挑むしかなくなる……!』

『ククク、完璧な経済封鎖だと思わんか? これぞ現代の兵糧攻めよ!』

 俺は「はぁ」と気の抜けた相槌を打ちながら、手元のPOSレジを操作した。

 画面には、現在の店舗ステータスが表示されている。


店舗名: 魔王軍直営コンビニ『ダンジョン・マート』深層店

店長: 相田カズヤ

本日のノルマ(日販): 金貨100枚

罰則: 未達の場合、不足分を店長の生命力《HP》から徴収します。


 とんでもないブラック契約だ。

 日本の労働基準監督署が見たら、泡を吹いて倒れるレベルである。


「あの、魔王様。その作戦には致命的な欠陥があります」

『ああん? なんだ、バイトリーダー』

「店長です。……ここに来る客、金を持ってません」

 俺は店内の防犯カメラの映像を指差した。


 モニターには、先ほど入店してきた一人の少女が映っている。

 白銀の長髪に、聖なる輝きを放つミスリルの鎧。背中には身の丈ほどある大剣。

 魔王軍支給品のデータベースによれば、彼女こそが人類最強の希望、『剣聖』シルヴィアだ。


 だが、その人類の希望は今、弁当コーナーの前で立ち尽くしていた。

 彼女の視線の先にあるのは、当店自慢の『厚切りドラゴンステーキ重(金貨5枚)』。


 しかし、彼女が握りしめている革袋から出てきたのは、銅貨が3枚だけだった。


『……なんだあれは』

「S級冒険者です。でも、所持金はスライム級です」

『バカな。ここに来るまでに数多の魔物を狩っているはずだ。ドロップアイテムを換金すれば、億万長者のはずだろう!?』

 魔王が絶叫する。


 俺は冷静に、俺のユニークスキル『POSタブレット』を発動させた。

 これは対象のステータスだけでなく、「所持品」「需要」「行動履歴」まで読み取ることができる、経営特化のチート能力だ。タブレットのは言っても、目の前に半透明のスクリーンが表示され、手に持つ必要はない。


顧客名: シルヴィア(職業:剣聖)

状態: 空腹(生命活動限界まであと3時間)

所持金: 銅貨3枚(約300円)

特記事項:

戦闘スタイルが「超高速乱舞」のため、倒したモンスターをミンチ状にしてしまう癖がある。

そのため、素材(皮・牙・骨)の買取価格がつかず、常に極貧状態。

昨日は空腹のあまり、道端の「薬草」を食べて凌いだ模様。


「……だ、そうです」

『……見なかったことにしろ。そんな貧乏神、ウチのターゲット層じゃない』

 魔王は露骨に顔をしかめた。


『いいか、金のない客は客じゃない。さっさと追い出せ。もしくは、その辺のトラップで始末しろ。俺は忙しいんだ、次の魔王軍定例会がある』


 ブツン、と通信が切れた。

 残されたのは、静まり返った店内と、腹の虫を盛大に鳴らしている人類最強の少女だけ。


 俺はため息をつくと、レジカウンターを出て、弁当コーナーへと向かった。


◇◇◇


「うぅ……おいしそう……」

 シルヴィアは、ガラスケースにへばりついていた。

 その透き通るような青い瞳は、宝石ではなく『唐揚げ弁当』に釘付けになっている。


 彼女の手にある銅貨3枚では、一番安い『もやし炒め(塩味)』すら買えない。

 俺は彼女の背後に立ち、声をかけた。

「お客様」


「ひゃっ!? ご、ごめんなさい! 万引きしようとしたわけじゃなくて!」

 シルヴィアは飛び上がり、慌てて弁解した。

 その挙動不審さは、歴戦の英雄というより、初めてのおつかいに失敗した子供のようだ。


「いえ、そうではなく。……それ、下げますので」

「え?」

「賞味期限です。廃棄処分になります」

 俺は彼女の目の前から、唐揚げ弁当、ハンバーグ弁当、そして彼女が憧れの眼差しで見つめていた『厚切りドラゴンステーキ重』を次々と回収していく。


 このダンジョンマートの商品は、魔力で鮮度が保たれているが、「消費期限」という概念自体は存在する。

 そして、あと1分で廃棄登録の時間だった。


「そ、そんな! まだ食べられるのに! 捨てちゃうの!?」

「店のルールですので。鮮度の落ちたものをお客様に提供するわけにはいきませんから」

 マニュアル通りの言葉を告げると、シルヴィアは絶望した顔をした。まるで世界の終わりを見たかのような表情だ。


 ……まあ、今の彼女にとっては、魔王の復活より弁当の廃棄の方が重大事だろう。

 俺は、回収した弁当のカゴを手に持ち、チラリと彼女を見た。

 POSの表示が点滅している。

 『需要:カロリー。さもなくば死』


「……とはいえ、捨てるのにも金がかかるんですよねぇ」

 俺はわざとらしく独り言を言った。

「ダンジョンのゴミ処理代もバカにならない。ああ、誰か代わりに『処分』してくれないかなぁ。無料で『胃袋』に入れて処理してくれる人がいれば、俺も助かるんだけどなぁ」


「っ!?」

 シルヴィアの猫のような耳がピクリと動いた。

「あの! 私! 私、処理できます! その……胃袋の容量には自信があります!」

「本当ですか? でもこれ、売り物にはならない『廃棄』ですよ?」

「構いません! 毒が入ってなければ……いや、毒耐性もあるから大丈夫です!」

 プライドもへったくれもない。


 だが、その必死さが、かつて売れ残りの恵方巻を自腹で買い取っていた頃の自分と重なって見えた。

「……仕方ないですね。では、特別に『廃棄処理ボランティア』をお願いします」

 俺が弁当を差し出した瞬間、彼女は目にも止まらぬ速さでそれを受け取った。さすがS級!


◇◇◇


 数分後。

 イートインスペースでは、幸せそうな顔で弁当を平らげる剣聖の姿があった。

 口の周りに米粒をつけ、唐揚げを頬張りながら、ボロボロ泣いている。


「んぐ、んむ……おいひい……! こんな温かいご飯、三年ぶりに食べました……!」

「よく味わって処理してくださいね」

 俺はコンビニコーヒーをサービスで出しながら、彼女の対面に座った。

 さて、ここからが商談だ。


「シルヴィアさん。貴女、明日もご飯、食べたいですよね?」

「は、はい! 毎日でも処理を手伝いたいです!」

「でも、貴女の所持金じゃ水も買えない。……そこで提案です」

 俺はPOSのデータを見せた。


「貴女、モンスターをミンチにする癖、直せますか?」

「えっ? あ、はい。手加減すればなんとか……でも、そうすると戦闘に時間がかかって……」

「時間はかかってもいい。これからはモンスターを『解体できる状態』で倒して持ってきてください。そうすれば、ウチが素材として買い取ります」

「えっ、コンビニなのに、魔物の死骸を買い取ってくれるんですか?」

「ええ。肉は加工して弁当にしますし、皮や骨は本部に送り返しますから」

 そして、俺はニヤリと笑った。


「その代金で、貴女は堂々と弁当が買える。俺は仕入れの手間が省ける。……どうです? ウチと専属契約を結びませんか?」

 シルヴィアは、箸を止めて俺を見た。

 その瞳に、信仰にも似た光が宿る。

「……神様」

「店長です」

「一生ついていきます、店長!」

 チョロい。

 S級冒険者が聞いて呆れるチョロさだ。だが、これで最強の用心棒兼、仕入れ担当を確保した。


 その時、再び業務端末が鳴った。魔王からだ。

『おいカズヤ! さっきの剣聖はどうした! まさかタダで帰したんじゃないだろうな!?』

 俺は受話器を取り、平然と答えた。

「ご安心ください、オーナー。彼女にはきっちり『借金』を背負わせました」


『ほう?』

「弁当の味を覚えさせ、ウチの商品なしでは生きられない体にしました。これからは毎日、魔物の素材を持って貢ぎに来るでしょう。……彼女はもう、魔王軍の完全な下僕リピーターです」

 嘘は言っていない。


 魔王は「ククク……やるな。それでこそ我が軍の店長だ」と満足げに通信を切った。

 俺は端末を置くと、二つ目の弁当に手を伸ばすシルヴィアを見やった。

 彼女は幸せそうに笑っている。

 日販ノルマ、金貨100枚。

 ブラックな魔王軍本部。

 そして、襲い来るモンスターと、金のない冒険者たち。


「……ま、なんとかなるか」


 こうして、俺のダンジョンコンビニ経営は幕を開けた。

 とりあえず明日の発注は、彼女の好物に合わせて『唐揚げ』を増やしておこう。

◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 読んでいただきありがとうございます。

 21時にもう1話投稿予定です。


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よろしくお願いします!

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