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らしくない

「お前は――」



 この瞬間まで、その存在が【大和魔境(ここ)】に居たことを忘れていた訳じゃない。このモンスターが現れることを予想していなかったわけでもない。


 でも正直に言おう。目の前に現れた”白い怪物”を目にした途端、俺の心臓の鼓動は驚愕と興奮で確かに跳ね上がっていた。



「――【白騎士(しろきし)】! 」



 フルフェイスの純白の兜。汚れ一つない白銀の重装鎧。白刃の剣。名前通り白一色の目に焼き付いた姿。


 忘れられない。忘れられるはずが無い。やはり見間違いじゃ無かった。【獣の戦士】と戦っていたのは俺が知るあの(・・)【白騎士】だったんだ。


 分からないのは、現れたのがどうしてこのタイミングだったのか? 


 そして空の上で激しい戦いを繰り広げていた俺達のことを静観し続けていた訳はなんなのか?



「あのモンスターって……」


「俺から離れなきゃ大丈夫。ただ合図したらすぐアレ(・・)を使うんだ」


「……う、うん」



 少しおびえた様子の妹を落ち着かせながら、俺が現状分析をする一方で――



「もしかして自覚してやってんのか? そのすっとぼけたフリ。誰も言ってくれないなら俺がいってやる。本当に気持ち悪いぜ? シロモトケンタロウ」



 ――あの日のこちらを逆なでするような軽薄な雰囲気はどこへ行ったのやら。数日ぶりに相対した仇敵は"怒り"と"苛立ち"、さらには全くらしくない(・・・・・)"焦燥感"まで、何故だか募らせていた。



「は? 」


「『は? 』じゃねえよ。ここまで来たら正直に吐けよ。テメェ……どこまで(・・・・)気づいていやがる? 」


「???? 」



 最初、俺には分からなかった。


 コイツの言っている意味が。


 激怒している理由が。


 こうも余裕を失ってしまったわけが。



「【白刃剣術】ッッ!! 」



 だけどすぐに理解した。コイツ等は予想通り『罠』を仕組み、俺に見抜かれたと認識したからこそ、こうして余裕も無く攻め込んで来たんだ――と。



「なるほど。いつの間にかお前から一本とれてたみたいだな」



 独り言を零しつつ、ゆっくりと流れる時間の中でバットを握る力を徐々に強めていく。戦いに臨む前に最低限欲しかった情報は今、手に入れることが出来た。


 本心を言えば、【白騎士】の現状についてもう少しだけ情報が欲しいけど、”こうなってしまったら”――向こうから攻めて来るのであれば仕方が無い。


 凶悪なモンスターにつっこまれるという常人ならば耐えられないような恐怖の中、集中して[魔力]を維持し続けてくれている大切な妹の名を俺は力の限り叫んだ。



「梨沙!! 」


「『即席空間(インスタント・ルーム)』! 」



 白い甲冑が伸ばした切っ先が俺の鼻先をかすめたのと予め”この時”のために準備してもらっていた『技』が発動したのは、ほぼ同時の事だった。



「絶対に――負けないでよ! 」


「すぐ戻る! 」



 梨沙の【次元魔術】は手はず通り機能した。別空間へと送り込まれる対象となった俺とモンスターの視界は転じ、周囲には廃墟ビルの屋上ではなくだだっ広い真っ白な空間が広がっている。



「これは!? 」


「ここは【次元魔術】で造られた異空間。俺がお前とのケリをつけるために特別に用意した戦場だ」



梨沙と出来た最後のやりとりはほんの一瞬、転移直前に交わせた言葉は少なかったけれど……俺にとってはそれだけで十分だ。



「……どこまでも……俺の邪魔を……」


「最初に言っておく。お前らの計画の全貌は知らない。お前がそんなに焦りまくっている理由も分からない。だけどこうすれば【白騎士(オマエ)】は困るよな? 」



 確認するために再び、心の中だけで繰り返す。


 ここは【次元魔術】が創り出した別世界。


 つまりその事実は意味している。



「シロモトォ! 」


「始めようか。完全な一対一(・・・)の真剣勝負を! 」



 俺と【白騎士】しか存在しないこの場所では最凶にして最悪のスキル【白き感染ホワイト・インヴェイジョン】は使えないということを。



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