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アイデンティティ

“難敵”の撃破に喝采をあげる間もない。


 もちろん息つく時間だってない。



「まずは1体目(・・・)……ッ! 」



 巨大な肉体が黒い灰へと変貌したのを確認して即座に、俺は背後にいる妹へと問いかけた。



「梨沙! そっちは!? 」


「ごめん……! そろそろ限界! 」


「わかった! 後は……任せろ! 」



 意気込みの声と共に、背中合わせの梨沙とぐるりと回って位置を交代する。180度回転した視界には、唸り声をあげながら毒霧を口から吐き出す”怪物“がいる。



「今度はアナタの方です……か」


「妹が世話になったな」



 敵との会話はそこそこで切り上げて、現況把握に思考のリソースを回す。なんとなくどういう状況なのかは【獣の戦士】との戦いをこなしつつ[魔力]の流れを追っていたので分かっている。


 津波のように押し寄せる魔女の操る毒を、【次元魔術】の力によって空間を歪めさせた梨沙が防ぎ続け、その均衡がついさっき破れようとしたんだ。


 要は間一髪、なんとか俺のフォローが間に合ったっていう形。


 際どいところまで格上相手に頑張ってくれた(りさ)のことを本当は今すぐに心の底から労いと感謝をしたいけど……ここではその気持ちを押し殺す。そういうこと(・・・・・・)は目の前の障害を全て取り払った後でも十分に間に合うはずだ。



「「……」」



 さて、これからどうするか?


 相手のやり口は分かってる。こっちの体力はまだ残ってる。梨沙は最低限、自衛をすることが出来ていて、彼我の距離は100メートル未満。出来れば戦闘のキッカケは俺の方からつくり、理想形はそのまま相手に何もさせずに押し切ってしまいたい。


 そこまで考えが及んだ刹那。



「――――いったい……なんなのですか……? アナタって……」



 怪物は唐突に”質問”を投げかけてきた。



「『なんなの』って……そう聞かれてもな……」



 最初その"震え声の問いかけ”は、こちらを混乱させる意図があるのかという疑いを持った。けれどその推測が違うようだと分かった途端、俺の頭の片隅は自然と考えだしていた。



 俺は――”城本剣太郎”とは――『何者』なのかを。



 年齢は今年で16歳。大和高校の元一年生。昔は野球をやっていた。


 得意科目は強いて言えば国語と体育だったけど、苦手科目は強いて言えば物理。


 家族構成は妹が一人と祖父が一人……だけだと思ってる……。


 友達はあまりいない。ホルダーになってから知り合いは沢山増えたけれど、友人と呼べるぐらい仲が良いのは冗談じゃ無く片手で数えられるほどだ。


 保持者(保持者)としては現実時間で半年以上活動している。数えきれないモンスターを倒し、強くなり、今こうして立っている。


 好きなものは読書で、苦手なものは昆虫。


 得意なことは我慢することで、不得意なことはリーダーをすること。


 ……あとは?


 ……何もないのか?


 昔の事。


 不明瞭な記憶の事。


 自分の生い立ちが普通とは違う理由。


 家族の事。



「……」



 そういえば……。


 俺の”今の目標”ってなんなんだろう……?



「……っ! 」



 そうだ!


 違うっ……!


 俺には"何も無い"んじゃない。


 俺に付いての事は"何も分かってない"ままなんだ。生まれてから16年も経ったうえで未だに何もハッキリしちゃいないんだ。


 仕方が無い。だって爺ちゃんから全部、俺についてのことは話してもらうはずだったんだから。


 ああ。


 そんなことを考えると思い出してしまう。俺だけは思い出せる。


 俺達を救うために爺ちゃんがこの世から、消えてしまったってこと。


 俺以外に世界で唯一爺ちゃんの事を思い出せるのは、大切に持っている『手紙』と『片割れの羊皮紙』……だけ……。



「そうか……分かったぞ。俺が今やりたいこと」



 自分自身が何者なのかを知りたい。大切な家族も守りたい。――だから爺ちゃんは必ず救い出す。


 そのためには【四方の魔王】を倒せるようにならなければならない。――だからもっともっと強くなる。


 そしてもしも今よりもさらに強くなりたいのなら――――。





「――こんなところ(・・・・・・)で立ち止まってる場合じゃないよな」





 そう口にした瞬間、俺は確かに耳にした。


 胸の奥の心臓が"ドクリ"と――――大きな鼓動を立てた音を。

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