表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
525/558

〇×問題

 闇よりも暗い漆黒の夜。



 反響するモンスターの絶叫。



 残骸から噴き上がる白煙と黒煙。



 囚われの身になった梨沙(いもうと)



 そして魔王。



 まるであの"祭りの日"を再現するように広がった光景は俺の頭の中で流れる時間を完全に静止させる。



「……」



 ああ……。


 ああ……!


 馬鹿で察しが悪い俺でも流石に理解できた。


 この【魔王】(バケモノ)が俺のことを喰おうとした理由は、俺が強くなったから。強くなりすぎたから。このレベル不詳の怪物が接種するに足る経験値(ポイント)として認められてしまったから。


 だけどバケモノは今の俺でも満足できなくて……殺すのにはまだ速いと判断した。


 だからコイツは言ったんだ。


『今は見逃す代わりに、オマエの最も大切なモノを寄越せ。取り戻したかったら強くなって自分からやって来い』――と。



「……」



 ふざけるな。


 そんな要求が通るわけねえだろ。


 片隅に残された勇敢な部分がそうやって激しく心の内側を鼓舞した。


 でも……だけど……。



「ぁ……っ……ぁぁ……」



 その事実を知りたくなんて無かった。どうにかして否定したかった。本来ならば何がなんでも、認めるわけにはいかなかった。


 でも俺には分かっていた。分かりたくなんて無かったけど、理解(わか)らざるを得なかった。


 俺がこのバケモノに、どう足搔いても"敵わない"ということ。


 この【魔王】のことが怖くてたまらないってことを。



「すいません。よく聞こえませんでした」


「もう一度言ってもらって良いですか? 」



 もちろん、未だに"その力"をちゃんと理解できてるわけじゃない。【新世界秩序】ニューワールドオーダーと大仰な名が付けられた概念そのものを歪めるスキルの全貌が把握できたわけじゃない。


 でも分からないなりに、何が起こったのかを推測することはできる。あの恐ろしい力について考察することは可能だ。


 その結果、俺は"一つの結論"を出した。


 心の底から俺を憂いているような表情を浮かべるこいつらは――



「あの……すごい顔色ですよ? 」


「どうかしたんですか……? 」



 ――"既に起きた事象"を後から"無かったこと"にできる。


 戦いも、敗北も、頭の中の記憶であろうとも、何もかも全て消し去って、消したという事実さえも無かった事にできる。


 そう考えないともはや不自然だと思うほどには、力の差は歴然だった。


 そしてもし、その推察が本当なら……こいつらのやっていることは後出しジャンケンどころの騒ぎじゃない。何でもありだ。ルールの中で戦っている俺達を嘲笑うかのように、ルールそのものを捻じ曲げて、書き換えてくる。


 そんな相手といったいどうやって戦えばいいって言うんだ?



「【疾走術】」


「「ん? 」」



 さて……ここまでが今、吐き捨てたかった弱音の全て。


 混じりっけなしの真意の集合。


 正真正銘の本音の塊で一人の兄として本当に情けなく、恥ずかしい。


 それで? 城本健太郎。


 お前はそれでいいのか?


 このまま妹を失うのを受け入れるのか?


 黙って見過ごすつもりなのか?


 保身のために自分にとって一番大切なモノを差し出すっていうのか?



「『疾風怒濤』! 」



 ……冗談じゃないッッ!!!!



「あらら? 」


自暴自棄(ヤケ)になっちゃった? 」




 今でも目に焼き付いている。


 さっき"無かったことにされた"戦いの中で、爺ちゃんは『虚を突く』ことで全ての攻撃をあの【魔王(バケモノ)】に直撃させたのを。


 あれは【スキル】や【魔法】やステータスの差を完全に超越した信じ難い光景だった。


 そして俺が今出来るのことはもはや、その再現をして、【スキル】を使う間すら与えずに殺し切ることしか考えられなかった。



「【棍棒術】! 」



 わかってる。


 もしかしたらやられたフリをしていただけなのかもしれない。


 アレは爺ちゃんレベルの非数値化技能があって初めて成り立つなのかもしれない。


 いまの俺では戦闘経験と技術が足りていないのかもしれない。


 ……わかってる。


 わかってるよ!


 そんなことは!



「『フル――」




 集中の極地。


 反応速度と神経回路の限界を超えた瞬間。


 脳内に流れる時間は緩やかになっていく。


 血流の速さが加速度的に鈍化していく。


 音速の数百倍で動く俺の全身は刹那、身体の数十倍の速さで動く脳によって、プールの中にとびこんだように、分厚い空気の層を掻き分けるように動き出す。


 通常の何倍、何十倍、何百倍、何千倍にも引き伸ばされた体感時間の世界で、俺はゆっくりとコマ送りのような動きで梨沙の方へと手を伸ばす。



「――スイ――」



 遅い。


 遅すぎる。


 なんで『技の名前』を叫ぶだけなのにこんなに時間がかかるんだ。


 もう少しで手が届くのに。


 もう少しで金属バットは眼前の敵を粉砕できるのに。


 速く。


 もっと速く。


 もっと……もっと……もっとッ!








「ねぇねぇ? 城本剣太郎くん」



 ?



「君は疑問に思ったことはない? 」



 ??



「ホルダーの戦闘はこんなに速くて、動きも激しくて、瞬き一つするのも命取りになるのに……」




 ???







「"どうして『技の名前』だけは言う()があるんだろう?"って」







 は????






「きゃははははは! 理由を教えてあげるよっ! それはね? 」




「あなたたち人間を育てるために、私がそれを"出来るようにした"からだよっ! 」




「育つ前に勝手に死んじゃったら、困るからね! 」




「さて、ここからは○×問題です! 」






「私達がそのルールを今から変えられることは、できるでしょーかっ!? 」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ